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平穏最後の日(完結)
9



「おおー!」

普段見ない歴史溢れる光景に感嘆の声を漏らして目を輝かせる遼介。

それを見た恭介は、微笑ましく……一眼レフを構えて一心不乱に激写していた。
横にいる部下二人が若干引いているのはお構いなしだ。

「あの、若頭。お気持ちは分かりますが」
「分かるなら構わねえだろ」
「目立ってるようでして」
「家族の団らんくらい普通だから問題無い」

この人にはこれ以上言っても変わらないと早々に諦めた。目立ちに目立っているが、これといって害も無いので放っておいても大丈夫だろう。


「あらかわいい」
「お兄さんここ初めて?」
「はい」

恭介が片瀬と話している間に着物を着た従業員であろう女たちに捕まる。
遼介の方もこの土地らしい格好をした人相手なのでまんざらでもなさそうだ。

「お姉さんたちはここの人ですか?」
「そうよ!分からないことがあったら案内するから何でも聞いてね」
「有難う御座います」
「遼、もう行くぞ」
「うん」

「あらあ、こちらも格好良い!よかったらあとでどうぞー」

遼介に気付いた恭介が素早い動作でこの状況から抜け出させる。何事も起こらなさそうなものでも、素性の知れない女との交流は出来れば避けたい。
そんな恭介に怯むことなく手を振って別れる二人に、遼介は「女の人って強い」と思った。

よくよく考えてみれば遼介の周りにいる女性は皆強い。

美弥に始まり冴子に山岡、そんな女しか知らないものだから女性はか弱いものという認識は遼介にはなかった。
恭介の腕の中に収まりながら、はあーと息を吐く。

「女の人ってすごい」
「あ?まさかさっきの奴らのこと気に入ったのか」
「違うよ」

何故不機嫌になっているのか分からないが、そうではないのでとりあえず否定しておく。

「積極的に話し掛けてくる人が多いなって。あと和服良いね」

「なるほど」

「え」と恭介を見上げると、そんなことかとすでに部下に指示を始めた。
すぐに部下が戻ってきて一つの店に案内される。どうやらここに用事でもあるようだ。

がらがらと横開きの扉を開けてくぐると、店員が数人やってきて「いらっしゃいませ」とお辞儀をされ手を取られる。

理由が分からずに困惑したまま恭介とともに奥の部屋に通された。

そしていきなり服を脱がされる。


「失礼します」
「あれ、どうなってんの恭兄」
「大丈夫だからそのまままかせとけ」

まかせとけと言われても、初対面相手にどんどんと脱がされて半裸にされている状態はとてもじゃないが普通ではない。
脱がせているのが男というのがせめてもの救いか。
恥ずかしさで顔が赤くなりつつあるのを我慢していると、別の店員がいくつかのものを持って登場した。

手に持たれているのは男性用の和服たち、ここでやっと合点がいった。

先ほど呟いた「和服が良い」という言葉が原因でこうなっているようだ。

「これに着替えるんだ」
「こんな時じゃなきゃあ着ないしな」
「良いね、どれにしようかな」

紫堂の家では光春や美弥が着ることがあるくらいで本当に機会がない。
これも旅行の良いところだと、どれを着ようか真剣に悩む。



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あきゅろす。
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