平穏最後の日(完結) 6 「ああ、ちょっと野暮用でね」 「そうですか、んじゃ俺も見回りなんで失礼します」 「お疲れ様」 やはり口の軽くない相馬は何となく話題を振っても詳しく言う姿勢を見せずに誤魔化された。 しかし、アウトドアな斉藤には相馬が持っていた荷物だけで十分な情報だ。 興味があるところを見せないようにしてすぐに別れて事務所に戻った。 中に入るとすぐさまパソコンを立ち上げて検索を開始する。相馬が持っていたのは数枚のパンフレットと旅行に持っていくであろう物を買った買い物袋。 仕事中にそれを行うとなると、遼介たちのためで間違いないだろう。 こんな時趣味と言える程旅行に行っていて良かったと思う。 だいたいの場所は分かったのであとは高級旅館を探せばいい。さらに言えば団体の予約が入っているもしくは貸切状態で空き部屋がほとんど無いところだ。 実際に行くのは少人数だろうが、遼介や恭介自身の身のことを考えて近くの部屋も予約して人を寄せ付けないようにしているに違いない。 「斉藤熱心じゃねぇか、まさかもう分かったのか」 「はい、だいたい。ラッキーなことに相馬さんに会いまして」 「でかした!あとで小遣いくれてやる」 「マジすか!有難う御座います!」 「それとお前も旅行付いてこい」 「はい……は、え?」 「寒ぃ」 「そりゃもう冬ですし」 「東京より南じゃないのかここは」 「あんまり変わらないです久遠さん」 いつもの事務所メンツで旅行など初めてのことで、各々の違和感と戦いつつ旅館のある駅へと辿り着いた。 確かに久遠の言うように東京よりは南に位置するのだろうが、暖かい沖縄に比べれば誤差の範囲だろう。 久遠は仕事以外で何処かに遠出することがないためすでに機嫌が損なわれつつある。 「薄着じゃないですかそれ」 小宮山が久遠の服を指差して言う。 確かに真冬とまではいかないが、すでにコートを着用している人を見掛ける季節の割には薄着である。 「コートなんざ荷物になるから持ってこなかったんだよ」 「面倒くさがりですね」 「いいだろ別に」 「そもそも荷物も少ないっすね」 「斉藤が持ちやすいように少なくしたんだよ、おら」 「うおっ」 ぽい、と鞄を投げられ反射で受け取る斉藤。どうやらこれは斉藤が旅館まで持っていかなければならないらしい。 つくづく損な役回りだ。 「こっからどうしますか」 「とりあえずタクシーで旅館行って荷物置くか。遼介の旅館もすぐ近くらしいから」 「はいはい!俺観光したいです!」 めげない斉藤はぴんと右手を挙げて提案する。てっきり却下されるかと思ったが、久遠から思いがけずOKの返事がきた。 「まあ、たまにゃいいんじゃねぇの」 「く、久遠さん!あざーっす!」 「遼介のおかげで久遠さん丸くなりましたね、ちょっとだけ」 「そうだね、髪の毛の先くらい」 「あ?何か言ったか」 「いいえ何も」 駅前でタクシーをつかまえて旅館を目指す。 「お客さんたちは旅行ですか」 「ええ、所員旅行です」 運転手と助手席に座った園川が世間話をし始めるのを見て、助手席を任せてよかったと思う。 久遠は柄が悪いし、小宮山はしゃべらないし斉藤は余計なことを言い過ぎる。 鬼畜発言が目立つ園川だが、やはり傍から見れば四人の中で一番まともと言えよう。 見目と外面の上手さは世の中渡るのに結局便利なのである。 [*前へ][次へ#] [戻る] |