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平穏最後の日(完結)
5



「ほんと?行く行く!」

テストが今日で終わり開放感に溢れた顔で遼介が戻ってきたところにこの誘い、乗らないはずがない。

「んじゃ行くか」

恭介の思い付きで週末旅行が決定した。

そのままのテンションで久遠に報告すると『分かった』と返信が返ってきて安心する。
しばらく会えていないので悪いと思う気持ちもあったが、何処か遠くへ行くなんて年に一度あるか無いかなのだ。

旅行が終わったら土産の一つでも持ってまた事務所へ行くことにした。



『週末兄と旅行に行ってきます』

何度読み直してもメールの文面が変わるはずもなく、舌打ちをしながら携帯をポケットに詰め込む。

了承の返事をしたものの当然週末は遼介と会えると思っていたのだからおもしろくはない。
しかもその用事の相手が恭介だから苛々度は上がるばかり。

どうしたら治まるだろうか。

久遠は顔を上げる。

「よし、俺も行こう」
「は?」
「どうしたんですかいきなり」

仕事をしていた面々は突然の独り言に驚きツッコむ。

「週末急ぎのねぇよな」
「はあ、まあ大丈夫ですけど」
「じゃあ俺は行く。斉藤お前ちょっと紫堂の人間の動き見てこい、もしくはハッキングしろ」
「何言ってんですか!俺バレたらヤバイですよ!」
「それならさり気なく遼介の様子探れ。週末遠出するらしいんだよ」
「そんなの自分で聞いてくださいよ」
「聞けるかボケ、恰好悪ぃだろ」
「その恰好悪い役俺ならありってことすか……」
「そうだ」

はあ、と諦めた様子の斉藤は「見回り行ってきます」と肩を落として出ていった。

残りの園川と小宮山は自分がその役目じゃなく心底よかったと安心していたが、それ以上に園川は遼介の話が気になる様子だ。

「遼介君遠出って知らないんですか」
「あ?本山の野郎と旅行行くんだと」
「なるほど、フラれたんですね」
「んなわけねぇだろ、お前こそ俺たち妬んで妙な嫌がらせすんなよ」
「しないですよ。それに俺も行きますそれ」

ちくちくと言ってくる園川に敵意むき出しで応戦していると、さらに速球が飛んできて思わず固まる。
園川と二人で旅行なんて気色の悪いと想像してしまった久遠がさらに顔を歪めた。

「二人なんて言ってませんよ。どうせなら皆で行って偶然装いましょう」

「園川……怖ぇぞ」

そういえばこんな奴だったと目の前の部下を見てぞっとした。





「うう……何か俺だけいつも被害受けてないか」

そのあとの会話を知らない斉藤は、己の不幸を嘆きながら肌寒い街をうろうろとさ迷う。
遼介を探れと言われても直接聞くのはさすがに馬鹿げた行為だろう。なるべく悟られないようにしなければならない。
かといって斉藤は紫堂の家に用も無く自由に出入り出来る程上の立場でもないため、どうしたものかとぐるぐる考えがまとまらないままだ。

うーんと首を傾けながら歩いていると、丁度その前を人が横ぎった。
その人物と荷物を見てこれだと声を掛ける。

「お疲れ様です!」

「あ、お久しぶり」

斉藤に気が付いたら男が爽やかに笑う。斉藤より少しだけ年上のこの男は、遼介と恭介にもっとも近い人間の一人だ。

運が良いのか悪いのか、とにかく情報を得ようと会話を続ける。


「相馬さん荷物多いですね」



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あきゅろす。
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