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平穏最後の日(完結)
4



かつかつと深夜に響く足音。
ここの階は己の部屋しかないためお構いなしだ。

玄関の鍵を開けるとばん、と勢いよく室内で入るが誰もいない。
リビングの電気は点いていたが遼介の姿が無い。

まさか外に行きでもしたかとは思うものの靴はあったので遼介の部屋をそっと開けると、暗い中でベッドがこんもり膨らんでいるのでどうやらすでに寝てしまったあとのようだ。
さすがに起こしてまで聞き出すのは忍びないと感じた恭介は、今の行動が随分早急だと思い直し洗面所に引き返して手洗いとうがいをして落ち着かせた。

さすがに焦り過ぎたか。

まだ二人がどういう関係なのか、久遠が何を仕掛けたかなど分かっていないというのに。

ただ単に偶然会っただけかもしれないし、事務所に寄った遼介を危ないからと送ってくれたのかもしれない。

どうも遼介のことになると前しか向くことが出来なくなる。
本来ならばもっと周りを見て動くことが出来る人間であるにも関わらずだ。

「もう何処にも行かないでくれ」

眠る遼介に、届かないと知りつつ問いかける。聞こえていない今だから言える本音。

しゃがんで遼介の顔を近くで見つめる。
ここに連れて来てから何年も経って顔つきも大分変わって男らしくなった。しかし、恭介の中では変わらずあの頃の遼介のままだ。

可愛い唯一の弟。

絶対に哀しませたくない。あんな思いは二度とごめんだ。
やっと手元に置いたのだ、そうやすやすと手放してたまるものかと遼介の頭を優しく抱く。

少しだけ身じろぎしたが起きる気配は無さそうだ。

まだ大人にはなってほしくない。いつしか遼介自身がこの手を離す時が来るまではこうして横にいたいと思う。

もし好きな人が出来たら付き合うのもいいだろう。
心配ではあるし、自分が遼介の一番でなくなることは嫌だが致し方ないところだ。

ふう、とやっと落ち着いて物事を考えられるようになったところで恭介も着替えて寝てしまうことにした。

「おやすみ、遼」

額にキスを落とし部屋を出て隣の自室へと入る。
高校に入るまでは一緒に寝ていたが、自立性をと自室にベッドを置いて別々になったためだ。

年齢を考えれば当然だが隣に温かい存在がいなくなると柄にもなく物悲しく思ったものだ。

冷たいベッドは今の気持ちを表しているようで。

――だが俺が許せる奴じゃねえとダメだな。

自分の位置を譲れる相手など中々見つからないのを分かっているのか分かっていないのか、恭介がこう思う限り久遠が許される日は遠いだろう。





「いってきます」

「気を付けろよ」

朝から元気に、とはいかない遼介が恭介に挨拶をして出ていった。
現在遼介は定期テスト期間に入り、毎日のテスト疲れで眠そうにしながら学校へ行っている。

しかしそれが原因で久遠に会えていないので、不幸中の幸いか恭介の疑いも晴れかけていた。

「あの日以来久遠と会ってねえし気のせいか」

仕事がひと段落した恭介は余裕の表情で食後のコーヒーを堪能する。
やっといろいろなことが落ち着いた気がして何処かに旅行でも行きたい気分である。

恭介はパソコンを開いてかたかたと検索し始めた。



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あきゅろす。
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