平穏最後の日(完結) 1 「お疲れ様ーっす」 「ああ」 久遠が出勤すると斉藤たちが声を掛ける。適当に返事をしながら席に座るが、先日の遼介とのやり取りが思い出されて嬉しさが込み上げる。 しかし久遠がにやついても何かよろしくないことを思い付いたかのような凶悪さなので、それが他人に伝わることはまずない。 挨拶だけして仕事に集中する園川を見る。 この男も遼介に惚れていることは知っているが、正攻法でいったわけだから負い目を感じる必要は無い。 しかし牽制の意味も込めてどこかで知らせておこうとは思う。 問題は遼介の兄である恭介だ。 立場上恭介は久遠の上司のため、関係をこれ以上悪化させたくない。 しばらくは様子見するしかないだろう。 「あ、久遠さん携帯鳴ってません?」 「ああ」 考え事をしていてバイブにも気付かなかったらしい。パソコンの上に放っていた携帯を拾い上げてメールを開く。 するとちょうど遼介からの連絡だった。 『今日部活早く終わるので、終わったらそっち行っていいですか』 ――マジか。 平日はしばらく会えないだろうと思っていたところにこのメールは嬉しい。 部活もしくはバイトが終わったら寄り道せずに帰宅が基本の遼介には珍しい。 家に誰もいないか、もしくは久遠に会いたいからか。 後者だったら実に良い展開だ。 了解の返信をして携帯をまた放る。今日も良い一日になりそうだ。 「斉藤、茶ァ入れといてくれ」 「誰か来るんすか。才川さんとか?」 「いや遼介だ」 「おっ珍しいですね!入れてきまーす」 「何で久遠さんが知ってるんですか」 斉藤が意気揚々と給湯室に消えたあと、恨めしい顔で園川が呻るが無視をする。 数分も経たないうちに遼介がやってきた。 「お久しぶりです」 「遼介君!いらっしゃい」 園川を始め事務所の面々が歓迎し、返事をしながら久遠の前まで行く。 「今日忙しいですか?急にすみません」 「いや大丈夫だ。もう少しで終わるから飯でも食うか」 「はい、今日は家に一人なんで夕飯どうしようかと思ってたんです」 前より明らかに距離の近い二人に違和感を覚える。そこへ斉藤がお盆を持って戻ってきた。 「おまたせしました。遼介君おつかれー」 「あ、有難う御座います」 「なんか久遠さんに用事でもあったの?仲良さげじゃん」 「まあ付き合ってるからな」 突然の爆弾発言に、目の前で聞いていた斉藤はもちろん園川や小宮山、さらには遼介までもが驚きを上げる。 「は……つまらない冗談を」 嫌味な上司のことだ。どうせ適当なことを言っているのだろうと思った園川だったが、遼介が否定しないことで不安になる。 遼介に視線を合わせると真っ赤にさせて俯いていた。 [次へ#] [戻る] |