平穏最後の日(完結)
20
「んま……」
自室でぽりぽりともらったクッキーを食べながら時おりコーラを飲む。
遼介は混乱する頭を何とか落ち着かせようとしていた。
――今日恭兄が遅い日でよかった。
きっと恭介がいたら、あの勘のいい男のことだから遼介のちょっとした雰囲気の違いにも気が付いただろう。
他校の生徒に待ち伏せされたのは初めてだったが、こうして手作りのものをもらうことはたびたびあった。
だいたいが調理実習や部活で作ったと言われてもらっていたので気にしていなかったのだが。
それでも何かしらの好意は抱かれているということで……。
遼介はだんっと机に突っ伏し髪の毛をわしわし掻き混ぜる。
「んー!これじゃあ自意識過剰の人みたいだ」
決してそうではないのだが、今まで色恋沙汰で頭を悩ませることの無かった遼介は今の自分の考えがあまりにも勘違いのように思えてくるのだ。
「俺って子どもだな」
周りの皆は行動に示す程に恋に積極的で一生懸命だ。
それが今の年代の正解なのだろうかとまた悩む。思い浮かべるクラスの友人たちも、言わないだけで本当は好きな人がいたりするのだろうか。
「好きな人」
ぽつり、と言葉に落とす。
「好きな人か……俺にも出来るかな」
今まで出会ってきた人を頭の隅に順番に思い浮かべてみる。
しかし思い浮かぶのは家族や紫堂会の人間や久遠たちばかりで。
遼介は頭を抱えた。
「……そもそも女の子が思い浮かばない」
学校に通っているのだから知り合いやよく話す女子はいるのに今はそれすら思い浮かばない。
さあっと青くなる。
「え、俺女の子好き、だよな?」
心配になるが、かといって男が好きというわけでもなさそうだ。
つまりはまだ早いということなのだろうと結論付く。しばらくの悩みの種が出来たとため息を吐いた。
誰かに急かされているわけでもないし、兄の恭介にだって決まった相手はいないわけで、いつか大切な人が出来ればいいくらいに気長に待つしかない。
とりあえず一区切りついたところで買っていた夕飯の準備をしてもそもそと食べ始める。
つけたテレビにはよくある恋愛ドラマが映っていて何となくチャンネルを変えた。
そこへテーブルに置いていた携帯が震える。恭介からかと思い手に取ったが、相手はバスケ部の部長からだった。
「何だろ、明日も部活は無いし」
疑問に思いつつ開いてみると「明日部活の出し物の準備があるから手伝ってくれ」というもので、そういえば係に選ばれていたことを思い出す。
出し物の内容的に準備することも無さそうだが、きっと看板など作るのだろうと思い了承の返信をした。
「もう本番だなー皆来てくれるし楽しみだ」
特に今回久遠たち事務所の面々も来るので新鮮だ。
「そうだ、裕太に久遠さん紹介出来るかな」
以前久遠の話題を坂本にしたことを思い出し、会えたら紹介しようと思う。
どうやら遼介の中で久遠はかなり重要な位置を示し始めているらしい、自分でも気づいていないが何かを考えるたびに意識するようになっていた。
元々遼介は恭介という絶対的な存在がいたため、年上の男性とは安心出来る者と認識している節がある。
さらに久遠は途中からかなり遼介を甘やかし遼介も自然と懐いていった。
久遠の周りにいる園川たちの存在も相まって、あの事務所の人間の株がどんどんと上がっていく。
これがどんな結末を生むのかはまだ誰も知らない。
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