平穏最後の日(完結)
18
「おーい女子ィーこの暖簾ってどうやって縫うんだー」
「そんぐらい家庭科でやったでしょうがっ」
「ごめん、ちょっとだけ教えてくれないか?」
「遼介君っ分かったぁー今行くねぇー!」
「「ちっ女子が……」」
結局イケメンかよと他の男子が文句を言いながらも準備は着々と進んでいく。
女子たちに縫い方を習った遼介他数名の男子が不器用ながらもたこ焼き屋の暖簾を縫っていった。
どうやら料理のように壊滅的という程ではなかったらしい。
そして女子は女子でお揃いのエプロンを縫っている。
私立ではあるが各クラスへの予算などほとんど出ないため、なるべく手作りで頑張っているのだ。
「エプロンの下は、制服の下と体育祭で作ったクラスTシャツでいいよね」
「そうだね、そしたら作るのエプロンだけだし。あとは材料費計算して売る値段決めて」
「当日までにやることはもうそのくらいかな」
学級委員や文化祭委員の生徒たちが準備の調整をしている中も、遼介は黙々と作業を進めた。
しかも、どのクラスも作業しているため家庭科室が使えず手縫いだ。
「直線に縫うだけなのに何で曲がっちゃうんだ……」
「遼ちゃん……俺も同じ……どういうこと」
「でも布と同じ色の糸だからちょっとくらい曲がっても見えないよな」
「うんうん、縫えてるだけマシだよー!」
坂本とうまくいかないと愚痴を零しながらもせっせと作業して、やっとのことで終わらせる。
「終わった!――んで、今日どうする?」
文化祭直前は部活も強制ではないので今日はさすがのバスケ部も中止なのだ。
坂本に聞かれた遼介は「うーん」と腕を組んで目を瞑った。しばらくしてちろ、と薄目で坂本を見る。
「体育館って誰も使ってないよな」
「あー多分。何、やる?」
「おー」
二人でにやりと笑い、他のクラスメイトと別れると体育館を目指す。
途中教師に聞けば終了時刻を守れば好きに使っていいということだったので、着いてすぐにジャージへと着替えてバスケットボールを取り出した。
「1on1な」
「負けたらジュース」
「よし乗ったぁ!」
バスケ馬鹿二人は時間も場所も忘れて夢中になる。
外からは文化祭の準備をする生徒たちのわいわいと明るい声が漏れ聞こえるが、二人にはそれも関係無いようだ。
元々中学から一緒にバスケをしてきたためお互いの長所短所が分かりきっており、点数を入れるよりもオフェンスディフェンスがお互いに入り乱れる状態で時間は過ぎていく。
結局坂本がやっと一本決めてそこで一旦終了となった。
二人は終わった瞬間ばたん、と床に倒れる。
「うわー!疲れたーっ!」
「裕太つえーよ!」
「遼ちゃんだって。次の公式戦頑張ろうな」
「もちろん」
ごろごろと転がりながら冬に控えるウィンターカップに意識が飛ぶ。
夏の雪辱といきたいところだが、それ以上に今の三年最後の試合というのが大きい。
「先輩たちと笑って終わりたいな」
「だな」
夏といえば県大会の決勝で園川が応援に来てくれたが、ウィンターカップも来てくれたりするだろうかと遼介は思う。
――久遠さんも応援……は来ないよな、すげえ似合わなそうだし。
何気に失礼な遼介だった。
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