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平穏最後の日(完結)
17



「おかえり」

「ただいま」

久遠の事務所から帰ってきた遼介は恭介を出迎えた。恭介は笑顔で返し引き寄せた遼介にキスを贈る。
くすぐったそうに身を捩るが嫌がる素振りはない。

リビングのソファに座り、ふう、と息を吐いてネクタイを外す。
そこへ先ほど事務所で見せたように同じチラシを恭介にも見せた。

「これ学校でもらってきた。今年ももし時間あったら」
「ああ文化祭か、分かった」

「そういえば久遠さんたちも来てくれるって」
「ああそう……ああ?」

久遠という単語に反応した恭介が嫌そうな顔を惜しげもなく見せる。
何でそんなに仲が悪いのだろうと首を傾げるが、特に気にせず先ほどの事務所での話をした。

「ちっ久遠の野郎……」

もしかして誘ったらまずかっただろうか、思った以上の不機嫌具合にさすがの遼介も顔が引き攣る。

「ごめん、まずかった?」
「いやこっちの事情だ、気にすんな」

笑って頭を撫でてくれたが、何となくもやもやとした気持ちを残してこの会話は終了した。


「んで、今年は何やるんだ」

恭介に聞かれて部活時のことを思い出す。

「クラスはたこ焼き屋で部活は部員から一本奪ったら景品もらえるゲーム、だったと思う。俺は景品渡す係だって」
「そうか、店番の時間分かったら教えてくれ。それに合わせて行くから」
「分かった!時間あったら去年みたいに回ろうね」
「おう」

去年も恭介は来てくれ、坂本と一緒ではない時は一緒に回ったものだ。
その時の様子をクラスメイトが何人か目撃していたらしく、クラスへ戻った時質問責めだったことを思い出して遼介は小さく笑った。

――恭兄は格好いいから目立つんだよなあ。俺もいつかあんな風になりたい。

恭介と暮らすようになってからずっと遼介の憧れであり目標だった。記憶が戻った今でも変わらない。
そしていつか兄の横に立てるように。


まだ見ぬ未来を想像して機嫌良く夕飯の準備を手伝う遼介に、はっとした恭介はくるりと遼介の方へ振り向いた。

「そういやたこ焼きって遼も作るのか!?」
「へ?俺は宣伝と接客の予定だけど」
「そうか」

何でもないと手をひらひらさせる恭介に首を傾げる遼介。

未だ遼介の料理の不器用さは改善されていなかった。

いくら大切な弟といえどあれはダメだ。あまりに危険過ぎると恭介は思う。
万が一調理担当になってしまったら最後、遼介が無傷で終えられるなど想像すら出来ない恭介だった。

「久遠は土日のどっちに来るんだ?」
「あー聞いてない。仕事があるだろうし、空いてる時に来てくださいって言っておいたよ」

恭介としてはなるべくなら久遠と会いたくない。
そして欲を言えば遼介と二人で回って楽しみたい。そのためには久遠が来る時間からずらしていく必要があった。

――あいつが朝一で動くはずはないだろうから、早めに行くか。

しかし昼ご飯を遼介と過ごすためには半日いなければならないことになる。
それでは結局鉢合わせになる可能性が……と珍しく悩む恭介だった。



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