平穏最後の日(完結)
16
「で、何で遼ちゃん知ってんの?ミーティングで言ってたっけ」
「さっき部室で部長から聞いたばっか」
「なーる」
納得した坂本はそれ以上聞かなかったため、遼介が手伝いを頼まれたことは知らないまま終わる。
それからはテストの話や部活の話などいつも通りの会話に戻って夢中で話していると、向かいから一人の男が歩いてきた。
男は二人を見つけると一瞬驚いたようにしたが、すぐに表情を戻してぶんぶんと音が鳴りそうな程手を振る。
「遼介くーん!」
遼介が声のした方を向くと斉藤が立っていた。
「秀一さん!仕事中ですか?」
「そそ、見回り。もう帰るだけなら、良かったらお茶しに来ないか?久遠さんたちもいるよ」
「マジっすか!えーと……」
誘いは嬉しいが今は坂本と一緒だ。
特に遊ぶ予定はないものの坂本の了承を得ないとダメだろうと、ちらりと坂本に視線を向ける。
すると坂本の方も「行ってきなよ」と軽く言ってくれたのでお礼を言って付いていくことにした。
「裕太ごめんな、また明日ー」
「おー明日!」
本当は最初斉藤が話し掛けたのを見て坂本は身構えていた。一度会ったチャラそうな男だと気が付いたからだ。
しかし「久遠」の名前が出てきて、遼介が懐いている人の知り合いかと分かったので行かせることにした。
――それにしても久遠さんって人えらい人だったりするのかなあ、仕事中に気軽に高校生を会社に呼べるなんて。
不思議に思いながらも深く考えず坂本は帰っていった。
「お邪魔します」
「遼介君いらっしゃい!」
斉藤と一緒に事務所へやってきた遼介を園川が出迎える。
奥には久遠と小宮山もいて今日は全員出勤しているようだ。丁度良かったと遼介はごそごそと鞄を漁る。
そして中から取り出したチラシを一枚久遠の前へと差し出した。
久遠がそれを見て目を細めて少し驚いたような顔をする。
「文化祭?」
チラシに書かれている文字を読み上げると、他の者たちも反応した。
斉藤がたたっと走り寄ってきてチラシを覗く。
「何、遼介君とこの?」
「そうです。誰でも入れるみたいだからもしお時間あったらと思って」
「へえ、高校なんて普段行かれないしおもしろそうだな。仕事入らなかったら行くよ」
す、とさりげなく遼介の横に移動してきた園川が何でもないことのように言う。
だが、確実に「仕事が入る」なんてことはないだろう。万が一入ったとしても無かったことにするに決まっている。
「有難う御座います!って言っても高校の何でたかが知れてますけど」
へへ、と照れたように笑う遼介に事務所内の空気が和む。
久遠はチラシを手から外してそのまま遼介の頭を包むようにぽん、と置いた。
「うし、んじゃ当日はからかいに行くか」
「有難う御座います!クラスか部活のとこいるんで」
「二年とこかバスケ部だな」
後ろで「楽しみだな〜」と斉藤の弾んだ声がした。
「女子高生かー」
「斉藤キモイ」
「小宮山ひどっ俺別に何も変なこと言ってないじゃんかっ」
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