平穏最後の日(完結)
15
「りょ、う、す、け〜〜」
部活が終わり着替えていると、やけに強調するように部長に呼ばれ少しだけ眉を顰めて振り返った。
何やら面倒なことを頼まれる気がしてならない。
「何すか?」
にやにやしながらこちらにやってきた部長は遼介の肩に手を回して「あのさ」と小声で話し掛けてくる。
「お前文化祭委員とか生徒会だったりしないよな?」
「?はい、違いますけど」
「身長いくつだっけ」
「えー…と、この前測ったら一センチ伸びてたから174…ですかね」
この前の身体測定でいちおう伸びた身長を告げる。本当はあと数センチは欲しいところだ。
それを聞いた部長は「よしよし範囲内だ」とさらに笑みを深めた。
怪しい。
怪しすぎる。
「……何企んでるんすか」
「そんな目で見んなよ、傷ついちゃうだろ」
ぷにぷに頬をつつきながら言う部長は全く傷ついた様子はない。
この男、強豪校であるこのバスケ部の部長を務めるくらいであるから、人をまとめたり指示を出すのが上手い頭の回転の速い男だ。
しかし良くも悪くもユニークな性格をしており、たまに部員が驚くような提案をしたりしてくる。
きっと今がそうであろう。
「文化祭もうすぐあんじゃん、それに俺らも参加するわけ」
「はあ」
「それで人手がいるからちょっと手伝ってほしいんだよ」
「そうすか。それなら……」
今は文化祭をひかえクラスが浮き足立っている時期で、部活でも申請を出しさえすれば出店や出し物をしていいことになっている。
バスケ部は公式戦もまだ先で大所帯ということもあり、何かしようということになったらしい。
間違いなくこの目の前の男の提案によって。
「どんなことやるんですか?」
「あー、完全に決まってはないけど、俺らから一本でもシュート決められたら景品あげるっつーゲームにしようと思って。んで遼介は景品を上げる係」
「俺もディフェンス入りたいなー」
「いや、強すぎても素人相手に可哀想だからスタメンはあまり入れない予定なんだよ」
部長の説明を聞いて「何だあ」と残念そうな遼介を見て、本当にバスケ馬鹿だなと部長は笑った。
「まあまあ、じゃあやってくれるってことでいいな」
「はい」
何か含みのあるような言い方だが残念ながら遼介は気が付かない。
「それだけだから。また近くなったら説明するよ」
「っす。お疲れ様です」
ひらひらを手を振って部室を出る部長に挨拶する。
もしもこの場に坂本がいれば少しは内容についてなど一歩突っ込んで聞いたかもしれないが、あいにく今日はまだ部室に帰ってきていなかった。
「まあいっか」
去年はバスケ部は何もしなかったこととクラスの出し物も普通だったため、何かおかしいことを強要されるとは思いもせず深く考えないまま頭の端に引っ込めてしまう。
そこへやっと坂本が顔を出した。
「おつー遼ちゃん」
「お疲れー一緒に帰ろう」
ぱぱっと着替えた坂本が廊下で待つ遼介と合流し帰り道を歩く。
バスケ部が文化祭で出し物をするらしいことを話すと、坂本は目を丸くした。遼介も先程聞いたばかりなので、まだほとんどの部員が知らないのかもしれない。
「今年は去年より成績良かったし注目されてるからな。文化祭は中学生の志望校見学も来るだろうし目立っときたいってとこか?」
「かもなー」
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