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平穏最後の日(完結)
12



「それでは原田君とお父さんどうぞ」

がら、と教室のドアが開いて山崎が顔を出す。
謙介は遼介の肩を抱きながら、運転役の男に「そこで待ってろ」と指示を出して中に入った。
男は指示通り廊下で直立不動していたが、それを目撃した次の生徒とその保護者は目を丸くしてぽかんとしていた。


「それではそちらにお座りください」

「はい」

二人は並んで山崎に向かい合うように座る。
謙介は眼鏡の奥から射るように山崎を見た。

今日は初めての息子の面談であり、何一つ聞き零すことのないよう意識を全てそちらへ向ける決意でやってきたのだ。

しかしあまりに強い瞳に、受験生でもないまだ手探りの面談なだけの山崎はたじろいでしまう。

「えーと、では始めましょうか」
「お願いします!」

こほん、と一つ咳払いをして話し始めた。

「遼介君の生活態度ですが、よく話を聞いてくれますし成績もどんどん上がっています」
「そうでしょう!うちでもすごくいい子なんですよ!」
「進路は大学を希望しているようですが、お家でも何か話されたりはしていますか?」
「はい、先日聞きましたが全力で応援するつもりです」

最初に教室に入ってきた時はきつい印象を受けたが、こうして話すと息子を可愛がる父親といった感じで山崎の中での印象は良くなっていった。
遼介も謙介が全面的に大学のことを認めてくれたので嬉しくなる。

「遼介が行きたいとこに行くんだぞ」
「うん」
「何かご質問はありますか?お父さん」

謙介は真剣に考える。
こんな機会は滅多に来ない、遼介の普段の姿や学校での様子を聞くことが出来るのだ。
何かないかと頭の中を巡らせた。


「では勉強以外の様子はどうですか?」

「勉強以外ですか。そうですね、友だちともよく笑い合ってますし部活も頑張っていますよ。一年生の頃より確実にいろんな生徒と話していると思います」

一年の頃より、というのは、きっとまだ自分が高校生という立場に頭がついていかれなかった頃で、クラスメイトが皆年上に見えていたのだろう。
だから誰かに話し掛けるのも勇気がいったのだと容易に想像出来た。それでも二年に上がって、さらに今は記憶が戻って楽しくやっているということを聞いてほっとする。

「有難う御座います。息子は中学の時に病気をしたりしていたのでちょっと心配しましてね、今は健康そのものですが学校でうまくやれているのかと気になりまして」

入学試験時遼介の記憶喪失の話は学校側にしていたが、個人情報のため入学試験に関わりのある教師しか知らないかもしれないと、言葉を濁しながら説明した。
案の定目の前の山崎は「病気だったことがあったんですね、学校も全然休まないのでそんな風には全然見えませんでした」と目を丸くしている。

「そうかあ、良かったな遼介」

わしわしと横にいる遼介の頭を撫でる。
その様子を見て複雑な家庭環境を想像していた山崎は安心した。苗字が違うのも仕事などのちょっとした事情なのかもしれないと思う。

「随分仲がよろしいんですね」
「はい、それはもう。兄弟でいることが多くてこうして二人いられるのもなかなかないんですがね」
「そうですか、でもきちんとコミュニケーションも取られているようですのでこちらは言うことないです」

二人を見て遼介は始終にこにこしている。家族を褒められて余計に嬉しくなったらしい。

「何だずっと笑って」
「だって嬉しいんだよ。いつもみたいに恭兄でもよかったけど、お父さんに初めて来てもらえたし」
「今回もあいつが行くって五月蠅かったもんなあ。あ、先生長男の話なんですけどね、これが全然弟離れ出来なくて」
「俺だって恭兄好きだけど」
「そうやって遼介が許すからあんな突っ走っちまうんだよ」

「はあ……」

ヒートアップしてきた父親の言葉にただただ相槌を打つしかない。

山崎はとりあえずこの家庭が相当過保護なことだけは分かった。



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