平穏最後の日(完結)
9
「な、んだってー!」
「あ?別にいいだろ」
「いいわけあるか!」
目の前で繰り広げられている罵り合いに遼介はおろおろするばかりだった。
進路調査票を無事提出した丁度一週間後、帰りのHRで「三者面談のお知らせ」というプリントが配られた。
今までであればすぐさま恭介に渡して終わりなのだが今回は父親がいる。
保護者は恭介の名前で提出していても、学校としては親がいるなら親に来てほしいに違いない。
だから山崎も三者面談のことを前もって話したのだろう。
そう思った遼介が恭介にそれを伝えると何か苦々しい顔をしながら渋々頷いた。
「親父に言うだけだからな」
「うん、お父さん忙しいだろうしね」
先ほどから難しい顔をしている恭介は「そういうことじゃねえけど」と呟くが、遼介まで届かなかったようだ。
丁度今日は紫堂の家で仕事があるらしく、せっかくだから直接伝えようと遼介も一緒に家に向かった。
「ただいま帰りました」
「坊!お帰りなさい!」
家に着いたところで恭介と別れると、恭介の仕事が終わるまでどこかで暇を潰そうと歩いていると見覚えがある使用人と廊下ですれ違い挨拶をする。
「父はいますか」
「奥の部屋にいらっしゃいます!」
「有難う御座います」
案内するという使用人に丁寧に断りを入れて一人でその部屋へと向かった。
今は特に仕事が入っておらずゆっくり休んでいるらしい。部屋の前で正座をして襖越しに声を掛ける。
「失礼します」
中から了承の声が聞こえたのを確認してから襖を開けると、ごろりと寝転んでテレビを見ている謙介がいた。
こうして見ると一般家庭の休日の姿と変わらず笑顔が漏れる。
「お父さん」
謙介が驚いてこちらを振り返った。
「遼介だったのか!よく来たなぁ、おかえり」
「ただいま」
「何だ言ってくれれば迎え行ったのに」
ちょいちょいと手招きされるので横まで行くとぎゅっと抱きしめられる。
父という存在にまだ慣れていない遼介は、それだけで耳まで真っ赤にして照れてしまう。その様子を見て謙介は眩しそうに笑った。
「何か用事あったのか?」
「うんお父さんに。今度三者面談があるから恭兄かお父さんに来てほしくて」
「うんうんそうか、三者面談……えっ」
「俺が行くから親父は気にすんな」
二人でいたはずなのにタイミングよく入口から仕事をしていたはずの恭介の声がし、そちらを向けば腕を組んだ恭介が仁王立ちしていた。
謙介はそれまでの機嫌の良かった顔を崩して立ち上がる。
「な、んだってー!」
「あ?別にいいだろ」
「いいわけあるか!」
目の前で繰り広げられている罵り合いに遼介はおろおろするばかりだった。
それに気が付かない二人は家族を見る目とは程遠いメンチを切った目で睨み合う。
「こういうのは親が行くって決まってんだろーが」
「遼を一番知ってんのは俺だ。ぽっと出が何言ってんだよ」
「あ、今回は予定合うならお父さんに来てほしいんだけど」
遼介の言葉に二人の視線が降り注ぐ。
恭介は予想していたのか、舌打ちしつつもそれ以上の文句は出なかった。
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