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平穏最後の日(完結)
4



今年に入って大人の人と知り合うことが多かった遼介だが、担任である山崎は彼らとはまた違った人だと思う。
職業がそうさせるのか本人の気質がそうさせるのか。

どちらにせよ、どちらも遼介にとっては尊敬出来る相手であって横に居られるのがくすぐったくもあり。

自分もこのくらいの年齢になった時そう思われるように努力をしたいと思った。
そのためにもまずは知識からだ。

知らないということは怖いことだと分かった。

今全部は無理でも出来るところから埋めていきたい。少しでも役に立ちたい。
自分という存在を抱え込んでくれた人たちに何か返したい。

それは自分だけの場所から外へと目を向けられるようになった証でもあった。


「お、もう夕飯近いんじゃないか?家近くだったよな、送るから歩きながら話そう」
「先生休みの日なのにすみませんでした」
「何言ってんだよこのくらい」

くしゃっと笑って何でもないように言われる。そして当然のように飲み物代を奢られ再度恐縮してしまった。

外へ出て並んで歩くと座っていた時と違い全身に目がいく。


「あれ、何か先生今日違いますね」
「あ?うーん特に変わらないと思うけど、服か?」

そう言われて服を見ると普段より若々しい恰好のように見える。
学校で見る山崎はいつも同じようなシャツとスラックスでオシャレとは言い難い。しかし今は同じシャツといってもぱりっと襟が立っているものであるし靴もデザインが凝っている。こんな服を持っているのに何故よれよれしたシャツをわざわざ着ているのだろうか。

「学校は地味にって言われると考えるのが面倒でなー。一人暮らしでツッコんでくれる家族もいないから同じようなのばっかりになっちゃうんだよ」
「先生今日みたいならもっと格好よくなるのに」
「言ったな?普段格好悪いってことか?」

うりうりと肘でつつかれ「そんなつもりじゃ」と言い訳するがそんなつもりだったりする。
しかしそれは格好悪いわけではなく。

「もったいない」
「ん?」
「いや、本当はすごい格好いい先生が見られないなんてもったいないなぁって」

山崎は思ってもみなかったというような表情で遼介を見る。
少し表情を崩して「そんなことない」と笑う山崎はいつもより近く感じられた。



「あ、ここです」

「ここ……か、兄貴と住んでるんだったか」

何故山崎が知っているかというと、新学期に生徒資料を見た時保護者の欄が「兄」とされておりもしかしたら親はいないのかと印象に残っていたためだった。
それにしても随分と豪華なマンションではあるまいか。
自分の給与では住めそうにないここに怪しさが募る。

「はい。あ、でも親は近所に住んでますよ」

何か察したのか親がいるということを伝えると山崎は少し安心したようだった。


「坊!何しとんねん、もう若帰ってきて……どちらさん?」

そこに用事で出ていたのか神田がマンションに入るところで二人を発見する。

「神田さん、俺の担任の先生です」
「どうも」
「先生でしたか、いつもお世話になってます。ええと、遼介君のお兄さんの会社の者です」

社交辞令よろしく二人が笑いながら世間話をするのを遼介は観察をし、終わったところで別れを告げた。

「先生さようなら」
「また学校でな」

「有難う御座います」と手を振る遼介の後ろで神田は失敗したといった顔をしている。

「先生か、まずったな……」



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