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平穏最後の日(完結)
2



「提出期限は来週の金曜日。忘れないようにな」

HRが終わり小さな紙切れをぺらぺらと揺らしながら遼介は机に突っ伏した。
こんなものをもらう時期だったとは思いもしなかった。二年に進級してからいろいろなことが駆け巡り過ぎて頭から抜けていたらしい。
それでも記憶が戻ってからは漠然とした希望があったのも事実だ。

どうしたらいいか、恭介や紫堂の人間に相談するべきなのだろうがその前に今の状況をより知っている人物に聞いてほしい気もした。




「いらっしゃいませー」

今日は土曜日でバイトがあったため、恒例となっていた自主練は止めて部活が終わってすぐコンビニへとやってきた。
昨日配られた紙切れを気にしながらもぱらぱらと来る客の相手をする。
午後の中途半端な時間のため忙しいという程でもなく、他のバイト仲間と話しながら品出しをしたりした。

「遼介何か口数少なくね?」
「そっか?学校のこと考えてるからかな」

指摘される程分かりやすいのかと少々恥ずかしくなり、とりあえずバイトに集中しようとそれを頭の隅に追いやる。


「お疲れ様です」
「うーっス」

バイトが終わって外に出るが、残暑が厳しい今の時期は夕方だというのにまだ陽が高い。
恭介が帰ってくるまで時間もあるし本屋にでも寄ろうと、遼介は歩いていた道を引き返し駅前へと向かった。

目当ての本屋は地元駅のすぐ近くの商業施設に入っているが、こちらからだと駅向こうのため駅を突っ切って行かなければならない。今日は土曜日だからこの時間でも込んでいるだろうが致し方ないと足を速めた。
すると駅に着いたところで「すみません」と声を掛けられる。

道でも聞かれるのだろうかと振り返れば二人組の大学生くらいの女が立っていた。

「どうかしましたか?」
「ねー今一人?良かったら遊びに行かないっ?」

うっと一瞬たじろぐ。以前の遼介なら何か理解出来なかったかもしれないが今は違う。

これは逆ナンというやつだ。

正直部活に部活な生活していた遼介は女性とどう接していいか分からず断る方法が分からない。
視線を合わせたまま固まっていると、相手の二人組は調子に乗って触ってきた。

「いいでしょ?わ、腕かたーい。意外と鍛えてたりするの?」
「マジ?ワタシも触りたいー」
「え、いやちょっと」

困って身じろぐが手を放してくれる気配はない。
その時遼介の視線の前方に見知った者が通るのを見た。

「あっあの、俺待ち合わせしてるんで」

逃げるように手を振り切ってそこへ走り込んで腕を掴む。

「えーいいじゃん別にぃ、そんなおじさんと遊んだってつまんないでしょ。あ、でもちょっと格好いいかも」
「ひぃぃっ何てことを……!」

前触れもなく腕を掴んでしまった横の男を見上げ、小声で「すみません」と謝れば事情を察した男は遼介の肩に手を回した。

「おっさんで悪かったな、行くぞ」

ぶーぶー文句を言うのを聞きながら遼介は小走りで後を付いていった。




「有難う御座います!あとすみません!」

とりあえず落ち着こうと遼介たちは近くのファミレスへと入った。
席に座ってまずしたのは、目の前の男―担任教師である山崎―への感謝と謝罪だ。
山崎を見遣れば苦笑しながらも優しい顔をしていて怒っていないことが分かりほっとする。

「原田はなぁ、女子にモテそうなのにああいうのの扱い下手だよな」
「俺女の人ってよく分からなくて……さっきは本当に助かりました」
「部活ばっかしてて遊んだりしてないのか?」

遊ぶと言われて首を傾げて考える。
言われてみれば中学の時は部活ばかりで三年の時にはあのことがあってそれどころではなかった。
高校では恭介の目が光ってるし……と思ったところで山崎に相談したいことがあったのだと思い出す。



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