■午後の部活の時間。笹目和美は一生懸命舞台の脇でシナリオを書いていた。 どんどんと出来上がる舞台のセット。“公演”が間近に迫っているがまだそれが未完である。 そういえば・・・・昼間出会ったあの男性は・・・・”誰?”だったのだろう? 赤毛の短い髪の男を思い出した。 私の事を知っているようだったが・・・・・・・・。あの緑の髪の副会長とお知り合いという事は生徒会の方なのだろうか・・・・・。笹目は不意にそう思ったが。あのテツの異常な吠えようを思いだし。 家に繋いできたソレを少々不安に思いながら”早く帰って傍に居てあげたい”そう思っていたのであった。 「・・っ・・・!!!お前・・・もしかして笹目先輩になんかしたの・・・・!??????」 カセンに胸倉をつかまれる鳳太。 「お前こそなんで笹目和美を知っているんだ・・・・!!!俺の大事な許婚だぞ・・・・・?」 その言葉に固まる女子二人。 「あーあ・・・。」 ”言っちまった・・・” 戒がそう思ったところで舞台がスタートする。 ”バシン!!!”突然大きな音が鳴った。 カセンが掴んでいた手を離し、鳳太の頬を叩いたのだ。 「・・っ・・・あんたが・・・!あんたが・・・!!!!!」 何かを言いたいカセンだが何を言ったらいいのか分からない。 ”役不足です!!”先日麗姫の言ったその言葉を思い出した。 そういうことか・・・・・。 そう思うと何故か涙がこみ上げてきた。 あの大好きな笹目先輩にこんな”バカ男”が・・・・ 「・・・っ・・・!何泣いてんだよ、お前・・・・」 今日の鳳太は踏んだり蹴ったりである。戒に鳩尾を一発やられ。次はカセンに叩かれて。 それでも最初のは覚えていない。二発目は叩かれた事よりも彼女の涙の方が気になって仕方なかった。 これでも鳳太は女性遍歴が多い。”許婚”その存在を明かされるまでは割りととっかえひっかえ・・・・・というわけではないがよく付き合ってはこう異国女性に叩かれる事が多かった。 ”慣れっこ”というわけではないがこの程度の痛みなら気にはしない。 それよりも・・・・・ 「”お前・・・大丈夫か・・・・?ハンカチ貸してやろうか・・・?”」 良く分からないが急に泣き始めたカセンが心配でたまらなかった。 少しだけ”愛しい”と感じ始めたその時だった。 「お前なんか・・・!お前なんか・・・・///!!」カセンが次はグーで行きそうなときであった、 「ハイハイはいはい・・・そこまでー・・・・・・なー・・・・・・・・?」 戒が間に入ったのだ。二人を両手で遠ざける。 そして振り出されたカセンの腕はソコで止まる。 「あんたは・・・何も思わないわけ・・・!!!こんなのが・・・・笹目先輩の・・・!!!」 見上げてくるカセン。・・・・・その涙目に戒は少々心を痛めながら。何て返したら言いか困っていた。 その時である。 「あなたが・・・・”めーちゃん”の好きな人・・・・・?」 蘭姫が口を開いた。 「そうだが?」当然だろ。というように口を開く鳳太。 「いや。逆だ。こいつがあの子を好きなんだ。」 戒がそう言い直す。 「・・・っ!お前・・・!???」 鳳太がギッと睨んできたがそれは気にしない事にした。 決して戒もソレ程背が高くないが自分より背の低いしかも頬を叩かれたばかりの痛手の残るソレが睨んできても特に何の印象も受けないからだ。それよりも。 ”・・・・蘭姫ちゃん・・・・・”恋”って・・・・良く分からない・・・・・・・・・・・” そう言って泣き出した笹目。こと”めーちゃん”の”好きな人”はこの人なのだろうか。 蘭姫は困惑してしまった。 自分の”好き”の形と違うような気がする。 私は”白刃先生が好き!” その気持ちはぽかぽかで暖かくて幸せな。なんだかくすぐったいそんな暖かいものなのに・・・・・ 今この人達を取り巻くソレは全くソレとは真逆な気がする。 ”恋”なんて自分にも分からない。 けれども・・・・・ ”ぽろぽろぽろぽろ・・・” 蘭姫もまた泣き出してしまった。 困惑したのだろう。小さな体のソレが泣き出して。その場の空気がまた変った・・・。 「オイ・・・大丈夫か?」鳳太が心配する。なんだかんだでそれなりに”優しさ”は持つ男である。 「「・・・・蘭姫・・・・」」・・・また同時に意見の会う二人、 そして。 「お姉ーちゃん大丈夫・・・・・?」 それを抱きしめる弟。乱鬼。 ”ぽろぽろぽろぽろ”この涙の意味は良く分からない・・・だけど・・・・・ 「”めーちゃん”は・・・”物”じゃないよ・・・・。」 ”めーちゃんの好きな人はめーちゃんが決めるんだよ・・・・” 蘭姫がそう言うと。「俺の好きな人も俺が決める・・・!」そう返ってきたが、でも”好き”の形って・・・・・・ よく分からない。よく分からないけれども・・・・・”なんて言えばいいのだろう”まだ幼さの残る蘭姫にはよくは分からないが。白刃先生なら上手く伝えてくれる気がする。 急にそれが恋しくなって・・・・・・・でもそれは”恋心”ではなくて・・・・・・・・ 蘭姫がそう思って視線を上げると「あっ!」と声を出した。 「・・・・何やってんだ。お前ら・・・・」 この部屋の主。早乙女ダイナが帰ってきたのである。 彼の目から見てその光景は異様であった。良く知らぬ赤毛の男と親戚の戒。 それから同じスパイのカセンに泣き出す”妹”と、それにくっつく小さな”弟” とりあえず。「誰だ蘭姫を泣かせたのは・・・・・・!」 そう睨みつけるとまた場の雰囲気が変った・・・・。 カセンは”なんであんたがここに居るの・・・!??”という目で見ている。 戒は”あちゃー”とばかりに頭を抱えている。 そして・・・・ 「俺だ・・・・!俺が・・・・・何故か泣かせてしまったんだ・・・・・・!」 そう言って前に出た鳳太はまた本日三発目の制裁を喰らう。 「バシン・・・・・!」とりあえず、彼が持ってたカバンが顔面に当たったのだ。 「そうか。お前とりあえずこれでも喰らっとけ。そして詫びろ。一生懸命詫びろ。・・・・・オイ。蘭姫、風呂だ。風呂の準備しとけ・・・・!」 そう言ってダイナはその前を通って自分の部屋へと入っていく。 そしてスイッチが入ったように蘭姫が動き出す。 とりあえず泣き出したソレは止まったらしい。そう思って3人がほっとすると・・・・ 「オイ・・・そこの男二人・・・!!!!風呂につきあえ・・・!!!狭い風呂だがお兄さんが説教してやる・・・・!!!!!」 ””・・・・・・地獄の時間が始まった・・・・”” 風呂に付き合え・・・と言われた男二人はそのまま固まってしまった・・・・ ■NEXT■ [*前へ][次へ#] [戻る] |