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インデュア
(4)
「でも……」
 青年の顔がどことなく歪んだ。唇を噛み、目頭には涙を溜めているようにも見える。
「ああもう、わかったから早く休んでくれ。疲れてるだろ」
 マークが木杖で石畳をこつんと叩き、休養を促す。泣き顔の二枚目ははい、と気弱な返事をしてとぼとぼ教会へ入っていった。
――こいつの駄目なところは、打たれ弱いところ、かな。
 マークは冷静に分析した。彼には人を観察する癖がある。
 人付き合いなんて面倒だな。彼は小さなため息をついた。

「ああ、退屈だ」
 気弱な青年が休憩に入って十数分、マークはすっかり暇だった。
 教会が盛んなのは、一日にたったの二回。朝勤めの早朝がピークで、日が沈む夕勤めの時間になるまで、ほとんど人は来ない。さらに教会自体が首都と言ってもほぼ街の辺境にあるため、通行人もいない。朝勤めから夕勤め前までは、用心棒はほぼ無用になるのだ。
――でも、つまらない会話とかをするくらいなら、こっちのほうがよいけどな。
 マークは、自分が他人に馴染めないことを知っている。教会の他の司祭たちとはある程度仲良くなっても、深い付き合いが出来ない。それだったら、いっそ自分から離れた方が気が楽なんじゃないかと彼は自分に言い聞かせていた。
――それに……。
 その時、マークは遠くに弱い足音を感じた。少ない、ひとりか? 彼は右手の木杖をを握り直した。瞬間、目の前に人影が現れる。人影は屈強そうな男だった。来ている服はその強さを誇示しているようで、腕の筋肉を惜しみなくあらわにしている。男はすぐさま腰の短剣を抜くと、マークの目の前に突きだした。
「教会に用がある。どけ、用心棒」
 速い、とは思ったが別段驚かなかった。マークは木杖を構えた。
「何の用です? あいにく当教会は人々の救済の場でして。……凶器で誰に救いを求めるので?」
「大司教」
 短剣の男は答えたが、マークにとって特に意味はなかった。それよりやはり敬語は疲れる。こんなのは、神前だけで十分だ。
「残念ですが、あなたがいなくてもその方は救われます。ここはルーイン教会ですし……それに」
 言いながら、マークは右腕を外へ払った。木杖が男の筋肉質な腹に命中する。男は突然の攻撃に悶絶した。
「あなたはこの入口をまたげませんから」
 あんな不意打ちに当たるなんて、大したことないな。マークは勝利を確信した。続けてもう一撃を繰り出すが、男は体勢を立て直し、降り下ろされた木杖を短剣で払いのける。マークの木杖は宙を舞った。


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