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インデュア
(3)
 その教会の中は、多くの人が椅子に座り、最奥には豪華な祭壇が置かれていた。これがパースウェリア王国のルーイン教主要教会である。
 朝勤めの歌が聞こえてくる。神を崇めるものなのだろう。パイプオルガンを伴奏に、聖堂の中心で歌っているのはひとりの男の声だ。

“嗚呼、天にまします我らがルーインよ
 我らへ救いをもたらし給え
 愚かな異人は教えを拒み、
 哀れな背人(はいと)は災いに遭う
 神の源義を説く我らこそ真理だ!
 時代とともに移り変わった教えなど、所詮は偽りなり!
 信じる道に神は降り、
 純粋な人民に救済をもたらすのだ。
 スナハト・ルーイン(ルーイン神万歳)!”

 太く、迫力のあるバリトン声域が、周囲に響く。同じ場にいる参拝者たちも、歌声に続いていっせいに万歳の声をあげた。
 讃歌が終わると、祭壇に登っていた大司教が聖堂に降りてきた。
「皆さん、おはようございます。では今日も始めましょう。35章を開いて、私に続けてください」
 ここで話すことは、大抵ルーイン教典の原文である。彼はそれを、重みのある声で読み上げていき、教会にいる者たちはそれに従った。
 ひとしきりすると、一般の参拝者たちは大司教にお布施を渡し、ぞろぞろと帰っていく。もう太陽は完全に昇っていた。マークが聖堂の柱時計をみるともう六時三十分だった。
 教会関係者を除くすべての者が教会を出ていくと、マークは聖堂の隅に立て掛けていた身の丈ほどの木杖を手に取り、正面入口に出向いた。

「おはよう、ジェイミ。お疲れさん」
 マークは入口を見張る若い用心棒に軽く挨拶をした。
「ああ、わざわざすみませんね、マークさん。ご迷惑をお掛けします」
 ジェイミが過剰なくらいに激しく肩を狭めた。彼の腰には鉄の剣が差してある。
 用心棒のジェイミ青年は南国の第四大陸出身なのだが、穏和な性格も相まって、同性異性を問わず人気が高い。
「まったく、お前は二枚目なんだから、もっと堂々としていたら良いのに。折角の体格も台無しだぞ」
「すみません。なにぶん出稼ぎの身ですので、あまり大きな顔は出来ないと思いまして。それに、肌も黒いし……」
 マークはいつもの返事に呆れた。
「あのなあ、何度も言ってるけどルーイン教、もといパースウェリア王国の第一信条は『信じるものは皆平等』だ。お前は確かに移民だろうけど、みんなはお前がそのぶん熱心なことも知っている。先月やった、お前の成人の儀式は覚えてるだろ? あのとき、教会の誰もが心から祝っていたじゃないか。もっと自信をもってふるまってくれ」


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あきゅろす。
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