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インデュア
プロローグ

 教会はほぼがらんどうだった。わずかな人影だけが、その椅子に腰を降ろしていた。
 彼は、何故こうも変わってしまったのだろうか。今の彼は、つい最近までの彼からは、まったく想像できないほどになってしまった。
 人影のひとつが彼の側に寄って触ってみると、その手はいやに冷たかった。肌の色も少しくすんで見える。顔に目を向ければ、そこには苦悶が浮かび、安らかとは言いがたい様子だ。
 死後硬直というやつか。人影は意外にも冷静だった。もしこの場に事情をまったく知らない人がいたら、情がないやつだと咎められるかも知れない。だが、この人影だけが特別に落ち着いているのではなく、教会の者すべてが異常な位に冷静だった。
――それだけ彼の罪は重いということだな。本当に、とんでもないことをしでかしてくれたものだ!
 同じ人影は憤慨する。だが、その怒りを顔には出せなかった。なぜならその一端には、少なからず自分が関わっていたからだった。箱の中で横たわる彼――マーク・ウォシップをこの道へそそのかしたのは、紛れもなく自分自身なのだ。人影はふと思った。
――愛か義か。いずれにせよ、彼は自分の信念を貫いたようだな。
 その顔は、どこか安心しているようにも見えた。



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