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ふとした出会い
「名前ちゃん、朝よぉ〜」



薄らと頭に響くやけに耳に馴染んだ声、見慣れない部屋、家とは違う香り。

ぼんやりとした頭を叱咤しながら覚束ない足取りで襖を開ける。



ベーコンの香ばしい薫りと、テーブルに乗ったトーストの皿。

私はハンガーに掛けてあった制服に腕を通せば、パリッと糊が効いた感覚にようやく目が覚める。


丁度焼けたらしいベーコンを待って座り込めば、食べている間に優紀ちゃんが髪に櫛を入れてくれる。



仁君はまだ寝ているのか、時折襖の奥からいびきが聞こえる。


(昨日えふわん見るとか言ってたしね…。)


「はい、終わり。」

満足気に優紀ちゃんが言う。

渡された手鏡を覗けば、中途半端な長さである私の髪は、優紀ちゃんの手によって綺麗にセットされていた。


毛先がさり気なくクルン、としているのが可愛い。

時計をみれば、まだ余裕がある。



優紀ちゃんの様子を見れば、仁君を起こす必要もなさそうなので、取り敢えず私は学校へ行く事にした。


「名前ちゃん、学校までの道はわかるかしら?」


優紀ちゃんに聞かれ、わからないと答えれば親切にも地図を書いてくれる。
昨日は東京に着いてすぐに駅からタクシーをつかった為、道を覚えていなかったのだ。


「ありがとう!」


一度優紀ちゃんに抱きついて、部屋を出る。
古びた階段を駆け降り、私はアパートから続く細い道をのんびりと歩きだす。













慣れない道に悪戦苦闘しながらようやく辿り着いた学校。
クラスを間違えかけた事以外はまぁ、大丈夫だった。

教室に入れば、もう既にグループが出来つつある様で、2〜3人位で固まっている様な場所がいくつかある。

私は真ん中の列の後ろから三番目。まさにど真ん中だ。
前後にグループが出来つつあって居心地が悪い。


鞄を置いて椅子に座れば、

「おはようですっ!」


笑顔と共に、向けられた私に対しての挨拶。
完全に出遅れたと思っていた私にとって嬉しい出来事。

「おはよう、壇くん。」


笑顔で返せば、彼は嬉しそうに


「はいっ、おはようです。苗字さんでよかったですよね?」


と返してくれた。
ほわっと心が温まる心地がした。



「えー、それじゃ今日の予定を説明する。」



タイミング良く来た担任の一言により、入学2日目が始まった。






「苗字さん。お昼一緒に食べないですか?」

午前中の慌ただしいスケジュールを終え、昼休み。
すっかり仲良くなった檀君からのお昼のお誘い。

「うんっ!」

嬉しくなって元気良く返事を返す壇君の隣で、私は大きく頷いて食堂に向かうことにした。





「名前ちゃーん!!」

檀君と雑談しながら食堂への道を歩いていると、間延びした男の人の声。
振り向けば、昨日1日で見慣れてしまったオレンジ頭の先輩とツンツンヘアーの優しそうな先輩。
きょとんと見返せばキヨ先輩が

「今からお昼?よかったら一緒にどう?」

とニコニコと笑いながら言った。
檀君にも確認をとれば「はははっ、はいですっ!!」と元気な返事が返ってきた。
その時、ふとツンツン頭の先輩に目がいった。
優しそうな瞳と視線が絡む。


「ぁ……こ、こんにちは!!」


ペコリ、慌てて頭を下げると、キヨ先輩の手が私の頭に降りて来る。

「名前ちゃん。この地味なのは、南だよ。」
「おい、千石……。地味って紹介はやめてくれ。」
「だって事実だしー?」
「いい加減黙れ。…っと、悪い。
俺は南健太郎だ。一応、コイツのクラブメイトでもある。
テニス部では部長をやってるんだ。
よろしくな!」

千石さんとひとしきり会話した後、ツンツンヘアーの先輩が自己紹介してくれた。
優しげに細められた目もと、差し出された手に戸惑い、じっと見つめてみれば

「これからよろしく、の握手だよ。」


軽く笑って半ば強引に重ねられた手。


邪気のない透明な笑顔に、何故か鼓動が早くなるのを感じた。
握られた左手に熱が集まる。




初めての感覚、気持ちに戸惑う。









それからお昼を一緒に食べた後、二人は体育があると言って去ってしまった。








南先輩がいなくなってからも、何故か南先輩の笑顔が頭に張りついたままだった。






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あきゅろす。
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