バイク越しの体温 声の主を探せば、公園の前に止められた大きなバイク目に止まる。 それに跨がっていたのは、少し血痕がついた制服姿の仁君だった。 明かりの少ない公園の中、仁君の煙草の火と白い学ランだけが明るい。 キヨ先輩はそのまま私の腕を引き、仁君の前に立った。 怪訝そうにキヨ先輩を見遣る仁君に、 「じゃあ、お姫様はお返しするから。 ちゃんと真っすぐ帰るんだよ。」 と私を仁君に預け、踵を返すとバス停の方へ向かって行く。 「ありがとうございました!!」 私の言葉に後ろ手に手を振り返して、白い背中はすぐに見えなくなった。 私は、仁君と二人残されて、戸惑いながらも 「帰っぞ。」 仁君の言葉に小さく頷き、バイクに足をかける。 仁君に似合う大きなバイクに一生懸命になって登れろうとすると、なぜかずり落ちる。 見かねた仁君が私の脇に手を差し入れ、そのままバイクにまたがらせた。 次に、重いヘルメットを被せられる。 突然の重心にくらくらして、後ろに倒れそうになった私の両腕を掴み、自分の腰に回す仁君。 学ラン越しにもわかる、筋肉のついた腹筋。 力を込めるとピクッと動いた。 「しっかり掴まってろよ。」 仁君はそれだけ言うと、バイクを走らせる。 この際、中学生がバイクに乗っている事は気にしない。 煙草を吸っていることもどうでもいい。 だって仁君だから。 両腕一杯に広がる仁君の体温と確かな感触、あんな事があったのに迎えに来てくれた事実だけで私は幸せだった。 辺りに流れる明りのたくさんついた風景は、地元にはない都会の排気ガスのの臭いと共に去っていく。 まだ1日も経っていないのに、軽いホームシックに襲われた私は、仁君の背中にヘルメット越しの顔を押し付けた。 その時、仁君の腹筋がピクリと動き、何かを言った事はわかったが、それはヘルメットと風圧によってかき消された。 『・・・悪かった。』 私はただ、仁君の温もりを感じていた。 [*前へ][次へ#] |