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深い深い獣道すらもない山の斜面を一人きりで歩く。山には熊が出る猪も出る出会ったらきっと死ぬ。傾斜がとてもきつい。もう足の裏に力が余り入らない。もしも足を滑らせたら、谷底に落ちて死ぬ。死んだら蠅がやってきて卵を産み体は腐る。腐って獣に食べられてかけらになってどろどろに溶ける。ああ今半分しか踏ん張りが利かなかった。大分疲れていて力が入らない。咄嗟に枝を掴んだ。反射という自動操作。枝が太ければ落ちない。枝が細ければ落ちて死ぬ。目的地まではまだこんな場所を何時間も歩かなければならない。踏ん張りが効かなくなったら寝てしまおう。熊に会うかも知れない猪に会うかも知れない。会ったら、多分死ぬ。踏ん張りが効かなくて細い枝を掴んでしまったら死ぬ。落ちて死んだら腐って獣に食われて僕と僕以外だったものの立場が逆転するだろう。今追っている山に迷い込んだ牛のように落ちたら死んで腐って獣に食われて溶けて柔らかい色の骨の破片だけになる。それは穏やかで安寧。とても自然な感覚。何度も繰り返す様々に分岐した世界と未来。事務的な事実の反復と確認。本当に死と直面した際に生き物は恐怖という興奮を忘れただ体を操作する。ひたすらに静かな思考と酸素に溶ける。






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