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食事する姿を誰にも見られたくはない。これは僕が神経質だからではなく、世間の人々がおぞましいくらい鈍感なだけなのだと確信している。食事をする僕は浅ましい。ぐちゃぐちゃと咀嚼をする音が骨を伝って鼓膜に響く。それだけでもゾッとする。家族ならばまだしも、絶えず観察されなければならない他者との食事の席には耐えられない。ごく親しい友としか食事に行きたくはないし、互いの注意を逸らす余地のある話題が食卓に登っていなくては物を口に入れる気にならない。好きでもない相手と顔を突き合わせて食事しなければならなかった小学校の頃を思い出すと、憂鬱になる。当時目の前に座る子は男女に拘わらず大半が物を咀嚼する際に唇を閉じない場合が大半で、少し可愛い女の子が口の中の物を周りに晒したまま平然と食事をしているのがとてもじゃないが信じられなかった。歯に付いたペースト状の食べ物はとても汚い。そして僕も今同じ状態にあるのだと意識しただけでげんなりしてしまう。やがて僕の周りには唇を閉ざして食事する人ばかりになったけれど、矢張り僕は他人の作法云々は兎も角、食事するグロテスクな僕を誰にも注視されたくないのだ。咀嚼と唾液の花嫁であるメランコリックは一生涯続く。










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あきゅろす。
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