[通常モード] [URL送信]

Main
@


『わり、フォックス。ドックん中入れてくれ』

 彼が突然姿を消してから、またこうして顔を見せるまでに今回要した時間は3ヶ月。思ったよりも早い帰還だったなと、フォックスは別段問い詰めるまでもなく彼のアーウィンを収容することを許可した。彼には暇を嫌い、またひとつの場所に留まり続けることを嫌う習性がある。仕事が無い場合はさっさと休暇を要請し、こちらの返事を聞く前にはもう昔の仲間と飛び回っているのだ。
 また、一つの星に半年以上の滞在を強いられた場合にも彼は癇癪を起こす。あまりに激しいものではないが、やはり許可無くアーウィンに乗り込んでさっさと出て行ってしまう。決まって言う言葉は「事態が動いた頃に帰るわ」。実際こちらが攻め立てている場合ではない時に帰ってくる以上、実はこいつこっそり尾行してきたんじゃないだろうなと疑わざるを得ない。そしてその都度お説教を回避している辺り、さすがとしか言いようがない。

 グレートフォックス内、コクピット。他のメンバーとの間には、交替制で舵の番をすることが組織の暗黙ルールであり、今日の寝ずの番はフォックスが担当していた。
 無機質な扉が開く音、育ちも素行も悪い癖に、やたら品の良い足音。
 「ああ、疲れた」と愚痴るようなら、真っ先にシャワーでもなんでも浴びて自室で寝れば良いじゃないかと思う。わざわざ隣にどかりと腰を降ろしてあくびを見せ付けてくることもないだろう。いつでも眠ることができるやつの眠気を誘う仕草ほど、苛立つものはない。リーダーたるもの少しは彼に威厳のひとつも教えてやらねばと不機嫌を全面に押し出しながら、それでも彼は二人分のコーヒーを淹れたのだった。
 結局最終的にはボロが出る。天性のお人好しと構いたがり。ファルコが軽く笑って「サンキュ」と、たった一言の礼を口にした時点で、フォックスの怒りは消え失せていた。
 互いに互いの知らない時間を教えあうことはなく、静かに、ひたすら静かな黒い宙を見詰める。


 ここから全ての星、障害物を消した上でまっすぐ走らせたとしたら、どうなる。果ても光もない暗い中を当てもなく。この男はどこかに行きたがるだろうか。出て行きたがるだろうか。そういえば「俺は鳥目だ」などと言っていたこともあるから、暗がりを恐れて留まってくれるのかもしれない。閉鎖的な色の中で、彼が懐いてくれるのならば、きっとそれも悪くない。


 広すぎるこの黒の海を漂いながら思いを巡らせるとロクなことを考え付かないなと、彼にはわからないように自嘲した。




[次へ#]

1/5ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!