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「なあ」

 それが誰に投げかけられたのか気付かなかったが、振り返ってみるとどうやら自分だったようだ。彼からは名前で呼ばれた試しがない。(教えて居ないので当然か)思いがけない2ショットを目にしてしまって、思わず「珍しいコンビだね、コントでもするの?」と訊くと青い額にびきびきと青筋が浮かんだ。「んなわけねーだろ」にはそりゃあそうだと頷いた。何の用かと訊ねると、ファルコがリュカの背を押した。彼の手の中には、丸められた画用紙がある。
「お前が言いだしたんだから、お前がやんねーと意味ねーだろ」
「う、うん」

 リュカがおずおずとこちらを見上げる。かわいい。ひたすらにかわいいと思った。子どもはあんまり得意じゃないけれど、この子は本当に可愛い。さすが亜空の使者にて共演した仲、贔屓目だと言われても仕方が無いかもしれないけれど、そんなことは他所が勝手に騒げばいいことだ。
 「はい」と差し出されたその画用紙にご丁寧にもリボンが巻かれていたことを知り、どきりとした。どうしようとファルコを見遣ると、「日頃の感謝のお礼だってよ」だ、そうだ。リュカを見る。照れているようで、かつ早くこの絵を見てリアクションして欲しそうで、そわそわとぎこちないものだからこちらまで緊張してしまう。

 僭越ながら黄色いリボンを外して、ぱらぱらとゆっくり広げる。そこには、青い空の下で笑う自分と、この子と、スマッシュブラザーズで使用している3匹のポケモンたちが居た。空の色に映える橙色で、「トレーナーさんありがとう」の文字。
 胸の奥が、じんわりと温かくなる。顔が熱くなる。まっすぐな気持ちを受け取ることが、こんなにも嬉しいだなんて。お世辞にも上手とは言えないかもしれないけれど、とても暖かくて大好きな絵だった。

「こちらこそ、ありがとう」

 自然とにやけてしまった口元で告げると、リュカが照れたように笑う。つられて、声を出して笑った。リュカがぎゅっと抱きついてきた。誕生日でもなければお別れの日が近いわけでもなければ、明日も明後日も明々後日も、彼とは顔を合わせる。いきなりどうしてしまったんだろうと思ったが、子どもは思い付くと一直線だから、単純にただそれだけの理由なのだろうと思った。ふと顔を上げると、既にファルコの姿は無かった。そういえばなんで彼はこの子と一緒に居たんだろうか。視線に気付いたらしいリュカが、「あのね」と言った。

「ファルコさんにお手伝いしてもらったんだ」
 どんな絵を描こうかとか、ゼニガメやリザードンの顔はどんなだったか、とか。リュカは指折り、ファルコが協力したところを数えていった。
 だから空なのかと気付く。



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