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 咳をひとつすると、スリッピーから「鳥インフルエンザじゃないの?」とからかわれた。それには「うるせえバカ」と返した。
 もう一度咳が出ると、今度はクリスタルが「あら大丈夫?クーラーの風に当てられたのかしらね?」とその可能性を指摘した。それには「かもしれんな」と返した。
 その直後にまた咳が出た。すると今度は真剣な顔をしたフォックスに「鳥インフルエンザだああ」と騒がれた。それには「うるせえバカ」と返した。
 さらにまたその直後に、いや、以下延々と続くので省略させていただく。まさかクソおやじにまで鳥インフルエンザがどうだとか言われてしまうだなんて。

 逃げるように自室のベッドに潜り込んで今に至る。隔離だなんだと騒がれうんざりしながらも、自営業の手伝いってのはこんな時に便利だと思う。
 もしサラリーマンだったりしてみろ。マスクをしろ、解熱剤を飲めと口うるさい上司に注意されるのが神経に障るに違いない。そんなところで耐えられるはずがないじゃないか。高熱をおして暴れる俺が想像できる。第一、スーツの俺など想像もつかない。そもそも、同じ場所に毎日通い続けるというサイクルの継続自体、恐らく実行できないに違いない。

 熱がある、と自分で自覚できてしまったら、後は魘されるだけだった。ここ数年、風邪にもインフルエンザにも、…鳥インフルエンザにも無縁で生きてきた俺にとっては相当堪えたようだ。死に至るかもしれないな、とも考えた。

 鳥類は、病に対して脆弱を貫き通している。
 知的生命体への進化を遂げる過程に於いて幾らかの改善は見られたという諸説が残ってはいるが、そんなものは他所の種の最低ラインよりもっと下から漸く這い上がってきた程度のことだ。この脆弱性を数値化して他所と比較でもされてみろ、それはもう情けない結果がたたき出されるに違いない。

 からだがだるい。うずまく熱がもどかしい。指先一本動かすことすらいちいちはばかられる今、出来ることは目を閉じるのみだ。無理やりにでも寝付いてしまえば、睡眠が全てをいい方向に持っていってくれる筈だ。ナウスに体温計と薬を頼んでおいたから、一時すれば持ってきてくれるだろう。



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あきゅろす。
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