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 大いに暇を持て余してしまったファルコは、寝付いてしまえば朝ですよねと開き直ることにした。早々に寝支度をし、アラームをセットしてベッドの中に潜り込む。あんな会話を交わしてしまったせいか、どうも背中が心もとない気がしてならない。これでは現実主義者の名が廃ると頭を振って開き直ろうとするが、その行動自体が現実主義者のラベルの粘着力が薄れる要素になっていることを彼は気づいていない。

 何度も繰り返しているように、彼は自らを現実主義者と豪語する。
 そして、幽霊や神などの目に見えない存在を認めたくはない。

 そう、認めたくない時点で現段階では認めているのだ。現実主義でありたいと願ううちに先走って発言し、後に引けなくなってしまったその気まずさに関しては目も当てられない。
 肉親との折り合いへの心配など毛ほどもなかったあの頃、怪談好きの親戚のおじさんに吹き込まれた恐ろしい逸話の数々がファルコの腹に居座り、根を張っていた。唾棄すべき過去でありその逸話の数々であり、迫力の語り口であった。

「寝るぞ、寝るぞ寝るぞ寝るぞ俺は寝るぞすぐに寝るぞ!ふざけんな絶対寝てやっかんな!見てろよー」

 就寝への意欲を無理やりにでも掻きたてようと、そんな独り言まで飛び出しているあたりが果てしなく重症である。
 しかし誰が見ているというのか。むしろ見るな。


 うつらうつらと意識が浮き沈みを始めた頃に、事は起きた。
 あまりに聞きなれた電子音に、鼓膜から耳までの通気がいやに良くなってしまったかのような錯覚を覚える。廊下から溢れる光を感じることで確信した。間違いない、誰かがこの部屋の扉を、無粋にも開いている。一体誰が何のために誰の許可を得たというのか、ファルコには皆目検討がつかなかった。そして背筋がぞくぞくと波打つのが自分でも分かった。先ほどの会話から、流れがどうもオカルト寄りな気がしてならない。

 指先ひとつを動かすにも躊躇した。親戚のおじさんが嘯いた化け物たちは、五感がおそろしく鋭い類が多かったのだ。
 もしここで衣擦れの音や、指先が実際に曲がる音を聞かれたりなどしてみろ。もしくは透視してその様子を見られていたり、シーツからはみ出た部分に目をつけられたりなどしてみろ。一巻の終わりだ。いや、透視ができている時点で既に終わっているのでは。食われるか八つ裂きにされるか乗られるか、どれだ。ようやく唾を飲み込むことができたファルコは、それでも冷静な判断力を欠いている。

 開き直りと悪あがきの間を揺れ動いている合間にも空気が揺らぐ。足音が近づく、しかも数組。再びあまりに聞きなれた電子音。同時に廊下からの光が、閉ざされた。

 ベッドの周りを囲まれて、なにやら怪しい呪文を唱えだしたらどうしよう。そしてトライフォースが現れてどこか異空間に飛ばされちゃったらどうしよう。まず言語は通じるか。助けて緑の人。助けて六賢者。助けて青い猫型ロボット。耳ならどうにかしてやるから。



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あきゅろす。
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