Main H パンサーは未だに目を醒まさない。 私は阿鼻叫喚の片隅に、ひっそりと正しく座していた。私は私自信が今まで幾度も対峙し、ライバルとまで言われた相手が、本気で怒らせると鬼と化すことを初めて知ったのだ。じっとしているのに手が震えている。ファルコごときにこの私が…!と抗えない事実に対し未だ憤怒の念を拭えないでいる私に対し、ウルフはと言えば何度目の生還を果たしてはまた死して行くのか知れない。 リバースドールなどもはや無意味であった事実を、パンサーが起きたとき、どのような表現で伝えれば一番ダメージを与えることができるのかそれのみについて思考を働かせていた。つまり私も現実逃避である。もう一度言おう。ファルコごときにこの私が…! かつて会議室を名乗っていた室内はもはやそれとは思えぬほど、事実上の地獄絵図を描いている。 既にご存知の方も多いだろうが、ファルコがああまで怒っていたのは、ウルフのプロポーズが遅れたからではない。 彼はウルフの左目にはめ込まれているレンズが、レーダー機能の他に、見ている映像をそのまま録画できる機能があることを最近知った。情報元はスリッピー・トード。なんでも彼の父親がまた大変優秀な科学者であり、ウルフのレンズの開発者であるのそうだ。 ひょんなことからその事実を耳にし、ということは、ウルフとのそういったことに興じてしまった自分の、あんな姿やこんな姿を録画されていつの間にか弱みを握られている!という結論に至ったのである。 録画していることは、事実だとウルフが言った。おまけに彼は阿呆の真骨頂を発揮し、ホログラフィにその様子を「ホレ」と映した。それがまたファルコの逆鱗に触れた。いや、もう、鷲掴みにした。だから今あんな無残な姿を曝しているのであるが。 どこか遠くから死者がウルフを招き入れる声が聴こえ、白い小鳩たちは地獄から訪れた怪鳥に貪り食われ、沢山のおぞましい人魂が、ウルフのあの世行きを象徴するかのように高く高く舞い上がる。 もう生きては返さないと言わんばかりに、ファルコはスマブラでも見せることはなかった切り札をここぞとばかりにウルフに浴びせ、ふたりを取り巻くのはまさに魑魅魍魎。ウルフの残機を我先に喰ろうてやろうと群がる様を、もう直視するのも気が引けた。 ファルコは相も変わらず、格ゲーマニアも真っ青になるほどのコンボを決め続けている。あのプロポーズはなんなんだ、ふざけているのかと怒鳴り散らしながら。 「でもぶっちゃけちょっと、嬉しかったけどよ!」 私は何も、聞いていない。 END. [*前へ] [戻る] |