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 言い終わるが早いか、耳を劈いたのはライフルの発砲音。けれど発砲の先に標的は居らず、ソファが焼け焦げただけだった。ウルフは並々ならぬ殺気と武装の相乗効果に気圧されることもなく、ファルコの胸倉を掴みあげていた。こちらから見える彼は後姿であるが、聞こえる声は怒りを抑え込んでいるようだ。
「意味が分からんな。理由も吐かん奴にそんな決定権はねえ」
「口に出すのも腹が立つ。そのワリィ頭で考えるんだな」
 両者ともに目を逸らすことなく無言で睨み合い、場はまさに一触即発。が、皆目検討がつかないらしいウルフは、やがて手をおろした。心当たりがありすぎると、なんとも不利なものである。さらに、私のように「それがどうした」と開き直れない彼は、本当に自分で考える気でいるのだ。律儀で愚かな男だ。そこが彼に人望がある理由でもあるのだが。

「…考える。そして一度だけ、こちらからお前んとこに赴く」
「ああ」
「本気で別れる気かどうかは、そのとき判断しろ。いいな」
「…分かった」

 この張り詰めた空気を台無しにしているのは、紛れもなく未だに首根っこを掴まれたまままだぐったりしているパンサーである。静粛な場でひとり悪目立ちしてしまった5歳児の母親的に言えば「そんなところに居ないではやく帰ってらっしゃい!」状態だ。誰だあいつをスターウルフにいれたのは。連れてきたのは私で、了承したのはウルフではないか。なんたる失態だ。
 さっさと起きて自室に帰ればいいのにと呆れ返っている合間にも、ファルコは踵を返し帰ろうとした。まさか連れて帰るつもりかその役立たず。
「ファルコ、置いていけ」

 私が言うと、格好がつかないことに舌打ちひとつ、彼は左手を離した。ゴツン!と盛大な音を立てて頭を地面に打ち付けるパンサーにビクッとするのは、あまりに無責任ではないかと思ったが、指摘する間もなく今度こそ彼は帰っていった。あれだけ敵が武装していたにも関わらず、被害がパンサーの額のみというのは大変喜ばしいことだ。

「うう…」

 意味が分からない、理不尽だ、救急車を呼んでください。

 哀愁漂う三点リーダのひとつひとつには、哀愁漂う上記の理由が含まれている。

 そうだな、理不尽だな、でも救急車は呼ばない。



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