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 ファルコがスターウルフのコロニーを訪れたときのこと。ウルフにスマッシュブラザーズ実行委員会からの知らせを伝えたいらしかったので扉を開けてやった。彼がトレーニングルームへと消えた数分後、「戻るわ」と独り言のように呟きパンサーも去る。
 パンサーがファルコをあまり良く思っていないのは、傍から見ていても明白だった。普段口には出さないが、敬愛しているウルフから奴に伸びるベクトルが桃色であることや、私が奴を弁護することが気に食わないのだろう。ああ見えて、実は弟分的存在であることを悪く思っては居ない。そんなパンサーだからこそ、私達より年下で、同時に優遇されつつあるファルコのことが気に食わないのだ。

 まぁその後特に大きな仕事もなく、誰も居なくなった操作室で本を読み耽ってから数十分。再び部屋を訪れたのは意外にもパンサーだった。なぜか血の匂いを漂わせながらの軌道は危うく、ようやく辿りついた椅子にどかりと腰かけたかと思えば机に突っ伏す。後頭部がなかなか魅力的な色合いに染まっているがメンバーの流血沙汰である。悠長に構えている場合ではないのかもしれない。
「どうした」
「俺は…大変なことをしてしまった」
「見れば分かる」
「もう後戻りは出来ないかもしれない…」
「血は固まったら落とすの面倒だぞ」
「これからどうすればいいんだ!」
「洗え。そのままにしておくとハゲる」
「ハゲだけは!」
 元気そうなので問題はないかと勝手に杞憂を決め付けている間にも、彼は失血による弊害の一切を無視するかのように蛇口を求めて風のように走り抜けた。通常の任務もあのように迅速に行ってくれたのなら、こちらの手間も省けるのにと溜息が漏れ出る。

 そしてそんな彼と入れ替わり立ち替わり、今度はウルフが姿を見せた。こともあろうに上半身は素っ裸。その容貌でコロニー内をうろついたのかと思うと頭が痛くなったが、彼がそんな真似をするのも珍しいと興味を抱く。
「どうした」
「なんかパンサーがバグってやがったぞ」
「それは確認済みだ。何があった」
「よく分からん」
「血まで流していたが」
「それは俺のせいだ」
 よく分からんことないだろうが。出血の原因を突き止めたところで頭痛を感じてこめかみを抑えた。ふたりの様子を見たところ、実情はほぼ分からないが喧嘩というわけではないようだ。ウルフは呆れるほど強情である。もしもパンサーとの間に亀裂が走った場合、自らその名を口に出すとは考えにくい。
 俺のせいというウルフが直接手を下したのか、それとも間接的に何かあったのかと可能性を狭めていくうち、ひとつの折り目に突き当たる。
「原因は、ファルコだな?」
 ぴくり。ウルフの耳が、その名を跳ねた。そういったことであるのならば尚のこと鬱陶しい。色恋沙汰は管轄外だ。
「他所でやれよ」
 わざと低く警告を出す。意味が分からんと今更はぐらかす気で居る、憎たらしい膝の裏を蹴飛ばした。



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