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†ロイエド*奥の間†
『秘密な花園?』A





「〜〜〜〜〜〜ッ」
「……………」

血管が切れそうなほど頭に血を上らせて睨むエドワードと、開いた口がふさがらなくなってしまったマスタングがお互いを見合ってどれくらい経ったか。

エドワードは低くうなりながらようやく目を逸らし、マスタングもゆっくり口を閉じる。

「……ドクターマルコーの実験に付き合ってたんだ」
「………」

エドワードが眉尻を下げるところを見ると、マスタングを介さずに変な実験に首を突っ込んだ事を反省しているのがわかる。

「…で、内臓の自己再生能力のアップとか、他の臓器への変換とか、そうゆうのの実験でさ。まぁ、腎臓を他の駄目になった内臓に換えられたらいいんじゃないかとか…」

実験、と聞いてマスタングが微かに眉をひそめたからエドワードはちょっとまくし立てるように内容を話した。
最初からうさん臭いものではなかったのだと言いたかった。

「……たまたま、その…相談が来て……」
「相談?」

マスタングがようやく口をはさみ、エドワードはちら、とマスタングを見てまた視線を逸らした。

「…だったら、性転換とかはどうなのかって」
「………」

マスタングがぐ、と眉を寄せるのが視界に入ってエドワードは声をしぼませていく。

「あくまで、一時的なものだけど」
「信じがたい事だな…」
「ッでも、ホントに……」

マスタングの言葉に、む、としてエドワードが向き直った。

「触らせろとか見せろなどと言うつもりはないがね。信じられなくて当たり前だろう?今の君のどこにそれをつけないといけないほどの膨らみがあるというのかね……ぶっ」

バシッと薄桃色のそれ、をマスタングに投げつけ、エドワードは立ち上がった。

「じゃあ!触ってみればいいだろ!?」
「エ、エドワード!?」

マスタングは慌てて顔から女性用の布切れを剥がし後退さった。
ずんずんとエドワードが目の前まで近寄り、マスタングの手をむんずと掴む。

「ほら!!」
「ま、待ちなさ…っっ」

ジャケットの中にマスタングの手を引き込むが、マスタングはぐぐ、とそれを止めさせようと体ごと下がる。
信じられないといったのは本当だが、しかし本当であればそんな触ったりしたら、…大丈夫なのか。
何が大丈夫なのかと自分にツッコみたい気分満載なのだが、マスタングが逃げ腰になっているのが気に入らないエドワードは引っ張っていた力を急に抜いてその反動を使ってマスタングの上に倒れ込んだ。

「うわ…っ」

エドワードが倒れてくるのを抱きとめたマスタングは、むに、と顔に当たる柔らかいものに驚いて目をぱちくりとさせる。

「……む、…ね……?」
「………わかったかよ…っ」

むぎゅ、と抱きつくエドワードが頭の上でふて腐れたように小声で吐き捨てるのを聞いてマスタングはこくこくと頷く。そのたびにふにふにと当たるこれは確かに、女性の胸と同じ感触。
すと、とマスタングの膝の上に落ちてきたエドワードを、マスタングはなんとも言えない顔で見つめた。
そう思って見れば納得いくことが多かった。
丸くなったというか、柔らかくなった触り心地は筋肉質な彼の体が女性のように少し脂肪率が上がったからだろうし、唇の感触がマシュマロ……なのもそれか。

「い、一時的なもんなんだよ。俺が忘れてたんだ…砂糖で発動するの…。大佐とお茶飲んでるときに砂糖入れちゃって。急に体の感覚が変わって…」
「だからあの時急に…」
「…うん」

膝に乗ったまま俯くエドワードの可愛らしさは女の子だからではないとは思うが、マスタングは話に納得しながらも急激に自分の心音が高くなっていくのがわかった。

待て。

女の子…?

ごく、とマスタングの喉が鳴ったように感じてエドワードがガバッと顔を上げた。

「大佐…」
「な、なんだね…」

ぎろ、とエドワードが睨む様子にマスタングが必死で笑う。

「変な事考えてんだろ…っっ」
「何を言うか。私は別に…」
「うそつけ!!」

とたんにエドワードがマスタングの手からホークアイの巾着と中身を奪い取って飛び退く。

まさか。

考えてなどいない。

そんなそんな、まさかまさか。

マスタングは自分に呪文のように言い聞かせる。

それはもう犯罪以外の何モノでもない。

14も離れた『男の子』を『恋人』と呼んでいる事だってもう果てしなく犯罪だと言うのに一時的に女の子の体になっているからって、それは駄目だろう。

「触わんなよ!?一週間、て言われてんだから、ドクターマルコーに!あと二日!絶対この体に変な事すんな!!したらコロス!」
「…、は、はい…」

ぐん、と喉が締まりそうな勢いで胸ぐらを掴み上げられ、マスタングが鳴きそうな声で返事を返した。
ひくひくと顔を引きつらせているのはエドワードも同じ事で、言ってしまったからにはどうやってもこの体を守らなくてはいけない。
自分はあくまで男なのだ。
誰が女の身でマスタングに食われてやるものか。
有り得ない。



「う〜む……」

ごろ、とソファで転がり天上を仰いだマスタングが頭を廻るいかがわしい妄想を消そうと顔を両手でぐいぐいと撫でる。

「…そうくるとは思っていなかったからな…」

触るなと言われたからって、まさか今女だから、と言う理由だなんて誰が想像できたか。
エドワードを想うようになってから女性に触れる事などなくなったがそれが寂しいなどと思ったことがなかった。
元来女性好きと自他共に認めてきたはずだが、エドワードを手に入れた今となってはそんな浮き心などいっさい働かなくなっていた。それはエドワードに出逢うまで本当に大切だと想う相手に出逢えていなかったからなのだろうなどとキザな事を考えていたりもしたがまぁ、自分がゲイではないのも確かで。
昼にエドワードの柔らかい胸の感触に心臓が飛び上がりそうになった。忘れ去った思春期のときめきのようなモノがぐる、と体を駆け巡った。

「………んー……」

ホークアイのみっちり、というか豊満な張りのある感じと違い、小ぶりで発達途中の感じのエドワードの胸。
それはエドワードの幼さの抜けない顔には似合っていてなおさらマスタングはどぎまぎしてしまう。
ぐりぐりとソファの背に顔を押し付け、マスタングはうずうずする体を押さえようとする。

「……あ」

いかん。

思い当たった考えにまたマスタングが反省するように頭をかいた。

つまり、自分との事が初めてだったエドワードはもちろん女の子としてもそうなわけで…。

マスタングは心底自分の思考回路に愛想をつかした。
あれほどエドワードが触るな寄るなと懸命なのは、ある意味そう言った部分では自分に信用がおけないという事だろう。
…今までの自分の言動を思い起こせば否定できない。
愛しているからだよ、は今回通用しない。
確実に単に女の子の体がいいんだろうと言われるだけだ。
それは言う彼も、言われる自分も、悲しすぎる言葉だ。
自分はエドワードが好きなわけで、女だから男だからではない。
彼もそれはわかってくれているからこうやって一緒にいてくれるのだが、今欲望に負けて彼、彼女の体を組み敷いてしまったら、やっぱり女がいいんだ、と思われても仕方ない。
自分的には女の子のエドワードが見たくないわけではない。
赤ずきんの衣装を着せられた時のエドワードはかなり可愛かった。
でもあの時、ホークアイの完璧なまでの大人の女性のチャイナドレス姿を切なそうに見ていたエドワードは男同士というお互いの関係の不自然さを悩んだのは確かかもしれない。

「……まさか…」

まさか、それがきっかけで変な実験を請け負ってしまったわけでは。
ばち、とマスタングが目を見開いて背筋を流れる冷えた感覚に息を飲んだ。
体を起こし寝室に目を向け、マスタングはエドワードのもとに行くか、迷った。
昼間それを聞きだす時間などない。
しかし眠っているかもしれない彼を起こして問いただすには自分の勝手な推測に過ぎない事だ。

「………」

眉をひそめ、マスタングは黙り込んだ。
その時、がちゃ、と音がしてエドワードが寝室の扉を開けた。

「エド……」
「…んー……」

目をこすりながら出てきたエドワードは半分寝ぼけているのか、ふらふらとおぼつかない足取りでキッチンへと向かっている。
冷蔵庫を開けて中からマスタングしか飲まないミルクの瓶を掴んで出すのを見てマスタングが慌ててソファから飛び降りた。
確実に寝ぼけている。
エドワードが瓶のコルクを抜こうとする。
このまま瓶を口にでも運んだら目が覚めるどころか卒倒してしまう。

「エドワード!それは牛乳……っっ」
「へ……」

マスタングの言葉にパチ、と目を開けたエドワードが傾けようとしていた瓶を止めた。

「うわ……っっ」
「―――お…」

ばしゃ、とエドワードのシャツに中身が流れ落ちる。
マスタングが届かなかった手を伸ばしたまま固まった。

「ぅ、わーっっ」
「大丈夫か…って、ま、待て!」

べったりとシャツが体に張り付き鼻をつく牛乳の匂いにエドワードがパニックになり瓶を放り出して勢い良くシャツをめくり上げて脱ぎだした。
マスタングが声を上げて視線をそらしエドワードの襟首を捕まえる。

「は、放せよ!」
「脱ぐならバスルームに行きなさい」
「やだよ!こんなんすぐ脱がないと気持ちわり―!!」
「!君は……!!」

ち、と舌打ちをしながらマスタングが暴れるエドワードの腕を掴み引きずってバスルームへ向かう。
我慢しているというのに目の前で体をさらされては全て台無しになりかねない。

「いったいな!放せってば!大佐!」
「私の前で脱ぐなら襲ってくれと言っているのと同じだぞ…!」
「……!!」

ぴた、と動きを止めるエドワードにため息をつき、マスタングはバスルームにエドワードを押し込む。
扉を閉め、マスタングはタオルとシャツを持ってくるからとエドワードに告げくるりと背中を向けた。

「……まったくあの子は…」

頭を振りながらマスタングはふらりと壁にもたれる。
牛乳を被ってしまったシャツが張り付いた胸元は微かに膨らみを見せていてマスタングはカッと顔が熱くなるのを感じた。
エドワードは眠るとき髪を下ろしているからその雰囲気と相まって堪えている自分の欲求をかき立てられてしまう。
がしがしと髪を乱しマスタングは深くうなだれる。一度高ぶった体は中々落ち着いてくれない。
後ろでシャワーの流れ出す音がし始めればなおさらだ。今エドワードは無防備に裸体に湯を浴びているのだ。でもそれは自分を信用しているからだとしたらこんな状態を見られるのは、恐い。
悲しい顔をされるかもしれない。

「………」

パン、と顔を叩きマスタングは洗濯機の上に置いてあるバスタオルと今日洗濯され畳んだまましまわれていなかったシャツを掴んで大きく息を吸い背筋を伸ばした。

「………」

エドワードはシャツを脱いでシャワーを頭から浴びていた。
ハーフパンツは履いたままでお湯で体に張り付いていたが脱ぐ気になれなかった。
ちら、と鏡を見ると平らなはずの自分の上半身には筋肉ではない膨らみがあって、でもそれは自分の知る女性のものよりだいぶ小さい。
ホークアイのそれと比べたらないも同じだ。

「………馬鹿みてぇ…」

自分に呆れるように首を傾げて苦笑いをし、仕方なくハーフパンツを下着ごと脱ぎ去る。
この実験を請け負ったとき、自分に変な思いがなかったとは言わない。
もし自分が女だったら、女になったら…マスタングがどう思うのか。
迷わず手を出してきたら、それはどう捉えるべきなのか。
自分だから?女の体だから?
見極めは難しい気がした。
口では何とでも言えるからだ。
男でも女でも、君が好きだよ、とあいつなら言いそう。
そう言われたら嬉しいけど、したいだけかもしれない。女の自分と。

「………」

だから、シャツを脱ごうとした自分に慌てシャツを掴んでバスルームに連れて行ったマスタングは合格点なのだろう。
一緒に入ろうとか何とか、しようと思えばできたのをやらなかったのだから。
ちょっとだけエドワードがはにかむように笑みを浮かべてボディソープで体を洗い始める。
おかしな事をするなと言った自分の言葉を守ろうとしてくれているのが、嬉しかった。
その辛さはわからなかったけど。


「大佐―、タオルちょうだい」

エドワードがバスルームから顔を出したとき、戸口にキレイに畳まれたタオルと着替えが置いてあり、マスタングはキッチンの床を拭いていた。エドワードがミルク瓶を放り投げてしまったから、後片付けをしているらしい。

「……」

さすがに悪かったかな、と思ってエドワードもそそくさと着替えた。
マスタングの後ろ姿を見つめ、エドワードはぺたぺたと床を歩いていく。
ありがとうと言うのが少し気恥ずかしくてもじもじと足を動かしていると、マスタングがきれいに床を拭き終わったようで無言で立ち上がり布巾をシンクで濯ぎ始めた。

「大佐…」
「………」
「……?」

声をかけてもマスタングが振り返らない。それどころか返事も返してこない。
エドワードは不思議に思って小首を傾げマスタングの隣にちょん、と立って振り仰いだ。

「――っ」

瞬間、ずき、とエドワードの胸に痛みが走る。
マスタングの表情は怒っているとか、拗ねているとかそんな感じはなかった。ただ黙々と布巾を洗っているだけで、こちらを見ようともしない。

「………」

ふ、とエドワードが視線を落とし、目尻を下げた。
寄るな、と言っているからこの10センチくらい開いた二人の間は微妙な距離。

切ない。

急にマスタングが他人の顔をしているようでエドワードはきゅう、と胸が締め付けられてシャツの上から胸を押さえた。

「……」
「た……」

ふう、と肩で息を吐いたマスタングが布巾をシンクに畳んで置くと、すたすたとソファに行ってしまうのでエドワードはまた声を掛けるタイミングを失ってしまう。

「……押し倒されたくなかったら、もう寝なさい」
「……え」

マスタングが少し沈んだ声で呟くのを聞いてエドワードは顔を上げる。

「…どう思われても仕方ないがね……もう5日も君とキスしかしてないんだ。女の子かどうかより、私の我慢がきくうちに、……ベッドに行きなさい」

こちらを振り向きもしないマスタングに、エドワードは初めてマスタングに酷い仕打ちをしているのを感じた。
自分の勝手な行動で、相談もせずに実験なんかして。

「………っ」

エドワードはぐ、と唇を噛んで俯いたまま歩き出す。
こみ上げるのは悔しさなのか、切なさなのか。
早く寝室に行ってしまわないと今すぐにでもマスタングの胸に飛び込みたくなる。
そんな女々しさは、悔しい。

エドワードがマスタングの隣を通り過ぎた瞬間、マスタングはその表情が視界に入ってあ、と目を見開いた。

「エドワード……!?」
「……!?」

がし、と腕を掴まれエドワードが後ろに引っ張られる。

「え……っ」

そのままエドワードはマスタングの腕の中へ倒れ込んだ。
慌てて体を起こそうとするエドワードの顔を両手で挟みマスタングが眉を寄せて、じ、とうかがう。

「……っ」
「どうした……?」

カッとエドワードの顔が染まる。
マスタングの心配そうな表情に、エドワードが目頭を熱くする感情を必死で押し込めようと顔をそらす。
マスタングはエドワードが泣いているのかと思って思わず腕を引っ張ってしまったのだ。

「……エドワード…?」
「………ふ、不安な、んだよ…」
「………」

そんなに、自分を信用できないのか。
顔をそらすエドワードにマスタングがゆっくり手を放す。
とたんにエドワードがガバッとマスタングに抱きつき、小さく震えた。
マスタングは驚いて抱きしめてやったらいいのか迷って両腕を持て余してしまう。

不安。

それは自分に対してではなく…?

エドワードは声が震えそうになるのを堪えてぎゅ、と目をつぶった。

「……もしかしたら、戻れないかもしれない、だろ…?」
「え……」

マスタングがびく、と体を揺らし、エドワードはまた唇を噛んだ。

ドクターマルコーの実験だからと言って、初めての試みなのだから、何も保証はない。
もしかしたら戻れなくなるかもしれない。
戻れても何らかの後遺症や副作用があってもおかしくはない。
エドワードはそれを承知で請け負ってはみたものの、日に日に見慣れていく体が丸く女性的になっていくのに不安がないわけではなかった。
胸だって、最初の日よりは少し膨らみが増している。
ホークアイに新しいものをもらったのだって、そのためだった。
ほんとに、もし戻れなくなったら……。
一週間で何もかも元に戻って、マスタングにも笑い話でバラして…。
それができなくなる。
それどころか…。
今日、エドワードがトイレットペーパーひとつでぶち切れたのも、マスタングにバラしてしまったのも、その不安がどうしようもなく大きくなってきていたからなのかもしれない。

「……保証なんか、ないからな。もしかしたら、俺、このままかもしれないし…」
「そ……」

マスタングはエドワードの不安には大抵対処できるくらいの良く回る口を持って生まれたと思っていたが、こればかりはどう応えたらいいのか、言葉を失ってしまった。

「そしたら、さ。そりゃ…大佐には良いかもしれないけど…け、結婚とか…したいんだ、ろ?……子どもとか、できる、かも、…しんねぇし……」
「………」

結婚…?こ、ども…??

マスタングは本日2回目のくらくらと視界が回っていくような感覚を覚えた。
理解が、思考が追いつかない。
エドワードがここ数日不安を抱えて考えていた事なのかもしれないが、マスタングにとってみたら半日やそこらで目まぐるしいまでに常識の反転をさせられてどうやったってついていけるはずがない。

歳だな、と柔軟性の悪さを嘲ってみてもとてもそれだけで解決できることではない。

「なあ、俺がこのままだったら……大佐どうする?」
「え……」

くり、とマスタングを仰ぎ見るエドワードに、マスタングが顔を引きつらせた。
エドワードとしては抱えきれなくなっていた悩みを打ち明けてしまったからどうやら少し開き直っているように見える。
こうなると手におえなくなってくる。
元々常識では推し量れない道を歩いて来たエドワードだから、マスタングもそうそう世の中の常識の枠で彼を見ようとは思わないが、いやいや、そうか、世の中女が男に、男が女になる事だってある……しかし、ははは、まさか自分の身内で、と絶句する親の気持ちが痛いほどわかる日が来ようとは……と様々な事をいっぺんに考えながらマスタングはどうにか笑顔を作ろうとするが引きつってしまって逆にエドワードが怪訝な顔をして口元を歪めた。

「何だよ、嫌なのか?俺が女になったら」
「は…?」

問題がすりかわった。

マスタングが嫌な汗を背中いっぱいにかいているのにエドワードは、じ、とマスタングを睨んで顔を寄せて威嚇の体勢に入る。
威嚇も何も、今マスタングとしてはそんな風に近寄らないで欲しいのだが、まさかそんな事を言ったら殴り飛ばされてしまう。

いや、悪いのは、…私か?私なのか……?

「この前ワンピース着てたら可愛いって言っただろ?女装がいいのかよ、大佐、女の人が好きなんじゃねぇの?ホモ?ロリコン?ただの変態?」
「な…っっ」

何てことを言うか。

ずいずいと不審そうな瞳で近寄るエドワードにマスタングが言葉を返せない。
だって、赤ずきんの格好をさせられたエドワードは可愛かった。それは認める。
しかしそれでエドワードが女の子だったらなぁなんて思ったわけではないし女装がいいとか、もっと違う。
女性が好きなのは認める。だからってエドワードが女の子だったらとか思ったことはない。
絶対に、ロリコンなわけがない。
今までお付き合いした女性は犯罪に触れていない。
ああ、もう、どこから防御したらいいのかわからないくらいのエドワードの攻撃にマスタングはがっくり首を垂れた。
だから、エドワードが女の子だったら、とか考えた事なんて、ない。

「なあなあ…大佐ってば」
「……私は君が好きなんだよ。それでは、駄目なのかね」
「―――!」

困り果てたマスタングの一言に、エドワードがパッと目を見開いた。
ぐるんと顔を背けたエドワードの顔が見る見る真っ赤になっていく。

「ば、ばっかじゃねーの!!」
「何故だね、駄目かい?」

もうマスタングは許しを乞うようにエドワードを窺い見ながら頬杖をついた。

「〜〜〜〜〜〜〜っ」

エドワードはぷう、と頬を膨らませて黙り込んだ。
多分、それが答えなのに。
あまりにさらっと言われた気がして悔しい。

マスタングは目の前のエドワードが女の子かどうかなんて忘れて抱きしめて愛情を確かめたくてむずむずしてくる。せっかくエドワードから抱きついてきたのに。思い切り頬擦りしてぎゅう、としたい。
それで伝わるのに、と思いながらそろそろと腕を動かしていると、エドワードがいきなり膝の上からパッと下りてしまった。
すか、と空振ってマスタングがぐぐ、と拳を握った。

「…寝る!」
「は?」

やっと今どうにかまとまりかけたのではないのか。
マスタングがあっけにとられて立ち上がったエドワードを見上げると、エドワードはまだちょっと赤味の残る顔でマスタングを睨んでいる。

駄目だ。
まとまってない。

マスタングがまた肩を落としそうになっているところへエドワードが軽く体を折って顔を傾けた。

「……ん?」

ちゅ、とエドワードがマスタングの唇にキスをしてまた体を起こす。
マスタングが驚いて声を掛けるタイミングを失っていると、エドワードはそっぽを向いたまま指で鼻を擦った。

「……おやすみ」
「あ、……ああ、おやすみ」

エドワードがぱたぱたと寝室へ入ってしまうまで、マスタングは動けなかった。

まとま……ったのか……?

マスタングの頭の中は鳥の巣よりも複雑に乱れたままだった。


そして、一週間。



「………大佐、落ち着いてください」
「う、うむ……」

まるで初産の嫁の分娩室前でうろうろする旦那のようなマスタングの落ち着きのなさにホークアイがうんざりしたように何度目かの言葉を掛け、マスタングは何度目かの同じような返事を返した。

体が戻る瞬間なんぞ見られてたまるか、とエドワードが執務室に設置されている仮眠室にこもってしまったからさあ大変だ、とマスタングはホークアイを呼んでここ一時間ほど部屋の中を歩き回っている。
ホークアイとしては今仕事をしろと言ったところでどうなるものでもなさそうなので仕方なくその様子に付き合っていた。もちろんエドワードの事は心配だから側に居てやりたいのもある。もし戻れなかったら、という不安をマスタングに伝えてからエドワードは振っ切れたようにホークアイにそれを話し、なおの事相談をしていたからちゃんと見届けないことにはホークアイも目覚めが悪い。
きちんと戻れるのが一番いいのだが、もしそのままだとしてもそれをフォローしようという覚悟はできていた。
だからこそ、この目の前でうろちょろとする大の大人が目障り極まりない。

「大佐がご心配で仕方ないのはわかりますが、一番不安なのはエドワード君なんですから。大佐がしっかりしてくださらなくては困ります」
「わ、わかっているのだが、…どうも勝手が違っていけないな」

はは、と空笑いをしてマスタングは立ち止まる。
これが軍の事であればこんなにジタバタと往生際の悪い気分になったりしないのだが、何と言ってもエドワードの事だ。
落ち着いていられるわけがない。

「………」

また歩き出したマスタングに、ホークアイはため息をついてこめかみを押さえた。

バタン!

「―――!!」

いきなり仮眠室の扉が叩き開けられ、ガバッとマスタングが振り返った。
エドワードが元に戻るだろうと言っていた時間からはゆうに30分は経っている。
ごく、とマスタングが息を飲んで固まっていると、よた、とエドワードが扉にもたれかかりながら姿を見せた。

「エド……?」
「―――ッ」

声を掛けた瞬間、エドワードの肩がびく、と跳ね、とたんにダダッと一直線にマスタング目掛けて走り出した。

「エドワー……」
「もーどー…らーねぇっっ」
「!!」

どん、とマスタングの胸に飛び込み、エドワードがぎゅう、としがみついた。

「………」
「……ど、しよ……戻らね…ぇ…」

肩を震わせるエドワードの胸が当たる事にそれが本当だとわかり、マスタングはぐ、と唇を結んで瞳を閉じた。
ゆっくりとエドワードの髪を撫で、マスタングは大きく呼吸をした。
自分がしっかりと、受け止めてやらなければ。

「…大丈夫だよ。君は、……君だ。今も、私の大切な恋人だ…エドワード、大丈夫だ」
「……っっ」

抱きしめられる感覚に、エドワードが涙腺を切りそうになりながら小さく頷く。
ホークアイはほ、と胸を撫で下ろして静かにその場を去ろうと扉に足を向けた。
次の瞬間、びく、とエドワードがマスタングの腕の中で飛び上がった。

「エドワード……!?」
「わ……っっ」

ホークアイが振り返った時、エドワードとマスタングはお互いに目を丸くして見合っていた視線をホークアイに向けた。

「も、どっ…た……」
「………エド!」

エドワードが呟くように言ってがっくりとそのまま倒れ込んだ。


「……良かったですね…戻って」
「ああ、何だかよくわからないがね……まあ、良かったよ…」

仮眠室のベッドに寝かせたエドワードの髪をそっと撫で、マスタングは安心したように笑みを浮かべた。
女の子の体には触れるわけにはいかないからと、ホークアイはまた急に何かあっては困るのでマスタングが引き止めていた。
このまま、今日一日何も変わらなければ大丈夫だとは思うが、とドクターマルコーは電話口でたいそう申し訳なさそうに話していた。
それは電話線を通じてでもマスタングの烈火のような焔が飛んで来そうで堪らなかったからに違いない。

「……今日はここで、書類の整理をされてはいかがですか?お休みくださいとは、ちょっとできそうもありませんので」
「そうだな、…そうさせてもらおうか」

ふ、とホークアイが穏やかに笑い書類を取りに仮眠室を出た。
マスタングはエドワードの手を握り、唇を寄せる。
柔らかさが少し減った感じの指は、マスタングのよく知るエドワードの、男の子のものだった。
あの食んだらとろけそうな雰囲気はちょっと惜しかったかな、とマスタングが笑みをこぼしながらも安堵の中で寝入るエドワードを愛しそうに見つめた。
もしかしたら、一週間ぶりに深く眠っているのかもしれない。
自分が心中穏やかでなくもやもやと夜を過ごしていたのと同じく、エドワードも不安の中で浅い眠りを漂っていたのだろうから。

「……本当に君は、可愛いんだよ、エドワード…」

それは恋人だからで、性別ではないのだから、とマスタングは呟いた。













→ はぁ。結局女体でえちなんて、描けんかった。

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