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 前置きに適当な相槌を入れてうつらうつらとしているうちに、いつの間にか彼女の話は始まっていた。

「そもそも、わたしとなのはとはやては仲の良い友だちなの。だから内容に関係なく、3人で何か一緒のことをするっていうのがすごく嬉しいんだ」

 カフカは欠伸を噛み殺し、頭上を行き交う羊を残らず平らげる。
 どんな内容だろうと、若い猛りが煮えたぎる熱い友情など鬱陶しいものに変わりない―――まあ、話すのが男ではないことだけが救いか。

「たぶん、内容を聞かなくてもわたしは協力してたと思う」

 暗がりの向こう側から苦笑を浮かべたような気配が伝わってくる。
 アルコールが欲しいな、と思いながら、カフカは起きてることを証明するために適当な相槌を入れた。

「麗しき友情に乾杯。さあ飲み干したぞ。おかわりを注いでくれ」

「うん、乾杯」

 えへへ、と笑い声が漏れるのを聞きながら、カフカは背中のむずがゆさを堪えるのに必死だった―――話の続きを促したつもりが、まさかそう返してくるとは思いもしなかったのだ!

「アー……続きをよろしく頼む」

「うん、うん!」

 どうやら空の杯によるソレは、彼女の舌を滑らかにしてしまったらしい。先ほどよりも熱を持った口調で話し始めたのだ。

「六課設立の言い出しっぺは、はやてなの。前々から考えてたみたいで……一年前に空港火災があったでしょう? あれが、踏み切るきっかけになったみたい」

「空港火災か……あれは酷かったな。まるで地獄の再現でも見てるようだった」

 それは数多くの施設が焼け落ち、空港の機能がほとんど停止してしまったほどの大規模な火災だった。けれどそんな被害にも関わらず、奇跡的に死者は出なかったという。

「わたしとなのははその場にたまたまいて救助に協力してたんだけど、はやてはそうじゃなかった。はやては指揮系統の方を応援してたみたい。だから、」

「だから、管理局の足らない部分がいくらか目についた」

 言葉を引き継ぎ、寝返りを打って彼女の方に向く。暗がりの中で、穏やかに光を照り返す赤い瞳と目が合う。

「そう、管理局は大きな組織ゆえに動きが鈍く融通が利かない。はやては、それが不満だったみたい……」

「なるほどね」

 もしはやてがあと10ばかり歳を重ねていたならば、きっと管理局の足らない部分に目を瞑ったことだろう。なぜなら大人は狭い道を通るとき、自分が道の大きさに合わせる生き物だからだ。けれど子どもは違う。道が狭ければ広げてしまうのだ。

「すごいよね。わたしはそんなの考えもしなかった。できないならできるようにしちゃえ! って言うのかな? 大胆だよね」

 眦を下げ、彼女はグッと拳を握って熱っぽく語る。

「それでね? もっとすごいのは、その計画に最初からわたしとなのはの名前が入ってたことなの。『2人は断らへんやろ』って言われたときは驚いちゃったけど、嬉しかったなあ」

「……ああ、そいつはよかった」

 瞼が重い。
 適当な相槌を済ませたカフカは、天井を眺めながら手のひらで顔を覆う。

「それだけわたしとなのはのことを信頼してくれてるってことだよね」

「……ああ、そいつはよかった」

「だからわたしもその信頼に応えなくちゃ。なんて言ったって友だちなんだからね」

「……ああ、そいつはよかった」

 と、ここでようやくフェイトもカフカの相槌が話を聞いている者のそれではないことに気づいたのか。ムッとしたような表情で全く関係のない話を振った。

「そういえば兄さん曰わく、カフカ君は宇宙一の給料泥棒らしいよ。スゴいね。壮大だね。つまりわたしは、宇宙一働いてない人間を部下に持ったわけだ……。その辺のネコでも拾ってきた方が、よっぽど建設的だったかもしれないなあ。ネコは皮肉も減らず口も言わないし」

「……ああ、そいつはよかった」

 変わらない相槌にフェイトはため息を吐き出すと、やがて諦めたようにタオルケットを被り直してぽつりと漏らした。

「やっぱりネコよりましかな。カフカ君は途中までなら話を聞いてくれるから」

「……どういたしまして」

「起きてたの!?」

 少なくとも自分は、ネコよりは役に立つらしい。喜ばしいことに。
 薄い唇を吊り上げたカフカは、今度こそ目を閉じた。
 けれど、突如として破壊的な音量のサイレンが夜の静寂を引き裂くかのように鳴り響いた。
 ただならぬそのサイレンに、カフカはタオルケットを蹴飛ばして半身を起こす。

「アラームにしては、少し趣味が悪くないか? いっそ言い切ってくれ。これは暴力ですってな」

 宙に展開したモニターを睨んでいたフェイトは、確認するかのようにぶつぶつと小声で2、3呟くと、勢い良く振り返った。

「ガジェットだ。行くよカフカ君!」

「ああもちろん、顔を洗いにね」

 クローゼットを開け広げたフェイトが、減らず口は後にしてとばかりに、取り出したスーツを放って寄越す。
 それを羽織り、開けていたシャツのボタンを閉じる。

「ああ、タイも寄越してくれ」

「何色?」

 こんな時に、とも取れるような言葉にフェイトはネクタイを選ぶ余裕を見せてくれる。
 笑みを浮かべたカフカは、ジャケットを摘んで言った。

「スーツはグレーだ」

「シャツは?」

「淡いブルー」

「ならネクタイはラベンダーだね」

「イイセンスだ」

 彼女が選んだネクタイを締めながら、小走りで廊下を行く。
 緊急時こそ冷静に、というのはわかっていてもできないものだが。彼女はまるで、体にそれが染み付いているかのようにできている。
 やれやれ、とエレベーターに滑り込んだカフカはため息を吐き出す。

「緊張してる?」

「ああ、してるさ」

「そうは見えないけど……」

 戦闘が仕事ではない査察官に、緊張するなという方が無理だ。
 けれど、不謹慎ながらこういう緊張感は嫌いではない。自然と薄い笑みが出来上がり、背筋がぞくぞくするようなそれは―――結局は壊してしまうのだが。

「ああしまった、忘れ物だ……」

「なに? まさかデバイスを忘れたなんて言わないよね!?」

「いや、タバコだ」

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