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 コンビネーションの確認と言っても、はたして上手くいく自信などカフカにはなかった。聞けば彼女はSランク魔導師だと言うではないか。

「考えてもみろよ。オレが査察官で、キミは執務官。オレがウサギなら、キミはクマだ。手を取り合って戦えると思うか? オレはせいぜいキミの邪魔にならないようにするのが精一杯さ」

「クマ?」

 可愛らしく首を傾げるフェイトに、カフカはニヤリと笑って頷いた。

「ああそうとも。それも体長3メートルで凶暴なやつだ。100エーカーの森の友達をみんな食っちまうのさ」

 可愛らしいテディベアでも想像していたのだろうか。体長3メートルと聞いたフェイトは、今にも「ガオーッ」と吠えかからんばかりに思い切り顔をしかめて言った。

「わたしはクマじゃない!」

「喩えだ喩え。そうムキになるな。ウサギはビビってる」

 フェイトはグッとバルディッシュを握り締めると、恨めしそうにカフカを睨みつけた。

「……ウサギなら、クマに従って。食べられたくなかったら、わたしの言うことを聞くこと。いい?」

「わかったよ、悪かった。けど、オレも悩んでるのさ。このどうしようもない減らず口の多さにね」

 パチパチッ、と軽く放電する彼女には、さすがのカフカも渋々頷く他なかった。先ほどのスフィアのように消し炭にされるのはごめんなのだ。
 フェイトは気持ちを落ち着けるように深呼吸をひとつすると、話を元に戻した。

「コンビネーションの確認をします」

「イエス、ボス」

 よろしい、と彼女はひとつ頷いて言葉を続ける。

「さっきのカフカ君の戦い方を見ると、基本的に射撃が中心だよね? 魔力刃を使った戦い方は、弱点の接近戦を埋めるためのものだと思うんだけど、どう?」

「ああ、そのとおりだ」

 魔力刃はオマケのようなものである。その実態は、銃型デバイスのその銃口から、魔力で編んだ刃を生み出しただけという至ってお粗末なものだ。非常に取り回しが悪く、慣れなければとても使い物にはならない。

「射撃に特化したカフカ君に比べると、わたしは比較的オールマイティーな魔導師なんだ」

「比べてもらっても困る。オールマイティーって言っても、レベルが違うんだからな。キミのケツがオレのアタマだ」

「でも、わたしには高速機動という武器がある。速さなら管理局1じゃないかな……たぶん」

 カフカの減らず口は無視することが1番だとわかったのか。フェイトはなんとなしに拾った足下の小石を遠くへ放り投げ、それをすぐさま自慢の高速機動でキャッチするという離れ技をやって見せた。

「ね!」

 そして彼女は宙に浮かんだまま、得意気な表情をしてみせる。

「なるほど、確かに速いな……」

 試しに自分も足下にあった小石を拾い上げ、放り投げてみた。

「ふふっ、どう? 速いでしょ!」

 だが、結構な距離を投げたにも関わらず、彼女はいとも簡単にそれをキャッチしてのけた。
 まるで瞬間移動でもしたかのような、そんな速さだ。鮮やかな流れ星のような尾を引き、凄まじい速さで移動する。管理局1と自負するのもわかる気がした。
 もう一度、とカフカは小石をフェイトがいるところとは正反対の方へ向かって放り投げる。

「よっと………」

 地面スレスレを掠め、またもや小石はフェイトの手の中だ。
 これはなかなか面白い、とカフカはもう3回ばかり小石を投げるのを繰り返す。しかしそれが4回めに差し掛かろうとしたところで、フェイトがハッとしたかのように今し方キャッチしたばかりの小石を地面に叩きつけた。

「わたしはイヌじゃないっ!」

「ハハッ、ウソつけ。オレにはご機嫌に揺れるキュートな尻尾が見えたぞ」

 フェイトは地面に降り立ち怒り肩でのしのしとこちらへ戻ってくると、上目にカフカを睨みつけながら語尾荒くまくし立てた。

「こんな風に! わたしには、高速機動という武器があるの! それで、射撃に特化したカフカ君とわたしでコンビを組む場合! どうすれば一番だと思う!?」

「どうするもこうするも、オレには初めから選択肢なんてひとつしかない。キミの援護だ。オレが射撃で露払いをしたところへ、キミがその自慢の高速機動で切り込みをかける」

 コンビネーションに慣れてくればパターンも増えるだろうが、今はこのひとつしかないだろう。安全かつ確実な方法は。
 彼女もそう思っていたのか、肩の力を抜いて満足そうに頷いた。

「うん、そうだね」

「よし、それじゃメシにしよう」

 そう言ってご機嫌にきびすを返すが、フェイトに腕を掴まれる。

「まだダメ。確認を含めた訓練をしなくちゃ。ガジェットはいつ出現するかわからないんだよ? やれるうちにやっておかないと」

 意志の強さを秘めたかのような真剣な眼差しに、カフカはやれやれとばかりに肩を落とした。吸っていたタバコの火を消し、デバイスを再び握りしめる。


 はたしてコンビネーションが上手くいったかと言えば、結果的には上手くいったと言ってもいいだろう。ただし、

「ランチがディナーだ、オイ」

「仕方ないでしょ!? カフカ君がいけないんだから!」

 フェイトが納得し、管理局のレストルームで食事をすることになったのは、もう日が傾き始めた時間帯だった。
 慣れない肉体労働でクタクタのカフカは、まだまだ元気なフェイトをあしらうと、危なげない手つきでサンドイッチに塩を振る。
 きっと今夜はぐっすり眠れるはずだ。隣りに女がいる必要もない。いたらきっとベッドから蹴飛ばしてしまうだろうから。
 重い瞼を擦り、がぶりとサンドイッチを頬張る。マズい。しなびたレタスと安っぽいハムのせいだ。どうせ後からパブで一杯やるからと、軽いものを頼んだのは失敗だった。
 ふと正面のフェイトを見れば、小さな口をいっぱいにあけハンバーグを頬張っているではないか。

「なあ、取り替えないか?」

「えっ?」

 下がっていた彼女のまなじりが、今度は吊り目がちになってこちらを睨んでくる。

「絶対にイヤ」

「そんなこと言うなよ。サンドイッチだって美味しいぞ。見ろよこのハム。知ってるか? これはミッドチルダで金星をとった誉れある立派な豚のものなんだ」

「絶対ウソだ。わたし知ってるもん。ここのサンドイッチが美味しくないこと」

「ならどうして教えてくれないんだ」

 乱暴にサンドイッチを皿に置いてグラスに入った水を飲み干し、懐から取り出したタバコに火をつけて煙を吐き出す。

「出来の悪い補佐官に、上司からのささやかな復讐なの。ああサンドイッチを頼むんだ、馬鹿だなカフカ君は。どうしてサンドイッチなんて頼むんだろう、だってちっとも美味しくないのに……、って思ってたんだ」

「ケツの穴が小さい奴だな……」

「止めてよ食事中に“ケツ”なんて言うのは」

「お尻の穴の小さいことでございますね」

 火をつけたばかりのタバコを灰皿に押し付け、スーツを手に立ち上がる。

「オレはもう行く。明日までにその小さなケツの穴、広げといてくれ。いいな?」

「ちょっと、どこ行くの?」

「今何時だと思ってるんだ。行くとこなんてひとつしかないだろう? パブだ、パブ」

「ダメだよ、ダメ」

 一体なんの権限があってそんなことを口にしてくれるのか、この上司は。もうプライベートな時間のはずだ。

「カフカ君、忘れてない? “ガジェットは、いつ出現するのかわからない”」

「……オイ、ウソだろう?」

「今日から、基本泊まり込みだから」

 カフカは思わず天を仰いだ。すると、雲の上にいる神様のケツの穴が見えたような気がした。

「そんなに小さくてひねり出せるのか? オイ……」



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