Short Short
Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!
カーテンの隙間からちらちらと白い雪が舞うのが見える。風情ある言い方をするならば、しんしんと降り積もるとでも表現したらいいのだろうか、だがぬくぬくとした毛布にくるまるカフカに言わせるならば、そんな風情のある光景も「Fucking cold」のひとことで片付けられてしまうことだろう。
「――カフカ! 起きて! 外、凄い綺麗だよ! キャロとエリオが遊びたいんだって!」
ぬくぬくとする毛布をひっぺがさんと部屋に侵入して来た不届きな輩に舌打ちと舌打ちと舌打ちをくれてやったカフカは、今一度惰眠を貪らんと寝返りを打った。まだ朝も早い、それに寒い、起きる気などこれっぽっちもなかった。
それでも諦めないのが彼女、フェイトだった。毛布を引っ張り続ける彼女に、死ねば良いのにとザラキをMPが無くなるまでカフカは心の中で唱え続ける。そして不意に毛布を引っ張られることが無くなった。やっと効いたかとカフカは安堵して瞼を閉じた。
――ピタッ……。
「つ……冷たっ!?」
背中にヒンヤリとした何かが侵入してくる。そして同時に耳元でクスクスと楽しげな声も聞こえる。カフカは寝返りを打って、毛布に潜り込んで来た不届きな輩を睨んだ。
「おはよう。カフカ」
憎々しいほど綺麗な笑みを浮かべながらフェイトが体を寄せてくる。ヒンヤリと冷たい体だ。そんな彼女を足で押さえながらカフカは彼女を近づけまいとする。
毛布の中での攻防が繰り広げられる中、カフカとフェイトの目が合う。彼女は何かを期待するかのような眼差しをカフカに向けた。
「おはよーのチュー……」
「落ちろ」と言う言葉と共に、カフカはにじり寄って来るフェイトをベッドから蹴り落とすことに成功する。
「……酷い。女の子を足蹴にするなんてどうかしてるよ。ここはやっぱり、一緒に暖まろう(性的な意味で)って言わないと」
カフカは無視した。こういうときはテンションの高い相手に付き合う必要などないのだ。無視に限る。頭から毛布を被り直したカフカはそうして沈黙を貫いた。
――パチッ、パサッ……スルスルスル。
無視されたフェイトはめげることなく次なる一手に打って出る。脱いだのだ。服を。全部。
「お願い。入れて、カフカ、このままだとわたし……変になっちゃう」
ちなみに答えは聞いてないからと。おじゃましまーすの掛け声と共にフェイトが毛布の中へ侵入する。そしてカフカの腰回りに腕を回し強引に体をすり寄せる。何度も何度も、まるで自分のニオイを擦り付ける牝猫のようにフェイトは自らの体をカフカに押し付けた。柔らかな乳房が形を変えながらこすれ、ほっそりとしながら肉付きの良い足が彼の足を絡めとる。
徐々に艶やかな色を帯び始めた自らの荒く、熱い吐息をカフカの耳元でわざと聞こえるように立てた。これでカフカもアガリクス、とフェイトはしたり顔で彼のアガリクス茸に手を伸ばそうとする。
「――フェイトさーん、まだですかー? 早く行きま……」
部屋に入ったキャロは固まった。脱ぎ散らかされた黒い下着、そしてやけにこんもりと膨らんでいるベッド。また黒ですか、痴女めと思うよりも早く、キャロは後ろに控えたエリオをケリュケイオンのあの硬い部分で昏倒させた。実に鮮やかな手際だった。
部屋に入って来たキャロにフェイトは毛布から顔だけを出し、墓穴を掘れるだけ掘ってみようといった風な慌てっぷりを披露してみせた。
「チッ……じゃなくて、キャ、キャロ……あと二時間、じゃなくて、できるだけ早くイカせる……でもなくて、えっと……イク、すぐイクから」
「さ、先に外で遊んでますねフェイトさん。えっと……ごゆっくり」
昏倒させたエリオの首根っこを掴んだキャロは引きつったような笑みを浮かべながら、そのまま彼を引きずって行く。拾われる人を間違えたかなんて、今さら思っても仕方がなかった。
「――どうしようカフカ……あの子、絶対わたしのこと軽蔑したよね。ひょっとしたら、この痴女めとか思われたりして……」
全部今さらだろうとは、精神統一で荒ぶるジョニーを沈めたカフカは口にはしなかった。面倒だったからだ。
カフカは毛布から抜け出すと散らかった下着をベッドのフェイトに放り投げ、テーブルの上のタバコを手にとり火を付けた。
「ん? あれ? アガリクスは?」
「沈めた」
「えー……」
サクッサクッと、小気味の良い音を立てながらキャロは新雪の上を歩く。エリオを引きずりながら。
吐く息は白く、空気は澄んでいる。とても気持ちの良い朝だ。ふと別の意味で気持ち良くなろうとしていた自らの保護者の顔が浮かぶと、キャロは眉をひそめ低い声で呟いた――ザラキ。
そしていいかげんエリオを引きずるのに疲れてしまったキャロは、「少し、頭冷やそうか」と寝かせた彼の頭に雪玉をぶつけ始めた。どれくらいぶつけると目を覚ますだろうかなんて思いながら。
雪玉がちょうど42発めを迎えようとした頃、ようやくカフカとフェイトが姿を現した。ちなみに38発め辺りからは石入りの雪玉だった。ピカチュウは氷ではなく地が弱点だったと思い出したからだ。
「――寒い。寒すぎる」
すれたような色合いのモッズコートを羽織ったカフカがガタガタと震えながら体をさする。首に巻いた赤いロングマフラーはフェイトが編んでくれたものだ。一人で巻くには長すぎるところに彼女のしたたかさが窺える。
「でもマフラーは暖かいでしょう?」
「愛があるならナイロンじゃなくてウールで編むことをお勧めするね。寒いし、チクチク痛くてイライラする」
「そこは嘘でも暖かいって言って欲しいのが女心なんだよ?」
「暖かい。凄い不細工で巻くのに躊躇するようなマフラーだけど暖かいねフェイト。ちなみに街に行くときは絶対巻かないがな」
雪玉がカフカ目掛け投げられる。物凄いスピードだった。カフカはそれを長すぎるマフラーで鮮やかに防いでみせた。
「人が、せっかく、編んだのに!」
妄想少女トロピカルフェイトの頭の中ではこうなるはずだった――。
――オイオイ、こんな長すぎるマフラーをオレ一人で巻けってか? 見ろよこの長さ。まるで二人で巻くためにあるようだ。来いよフェイト。
甘い二つの意味で甘すぎるトロピカルフェイト。だから頭の中が一年中トロピカルなどと言われるのだ。
ドサッと音を立ててフェイトが崩れ落ちる。そのトロピカルな頭を冷やせとばかりに分厚い雲から降る雪が彼女の頭を白く染めていく。
「夜なべして、コツコツ、編んだのに。毎日毎日、編んだのに……初めてマフラー、編んだのに」
「――精神的バインドです。重い女は流行らないですよ? フェイトさん」
「ハハッ、上手いこと言うなキャロ。最高だ。来いよ抱き締めてやる」
両腕を広げキャロを受け止めたカフカはそのままぐるぐると彼女を回す。回りながら上がる楽しそうな笑い声は、あのバカ女についに言ってやったぜカフカさんといったものではない。たぶん。
「雪だるま作りましょうカフカさん。とっても大きいのを」
「まかせろ。とびっきりデカいやつを作ってやろう。なんせオレはチャーミングでビッグな雪だるまを作らせたら右に出る者はいないと言われるスノーマン スミス カフカだからな」
「えっ!? カフカさんがあの、スノーマン スミスさんだったんですか? 凄いです! カフカさん凄いです! 憧れます! なんでカフカさんがわたしを保護してくれなかったんですか!? 愛してます! わたしのためにロリコンになりましょう!」
とっても都合の良いふうに出来ているカフカのデビルイヤーは後半部分をしっかりと遮音。さっさと雪玉を転がし始める。
しばらく、今からでもオレのとこに来いよといった風なカフカの反応を期待していたキャロだったが、諦めたかのように雪玉を同じように転がし始めた。
「今年の冬はサンタさん、一体なにをくれるんでしょうか。わたしはカフカさんが欲しいです。間違っても不細工なマフラーなんて止めて欲しいです」
とっても都合の良いふうに出来ているカフカのデビルイヤーはしっかりと中部分を遮音。
ミッドチルダにサンタの言い伝えなどないが、キャロに教えたのはカフカとフェイトだった。そして去年、キャロの枕元にフェイトの黒いパンストにくるんだプレゼントを置いたのは他ならぬ彼自身だった。パンストにしたのは、靴下では小さすぎてプレゼントが入らなかったのだ。
「サンタさんは素直で優しい子にしか来ないのさ」
「わたしですね」
積もった雪の隙間からちらりと覗く赤い何かをだいぶ大きくなった雪玉でひきながら、キャロはにこりと笑ってみせる。天使の笑みと形容したいほどの笑みだ。
「ならサンタは来るな、今年も。楽しみに待ってるといいさ」
「わたしはサンタさんが欲しいんです」
「キャロがサンタさん貰ったら、他の子がサンタさんからプレゼントを貰えなくなるだろう?」
「構いません」
「いいかい? キャロ。それはね、ドラえもんの道具でなにが欲しいかと聞かれてドラえもんと答えてるようなものなんだ」
「違います。わたしはカフカさんが欲しいんです」
そのとき、ボスッとキャロの背中に雪玉が投げつけられた。固く握られているあたりから、投げた相手の込められた感情が窺える。
「カフカはわたしのものだから、キャロにはあげないよ?」
「まだいたんですか……」
「今年もミニスカサンタルックでカフカから熱いプレゼントを貰うの。いけない子だフェイト、サンタがプレゼントをねだるのか? どれ言ってごらん、ナニが欲しいんだい? ほら言わなきゃわからないよって……えへへ、ホワイトクリスマス」
「すごく、気持ち悪いです……」
半分だけの雪だるまを作り終えたカフカは、死にそうなエリオを回収し屋根のあるところへと逃げこんだ。妄想少女トロピカルフェイトも暗黒少女デスピサロキャロにもウンザリだったからだ。
「寒い……寒いですカフカさん」
ガタガタと震えるエリオに首に巻いていたマフラーを解いたカフカは、それを彼と共有した。
「今年のサンタさんはきっとエリオのところにしか来ないな。エリオはなにが欲しい?」
「……平和が、欲しい、です」
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