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Atlantis To Interzone


 ネタです。ネタですよ。ご注意を。


 リビングでテレビを見ていたら、鏡だ。光輝く鏡が目の前に出現したのだ。怪しさ爆発。おとぎの国へご案内、そんな感じだ。

「――どう思う?」

 カフカは、クッションを抱きかかえてぽかんと口を開けているフェイトに尋ねてみる。間抜けな顔だ。笑える、笑った。殴られた。
 フェイトはソファにいるエリオとキャロを下がらせると、ゆっくりと鏡に近づく。

「限定空間における小規模な次元震……かな?」

「どこに繋がってるんですかね?」

 ソファの影から恐る恐るといった風にエリオが顔を覗かせた。

「おとぎの国かもしれないね」

 夢のあることを言うキャロ。彼女にまだそんな純粋なところが残されていたなんて驚きだ。

「おとぎの国、お姫様、モテモテなオレ……」

 ヒャッホー! と、カフカは目の前の鏡に突撃……する前に、洗面所で髪を整え歯を磨き、一番仕立ての良いスーツに着替えてネクタイを締める。
 そして、唖然とするフェイトたちを残しカフカは鏡の中へと姿を消した。
 なにが彼をそこまで馬鹿にしたのか、簡単だ。抑圧の性欲、溜まるストレス、増える痣、減らされるタバコにアルコール。フェイトのいないところなんておとぎの国くらいしかなかったのだ。

「カフカァァァァアアッ!?」

 ヒステリーな叫び声を上げながらフェイトは、オロオロとリビングを意味もなく走り回る。

「どうしようどうしようどうしよう……カフカが……」

「ハーレム作るんだ――って、言ってましたねカフカさん」

 キャロの言葉に唇をキツく噛み締め鏡を睨みつけるフェイト。
 彼女は素速く部屋に戻りコートとバルディッシュをひっつかんで戻ってくると、エリオとキャロの肩に手をやった。

「いい? 二人は管理局にこのことを知らせて。わたしはカフカをぬっ殺……じゃなくて捕まえてくるから」

 そうしてフェイトも鏡の中へ。
 残されたエリオとキャロは顔を見合わせる。どうしようかと。

「わたしたちも行こうよエリオ君」

「えぇっ!? 危ないよキャロ」

「チッ……このヘタレが、その股にぶら下がってるのはなに? ただの飾り?」

 フンッ、とエリオを鼻で笑ったキャロも鏡の中へ。

「……とりあえず管理局に連絡しよう」

 残されたエリオは管理局の次元航行部隊にいるクロノに留守録を入れ、その他主要な人物へも同じようにメッセージを残す。そして――。

「誰が粗チンだぁっ!?」

 彼もまた鏡の中へと飛び込んだ。



―――一家inハルケギニア。



 召喚の儀のために集まったトリステイン魔法学校の生徒は、皆が皆、嘲るようなの笑みを顔に浮かべていた。
 そんな馬鹿にしたような笑みを一身に受けているのは彼女――ルイズ・フランソワーズ・ヴァリエールだ。
 彼女が杖を振れば必ずと言っていいほど爆発が起きる。彼女には魔法が使えなかったのだ。ただの一度も。
 貴族なのに魔法が使えない。それはここハルケギニアにおいては、致命的とも言える欠点だ。
 そうしていつからか付いたあだ名はゼロのルイズ。ただのひとつも魔法が使えない彼女の皮肉な二つ名だった。
 そして、今日の召喚の儀もどうせ失敗に終わるに違いないと皆が欠伸をする中、ルイズは呪文を唱えだす。

「宇宙の果てよりいでし我が身に相応しい美しく、力強く、荘厳で、誇り高き使い魔よ――来たれ! 来い! 出てこい! 来てください! お願いします! 贅沢は言いません! どうか来てください!」

 杖を振り下ろせば、起こったのは案の定爆発。腹を押さえて皆が笑い出す。さすがはゼロのルイズだと――だが、土煙の向こう、ゆらりと動く影の姿があった。

「せっかくのスーツが台無しだ……オイ」

 ぱんぱんっ、とスーツの埃を払いながら現れたのはカフカだ。時空管理局一抱かれたい男、カフカだ――それは自称だったが……。
 彼はぐるりと辺りを見渡すと、ヒュウッとこれ見よがしに口笛を吹いた。そして、空気を一杯肺に入れるように大きく深呼吸すると、口を開いて固まっていたルイズの顔の前で手を振ってみせた。
 周りの生徒は爆笑だった。成功したと思ったなら、出てきたのは人間。それも杖もマントも持たない平民だ。

「あんた……誰?」

「カサブランカス。カフカ・カサブランカスだ、お嬢さん」

 ジェームズ・ボンドのセリフを失敬したカフカは、彼女を見下ろしながらシニカルに笑ってみせる。

「まあ……いいわ。贅沢は言わない。我慢する。喚び出せただけでも良かったわ」

 喚んだ? とカフカが首を捻る中、ルイズは契約の呪文を唱えだす。
 そして、彼のネクタイを引っ張って顔を近づけると、唇を重ねた。チュッと、可愛らしく。

「――ふーん……見損なったよカフカ。そんな子どもにまで手を出すんだ……少し、頭冷やそうか」

 これがハルケギニア、一発めのトロピカルザンバーだった。



―――――――



 召喚の儀で行われたフェイトによるカフカの公開調教は、トリステイン魔法学校の生徒を恐怖のどん底に落とし入れた。
 その後、とりあえずトロピカルファミリーは異国のメイジという扱いで学校に留まることになり、カフカは女の子を追いかけたり女の子を追いかけたり女の子を追いかけたりしていた。
 面白くないのは魔法学校の男子生徒だった。突如現れたカフカに、学校の女子生徒がみんな持って行ってしまわれたからだ。
 花を贈り、好きな異性を詩にするなどといったハルケギニア風の口説きではなく、カフカはあの手この手で女の子を口説き落とす。時に強引に手を引き、またある時には気のない風を装ってみたりと。

「諸君、決闘だっ!」

 反乱軍のリーダーは彼――ギーシュだった。愛しの彼女は振り向いてはくれず、挙げ句の果てには『あぁ、なんて素敵なのカサブランカス様は』だ。
 そのギーシュに向かうようにして立つカフカの顔には不敵な笑みが――浮かんでいるでもなく、今にも倒れそうなほどボロボロな状態だった。
 ルイズに肩を支えられながら立つ彼は、つい先ほどまでフェイトにフルボッコされていたのだ。無理もなかった。

「僕が勝ったら、そう、フェイトさんを頂こうじゃないか!」

 一斉に周りの生徒から野次が飛ぶ。
 美しいフェイトは男子生徒の憧れの的だったのだ。ちょっぴり恐ろしかったが。
 野次馬に紛れたフェイトは思わずガッツポーズ。夢見る乙女19歳はこんな展開を待っていた。カフカが自分のために戦ってくれるという展開を――そんなわけないのに。

「カフカ……どうするの? そんなボロボロじゃ勝てないわ」

「誰が勝つって言ったルイズ。負けるに決まってんだろ」

 ハイ白旗降参とカフカがハンカチを降った瞬間、ハルケギニアに二発めのトロピカルザンバーが落ちた。



―――――――



 街を見てみたい。そう言ったのは好奇心大勢、最近ちょっぴり腹黒いキャロだった。
 内心では、このトロピカルファミリーと一緒にいるのが楽しいことを隠しながら、ルイズは仕方ないわねと頷いてみせた。
 いつしかルイズは、カフカの女癖の悪さが絡まない、ちぃ姉様ことカトレアを彷彿とさせるフェイトのことをお姉様と慕い、キャロやエリオを可愛らしい妹や弟のように見ていた。

「うーん……ついでにカフカに剣を買いましょう。使わなくても見栄えが良くなるわ。一応カフカはわたしの使い魔……なのかな? ほんとはフェイトお姉様のなんだけど……」

「剣? それならもう立派なのがあるさ」

「なんだ……せっかく買ってあげようと思ったのに、それでその剣の斬れ味はどうなの?」

「斬るというより、刺すほうが得意だなオレの相棒は。そうだろうフェイト?」

 なにやらお姉様の空気が怪しい。そのことを理解したルイズだったが、なぜなのかはわからなかった。
 そんな彼女の手を引いてエリオとキャロは避難する。落雷警報が発令されましたよと。
 ひょっこりと物陰からルイズたちが覗けば、またいつものように雷がカフカに落ちた。お姉様は相変わらず容赦がないなと、ルイズは苦笑いを浮かべる。

「坊主は聖具をふる、兵隊は剣をふる、貴族は杖をふる、そして陛下はバルコニーからお手をふるんでさぁ」

「オレが振るのは、剣でも槍でもなく腰だがな」

 城下町。覗くだけ覗いてみようと武具屋によったトロピカルファミリーとルイズ。
 カフカは店の親父と意気投合。

「ルイズとエリオとキャロの前でそんな下品なこと言わない!」

 懲りない彼も彼だが、お姉様は本当に容赦ない。
 ルイズも慣れたかのようにエリオとキャロと一緒になって店の外へ。金の斧が振り下ろされる前に。


―――――――



「………重い。ヘイ、クソ重いぞこの鉄屑は」

 なんて言いながらデルフリンガー、武具屋のセールスワゴンに置かれていた剣だ。その剣をズルズルと引きずりながらカフカは文句を垂れる。

『やいやい! おれっちを引きずり回すとはどういうわけだ!』

 重い上にやかましい。この上なく癇に障る剣だ。
 フェイトのザンバーが店に落ちたさい、この剣だけがなぜか無傷だった。
 それを不思議に思った彼女が買い取ったのだ。ちなみに店は半壊。割に合わないと店主は泣いた。
 だが、その剣は買ったその日、すぐに役にたつときがやって来た。

「――ゴーレム!?」

 学院に戻って来たトロピカル一家とルイズが目にしたのは、学院の塔を襲う巨大な土人形だった。
 カフカは瞬時に、この中で戦闘経験がなさそうなルイズを抱え、エリオとキャロに走れと怒鳴る。
 驚くほど冷静な彼の横顔に、ルイズが見とれそうになったところでカフカはフェイトの方を向いて言った。

「さあ、やっちまえフェイト!」

 この中で一番機動力と破壊力を備えたフェイトに任せる。冷静な判断だ。
 間違ってはいない。決して間違ってはいないが、間違っていた。
 男として、なにかこう、致命的なまでにダメだった。
 フェイトはカフカに頭突きをかました後に、リリカルなパワーをもってしてゴーレムを一撃で粉砕玉砕大喝采!
 アンビリーバブルな活躍を見せたフェイトは、土くれのフーケこと、理事長の秘書をしていたロングビルをゲットだぜ!
 そしてカフカは、お前の出番だとばかりにデルフリンガーを構え、気絶したロングビルのスカートを剣先でチラリと捲った。白だった。ハルケギニアに来て、よかったと思えた。


 つづく………のかい?

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あきゅろす。
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