Short Short Can't Take My Eyes Off Of You ※ 今までとは比べものにならない壊れっぷりを披露してくださる方がいらっしゃいます。 ※ この話はとてもオカシな展開をみせるのでストーリー性がありません。 ※ 下ネタ、飛び交います。 ※ それでも読みたいという方だけどうぞ。ただしホントテキトーなお話なので気をつけてください。 その日、朝食後、ベランダ、そこにはいつものように美味そうタバコを吹かすカフカの姿があった。彼は家の中では決して吸うようなことはない。なぜならエリオとキャロの二人がいるからだ。 柵に肘を掛け冬の澄み切った空気にカフカが煙を吐き出すと、それは遥か遠くに見える雲の仲間入りを果たすこと叶わず北風に吹き消された。 冬の寒さにブルッと身震いしたカフカは鼻を啜ると、タバコを灰皿に押し付けて家の中へ戻る。するとそこには待ち構えていたかのようにフェイトが。そしてその手にはバブリーズ、なんともリッチなネーミングの消臭スプレーが握られている。 「はい。ばんざーい、しよっか」 フェイトの言葉に逆らうことなくカフカは大人しく両腕を上げた。 シュッシュッという音と共にカフカはバブリーズまみれにされていく。上から下まで漏れなく入念に。フェイトは唇を尖らせながらカフカの後ろに回り込んでそちらもバブリーズ。レッツバブリーズ。オーバブリーズ。イェーバブリーズ。ハッハーバブリーズ。そんな感じだ。そして彼女は満足げに微笑むと、咳払いをひとつ。 「――喫煙は、あなたにとって肺ガンの原因の一つとなります。疫学的な推計によると、喫煙者は肺ガンにより死亡する危険性が非喫煙者に比べて約二倍から四倍高くなります。わたしはなにもおせっかいから言うんじゃないよ? カフカの体がとても心配なの。わかって、あなたを思うわたしの気持ちを。夫に先立たれ後に残される妻の気持ちを。とても可哀想でしょう? 想像してみて。遺影の前にはわたしとエリオとキャロがいます。むせび泣くエリオとキャロ、そんな二人に弱気なところを見せまいと唇を噛み締める未亡人、あっ、コレわたしね? けれどそんなわたしも夜になれば二人に隠れ声を殺して涙を流す。日に日にやつれていくわたし。毎朝目が赤く腫れているわたしを見てエリオとキャロは心を痛める。それでも笑顔のわたしを見て二人はさらに心を痛める――そんなはずじゃないって? ジェラス・ガイ? キミを傷つけるつもりじゃなかったって? あっ、コレわたしがジョン・レノンの中で一番好きな曲だ。ふふっ、ダメな男の謝る歌だからかな? うん。それともMだからかな? そうだ。これからカフカには女遊びするたびにジェラス・ガイを歌ってもらおう。それがいい。うん。ピアノはないからギターで。そしたらわたしも、プラズマザンバーじゃなくてトライデントスマッシャーあたりで手を打つから……どっちにしてもビリビリだ。ビリビリだね。ビリビリ……ああ、今でも思い出す。カフカと初めて会ったとき、わたしは雷でも落ちたのかというくらいにビリビリと――」 両手を胸の前で合わせながら口は半開き、恍惚とした表情でトロピカル・トゥ・インターゾーンへ突入したフェイトから視線を外したカフカは、エリオがそっと差し出してくれたタオルでバブリーズまみれの顔を拭く。 「シャワーを浴びてきてくださいカフカさん。ベタベタして気持ちが悪いでしょう?」 「ああ。“ベタベタ”して気持ち悪い」 ダメだコイツ、早くなんとかしないと……といった風にフェイトを見るカフカとエリオ。彼女の足下にはぽたぽたとよだれが垂れている。それを見たエリオは心底嫌そうな顔をしてフローリングをタオルで拭くと、よだれの落下地点であるそこにバケツを置いた。 「――あっ、カフカさんもこれからお風呂なんですか? 奇遇ですね。わたしもお風呂に――」 なにも言わずカフカは脱衣所からキャロを追い出して鍵を掛ける。舌打ちなんて聞こえない。聞こえないったら聞こえない。 「カフカさん! 入りましょう! 一緒にお風呂に入りましょう!? のぼせるまでお湯に浸かりましょう! 茹で上がるくらいお湯に浸かりましょうよ!」 徐々にキャロの声が遠ざかっていく。きっとエリオが彼女をバインドで拘束して引きずって行ってくれたのだろうと、カフカはこの一家唯一にして最後の良心である彼に感謝した。それはもう心の底から。 「――オカシイ。なにがって、全部が」 カフカは蛇口を捻り熱い湯を被る。この家で一人になれる場所はここバスルームとトイレ、それとタバコを吸いに出るベランダだけだった。いや時にはバスルームでさえ――なのだが。 女は男の最後になりたがり、男は女の初めてになりたがる。誰が言った言葉か。恋とは人を盲目にするが、結婚でその視力を取り戻す。誰が言った言葉か。 「……なに、落ち着いちゃってんだよオレ――夏の青い夕暮れに、ぼくは小道をゆこう……そうだ。まだオレの心には、ランボーの詩がある。出るんだ。この家を。手遅れになる前に」 もう手遅れ。そんな言葉がチラつい気がしないでもなかったが、それを振り払うかのようにカフカは水が滴る髪の毛をかきあげてバスルームを出る。 「――なにしてんだ、お前……」 脱衣所、なぜか下着姿でいるフェイトを見たカフカは思わずめまいを覚えた。決してのぼせたわけではない。 後ろ手にブラのホックを外そうとしていたフェイトは、カフカを見るとその背中に腕を回したままの姿勢で固まる。もう出たの? と言わんばかりに不満げに口を尖らせて。 「ナニって、カフカがお風呂に入ってるっていうから……チャッチャッチャーンスでしょう? だからヌルヌル・バスルーム。洗いっこでくすぶるリビドー、エレクト・ジョニーを突き立てろ! 作戦を……」 「恥ずかしくないのか、お前、それ、自分で言ってて。オレなら三回は死ねる」 「ふふふっ、甘いねカフカ。キッカケなんてものは得てしてどうでもいいものなんだよ。そう――若いうちはね」 「オッサンか、お前は……。止めろよその気持ち悪い笑い方」 おそらくは、いや確実にエリオが置いてくれていたであろうバスタオルをカフカは腰に巻いて、ドライヤーを手に取った。背中に当たる柔らかな感触は気にしない。リビドーもなければエレクトもしない。しないったらしない。 「――ひょっとして、不能? オカシイな……食卓にはなるべく精のつくものを出してるのに。うん、それじゃあ――お薬出しておきましょうか」 診察が終わった後、医者の横に控えていた女性看護士が口に出すかのような何気ない調子で、フェイトは恐ろしいことを言ってのけた。 カフカはもう金輪際、彼女の出したものは口にしないと心に誓う。 「やっぱり強力なのが良いよね。うん。馬用のやつとかさ。そしたら火が付くくらい盛り上がると思うんだ――夜、嫌がるわたしをカフカはむりやり……ダメッ、待って、もう堪忍しておくれやす、えっ? えっ? またなの? もう、もう、わたし……」 「……病院に行こうフェイト。頼むから」 「へっ? 病院? それなら行かなくても大丈夫だよ? もしカフカに変な性癖があっても良いように、ナース服ならわたし、ちゃんと持ってるから」 「違う。ああ、もう、なにから突っ込めばいいんだ――」 「なにからって……ナニから突っ込めばいいんだよ?」 ナニをオカシナことをと言わんばかりにフェイトは首を傾げる。 カフカが、まずそのトロピカルな頭から突っ込んでやろうとしたところで、フェイトは手のひらに拳を打ちつけ、わかったと表情を輝かせた。 「ひょっとして女医さんの方だった? 大丈夫。白衣もあるよ? フッフッフー……まだ物足りない? なら、そんなあなたに今ならなんと!? お試しでお楽しみ! しかも……おさわりアリ! ナースにセーラーといった定番のものからスク水、ブルマ、バニーちゃん、ボンテージといったマニアックなものまで、全108着! ワシのコスプレは108着まであるぞい! ィヤッホー!! 一日一着、今日はどれを着せて楽しむ? だ・け・ど……脱がすのかい? あっ、脱がすのかい? せっかく着たのに脱がすのかい? ゴスロリ、ミニスカ、メイドに巫女服、脱がすのかい? あっ、脱がすの――」 突然108人のフェイトが現れ、それぞれコスプレをして肩を組みラインダンスを踊り始める。とても楽しそうだ。 バックミュージックはヴィッキー・カーの歌う『君の瞳に恋してる』。音楽に合わせ108人のフェイトは揃って脚を高く上げる。とても楽しそうだ。 108人のフェイトはときおり歌を口ずさんでみるものの歌詞が分からないのか、明後日の方向を向きながら揃ってくちぶえで誤魔化す。とても楽しそうだ。 やがて108人のフェイトのラインダンスはハイライトを迎えた。まず土台となるフェイトたちが肩を組み、その上に別のフェイトたちが、またその上にもフェイトたちが、その上にもその上にも……とついに完成したフェイトタワー。その一番上にいるバニー姿のフェイトは怖いのだろうか、中腰の体勢でぷるぷると震えている。頑張れ、頑張れバニーフェイト。そしてついにバニーフェイトは立ち上がった。彼女はとても誇らしげな顔をしている。とても、とても満足そうだ――。 「――はっ……!? あっ、あぁ……夢か。夢だったか。夢でよかった……」 ガバッと毛布を跳ね上げて起き上がったカフカは、酷い寝汗を拭う。そして乾いた喉を潤そうとベッドから降りようとして、毛布の下から覗く白くてフサフサしたなにかに気が付く。 カフカは見なかったことにしようとしたが、嫌な予感を振り払うためだと自分に言い聞かせ、ゆっくりと毛布に手を掛けた。 「――うーん……ムニャムニャ……あと、ひゃくななちゃくぅ……」 毛布の下にいたのはとっても可愛らしいうさぎさんだった。ただし作り物の耳だけで、体を覆うフサフサとした体毛のない。 「……えへへっ、食べられちゃったぁ」 ガッデム! とカフカは毛布を叩きつけると寝室に備え付けられたクローゼットを開いた。 ――そこには残り107着の衣類が! [*前へ][次へ#] [戻る] |