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お題SS小説
2






彼の噂は手だけじゃ数えられないほどにある。足の指を加えたってそれは、終わらない。





「良いよ、付き合おう」




「へ?」




「だから、付き合おう
田上紫穂さん」





「えっ…、あっ、はい」







思わず
拍子抜けしてしまった。


本名、坂上篤郎。
成績優秀でうちの高校で坂上君の名を知らない人は多分いない。勉強だけでなくスポーツも出来て異例の運動部を掛け持ち、という事を出来る唯一の人。身長は182p。すらっとした長身にモテるであろうこのルックス。彼女なんて切らしたことがないんじゃないだろうかと、勝手に思っていた。



だから少し憧れ的な、記念みたいな告白だった。
例え見られても振られるつもりで最近席が隣になった坂上君に思い切って告白してみたのだ。しかも授業中に。筆記で。
よく晴れ渡った心地よい昼休みあけの5時間目に。





5時間目は数学だった。周りは晴れてて絶好のお昼寝日和だからかほとんどの人が授業中のお昼寝タイムに突入している頃、

隣の坂上君は背筋を曲げないでただ真っ直ぐに黒板の字をノートに綺麗に書き写していた。


私はその字を綺麗だなぁと横目で思いながらも次の6時間目の化学の宿題をやっていない事に気付き、坂上君の隣で黙々と腕を動かしていた。
時折数学の先生が周りの寝ている生徒を見渡してため息をつく。しかし注意はせずにまた静かに黒板に数式を書いていく。


坂上君は周りを一度も見ずにただ黒板の字を書き写していき時々小さな欠伸をする。


私はそれを見ながらくすくす笑って、化学を解いていた。

坂上君の欠伸は隣の席にならない限り絶対に見れない特別なもので身長の高い坂上君でも欠伸をすると猫みたいに見えるのだ。それがたまらなく可愛くて思わず綻んでしまう。



そして本当に、
ただ軽い気持ちで化学のノートの隅に化学式ではなく、小さな字で坂上君に”坂上君が好きです。”と書いた。


こっちを見ない限り絶対に気付きはしない小さなメッセージで、周りを見ない坂上君がこんな小さな字に気付くわけないだろう。そんな軽い気持ちで書き記した告白のメッセージ。



だから消すのも忘れてまた普通に化学の宿題を進めていた。太陽が一瞬で雲に隠れて教室が少しだけ暗くなっても周りの生徒は一向に目を覚まさない。

起きている生徒は私達を含め10人程度。先生もため息の数が増え、黒板に数式を書いていく。
いつもの5時間目。いつもの教室の風景。




ただ違う事といえば、
突然坂上君が小さな声で私に言ったのだ。





「本当に?」







意味が分からず私が首を傾げて坂上君を見たら、坂上君は隣の席の私を見ていた。




「え?」





「この文」




そう言って坂上君が私の化学のノートの隅に書かれたメッセージを綺麗な細い指で指した。




「あ」




思わず小さな声が漏れた。坂上君に見られてしまった。軽い気持ちで書いた告白文をまさか見ないだろうと軽い気持ちで記した告白文を、見られてしまった。






「あー‥、うん」



「田上さんって俺の事好きだったんだ?」




片手で頬杖をついたまま坂上君が私の方を向く。幸い私達の席は一番後ろの窓側の席で左に座る私を坂上君が見ても周りからは窓を見ているようにしか見えない。




私は意味ありげに笑う坂上君の視線に耐えきれなくなって視線を化学のノートに移した。





やっぱりすぐに消しとくべきだったかも。と後悔さえもしてしまう。しかし坂上君はそれから一言も言葉を発しない。



それが逆に耐えきれなくて私が思い切って坂上君の名前を呼んだら坂上君は急にこんな言葉を発した。









「良いよ、付き合おう」









「へ?」




想像していた言葉とは
全く異なるセリフを吐かれ思わず変な声が出てしまった。坂上君はそんな私を見て小さく笑うと自分のペンで私の化学のノートの隅に書かれた文の下に「だから、付き合おう田上紫穂さん」とすらすらと書いた。





「えっ…、あっ、はい」



思わず声を出して
頷くと頬杖をついていない左手で私の頭をポンポンと坂上君は撫でた。






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あきゅろす。
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