[携帯モード] [URL送信]

お題SS小説
間違いラブレター







一件の留守番電話が
私の携帯に着ていた。




登録したことのない番号で
それでも私はその留守番電話の録音メッセージを消せないでいた。





【間違いラブレター】








「録音メッセージは、
一件です。」




耳元にジーという機械音が聞こえて、しばらくすると私の携帯から、


小さな咳払いが聞こえる。




「……えー‥落宮 周平です。突然の電話すいません。



美佳さん、
貴方が好きです。




貴方が好きです」






彼からのメッセージは、
16秒の愛の告白だった。
落宮 周平。同じクラスの隣の席の男子。



余り話したことはないけど、背がそんなに高くなくて男友達とよく群れて遊んでる、猿みたいな男。



だから余計に、
この告白が直接じゃなくて電話みたいな間接的な告白の仕方で驚いた。
落宮なら絶対直接言うような男だと思ってた。




でもこのメッセージは
なかなか消せないでいるくらい耳から心臓へずーっと響く素直な告白だと思った。

これを聞いて嬉しくならない女の子はいないだろう。そんな本気の告白。





でも、これが、
間違い電話じゃなかったらの話だ。









私の名前は、
宮下 あきら。
男みたいな名前だと何人者、人達に笑われたことだろう。



私はあきらという名前が嫌いだった。

だから余計に落宮が言った『美佳さん』という女性らしい名前の女性に嫉妬した。




美佳さん、



私が美佳さんだったら、
どれだけこの告白が嬉しいことか。

なんで私じゃないのだろう、
そんなことさえ思った。



次の日、
電話が間違ってかかってきたことを、落宮に言おうか言わないか迷っていた時、



落宮が私の視線に気付いた。
「なんだよ、宮下。」

「え?」

「見んなよ、
そんなじろじろと。」

「は?見てないから」

「いやいや、見てたじゃん。なんだお前(笑)」


落宮は馬鹿にしたように笑って私の方に体の向きを変えると頬杖をついた。


「なんか隠してるだろ」

「は?」

「言えよー」

「か、隠してなんかないし」

「あ?隠してんのバレバレなんだよ。あ、わかった。お前、俺のこと好きなのか?」



突然、落宮が変なことを聞いてきて、思わず私は顔が赤くなった。


「‥‥え、まじで?」

落宮も意外そうな顔をして顔を真っ赤にする。冗談で言ったつもりだったのだろう。

「え、いや違うから。
そうじゃなくて聞きたいことがあって‥‥」


赤面症の私が急いで訂正して、携帯を右ポケットから出した。落宮が私の行動に首を傾げる。




「‥‥何?
携帯がどうかしたの?」


「落宮、先週の土曜日、覚えてる??」



「先週の土曜日?‥‥って宮下、柳原先生に何か聞いたのかっ?!」


ガタガタっと音をたてて、落宮が椅子から立ち上がる。





柳原先生‥‥?
って、ああ…………



彼女の名前は確かに、
美佳さんだ。




柳原 美佳。
数学の先生でうちらの隣の2組の担任の先生。
まだ24歳という若い先生。




「何も……聞いてない」


「はぁ?じゃあ突然何よ?」

落宮がじとっとした目でこちらを見る。



こういう時、私がスラスラ言葉を言える人だったらどれだけ幸せなんだろう、って思う。


「あのさぁ‥‥」


言わなきゃいけないことは簡単だ。

間違い電話がきて、
落宮の告白は柳原先生には届いてないよ。と、伝えれば良い。


でもこんな時、
あの告白を聞いてしまった私が思うのだ。



伝わっていないことを
言わなければ、落宮は勝手に振られたと感じるのではないかと‥‥




柳原先生と落宮が上手くいくとは思えない。



でも、あのメッセージなら柳原先生でも心を奪われるんではないかというくらい、心に響くメッセージだった。




伝えなきゃ
でも


伝えたくない、





そんな気持ちが揺れ動く。





「宮下‥‥?」



隣から声がして
振り向くと落宮が「どうしたんだよ。」と言ってきた。





「な、なんでもない」






思わず口から漏れた。








次の日も次の日も
私は伝えられなくて、
その間も間違い電話はきて




私の留守番電話のメッセージは増えていくばかりだった。




「美佳さん、好きです。
返事はどうであれ、連絡くれると嬉しいです」




「まだ学校の行事とかで忙しいんでしょうか?


返事待ってます。」








どんどん暗いトーンになっていく落宮の声が耳からどんどん胸に響いてくる。




凄い胸が痛かった。
やはり言うべきか。




このままでは、
落宮だって気が狂ってしまう、






登録していない番号に、
電話をかけた。







「プルルルル、プルルルル‥‥」



独特の機械音が
聞こえる。








しかし、
急に冷たい機械音で



「只今留守にしています。メッセージがある方はピーという‥‥‥」



留守番電話に
繋がった。





落宮、どうしたのかな。




そんなことを考えていたら
いつの間にかピーという音が聞こえた。





右手が震えた。


心臓がブルブルと震えだす。






「あの‥‥‥



私は…柳原先生ではないです。宮下‥宮下あきらです。




ずっと言いたかったんだけど、間違って私の電話に、……落宮の‥こ、告白が入ってました。




私は柳原先生じゃないけど‥‥落宮の告白は聞いていて心地良かったです。

私だったらって思うくらい、に凄く‥‥ピー」








まだまだ話したいことがあったけれど、虚しくも冷たい機械音はピーという音を流して、




私の耳から聞こえてきた。



一応、言った。
でも、私の気持ちも、
伝えたかったな。







そんなことを思いながら
携帯を閉めた。







でも次の日。
クラスが一緒の落宮にどうしても会いたくなくて気まずくて





風邪だと親に嘘をついて
休んだ。






夕方になるまで布団に潜ってあの後、落宮が柳原先生に何と伝えたのか、


気になってしまった。





ふと親から
夕飯よ、と言われて、
急いで布団から出た時、
私の携帯が真っ暗な部屋の中で光っていた。




急いで携帯に手を伸ばし
開くと30件の着信履歴が入っていた。




急いで着信履歴を
確認すると、登録されてない番号。





でも、見覚えはある。
登録してなくたって、何度も見た携帯番号。





急いで、
4通の録音メッセージを
聞いた。






「‥‥宮下、俺、落宮。昨日、バイトから帰ってきてメッセージきいた。



俺、お前に何度も間違えてかけてたんだな。本当に悪いことした‥‥ピー」





落宮から初めて私宛てにきた録音メッセージ。



でも、謝られる位なら、
いっそ柳原先生の振りをしたままでいれば良かった。



真っ暗い部屋で、そんなことを思った。




私はあのメッセージを聞いた時から落宮がどうしようもないほどに好きみたいだ。





柳原先生宛ての告白には
絶対適わない、
私宛ての謝罪メッセージ。





落宮、
私はそんな言葉を聞きたかったわけじゃないんだよ。







ふと、気付いたらまだメッセージは3件残っていた。





「ピー‥‥



えー宮下、聞いてる?
なんで今日、学校にきてないんだよ。俺、お前に恥ずかしいことずっと言ってたんだよな。本当にごめんな。」







「ピー‥‥



お前、俺にメッセージくれた時、途中で切れてたぞ。

何が言いたかったんだよ。
なんで今日学校に来ねぇんだよ。



連絡よこせ、馬鹿野郎」








「ピー‥‥




宮下。聞いてんだろ?
お前、俺のこと、好きなんだろ‥‥?




お前、俺のこと、
好きなんだろ?」









最後のメッセージには、
思わず吹いた。



なんだ、この自信家は、
と思った。






でも好きなのは本当だ。









「プルルルル‥プルルルル‥‥」




機械音が耳に響く。
言う言葉は最初から決めていた。






「はい、もしもし」





初めて繋がった相手の声に



心臓がドクリとする。










「宮下あきらです。




落宮周平、




あんたが好きだ馬鹿野郎」









適わなくても良い、
何が起きても良い、






それでも、
伝えたいことはこれだけだった。









「‥‥宮下あきら。




お前の告白、
響いちまったじゃねぇかよ」








小さく彼が笑った。





ピンポン。







下からチャイムが鳴った。






真っ暗な部屋から飛び出して、急いで階段を掛け降りた。






ドアを開けると、



「やっと繋がった」




笑った落宮がいた。








END.


お題サイト様:君色愛者
お題:「なんであたし(僕でも俺でもうちでも可)じゃないのだろう」より





+前*+次#

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!