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向日葵の君
忘れられない人5

何もなかったように取りとめのない話をしながらも、土方は少し茜に気を使っていた。
素っ気なく聞こえてしまわないように、相槌ひとつも意識する。
そうしながら最初に待ち合わせた屯所の裏口側まで戻ってきた二人は、曲がり角で立ち止まった。

「今日は本当にありがとうございました。楽しかったです」
「ああ」
「じゃあ私、先に入ります。また明日。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」

茜が足早に裏口へと向かう。
扉の前で一旦振り向くと、小さく手を振り中へと消えた。

「さ、行くか」

一人呟き、煙草を取り出す。

そういや、今日はあんまり吸ってねェな。

思っていたよりも減りの少ない中身を覗き込んでいると、後ろからコツンと足音が響いた。

「デートですかィ。またずいぶんと惚れ込んだもんでさァ」
「総悟か」

聞き慣れた声を振り向かずに聞き当てる。
今はあまり会いたくなかった顔だ。
声をかけてきた理由も何となく察しがついている。

「……にしても趣味の悪ィことをする人だ」
「何のことだ?」

とぼけてみせる土方に、沖田は少し距離を詰めてきた。
もうあと一歩で手が届くというところで、土方が振り返った。

「ありゃコスプレか何かかい? なんであの女にあんなの着せてんだ」
「そんなわけじゃねェ」
「やっぱりアンタも覚えてんじゃねェか。姉上がよく着てた着物と同じもんアイツに着せて、それでアンタは満足なのか?」
「あれはアイツが勝手に選んだ物だ。俺が買ってやったわけでもねェしな。それに同じかどうかなんて、んな細けェことまでいちいち覚えてるかよ」

土方の言葉に顔を歪めた沖田は、もう一歩詰め寄り胸倉を掴んだ。

「もう忘れちまってるのかィ。そりゃそうだ。あんたは姉上を平気で捨てた人間だからな」

震える声で吐き捨てる沖田の手を、土方は掴み返した。

これを言えば、火に油を注ぐことになるのはわかっている。
それでも、どうしても言わずにはいられない。

「俺のことは何とでも言えばいい。けどアイツにだけは……余計なこと言うんじゃねェぞ!?」
「……」

手を振り払い去って行く沖田を見送りながら、どうにもならない思いに苦い溜息をついた。

総悟の気持ちもわかる。
わかるからこそ何も返す言葉がない。

「俺だって忘れたわけじゃねェよ」

小さく呟き、改めて取り出した煙草を口に入れた。

簡単に忘れるわけもないし、無理矢理忘れる必要もないだろう。
但し、このことで茜を傷つけるわけにはいかないのだ。

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