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向日葵の君
忘れられない人3

並んで歩くうち茜は、もう機嫌を直していつものように笑っていた。
こんな往来でまさか手をつないだりするわけはないが、二人きりで歩くことにも慣れてきて、それなりにいい雰囲気だ。

「土方さん、甘い物好きですか?」
「好きでも嫌いでもねェな。団子は普通に好きだが」
「私。この辺りのお店に詳しくないんです。土方さんがよく行くお店に連れて行ってくれませんか?」
「ああ、わかった」

茜に頼まれた土方は、大した店じゃないが外回り中によく立ち寄る団子屋へと向かうことにした。

見た目はガキそのもののくせに中身はしっかりしたもんだな。
物ははっきり言うし、今日もずっとリードされっぱなし。
 
土方は初めて長く過ごす茜の意外な素顔を思う。
普段は男所帯の中に身を置き、商売女以外の若い娘と触れ合う機会など滅多にない。
おのずと比較の対象に上がるのは彼女のこと。

どこが似てると思ったのか、近頃は茜に彼女の面影を見ることもなくなってきた。
ちょっと前まで茜に対して抱いていた後ろめたさも、次第と小さくなってきている。

けれど今度は、少しずつ思い出が消えていくこと、忘れてしまうことが怖くなる。
いつか自分の中で、折り合いがつく日が来るんだろうか。
その時、茜は隣にいるのだろうか。

土方の視線に気付いた茜が、笑いかけた。



 * * *



「ここ、ですか?」

いつの間にか店が近付き、茜が前方を指差した。

「ああ。あれだ」
「土方さん、お団子でいいですよね? 先に頼んでおくんで行ってきます」

店に向かって小走りで走っていく茜を目を細めて見送る土方は、視界に銀色を見つけた気がして、慌てて注意深く辺りを観察してみる。
案の定、通りの反対側からこちらに向かってやってくる銀髪頭が、はっきりと視界に現れた。

なんでこんな時に会うんだよ!?

心で叫びながら、煙草を持つ手で顔を隠す。

多分見つかる。
きっと見つかる。
こういう間の悪さといったら、俺ァ自分でも自信がある。
そしてあの男の目敏さといったら。

俺が認める。

めでたくその目敏さを認められた銀時が、店の前を過ぎようという瞬間。

「土方さーん!! こっちです!」

団子の載った皿を手にした茜が、大声で土方を呼んだ。

黙ってくれてりゃそのまま通り過ぎたはずなのに。
土方はため息をついて肩を落とす。
すぐ近くで大声を出された銀時は、驚いたように茜を見てから視線を前方に移し、土方を見つけた。

「何だよ」

半分開き直った土方は、先に自分から声をかけることにした。

「あらー土方君。隅におけないねェ、この色男は」

銀時がニヤついた表情で歩み寄って来る。

「うるせェよ」
「あー、否定はしねェんだ?」

銀時が茜を振り返った。
にっこりと笑う茜の目線が微妙にずれていて、自分ではなく銀時に笑いかけたのだとわかる。
向き直った銀時は、表情が険しくなった土方を刺激するように、その肩に手を置いた。

「土方君」
「なんだよっ!!」
「ロリコン?」
「んだと!? テメェに言われるこっちゃねェんだよっ!!」

激昂する土方の攻撃を軽くかわした銀時は、不安そうな目で二人を見る茜を再び振り返った。

「悪ィ、悪ィ。冗談だって。ほら、彼女が心配してるだろーが!」

茜の存在を思い出した土方は、すぐに大人しくなる。
あまりに素直な態度に気を削がれた銀時は、髪を掻き乱しながらその場を離れることにした。

「んじゃあな!」

土方にだけ聞こえる声で一言残して。

「うまくやれよ」

言い返そうとするが言葉が出て来ず、右手を上げて立ち去る銀時の後ろ姿を黙って見送るしかできなかった。

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