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向日葵の君
約束

二人の関係は特に何も変わることもなく、あれから半月が過ぎた。

お互いの休みが合わないため、ゆっくりと二人で過ごすのは無理。
かといって、夜に部屋を行き来するのは目立つので避けたい。

いや、それはただの言い訳だ。
隠してるわけではないが、何となく茜とのことを大っぴらにすることに、少し抵抗があるのも本当だった。
茜もそれはわかってくれているようで、他の隊士達の前ではいつも何もない態度で接してくれている。

二人の間であれから一つ変わったことといえば。

いつものようにお茶を持って来てくれる茜の、手や唇に触れることに抵抗がなくなったくらいか。
何やってんだと自分でも少し思うが、休憩中だからいいだろとまた言い訳だ。

目の前の茜をふと見ると、膝に両手を載せて見上げる瞳とぶつかった。

なんか子犬みてェだな、コイツ。

自然と笑みが零れる。

「なんですか?」
「ああ。犬みてェだなって」

その言葉に何故か茜は少し不機嫌な顔になった。

「犬!? 私、犬派じゃなくって猫派なんです」

冗談じゃないとばかりに言い返してくる姿は、キャンキャンとよく吠える小型犬のようだし、身を低く構え威嚇する猫のようでもある。
どちらにせよ、土方にとっては愛玩動物に近い位置付けだ。

茜には何か癒し効果でもあるのだろうか。
そう本気で考えてしまうほど、くるくる変わる表情や仕草は、見ているだけで楽しかった。

最初のうち微かに感じた罪悪感も、茜といる間は忘れてしまうほどに薄れている。
むしろ今は、これまでとはまた意味の違う自己嫌悪に襲われることの方が多くなった。

『今の俺なら上手くやれたんじゃねェか?』

幸せそうな茜を見ていると、ほんの微かに胸を掠める正直な思い。
そんな自分が嫌になる。



 * * *



部屋に来ていた茜は、そろそろ時間だと机の上を片付け始めた。
この時間が過ぎれば、今日はもう働く姿を見るくらいしかない。
毎日のように会えるとはいっても、一日多くても二、三回休憩を取る時にしか二人きりになれないというのはいかがなものか。

俺、一体いくつだよ。
何なんだ、この健全すぎる関係は。

少々苦い表情で白い溜息を吐き出していると、盆に二人分のお茶を載せていた茜が不意に口を開いた。

「土方さん、何か欲しい物ありますか?」
「何だよ、急に」

怪訝な表情で茜を見返す。

「私、ここに来て初めてのお給料を頂けたんです。それで何か土方さんにお礼がしたくて」
「気にしないでいい。別に欲しいもんもねェしな」
「でも」
「いや、本当にいい」
「わかりました。じゃあ明日は普通にお買い物に行ってきます」
「買物?」

急に土方は真剣な表情になり、慌てて聞き返した。

「はい。私、仕事中はいいんですけど、普段着るものが一つしかないでしょう? 身の回りの物をまた揃えていかなきゃいけないんで」

身一つで逃げ出した茜を保護したことがやけに遠い昔のように思えるが、実際はまだ三ヶ月も経ってはいないのだ。
町なんかに出て本当に大丈夫なんだろうか? 
急に土方は不安になってくる。

「一人でか?」
「はい」
「大丈夫かよ」
「たぶん…大丈夫だと思うんですけど」

無理だ。
もしもあの時の輩と会ってしまったらと考えると、一人で町に出すわけにはいかない。

「俺も行く」
「ええ!?」
「付き合ってやるから」

ちょうどいい口実ができた。
少しは茜に恋人らしいこともしてやらないとな。

そんな土方に、茜は期待感に溢れた目で言った。

「それってデートですか?」
「ああ」

茜はくしゃっとした笑顔を浮かべ、その笑顔に土方も照れた笑顔を返す。

あ、まただ。

胸を掠める後悔は日増しに強くなる。
何も知らず笑顔で部屋を去って行った茜を、大切に思うからこそ苦しい。
どこかで茜を裏切っているようでいたたまれなかった。

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