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【直感】BLゲーを四人でやってみた。
BLゲームをやってみた。 5

プレイヤー5:東野


再びコントローラを手にした東野に、「おっ、リベンジするの?」と真田は訊いた。

「このままだと、このゲームの趣旨が解らないからな。今のところ、まともに学園に通えたのは近藤だけだろ。……中身は、まともじゃなかったが」

東野は、例の選択肢の画面を見つめる――実のところ、このゲームで分岐出来るのはここだけで、後の話は一本筋なのだが、四人は気付いていなかった。

「そう言えば、これが気になっていたんだ……ほら、馬鹿でかい正門のすぐとなりに、小さな扉があるだろ。
実はこれが、正しい入口なんじゃないのか?」

東野は、画面の絵を指差して言った――確かに、妙な黒い扉が付いている。

「かもしれねぇな。でもさ……雰囲気怪しくないか?」と、真田は訝しむ。

「だが、試す価値はある。十三番の、『門の脇にある、黒い扉を開く』を選ぼう」

『僕は門の隣にある、黒い扉を開けることにした。幸い鍵はかかってなくて、少しの力であっけなく開いた――急に目の前が真っ白になり、意識が遠ざかった』

「どっ、どうした、茨田!?」と、思わぬ展開に慌てる東野。

『気がつくと僕は、神殿らしき建物の内部に立っていた。目の前には一様に驚いた顔をしている人々が居て、ちらりと足元を見ると、不思議な模様が描かれている。
呆然と彼らを見つめ返していると、その内の一人が歩み出てきて、恭しくお辞儀をした――僕に向かって、男はしわがれた声で告げる』

『あなた様は、この滅びかけた世界に呼ばれた、救世主なのです』

「異世界トリップキター!」と、変なテンションになった真田が叫ぶ。
とんでも展開に巻き込まれた東野は、茨田と同じくらい呆然としていた。

『絶対人違い、僕はなんの取り柄もない、ただの学生ですと説明したが、「いや、鉄の門を素手で開けてたぞ」追い詰められている彼らは、僕が救世主と信じて疑わなかった。仕方ないので、彼らと共に、城と呼ばれる場所に向かった。
城に着くと、まるで王族のように丁重な扱いをされた。綺麗な異国の衣装に着替えさせられ、豪勢な食事を振舞われたが、僕はずっと居心地が悪かった。何故なら、神様に縋るような目をして、その場の全員が僕を見ているからだ。
僕にはそんな力は無いし、世界を救う覚悟だって無いのに……』

「可哀相だな、色太郎……」と倖田は涙ぐむ。
『神官に言われた通り、嫌々試してみると、確かに僕は救世主の力が使えた。
救世主じゃないと言い逃れすることも出来なくなり、落ち込んでいると――ある日、城の王子が僕のもとに訪れた。
彼は僕の前に来ると、急に土下座した』

『勝手を言っていると承知の上で、あなたにお願いする。……どうか、この世界を救っていただきたい。
あなたに許されるまで、私はずっと頭を下げています』

「王子のくせに、謙虚な奴だな……」と近藤は感心して頷く。

『僕はすぐに頭を上げさせた。時間をかけずとも、王子が死ぬ気で頼んでいることを、痛いほど理解したからだ。
僕は、この世界を救うことを決めた――』

いつしか四人は黙り込み、テレビ画面を見つめていた。これからどんな過酷が待ち受けるのか――真田だけは、「もしかして、王子とのBL展開来る?」と一人ハラハラしていたが――固唾を飲んで見守っていた。

『僕と王子は、数人の家来を連れて城を旅立った――
初めて見る異世界は、どこまで進んでも、不思議な赤い雪が降り積もっていた。
王子の話では、この世界を滅ぼそうとしている、悪い龍がふらせているものらしい。
その龍を倒すことが、救世主である僕の使命だ。……不謹慎かもしれないけれど、とても幻想的で綺麗な光景だった。
長い旅の道中で、僕と王子はたくさん話をした。互いの世界について、互い自身について。もう知らないことは、一つも無いんじゃないかと思うほどに。……けれど、友人のように仲良くなるにつれ、王子は苦しげな表情をするようになった。
ある日の夜、王子と家来が話している内容を、僕は盗み聞きしてしまった。
龍を倒し、救世主の力を失えば、元の世界へは帰れなくなると――』

「なんだと……それを知っていながら黙っていたのか。見下げたぞ!」

近藤は王子への憤りのあまり、鉄拳を床に叩きつけた。

倖田は呼び掛けるように、画面に向かって優しく囁いた。

「……色太郎、どんな決断をしようと、俺はお前の味方だぞ」

「そうだそうだ、使命なんぞ忘れちまえ。お前の世界に帰って来いよ!」

真田もまた、画面の中にいる茨田に呼び掛けた。
「帰って来い、茨田」コールは盛り上がり過ぎて、両隣の住人は何事かと聞き耳を立てたが……まさか彼らが、BLゲーに熱中しているとは思わないだろう。

『……ふと背後を振り返ると、何も無い宙に、あの漆黒の扉が浮いていた。
もしかしたら、ただ気付かなかっただけで、扉はいつも、僕の後ろにあったのかもしれない。
あれさえ潜れば、おそらく僕は元の世界へ帰れる――だけど。
世界と天秤にかけて、僕の未来に心を痛める王子を、僕は遠くから眺めた。……それだけでこの世界を救う理由は、十分だと思えたんだ。
微笑むと、扉に背を向けて歩き出す。もう決して後ろは振り返らない。僕は最後まで、この世界で生きていこう。
――救世主茨田は、異世界にその名を残した――TRUE END:BARADA LIVED』

スタッフロールが流れ出すと、真田と近藤は床をバンバンと叩いた。
「うおお、ばらだー!」「このバカ……カッコつけやがって!」

先ほどから妙に静かな様子の東野を、倖田は横から覗き込む。
東野はきらきらと、透明な涙をこぼしていた。あたかも、純愛映画を見終わったような澄んだ瞳をして、ぐすぐすと鼻をすする顔は、妙に幼っぽい。

倖田は思わず、よしよしと彼の頭を撫でた。……普段なら、邪険に振り払われるところだが、東野は大人しくそうされていた――真田は、カメラを持ってこなかったことを激しく後悔していた。
近藤は、あんまり床を叩きすぎて、様子を見に来た隣人たちに、王子と同じように土下座して謝った。

そんなこんなことをしていたので、僅かな一瞬、『ありがとう、みんな――』と画面に表示されたその言葉を、誰もちゃんと見ていなかった。

単なるバグか、それとも彼の――


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