小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作) 第56話 『空はいつまでも青く/PART1』 …………そこに、三つの脳髄は存在していた。 『やめて、くれ……もう、許してくれ……』 『我らが、なにをしたと言うのだ……。我らはただ、世界の安寧を……』 『そのために必要な犠牲もあったのだ。それを……お前達は理解していたはずだ……!』 まぁ相変わらず、ゴチャゴチャと抜かしてはいたけど……それを無視して、きっちりバイタルを維持。 向こうも襲撃があったようだし、こっちも備えて……というところではあるんだけど。 「手遅れですよ。もう世界のどこにもあなた方の居場所は」 「まだあるぞ」 抱えていた予感を知らしめるように、後ろから声がかかる。 薄暗く……四角い板が幾つも浮かぶ中、あの男は入り口から、ひょいっと別の板に乗っかってきた。 「裁判所と、拘置所って居場所がな。 ……久しぶりだな、アサシン。機動六課の部隊長代理やらなんやらで、忙しそうでなによりだ」 「……そう。あなたは私の嘘を見破れるのね」 「いい女の顔は忘れない主義だ」 「顔は変えていたはずよ?」 「心根は変わらない」 「……素直に受け取っておくわ」 サリエル・エグザ……なるほど、彼ならここの居場所を把握するのも簡単かもしれない。 ピアッシングネイルを翻しながら振り返り、笑ってしまう……楽しくて、つい笑ってしまう。 『貴様は、ヘイハチ・トウゴウの……ちょうどいい! この女を始末しろ!』 『そうだ! さすれば我らの世界で散々好き勝手をした罪は精算する! 相応の役職にも就かせてやろう!』 『ヒラの内勤などでは得られない栄華が……金が手に入る! どうだ、悪くないだろう!』 「いらないいらない……俺は次の週末、TrySailのライブでナンス相手にペンライトが触れれば十分」 『わけの分からないことを抜かすなぁ!』 「わけが分からないんじゃない! ナンスは黄色い厄介だ!」 「いや、会話をしましょう? それ本当にわけが分からないから」 というかライブ、ペンライト……アイドルかなにかかしら。でもちょっと聞き覚えが…………でも、そこまで考えて吹き出しちゃう。 管理局の暗部から与えられる金や名誉になんて興味がない。ただ一ファンとして、好きなアイドルかなにかを応援できるだけでいい……。 そんな日常が変わらず過ごせればそれでいい……それを守るために、命すら賭けて戦う。 余りに馬鹿げていて、俗物的で……だけど、だからこそ見える強さが愛おしくもあって。 ≪主、それより通達を≫ 「おっとそうだった。……もうスカリエッティのアジトは制圧したぞ。 戦闘機人やガジェット、ラプター、雇い入れた無駄飯ぐらい達も含めてな」 そうして彼は映像をモニターで見せてくる。そこには確かに……倒れたドクターやウーノ達の姿があって。 ルーテシアお嬢様も、ガリューも、サンダーエッジ・ボルトも……ガジェットやラプターの生産工場も、完全に押さえられていた。 「そしてここのシステムも、既にこっちで掌握してある」 その言葉に軽く怖気を感じながら、近くのモニターに触れてみる。……でも反応しない……さっきまで普通に操作できていたのに。 全てを受け付けられないと、赤く表示が出て停止する。 ――LOCK!―― ≪毒ガス飛行船などの圧倒的有利を作り出したことで、油断しましたね。 これで最高評議会の抹殺や、彼らが保有している諸々のデータを消滅……なんてことはできなくなりました≫ 「なので通達だ。ドゥーエ、今すぐに武装を解除して投降しろ。そいつらには法の裁きを、衆人環視に晒されながら受けてもらう。 ……それでチャラってことにしとこうか」 『ふざけるな! 貴様は神になったつもりか!』 「その言葉、そっくり返してやるから黙れ。……で、どうする」 「……ちょっと、意地が悪すぎないかしら。 二年ぶりのバトルとかやるのがお約束じゃない」 「俺もそうしたいところだがなぁ……」 彼は相棒を肩に担ぎながら、どうにもこうにもと大きくため息を吐く。 「むやみにお前と戦ったら、ディードちゃんやウェンディちゃん達が泣く」 ……その言葉で私も、全てを察する。いえ、あの子達が帰還できなかった時点で、予測はしていたんだけど。 「もちろんスバルちゃん達もな」 「……それもおかしい話ね。私はあの子達を騙していたのよ?」 「でも言ってたよ。お前は潔い人間だったとな。 ……どうする。ケジメが必要だっていうなら、無駄なのを承知で付き合うが」 「彼らを殺さない上で? それは舐めすぎでしょ」 「まぁなんとかなるさ。ライブに行ける程度の怪我なら、俺も笑って許せる」 やっぱりそこなのかとまた笑って、笑って…………気が抜けたように、ピアッシングネイルを装着解除。 からんと乾いた音が響く中、私は静かに両手を挙げた。 「いいわ。ここまでされた以上、私の負け。……でも」 「あぁ」 「コイツらには生き地獄を味わってもらわなきゃ、許さないから」 「それは約束する」 その言葉には安心しながら……腐った脳髄どもを見やる。 『あぁ、なぜだ……。神よ……天よ、我らを救いたまえ……』 『我々は正義を成していた。この世界は我々が導き、作り上げた楽園……』 『なのになぜ、我々が否定される……その世界から否定される……!』 確かにこれなら、生き地獄は味わってもらえそうだわ。 『間違っている……こんなことは、間違っているのだぁぁぁぁぁぁぁぁ!』 声しか上げられないまま、生き地獄を味わう……そうして世界から恥部として吐き捨てられ、永遠に記憶され続ける。 力と権威に取り憑かれ、道を踏み誤った愚か者。それが彼らの終末だった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 負けた……完膚なきまでに負けた。 命を賭す覚悟も、しがみついてきた虚栄も、全て砕かれた。本当に、笑うしかない。 私の十数年は、私が頭と心の中だけで描いていた理想郷は、たやすく……外の世界で、懸命に生きる若者達によって、その矛盾を、破綻を突きつけられた。 ……私自身、どこかで分かっていたことだ。それでもと抗った結果がこれなら、もうじたばたすることもできない。 「…………私にも…………掴めるの、だろうか…………」 倒れて……変身を解除しながら倒れ込んで……呟いたのは、そんな一言だった。 「娘達にも……ルーテシア達にも……」 「……分かんないよ。私達だって、自分の中にある諦めや妬み、絶望に負けて、ヘコんで……その繰り返しだ」 彼女はそれに返す。荒く息を吐きながら……音楽が終わったと同時に、変身を解除しながら。 「だけど、それでもって……私はそう言い続けたい。そんな自分であり続けたい」 「…………」 「あなたにも、あの子達にも……押しつけでも、そんな道を探してほしいって、思っている」 「……なぜだ……」 「それも、もう言ったはずだよ」 その我がままで短絡的な言葉には、つい笑ってしまった。 「本当に、押しつけだな……」 「……そうだね」 「だが、強い……強いよ、君は」 なんだろうね、この気持ちは。負けて……自分の描いた夢が砕かれて、全てを失ったはずなのに。 「ディードはいい友達を、持ったものだ。それはウェンディも……オットーもだろうが……」 「ドクター……」 「うん、みんな大事な友達だよ! それは絶対変わらない!」 「あぁ、本当に……勝てるはずが、なかった」 そんな未練を払うようにそう口にして、それでも私は……笑っていた。 「私が父親なら……娘の友達を殺せるはずが、ないじゃないか――――!」 そういうことだろう? サンプルH-1……蒼凪恭文。君ではなく、彼女達に決着を任せたのも……。 アークグラシャラボラスの機能を一部封印して、ただの私として戦わせたのも……。 全部私が、そんな、ただの普通の人間だと……結局そういうものに過ぎないのだと、見込んだ上での配置。 それもウェンディから得た情報……いや、アークグラシャラボラスの概要だけでも十分か。あれは言い換えれば、私からそういうためらいを取り除くための力だった。 私自身がそれを必要としていたのなら、その本質に、隠していた弱音に気づくことも簡単だろう。だからまぁ、それが……本当に悔しくてね……。 「だが……”次”は負けない」 だから、強がりで……私は未来を見据える。 「アンタ、それ……」 「今度は正々堂々……犯罪や殺し合いではなく、友好を深めるための模擬戦として。私の有り様を、そのまま叩きつけよう」 確かに、未来は分からない方がいい。 「私が父というのなら、娘に負けっぱなしもさすがに辛すぎるのでね。 ……受けてくれるかい?」 「もちろん! そういうのなら大歓迎! ね、ギン姉!」 「私も……更生する上でなら、問題ありません」 「あぁ、約束するよ」 この……甘ったるい結末が。 私を許し、その先の未来をと望む偽善が。 そんな偽善に負けた私自身がここにいる……そんな未来が。 「……私も、見てみたくなったからね」 私の予想しなかった未来がここにある……。 「私が描いた未来図をぶち抜く、新しい私を」 それが、私の欲望を満たしてくれているのだから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……決まったね」 フェイトとも合流し、あとは中だと思っていたら……まぁまぁまぁまぁ。 「スバル達の圧勝だ」 「……うん」 ≪まぁ、サポートは手厚くしましたし……それでこれなら及第点ですよ≫ ≪なのなのなのー♪≫ 本当に甘い結末だ。あのままシステム的に落として潰すのが正しかったのに……真正面から受けて立って、ケジメをつけてやってさ。 ……でもそれは、スバル達だから引き出せた未来だ。スカリエッティが本当に欲しかったものを、真正面から受け止めたから……だから引き出せた道だ。 きっと僕じゃあこうはいかなかった。まぁ、その点だけは……認めてもいいかなと、軽く自嘲する。 とはいえ、そこでは止まれないのが、課長の悲しいところで。 「……シャーリー」 『……状況終了。 敵勢力及び基地は全て鎮圧。拘束状態で放置されていた戦闘機人達も、ヒロリスさん達が確保。 それでメガーヌさんを……研究素体として“保管”されていた人々を発見。みんな生きているよ』 「セキュリティは大丈夫だったんだよね」 『そこはもう、パティさんとアコース査察官のお力があればこそだよ。 それにシャンテもここまで……本当に全てを隠匿してくれた』 「陰ひなたで頑張るのが一番難しいのに……うん、ほんとよくやってくれた」 ≪後でお礼をしないといけませんね≫ そう、ここまで姿が全く見えなかったヒロリスさん達だけど、それでいい……それこそが説明した通り、本命部隊だったから。 シャンテの幻術でその存在を隠しつつ、スバル達がEMP攻撃も絡めて打破した戦闘機人を確保する。まずはそれを、きちんと達成するための処置だ。 そこで鍵になるのは、パティ……パティはそもそも臓器密売シンジケートがEMPに進出した際、GPOのガサ入れによって保護された女の子。 記憶もなく、身よりもないのでしばらく分署で預かっていたら……ある事件でとんでもない事実が発覚した。 そもそもパティは普通の人間ではなかった。臓器密売シンジケートが、取り扱った密売臓器……その遺伝子を組み合わせ、新たな商品のサンプルとして生み出した人造生命体≪バイオロイド≫だった。 その出自から、パティは生態情報も含めた擬態……高度な変身能力を有していた。ちょうど二番ドゥーエと同じような感じでね。 その辺りで一時期揉めたこともあるけど、パティはランディさんやシルビィ達の支えを受けてなんとか立ち直り、マクガーレン家の養女となった。そこからGPO捜査官になったんだ。 直接戦闘力はまだまだ先輩組に及ばないけど、高度な変身能力とサポーターとして、今も活躍しているわけだけど……今回、このパティが正真正銘の切り札だった。 生態情報というのは、単純に姿見だけじゃない。一人一人違い、偽装も難しい虹彩なども偽装できるということ。 ……それにより高度セキュリティである“生体認証”をくぐり抜けてもらったのよ。ナンバーズの一人に擬態してもらうことでね。 特に今回重要だったのは、スカリエッティと一番距離が近く、アジトの権限も最大級であるウーノだ。ウーノに成り代われれば、ほぼ全てのクリアランスを掌握できるに等しい。 もちろんヴェロッサさんの査察≪レアスキル≫もあるし、細かいところでごたつく心配はほぼない。ヒロさんは今回、二人やステルス担当のシャンテをガードする役回りだった。 ……こう聞くと地味だけど、本当に大事なことなんだよ? エース級との戦闘も考えられたし、それで全滅したら元の木阿弥だもの。 ゆりかごによる制圧もできない上、ほぼ全ての戦力が封殺されたしね。仮に僕達が止めきれなくても、既に出動している中央の航空隊が数で叩いて止めればいい。 だから僕達もまずは、残った敵戦力を分散・各個撃破することに終始していたわけで……つまるところEMP攻撃も、スバル達の真正直な戦いも、全てはここを隠すための見せ札。 アジトをシステム的にも掌握された時点で、応急処置的に戦力をばらばらに出した時点で、その統率を自ら取れない状況に追い込まれた時点で……スカリエッティに勝ち目はなかった。 文字通り奴らの聖戦とやらは、自由を勝ち取る正義の戦争は、ただの愚か者の所行として鎮圧された。それがお似合いなほどに、奴らは無知で無垢な……赤子同然だった。 「…………」 その辺りで思うところがないわけじゃあない。そういう稚拙な作戦になったのも、結局奴らに実戦経験がなかったから。少なくともスバル達より“薄い”。 それがなぜ積み重ねられなかったのか。なぜ自分達には手に負えない『戦争』を起こし、その指揮を執り、それで勝てると勘違いしてしまったのか。 その原因は全て…………でも、そんなのは言い訳だ。そんなことで許される罪も、購える時間もない。 奴らはその背景など厭われることなく、ただ裁きを受ける。そして同じ姉妹……家族の間でも、相応の格差が生まれる。たとえスカリエッティが一人一人と話し、償いに進んでいったとしてもだ。 (スバル……おのれやエリオ達が思っているほど、その未来は楽じゃないよ。むしろ残酷だ) 「……ヤスフミ?」 「なんでもない」 『…………』 シャーリーも察している。だけど何も言わない……言っても意味がない。そんなことはきっと、みんなも薄々分かっている。分かっていなきゃおかしい。 でも、それでも……奴らという敗者に、ジョーカーに全ての因果と罪を押しつけ、自分達は被害者であり正義なのだと、そう振る舞う道は否定した。 あとは、その選択が生み出すものを……きちんと受け入れることだ。そこからも逃げたら、本当に何もできなくなる。 『そうそう……最高評議会のプラントに乗り込んだサリエルさん達も、二番ドゥーエと最高評議会を確保したそうだよ』 「戦闘にはならなかったの?」 『こっちの勝敗が決まった上で、乗り込んだんだって。データとかも全部抑えた上でね』 「それも意地悪だなぁ」 『なぎ君が言う権利はないってー』 内部の鎮圧と、システム的な掌握も完了した。フェイトも見ての通り無事。ヴァイスさんも、バックヤードのみんなも無傷。 ボルトも、戦闘機人達も、スカリエッティも確保した。ロビン・ナイチンゲールは始末……ではなく、やっぱり確保できた。 「……あ、いたですよ!」 そこで左手からリインの声。どうやらリインも、エリオとキャロ、フリードを連れてうまく合流できたみたい。 その脇には、引っ張られるルーテシアとガリュー。なんだかんだで今回の鎮圧では、殺傷で止めた奴はいないってことか。 「フェイトさん、恭文さん!」 「くきゅるー♪」 「よかった……ご無事でなによりです!」 「エリオ、キャロ!」 「ん……」 左手を軽く挙げて、三人に返しながら……シャーリーには一つお願いをさせてもらう。 「……それでね、シャーリー、持ってきていたミルクティーでも煎れておいてよ」 『ミルクティー?』 「持たせたでしょ。茶色のパックにたっぷりと」 『あぁ、あれか! でもなんで……』 「スバル達も……シャンテやヴェロッサさん達も、一仕事終えて帰ってくるんだ」 そう、大事なお仕事だ。最後の仕事を……大事なミッションを終えたストライカーズには、報酬が必要だ。 「今すぐパーティーとはいかないだろうけど……でも、少しは労わないとね」 『……そうだね』 だから僕も、課長としてのお仕事をきちんと果たす。大丈夫、みんなの将来くらいは守れるカードなら、もう用意している。 ……これを機会に、美味しく出世しようって奴らもぎゃふんと言わせられる……とびっきりのカード≪シルビィとパティ≫がね。 魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 新暦七五年(西暦二〇二〇年) 九月二〇日 午前一一時二八分 ミットチルダ首都クラナガン ミッドチルダ中央本部 特別催事場 恭文達によるスカリエッティ一味確保から、六日後―― 九月十四日の未明。夜が明けるか明けないかというところで、彼らから緊急通信が入った。 スカリエッティ一味と最高評議会のアジトを制圧し、スカリエッティと戦闘機人、召喚師も含めた犯人グループ全員を確保したと。無論あの毒ガス入りの飛行船も破壊し、ECMの解除も行った上だ。 システム的にも制圧されていたため、予想されたような戦略的攻撃やハッキングの気配はなく、明け方に中央の首都航空隊および近隣部隊が駆けつけ、犯人達の身柄を預かった。 それで当然ながら、暴走に等しい独断行動を……非正規の作戦行動を取ったことについては、責任を取る必要がある。 それもまた組織の常であり、ナカジマ二士達のキャリアにも傷が……付くはずだったのだが。 「…………」 ……あのやり口も悪魔的だったと、つい壇上の下手で大きく息を漏らす。 まず作戦指揮を執った蒼凪嘱託魔導師には、嘱託免許の剥奪やらデバイスも含めた装備の接収。魔力の厳重封印なども検討…………される前に、全て封殺された。 そう、封殺されたのだ。彼らの暴走を我が物顔で処断し、ハラオウン一派への牽制に繋げ、次の筆頭派閥になろうとした層は、あまりの暴論に全員失禁ものの恐怖を刻まれることとなった。 …………結論から言えば、彼らはスカリエッティ達を確保など“していない”。そのような独断行動も、私闘に等しい状況で、管理局法にも抵触する装備や魔法を使用した事実も存在しない。 彼らが逃走したのは、あくまでもリンディ・ハラオウン提督の手から逃げるため。彼女による口封じを恐れ、証言者でもあった戦闘機人達を守るための緊急措置。 GPOメンバーが一部でも一緒にいたのは、縁故のあった彼からSOSを求められ、保護していただけ。CW社も我々が敷いていた手はずに乗っ取り、その協力を買って出ただけ。 では誰がスカリエッティ一味を確保したのか。それは我々ミッド地上の首都航空隊であり、新たに設置されていた対策部隊。 もちろん正規の作戦であり、全うな手続きを経た上でのこと……そういう形で、既に公表されている。 言うまでもないが、本来なら不可能だ。そんな暴論で処罰を逃れようなどとは、さすがに片腹が痛すぎる。査問会同然な取り調べで彼がそう宣ったとき、参加していたメンバーは誰もが失笑していた。 が……彼はそれがあまりに筋違いで、彼らが裁判官だと勘違いしているただの異常者だと……次の瞬間に突きつけてきた。 そのために必要なカードを、彼は既に持っていたのだ。 ――じゃあ堂々と公表しましょうか。 スカリエッティ達のアジトを制圧した主犯が、ただの嘱託魔導師で……GPOだって―― そう……彼はGPOのマクガーレン長官達とあらかじめ、一つ取り決めをしていた。今回自分やGPOが介入し、事件を解決したことは“なかったこと”にするという取り決めだ。 無論彼も地上本部襲撃から、事態解決までに行った活躍……それに伴う報奨金を逃すことになるが、今回はそれでもいいと納得してのことだ。 ――きっとみなさんのお子さんも、ご家族も、感動することでしょう。 世界を救ったヒーローを、何もできなかった痛みも飲み込み、組織的な都合で処罰するその有様に―― ――ちょ、ちょっと待ってくれ……! それは、あまりにも―― ――父よ、母よ、あなたは偉大だった! 最高評議会という悪に対してなにもできなかった……のはそれとして! 必要な処罰を下す! そういう憎まれ役を自ら買って出るのだから! それによってどれだけ恨まれ、疎まれ、非道な奴だと攻撃を受けることになろうとも、誰かがやらなければならない仕事を背負い、全うしたのだから!―― ――だから待とうじゃないか! 君、さすがに言っていることがおかしいと思うのだよ!―― ――そう……大学院受験を控えたあなたの娘さんも、さぞかし涙ながらに誇ってくれることでしょう! 私の父は局員の鏡だと!―― ――いぃ!?―― ――そちらの三佐さんは、最近再婚を控えているそうで! 十四歳年下の奥様もきっと応援してくれるでしょう! そちらの准将さんも、起業された息子さんは全力で支援してくれることでしょう! そちらの……こちらの……あちらの……かくかくしかじかかくかくしかじか! なんだかんだで皆さんは英雄扱いだ! 世間が絶対放っておきません!―― ――いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!―― ……やめよう。あの光景は、さすがに思い出すと辛い。 まさか尋問してきた上役や関係者の背後関係まで理解した上で、脅しにかかるとは……前代未聞過ぎて、もはやスカリエッティがかすむレベルだった。 だが、正論ではあった。流れが全く理解できないが、一応の正論ではあった。 最高評議会が黒幕で、結果的に管理局自身の汚職により多大な被害が生まれた。 それだけでも組織的威信が揺らぐのに、その解決が外部組織や民間協力者によるものとなれば……本当に、GPOの介入予告から予測されていたシステム崩壊の流れが生まれかねない。 つまり彼らをこの件で処罰するということは、管理局自身がそれをよしとし、法務機関としての責務を放り投げるも同然だった。 同時に知らしめる……管理局そのものが不正の温床たるこの事件に対し、そのルールを守る意味はなく、そこから逸脱した第三者的捜査を認める器量もない。 その特殊性に対応しきれなかった現状の態勢を省みることもなく、解決者達に対して唾を吐きかける非道すらまかり通る。 更に言えば、それはSAWシステムが……最高評議会の悪意が生み出した被害を、それを見逃した各方面の責任を、彼らに押しつけることになるのではないのか……そういう問いかけすらも耳を傾けない。 これから綱紀粛正が強く求められる中で、そのような対応をしたことが世間に広まれば、相応のバッシングを受けるのは必然。それは彼が触れたように、その処罰をよしとした人間全てに降りかかる。 現にヴェートル事件では……彼を管理局に引き込もうとした、リンディ・ハラオウン元提督はそうだった。ゆえに彼らが逃げた理由についても、それなりの正当性が認められた。 となれば、そんな汚れ仕事を……家族や生活も巻き添えで受けたいとは、誰も思わないわけで。しかもいくら当人達に口止めを図っても無駄だった。 ――彼が黙っていても、六課駐機スタッフ……あの暴走に賛同した六課部隊員が不満を漏らし、リークするかもしれない。 ――それが黙っていても、彼らを“匿っていた”CW社の人間がバラすかもしれない。 ――CW社が黙っていたとしても、GPOが黙っていないだろう。これは明確に、去年の繰り返しだ。 ――無論私とレジアス中将も黙ってはいない。彼らがいなければ、ミッド市民は……ミッドチルダは、完全崩壊していたのだから。 ――仮に我々が全て納得していたとしても、その処罰を不当に思った第三者がリークするかもしれない。処罰の履歴を残すということは、どうしてもそのリスクを抱えることになる。 ……つまるところ本件に関わり、対応した人間が百名以上いることで……しかも管理局員以外が多数を占めていることで、処罰や訓告による口止めはそもそも不可能。非現実的だった。 とどめに最高評議会の犯罪……その詳細を記した、彼らのホストコンピュータも掌握していた。ここは掌握したアジトも含まれる。 そこには三提督がなぜ失踪したのか……多数の未解決事件や、彼らの公然企業にまつわる実態もあった。しかしアジトはともかく、ホストコンピュータの所在は我々も未だ掴めなかった。 それを掴んでいたのは、彼が呼びつけた協力者……つまりGPOにも流れうる爆弾。これをGPOサイドから明かしても、管理局の威信は徹底的に、地に落ちる。文字通り旧暦の時代からやり直すことになるだろう。 結局それらの点が大きく鑑みられ、事態収束から一週間も経っていないにも関わらず、処罰の方針と、世間への公表内容だけは決定した。 ……あえて、敗北を認める意味でももう一度告げよう。 そもそも彼らは、あのアジトにはいなかった。強襲を仕掛けてなどいなかった。 当然市街に浮かんでいた飛行船への対処なども、一切行っていない。 CW社も協力はしているが、ただそれだけ。望むような実戦データは何一つ得られなかった。 あくまでも解決したのは、我々ミッド地上本部の人間……つまり我々なのだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あれからいろいろドタバタしたけど、結局私達はなんの処分もされず……一応ヴィヴィオを匿うためとはいえ、独自行動を取ったことへの注意だけは受けたけど、その程度で。 それがどうにも解せず、今日……レジアス中将が会見を行うというので、まだぼろぼろな地上本部にやってきたら……。 ““”““…………つまり、どういうこと!?”“”“” スバルとエリオ、キャロ、ギンガさんともども、大混乱よ……! あのときの行動が全部なかったことにされているとか、さすがに衝撃なんだけど! その説明すら今初めてされたんだけど! なお、隣でにこにこ笑うアイツは、リイン曹長を肩に乗せてとても楽しげで……。 “だからぁ、僕達を処罰しても誰にも……管理局的にも旨みなんてないから、全部なかったことにする。 あとは地上本部が独自戦力でなんとかしましたーって、しらばっくれるのよ“ “いや、しらばっくれるって! 無理でしょ! 散々暴れて、あっちこっちで余波をまき散らしているのに!” “そうだよ恭文! 普通バレるよ!?” “で、それがバレたらバレたで、はやてやレティさん達に詰め腹を切らせる。去年のリンディさんみたいに、圧をかけて隠匿したって形でね“ “既に押しつけ先もあるの!? というか、八神部隊長−!” “はやてちゃんもそういう役割を期待された上で、今回だけは見逃されたのですよ。しばらくは部隊長とかキャリア組的出世とか、縁遠くなるですけど” いや、リイン曹長!? ため息交じりに言うことじゃありませんよ! ご家族ですよね! 末っ子ですよね、あなた! それともあれですか! やっぱりこう……腹立たしかったんですか! SAWシステムから豪腕だったの! 事情とか鑑みられない感じですか! “レティさん……八神部隊長も、可哀想に” “居残っても地獄って、もはや救いがないよね” “エリオ、キャロ、可哀想なのは僕達だよ……。 その馬鹿どもの尻ぬぐいで、こうでもしないと危うく犯罪者だったんだから” “というか恭文、そのために……シルビィさん達に協力を頼んだの?” “メルビナさん達も了承済みだ。今回みんなは、そこにいるだけでその意義を達しているの。 ……もちろんパティの能力が、生体認証をすり抜けられるってのもあるけどね” あぁ、そうなのよね……。パティ捜査官やアコース査察官がガチステルスで頑張ってくれていたから、私達も……なんとか勝てたわけで。あのデザイアドライバーについても、みんなからの情報よ。 だからあの闘争は本当に、私達の……ただの我がままだった。あんな奇麗事で済ませられるほど、現実は甘くないのに。 (……まぁ、それでいいと思うけどね) それよりも問題は、そこを承知した上で、マジで無罪放免な道を作ったコイツよ……! その甘くない現実、あくまの理論でねじ曲げたんだけど! 最高評議会を叩いておいて、これはアリなの!? “だから言ったでしょうが。台風のしでかしたことなら、誰も責任の取りようがないって” “僕達は天災扱いだから問題なしと!?” “馬鹿じゃないの!? そういう意味だとは誰も想定できないわよ! というかいいの!? それでいいの!?” “そうだよなぎ君! さすがに……ノーダメージは誰も納得しないよ!?” “分かっているって。だから僕も今回得られた賞金……その一部は災害寄付に当てるし、一年程度は嘱託活動も自粛する” “自粛……寄付!?” “管理局の運営する基金じゃないけどね。……まぁ、この街ともしばらくお別れだし、置き土産だ” ……あぁ、そっか。コイツは日本に戻って、ちゃんとハイスクールを卒業して……ガンプラ塾のこともあって。 だから少し寂しげに、空を見上げるんだ。そのお金が、この街の助けになればって、そう願いながら。 “クロノさん達も、SAWシステム絡み『だけは』責任を取って、ひとまず既存のハラオウン一派は散らす。 派閥闘争の根源……AMC装備開発によって得られる利権。更に最高評議会からの期待も高かった部分。それらにメスを入れて、解体して、独占体制とはお別れするわけだ“ “そういう『旨み』も提示したですから、スバル達はもちろん、ヴァイス陸曹やアルト達も、進退には影響がないはずなのですよ。 ……まぁ、そういう暴走をする危なっかしい局員ということで、事情を知っている人達からはちょっと目をつけられるでしょうけど” “それくらいならまぁ、私達みんな覚悟していましたけど……でも、それで派閥解体ですか” “恭文さん、前に言っていましたよね。アリサさんやすずかさんもですけど……家族的な経営とかは、リスクが伴うと。これもその範疇に収まることなんでしょうか” “収まるよ” キャロの問いかけに、アイツは即答。そうしてまだ空を見上げ続けていた。もう飛行船なんてないのに……それを改めて確かめるみたいに。 “最高評議会だろうと、三提督だろうと、おのれみたいなペーペーだろうと、僕みたいな嘱託だろうと……やっていることが違うだけで、給金を対価に仕事を果たす点は同じ。つまり対等なのよ。 それを守ってあげなきゃとか、支えてあげなきゃとか、そういう恣意的感情を持ち出すと、駄目なときには圧力的な親分に早変わりだ” “それ、父さんもちょっと言っていたよ。もちろん立場や職務的に上下関係はあるけど、そういう感情があると、相手を何もできない子ども扱いして、そこが人間関係をややこしくするって” “そういう意味では、はやてはまず部隊長って器じゃなかったわけだ” それは、私にも突き刺さる言葉だった。守ってあげなきゃ、守らなくちゃ……そう叫ぶことが正しいはずなのに、間違いにされていくことがどうしてか分からなくて。 でもとても単純なことだった。そもそもそういう意識を持っていることが、その意識の上で行動することが、相手を対等の存在として見ていない証明になる。 “もちろんレジアス中将を見くびり、自分達の配慮が絶対必要だと思っていたミゼットさん達も同じ。 僕が管理局に入らなきゃいけないとか宣っていたハラオウン親子も同じ。 こんなことがこの世界のためになるし、自分達がまだまだ見守らなきゃと気張っていた最高評議会も同じ。 ……堂々と言えばいいのにねー。ペットみたいに可愛がりたいからそのままでいてくれーってさ” “その思考は絶対マイノリティなので、自重してください……!” “ほんとよ! というか、そういうのはアンタくらいなのよ! その自覚くらい……あるわよね!? 絶対あるわよね!” “まぁね。……とにかく、おのれらも部下なり後輩なり持ったら、それなりに考えていく話だ。相応に気構えは持っていた方がいい” “ん、それは……分かっているつもり” アイツはなにかに踏ん切りをつけるみたいに、大きく息を吐く。 “じゃあ、僕達はそろそろ行くから” “行くって……そうだったわね。メリル・リンドバーグさん、目を覚まして” “お見舞いと挨拶くらいはしないとね” “恭文さん……” “あとはまぁ、おのれらだ。ちゃんと自分の道を決めないと” “……はい。決めていきます” アイツはエリオの頭を撫でて……リイン曹長を肩に乗せながら、ゆっくり歩いて、離れていく。 “あの、なぎ君” “ギンガさんも見舞いに行きたがっていることは伝えておく。まぁ、まだ治りかけだしちょっとずつね?” “ん、お願い。リイン曹長も頼みます” “はいです♪” それを止めたい気持ちはあった。だけど、今はそうしない。私もやることがあるから。 “ティア……” “道を決めるためにも、まずは……レジアス中将の話、ちゃんと聞きましょうか” “そうだね” “でも、何をお話されるんだろう……。やっぱり『保障関係』かな” “中央本部も基礎機能は維持していると言っても、まだまだ混乱は続いていますしね” “大事なお話なのは……うん、確かだって思います” だから見上げる。だから耳を、心を研ぎ澄ます。 私もこの地上で働く、管理局員の一人だから。 ……あぶない正義の味方で、まともな役人になれないとしても……その本質は、忘れちゃいけない。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――なお、前線メンバーの顛末については言った通りだが、上はそうもいかない。 まずクロノ・ハラオウン提督、フェイト・T・ハラオウン分隊長、リインフォースII曹長は全員依願退職。 八神二佐は意図していなかったとはいえ、SAWシステム推進に深く関与していたこともあり、一尉への降格処分。および九か月の減俸。 フリーランスの捜査官局員というのは変わらないが、そのキャリアには大きく傷をつけられる形となった。 ……もちろん今回の“しらばっくれ“が悪く動いた場合、いつでも詰め腹を着られる立場にも置かれる。それもまた長の責任だった。 リンディ・ハラオウン提督については、意図的にスパイを紛れ込ませたわけではないと証明されたものの、それまでの行動・発言が強く問題視され、こちらも依願退職という形に収まった。 というより、彼女についてはもう辞めざるを得なかった。他の三人はまだよかった。まだ問題はなかった。だが彼女だけは違う。 中央へのテロ発生後、彼らを追い立てた局員や聖王教会の人間……たとえ騙ったとはいえ、それは紛れもなく彼女の……ハラオウン一派の権威により動いたものだ。 彼女はそれに恐怖し、心が折れてしまった。自分達の信じていたものが、そういう利用をされていた……その事実に打ちのめされ、もう局員として戦うことはできないだろう。 おまけに例のフェブルオーコードによる洗脳も考えられたため、以前から行っていたカウンセリングを強化。その罪が彼女にあるのか、彼女が孕んでしまった“病”にあるのか。慎重な検討が進められている。 高町分隊長もほとんどの状況には関与していないと証明されているため、問題なく教導隊に復帰できる。……というより、彼女の場合は組織のプロパガンダ的にも残したいと言うべきだろう。 ただそういう組織的都合よりも、一人の女性として大きな決断に迫られている。私に言えた義理ではないが……選んだ結果が、幸多きものであることは祈りたい。 六課の人員手配や協力していたレティ・ロウラン提督だが、こちらにも処分は及んでいる。意図的ではないと言っても、人事部所属という関係からSAWシステム普及に協力していたことが原因だった。 減給処分と同時に、士官学校の事務部門を担当する教官……というより、その部門の管理主任に配置換えが検討されている。 SAWシステム監査の責任者でもあったマリエル・アテンザ技官も、地方のラボへと異動が決定。こちらは恣意的要素が見受けられた上、反省がないため実質左遷……恐らくもう本局に戻されることはないだろう。 聖王教会のカリム・グラシアも、三佐待遇を剥奪。改めて相応の待遇を処することが決まっている。 ただ、彼女のレアスキルがある種の危険性を孕みながらも、有用なのは確かだった。本事件でもその点は大きく後押しされた。そのためこれまでと待遇や関係はさほど変わらないだろう。 まぁ、本事件がそのレアスキルの絵合わせだったこともあり、彼女にとっては……あまりよい結末とは言えないだろうが。 ……正直ここまでの処罰が、この短期間で決まるのは、相当に異例だった。前線メンバーの処遇ならともかく、提督クラスが何人も、なのだから。 だが本局はそれだけ、ハラオウン一派という巨大派閥を問題視していたということでもある。 しかも彼らが不安を煽っただけではない。その発展には、最高評議会の後押しも確かにあった。だからこそ六課も設立できた……となれば、致し方ないことだった。 彼らは……ハラオウン一派は、自分達が積み上げてきた実績を、その派閥を解体されることで、それを飲み込むことで、禊ぎとしたのだ。 だがまだ禊ぎは終わらない。彼らだけではなく、私の、父の……管理局の禊ぎは終わらない。 そもそも最高評議会やスカリエッティ達への取り調べも、その関係や経過への調査も始まったばかり。 そんな中次に取りかかるべき問題は…………スカリエッティアジト近くにあるゆりかご。 改めて現地をユーノ・スクライア司書長や他の専門家にも調べてもらったが、やはりゆりかごを一度浮上させ、破壊する以外に方法がなかった。 無論本局艦隊はSAWシステムの悪用で壊滅的な打撃を受けたため、その立て直しが終わってからにはなるが……ただ、そこで本局も意見が割れていた。 ゆりかごは今回悪用されただけで、そこにある技術を吸い上げて、今後に活用するべきではないか……。 それはスカリエッティと同じだから、今すぐに破壊するべきではないか……。 そうして戸惑いをはき出す高官達を、私や父は笑うことなどできなかった。それだけの戸惑いを抱えてしまう気持ちは、ゆりかごが今後もたらす様々な恩恵は、ミッド地上にとっても惜しいものだからだ。 だから父も悩んだ。せめて自分の任期が終わるまではとも、相当に悩んでいた。 ……その父が……思い立ったように会見を開くと言ってのけ、人を集めてきた父が……今壇上に立っている。 『――この痛ましい事件が起きたそもそもの原因。それは、最高評議会が隠匿していた≪聖王のゆりかご≫というロストロギアにある。 最高評議会はこれを長年隠匿し、スカリエッティにその管理を任せていた。その結果謀反を起こされ、無関係な人間が何人も……何千人も、この世界で、この空の下で亡くなった』 ……父は集まった地上勤めの部下達に……全世界配信を見てくれている市民達に、堂々と事実を告げる。 管理局内部でも、まだ公式発表されていないことを、この場でだ。今頃本局は大慌てだろう。 『たった十数分の間に、それだけの人間が……その人生が踏みにじられた。確かに私は本局の有り様に思うところはあるが……それでも、彼らには哀悼の意を表する。 目的や思想は違えど、彼らもまたこの世界を……我々の頭上に広がる空を守ろうとした一人だった。 …………だからこそ、黙祷を捧げる。もし同意してくれるのであれば、ここにいる皆も……配信を見てくれる市民の方々も、一分だけ、彼らに思いを馳せてほしい』 その言葉に、我々は自然と目を瞑る。父の言葉だからではない……それが必要なことと感じたからだ。 地上本部……あのとき対処に回ったSAWシステム搭載部隊だけでも、死者の数は二八〇名。負傷者はその五倍。ここに次元航行艦ごと落下し、亡くなった本局局員も含めれば……総死亡者は三〇〇〇名を上回る。 ここまで規模が大きくなったのは、次元航行艦が数年前により大型の新型へとアップデートされ、その許容乗員数……乗り込み、活動に従事する人間が増えたこともある。 いや、これ自体はいいことでもあるのだが……結果的にそれが、非戦闘要員も含めた脱出も許さず、もろともの爆砕に繋がっていた。 本当に、我々は救われたのだ。彼らに……その船に乗り込んでいた彼ら一人一人に。 『……ありがとう。地上本部トップを預かる者として……一人の人間として、感謝する』 目を開ける……もう一分経っていたのだと驚きながら、私達は現実を、これから進んでいく未来を見つめる。 『実は昨日、あるデータがこちらに届いた。……結論から言えば、次元航行艦隊がミッド地上に落下する際、悉くが街や住宅区を逸れたのは、偶然ではなかった。 それぞれの艦船には、有事の際に艦内の様子を記録するブラックレコーダーがあった。それが教えてくれたのだ。 SAWシステムの暴走で苦しみ、立ち上がることすらままならないはずの彼らは……同じようにままならない乗艦とぎりぎりまで向き合い、その軌道を調整していたと』 そこで会場にざわめきが走る。自らの命を捨てて……生存の可能性を捨ててまで、彼らが守ろうとしていたもの。それはここにあるのだと。 『だが調整できたのは、本当に僅かな……誤差と言って差し支えないレベルのものだ。だがその誤差に救われた者達が、営みが、確かに今存在している。 ……彼らにもそれを享受する権利が……明日の約束も、楽しみも、喜びもあったのにだ。それを彼らはかなぐり捨てて、我々に託してくれたのだ! だが、そこまでするに至った原因はなんだ! それは最高評議会……そしてスカリエッティとそれに与した連中だ』 父の声に怒りが……やるせなさがこもる。それが会場に叩きつけるような形で響いていく。 本局だ地上というのは、もはや関係がない。きっとゼストさんが生きていた頃……散々見てきた光景を思い出している。 『これは決して許されることはない。ゆえに、私はこの瞬間から……スカリエッティの名も、最高評議会の名も、それに与した者達の名も、誰一人呼ぶことはしない。 彼らは、そんな最低最悪のテロリスト……自らの身勝手を通すために、そんな他愛のない日常を踏みにじり、それを正義と笑える異常者だ。そんな奴らに、名前など必要ない。 ――――彼らがどれだけ悲痛な事情を抱え、痛みにあえいでいたとしても……その暴力が正当化される正義など! この次元世界には不要の長物だ! それは未来永劫変わらない!』 これはまた、大胆な……管理局の不正ありきで生まれた犯罪に対して、こうも強くでますか。 でも……娘としては、らしいとつい笑ってしまう。 「……」 残念ながら、それがあなた達だ。あなた達がそこからやり直すのであれば、相応の対価が、努力が必要だ。 私達はその権利を否定はしない。だが……あなた達が行い、当然とした理不尽を忘れるほど、優しくもないのだから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ゆりかごの話を聞き、改めて考えた。何度も何度も考えた。情けないことに、私はその中にあるテクノロジーに魅力を感じていた。 それは、私が……ゼストが、喉から手が出るほど欲していたものだ。あいにく私は言われているほど、奴らのお眼鏡にかなっていなかったから……触れるチャンスもなかったが。 今ならその占有権を、管理を主張できるかもしれない。彼らの働きがなかったことになる……その気遣いを無駄にすると分かっていながら、その魅力を振り払えなかった。 そうだ、私はそんな小さく、頑固で、変わる力もない老いぼれたくそジジイだ。それが私だった。 そんな情けない事実に改めて気づいたとき………………なぜだか、すっと腹が決まった。 改めて世界を、歴史を学び、その腹が本当に、臣民のためになる判断かどうかを考えた。 ……その結果が、私がただの頑固ジジイで終わるかどうかが、ここから決まる。 『それで、今回この場を開いた理由は、もう一つある。 会場に来ている皆へ……そしてこの配信を見ている次元世界に住む全ての人々に、一緒に考えてもらいたいからだ。 ――――そもそも、我々の生活を豊かにして、平和の象徴たり得る富とは、一体なんだろうか。 金、名声、権威……私が言っては嫌みかつブーメランというものだが、そういう力を扱う人間には、相応の責任が求められる。 だが無から有は生まれない。我々が慣れ親しんだ魔法エネルギーとてそうだ。それを研究し、エネルギーとして安全に扱える領域まで高めた技術者達が……その礎となった者達がいる。 だからこそ、司法には富という魔物と……先人達の努力によって生まれた利益と向き合い、大事に扱い、市民に還元する義務がある』 こうやって壇上に立つのも、あと何度か……そんな未練を払いながら、ゆっくりと口を開く。一語一句が、ここにいる皆に……見ている誰もに伝わるようにと。 『今のは人の努力、ひいては労働によって生まれた富についての話だが、世の中にはただ“ただそこに存在する富”というのもある。 分かりやすいところで言えば、石油や石炭などの化石燃料だろう。次元世界であれば、ロストロギアも……使い方次第ではあるが、富になり得る。 今回のゆりかごとてそうだ。内部には聖王家秘蔵のテクノロジーが満載されており、それを全て引き出せれば……次元世界の技術は更なる革新を迎える』 そこで僅かに乱れを感じ取る。それはそうだ、管理局法に基づけば、あまり触れてはいけないタブーだろうからな。 だがまぁ、こういうことを表だって言う政治家が一人くらいはいてもいいだろう。しかももうすぐ辞める私だ。誰が文句を言えるものか……そう考え、つい笑ってしまった。 『今驚きを感じている諸君は、一般的な感性を持っている。そうだ……そういうものが、欲しくならないはずはない。 私とて同じだ。それで地上の守りを、平和をより盤石とし、こんな事件を二度と起こさない。そういう願いが頭をもたげてくる。 だからそののたうち回るものと向き合い、問いかけてみた。 なぜ管理局はロストロギアを厳しく取り締まるか……。 なぜ多数の矛盾と問題を孕みながらも、その姿勢を尊ぶか……。 なぜ彼ら最悪のテロリスト一味による犯行が、問題視されるか……』 そこで一呼吸。ここで踏み出してしまえば、本当にもう戻れない。ゆりかごの件を勝手にバラしただけでも大問題だというのに、そこに上塗りだ。 本当の意味で分水嶺。踏み出せば、私は次の任期を迎えることはできないだろう。そうしてただの矮小な……権力もない一人に成り下がる。 だが、私にも罪がある。その罪を購うためには……成すべき正義を、本当の意味で果たすためには……。 「…………」 あの日ゼストと見上げた空を……二つの月を見つめ、そんな弱気を払い、大きく口を開いた。 『…………結論から言えばそういった富は、民衆を、世の中を腐らせる毒たり得るからだ。 少なくとも我々はその危険性を理解し、未来を見据えた行動を……政治の有り様というものを見せねばならん』 手元のコンソールを操作し、ある地球の……小さな、美しい島国の例を表示する。これは私自身、衝撃を受けて、戒めとしていた事例だ。 『第九七管理外世界――惑星名称:地球。諸君らもよくご存じの世界だ。あえて今回は、この世界の事例を取り上げて説明しよう。 ――――地球にはナウル共和国という国がある。見ての通り、美しい珊瑚礁がきらめく島国だ。実はこの二一平方Kmの小さな島国が、世界一裕福だった時代がある。 その原因は、百三十年ほど前……ナウルが植民地時代のとき。リン鉱石という貴重な肥料が発見されたことだ。というより、この島全体がそのリン鉱石だった。 この鉱石は数千……数万年にわたって積もった海鳥のフンが、珊瑚の石灰分と結びついてできたもの。一朝一夕に作れるものではない。 その、数万年かけて生まれたものの採掘が開始されたわけだが、ナウルが植民地から独立した際、それは莫大な利益となって村民に降り注いだ。 その結果四十年前には、国民生産量が世界トップクラス。世界一の大国≪アメリカ≫にも二倍近い差をつけていた。……無論、国の規模や人口密度も違うので、一概には比べられないが』 少なくともその化石燃料が、ただそこにあるだけの富が、小さな島国を満たしてあまりあったのは事実だろう。まさしくゴールドラッシュだ。 だが…………それがいけなかった。 『結果、ナウルは医療費、学費、水道光熱費、税金……そのすべてが無料。生活費が支給されるベーシックインカムまで導入された。新婚などのお祝い事には、家なりが送られていたそうだ。 更にその生活の根源であるリン鉱石採掘すらも、外国人労働者に任せっきり。ナウルの国民は、一割の公務員以外……一切働く必要がなくなった。 この美しい島で、毎日遊びほうけられるわけだ。毎日毎日書類とにらめっこしている私としては、非常に羨ましくもあったが……その生活は三十年続き、破綻した。 十年経過した段階から、リン鉱石の枯渇は予測されていたにもかかわらず、なんの対策も立てず、三十年をただ自堕落に過ごしただけだった。 しかも、また働こうという気概は、彼らにはもうなかった。彼らが望んだのは、現状維持……当たり前となった“働かずに食べていくことだけ”だ』 そう、資源が枯渇し、贅沢三昧が終わった……それだけでは止まらない。止まるはずがない。 だからこそ腹立たしさが……怒りが燃え上がる。最高評議会が、彼らがやろうとしていたとんでもないことを思うと……! 『彼らは、国ごとマネーロンダリングの魔窟となり、世界中の違法組織から金を受け取り、洗い続けた……。 それが駄目になると、パスポートの乱発によりテロリストの片棒を担いだ……。 それが駄目なら、各国から舌先三寸で資金援助を引き出した……。 結局ナウルはその舵取りを大国に握られ、再生の道を進んでいるのだが……諸君らは、この恐ろしさが分かるだろうか。 ……これはミッドから遠く離れた、辺境世界の愚民がやらかしたレアケースなどではない! 実際に、今回の事件で起こったこと! テロリストどもが目指した未来の形だ! 奴らは社会へ踏み出し、汗水垂らす勤労意欲もない! ただ好き勝手に振る舞うために……ただ自分達だけが富むために、ゆりかごという“富の塊”にしがみつき、むさぼった! そうして我々の生活を、その根底から否定し、壊そうとしたのだ! 殺戮よりも最も恐ろしい……堕落という手段が至上だと、世界に叫び、認めさせようとした!』 つい強めに、壇上のデスクを叩いてしまう。マイクにノイズが軽く入るが、それは一切気にせず、声を荒げる。 『私の言うことが与太話と思うのなら、改めて振り返ってみるといい! なぜ管理局はロストロギアを厳重に管理する! 自分達が使用するのを視野に入れるのも、どうして危惧する! そうだ……それによって得られる富が、あまりに危険だからだ! 現にそういうものを目指し作られたロストロギアも多数存在している! そういう世界を作ろうとし、失敗したあげく……または実現した結果、滅びた世界も多数存在する! 富むために……幸せになるために! だがそれには理想があった! 筋道があった! 故に見過ごしたのだ! 故に私も愚かな人間として、惑わされていたのだ! ……ただ一つの冴えたる手段に依存した経済や生活の危険性を! 住民からあって然るべきの労働意欲すら奪い去った先にあるのは、紛れもない破滅だった!』 奴らが今回やったことは、本当に……なんてことはない。ただの博打なのだ。 地下に眠っていた資源が世界を変えて、支配しうるほどの力を秘めていて、それを利用して好き勝手がしたかった。 『宝くじで一山当てて、自堕落に生活を送る怠け者の方が、よっぽど平和的だ! 少なくとも得られた金を経済活動に回し、時間をかけて他者と共有していくからな! だが奴らはそれすらしない! 奴らの行動で、誰が富む! 誰が幸せになる! いや……それ以前の問題として! なぜ奴らだけが富むために、何人も……何百人もの人々が死ななくてはならない!』 ……そこで呼吸を整える。だからこそ奴らは、この世に存在してはならない……憎むべきテロリストなのだと……そう叫びたくなるが、それをぐっとこらえる。 『……まず考えるのはそこだった』 それは、もう伝えた言葉だ。今大事なのは……伝えるべき言葉は、ここじゃない。 『その富は……本当に、次元世界に幸せをもたらすものなのか。 その隠匿のために、得られる利のために、なにも知らずに命を散らしていった者達もいるのに、我々はそう言い切れるのか。 その富を自分だけではなく、他者と共有し、世界を広げていく必要もあるのに……それすら否定する有り様を、認められるのか。 少なくとも私は……そして地上本部の首脳陣は、その問いにNOと叫んだ。 私自身、彼らがよしとした技術にすがりつこうとした時期もある……それを過ちの一つと気づかなかった時期があるからこそ、断言しなくてはいけない。 ……たとえどれだけの富がゆりかごからもたらされようと、それを盾に、彼らの犯罪を……支配を認めることは、人として決してできないと』 当然だ……当然のことだった。そんなものは、ゼストのことがなくても言い切れることだった。 『ゆえに、私はミッドチルダに住む一人一人に……次元世界に住む、全ての人々に協力を願いたい。 我々が望む世界……その繁栄に必要な富について、それぞれの視点で、生活の中から考え、声を上げてもらいたいというのが一つ。 その声は決して矮小なものではない。政治を、経済を動かす人間にとって、一つ一つが大事な意見なのだ。声を上げない悲鳴は、誰にも届かないと知ってほしい。 もう一つは……ゆりかごという“莫大な富”を、我々自身の手で破壊する……その作戦への助力を願いたい。 そしてそれに巻き込まれてしまった、聖王の末裔……途絶えたはずの血筋である彼らについても、管理局は全責任を持って、その生活を、その権利を保障する。ここにいる誰もと同じようにだ』 特別扱いはしない。かわいそうな子扱いもしない。ただ一人の人間として、当然の権利を、義務を通す。そのために必要な手を伸ばすだけだ。 誰にもそれを、悪用はさせない。そう断言した上で……静かに頭を下げる。 『我々は、また喪失を味わう。だが……いや、だからこそ! その富に溺れ、道を誤った奴らとは違う未来が選べると信じたい! そこには価値があると信じたい! 今一度願う! ゆりかご破砕作戦に協力を……それこそが、私が執り行う最後の仕事となるだろう!』 情けない話だった。ミッドを守る。ミッドをより強く、富む世界にする……そういう話をしてきたのに、結局大ホラにしてしまうわけだ。 だがそれでも、最高評議会の有り様だけは認められない。しかし管理局だけで決めることもためらった。 だから問いかける……一緒に信じてほしいと、道を選んでほしいと。無能だと、裏切り者だと罵倒される覚悟もした上で。 ……こんな気持ちは何年ぶりだろうか。それこそ……政治の世界で組織を変えると、ゼストと誓い合った日以来かもしれない。 それで幾ばくかの静寂が、破裂音で打ち破られる。 不快なものではない。聞き慣れていたはずの……しかし、変わりなく心を躍らされる音だった。 それは次第に大きくなり、波のように広がっていく。恐る恐る顔を上げ、彼らを……私を見続けてくれていた者達を見返す。 彼らは真剣な顔で、両手を叩き続けていた。ある者は、涙すらして……! 『…………ありがとう』 もう、返す言葉は他になかった。 『ありがとう――!』 私は、結局夢を叶えられなかったのだろう。死んだゼストに顔向けができるような有様ではない。 だがな……だがな、ゼスト。そんな私でも、一つ自慢できることがあるんだ。 間違えて、迷って……そんなことを繰り返してきた私だが、お前に誇れることがあるんだ。 ――――この光景は、今叫んだ声は、あの日……お前と一緒に夢見たものがあるから、生まれたものなんだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 私とオットー、ウェンディ、セッテはチンク姉様達とは違う隔離施設に収容された。 この辺りは私達が後発組で、更正の意志もあり、結果的に事件解決へ尽力したことが鑑みられてのことだった。 ドリームバエルとツインブレイズも一旦局預かりとなり、少し寂しい思いをしているけど……でも、今はちょうどいいのかもしれない。 広がる海原、それが映す……映ったと錯覚するような色合いの空。教室も兼ねたリラクゼーションルームで、その窓から蒼の世界を見上げる。 もうすぐ……レジアス中将が叫んだ通り、人々が望んだ通り、ゆりかごが飛び、砕かれ……本当の意味で平穏を取り戻したと、知らしめられる空を。 あの人の名前にも、魔力の色にも刻まれた、優しい色に染まっている空を。 「でもまぁ、私らはともかく……セッテも更正に積極的ってのは意外っスね」 「意外と言われるほど、付き合いがあるとは思えませんが」 「ぐ……可愛くない言い方をー!」 「仕方ないよ、ウェンディ。ボク達はほぼ初対面だし……でもどうしてかな」 「……ボルトには、まだ聞きたいことがあります。牢屋に閉じこもって、敗者を気取ってはそれができません」 「……なるほどね」 あの男……セッテにとっては師でもあるマスター級。その強さは、有り様は、セッテに希望を示していた。 その希望は私達にも理解できるもので……膨れていたウェンディもつい、暖かい視線を彼女に送っていて。 「なにか、問題でも」 「いやいや、なにもないっスよー! というか、それについては私らも同じっスからね!」 「うん。向こうのチンク姉様達は、まだ納得し切れていないところもあるし……ドクターともども、たくさん話していこう」 「償い切れるのでしょうか、我々は……我々の道が、罪だとするなら」 「きっと償い切れない。一生背負って、苦しんで、のたうち回る。でも……ボクはそれでいいと思っている」 「私もです。楽園も……聖戦による変革も作れない。 でも、選べる道はあるから」 それで一番に思うのは……やっぱり恭文さんのことで。 ……少し時間はかかると思います。まずは私自身の生き方を、有り様を定めないといけませんし。でも必ず。 「だから……もう一度会いに行きます」 ――第56話 それで燃え上がらせていきます。私にはまだ、夢というものがよく分からないけど……でも、そこに可能性があると思うから。 『空はいつまでも青く/PART1』 (第57話へ続く) あとがき 恭文「というわけで、いよいよエピローグ編。最終決戦より長くなったらどうしよう……」 (描写したいところがたくさん……まぁうまく纏めよう) 恭文「まぁ戦いの決着と、それぞれに下された処罰……というより、うまーく取引してのすり抜け。 とはいえ何度も使っていたら、元の木阿弥。こっちの僕もしばらくは、嘱託魔導師としての活動を自粛することに」 古鉄≪ここで私達が派手に暴れると、しらばっくれがバレかねないですしね。 それでも納得させられたのは、肥大化しすぎたハラオウン一派の解体……そこにメスを入れられたが故ですよ≫ 恭文「最高評議会のお眼鏡が高い関係で、それ自体が不正の温床になっていたしね。あとは相応の保険もかけて……これで、ひとまずスバル達は大丈夫」 (あとはそこからどうするか…………どうなるのだろうか) 恭文「レジアス中将も、オーリス三佐も、今回は味方サイドでフィニッシュ。でも課長としての活躍……短かったなぁ」 静香「恭文さん、無茶苦茶をしたお説教も込みなんですから、こっちを見てください」 恭文「あ、はい……」 (うどんアイドル、今日もお泊まりに来ました) 静香「……恭文さん、もうすぐ年が明けますね。つまりは年越しうどんです」 恭文「そばじゃないのね……。うん、分かっていたけど」 静香「我が家ではうどんです。安心してください、消化もいい柔らかな博多うどん形式です。そばにも負けない歯切れの良さです」 (なおご両親はもう諦めている様子) 静香「それでですね、あなたがクリスマスプレゼントにくれた……コートが、案外よかったので、それを着て買い物にも行きたいので、付き合ってください。 もちろん年が明けても、三が日は一緒です。安心してください。両親の許可は取っていますので」 恭文「いつどうやって取ったの!?」 (『……取ったというか、押し切られたというか……とにかく、よろしく頼む』 『まぁあなたなら信頼して預けられるし……静香も頑張ってねー』) 静香「それで、私はもう大人なので……その……よければ、なんですけど……」 恭文「うん……」 静香「まず、お年玉はいりませんから! つまり、その……その代わりに……!」 恭文「あれ、これはディードが今年の頭に……」 静香「…………私といるのに、他の人を思い出さないでください!」 恭文「は、はい!」 静香「でも、そうです。そういうことです。 こうやって、素直になって……気持ちを伝え合うようになりましたから。 だから…………今年もよろしくお願いしますと一緒に、また気持ちを伝えたいんです。――フェイトさん達より、ずっと先に…………ディードさんも一緒に」 恭文「うん………………うん? え、ディードも一緒?」 静香「そうです。というかほら、それで……今年がいろいろ大変な年になったので、いろいろ気にしているじゃないですか。 だから、ちゃんとフォローをしてあげてください」 恭文「それは、もちろんだよ。でも静香はそれで」 静香「フェイトさんの許可はもらっていますし、私も覚悟しています」 恭文「フェイトォォォォォォォォ! というかちょっと待って! だったらなんで僕、さっきしかられたの!?」 静香「……今日は、私だけを見てほしいからです。言わせないで……ください。恥ずかしいんですから」 (うどんアイドル、更に攻撃していくようです。 本日のED:田所あずさ『リトルソルジャー』) 恭文「これで課長として責任は取れたねー。いやー、よかったよかった」 静香「責任逃れでしょ! というか、上層部を脅して無罪放免って悪党のやり口です! ……それはともかく……恭文さん、志保にはあまり意地悪しちゃ駄目ですよ?」 恭文「え、していないけど」 静香「Fate/Zeroのディスクを渡して、愉悦とかしていましたよね……!」 恭文「志保も自分は大人とか言っていたし、ちょうどいいかなと」 静香「それは、志保が子どもだからです。だから素直になりきれないだけなんですから」 志保「それ、静香に言われるのは屈辱なんだけど……!」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |