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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第55話 『未来図をぶち抜いていくのは』

「――ケジメは必要なのだよ。タイプゼロ・ファースト」


そうして右手であの人は、白いライズキーを取りだしスイッチオン……。

咄嗟にランディさんの銃弾が、ティアの魔力弾が放たれるけど、不可視の防御フィールドでどれもこれも弾かれ、音を立ててあらぬ方向に消えていく。


≪アーク!≫

「……分かった」

「スバル」

「大将戦なら……言った通り、未来に繋がる喧嘩なら、付き合うよ。
……殺し合いはゴメンだけど」

「殺してくれても構わない。君にはその理由がある」

「理由があっても、そうしたら私は……私達は、自分の悪意に負けたことになる」


それでも止まれない……止まりたくない。その気持ちに整理を付けたい。

そのための喧嘩なら、私は向き合える。たとえ親の仇だって……うん、それでいい。


「それに負けたのがあなた達なら、私達は……何があっても、踏ん張らなきゃいけないんだ――!」

「スバル……」

「…………」


そうだ、私達はきっと……それでいい。


「感謝する。…………スバル・ナカジマ」

「――!」


白いライズキーは、恭文が使っていたネクストライズキーみたいに自動展開。


「変身――!」


それをスカリエッティは、ドライバーに装填……バックルが赤く、血の色で輝きながら、大きく展開する。


≪アークライズ!≫


輝きがワイヤーフレームとなって、スカリエッティを包み込む。その形はまるで、人間の目玉みたいな……!

それが身体の形に凝縮したかと思うと、部屋中に吹き荒れる風圧を巻き起こす。

私達がそれに耐えている間に、フレームは黒いスーツとなり、肩や胸元、足、腕……左右非対称の、白いアーマーが装着されていく。


≪渇望! 底なし! 悪辣! 本能! 全てを飲み込み、満たされるまで突き進めぇ!≫


頭部は三本角で、丸い複眼が赤く輝く。やっぱりそれは、血の色で……!


≪アークグラシャラボラス!
――Conclusion ONE≫
(特別意訳:全ての結論は一つ)

「仮面、ライダー……!?」

『さぁ……私を止めてみたま。正義の味方達よ――!』

「……えっと、ごめんね」


そこでランディさんが、申し訳なさげにつぶやく……。


「僕達、その……ラスボスっぽい感じと、事前策もなしにまともに勝負するつもり、ないんだ」


……踏み出しかけていたスカリエッティも停止するような、あまりに間抜けな一言。いや、その言い方もひどいんだけどさ。

でも、致し方なかった。だってあまりに空気が読めていないというか、そんな停止に意味があるとは思えなくて。


ただそれでも、ランディさんは本当に困り顔で、頬をかいていて……。


「あぁ、やりたくない……やりたくないけど、でもやらないとうちの義兄さんがうるさいからなぁ……!」

『……君は、なんの話をしているんだ』

「…………ようはこういうことよ。変態」

『は?』

「あの、ティア……やめない? さすがにちょっとどうかと思うし」

「私だってやりたくないわよ! でも明らかにやばいでしょ! 真正面からとか怖いでしょ!」

『いや、ちょっと待ってくれ。まず話を』


その必要はないと…………ティアとランディさんはある映像を出す。

それは、ホテルらしき一室で……薄暗い中絡み合う、スカリエッティとフェイトさんで…………。


『ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃ! あ、あ、ああああ……あぁあああぁあ♪ すごい! これすごいのぉ!』


しかもフェイトさんはほぼ全裸! あの豊かなバストが、それはもうすてきな形で……ぎりぎりで出されていて! 後ね、腰がこう、グラインドして……すごいの! こんな激しくするんだ!


『ほら! もっと感じるんだ! これが……君の母親も我が子のようにむさぼり、咥え込み続けたものだ!』

『は、はい! これ、すごいです! 大好きです!』

『全く……最初の嫌がりようが嘘みたいだな! 母親譲りの淫乱め! 私を逮捕する立場でありながら……ほら、もう一回出すぞ! しっかり奥の奥まで味わうんだ! 自分が私の雌に落ちた事実をな!』

『はひぃぃぃぃ! フェイト、雌になります! あなたの雌になって……一生、セックスで性欲処理のお手伝い、させてください!』

『よく言った! もう取り消せないぞ! この映像が流れれば、君はもうおしまいだからな! どうだ、嬉しくて……また来ているだろう! 咥え方が激しくなったぞ!』

『はい! イキます! フェイト、このまま……性欲処理用の雌として……ああぁああぁああぁああ♪』


…………そこで、映像がぷつりと切れる。当然スカリエッティは打ち震えて…………お願い、こっちを見ないで。


『……え、なにこれ』

「アンタ、フェイトさんと相当楽しく盛り上がっていたみたいね……どん引きだわ」

『いやいやいやいや……知らないよ!? 覚えがないよ!? というか、君達は馬鹿なのかぁ! この状況でなにとんでもないものを持ち出しているんだね!』

「だったらなんで……フェイトさんはアンタが男だって知っていたのよ! アンタ、今この状況で私達に視認されるまで、映像だけで実在を確認すらされていなかったじゃない!」

「それはまぁ、こういうことをしていたのなら……男性だと言うことも、分かりますね」

『とんだ誤解だぁ!』

「……誤解なわけが、ないでしょ……!?」


そう、次はギン姉……私は無茶があるから、ギン姉!

ギン姉は後ろから……背中丸出しで、あの豊かなものが脇からちらっと見えながら、いっぱい……わんちゃんみたいにー!


『ほら、ワンと言ってみろ! 君はもう母親の仇に腰を振り、快楽をむさぼる雌犬だからね!』

『ワン! ワンワン! ワン!』

『ははははは! 情けないねぇ! プライドはないのかね!』

『くや、しいよ……でも、気持ちいいのぉ! 逆らえない……母さん、スバル、ごめん……私……私ぃ!』

「私のことも、散々辱めておいて……!」

『全くもって私達は初めましてだよ!?』

「それにキャロちゃんのことだって!」


はい、お次はキャロです! キャロは抱っこされてゆさゆさって……ゆさゆさってぇ!


『あぁああ……! 私、まだ子どもなのに……あなたは、変態です……!』

『そうだね。だが君は母親と……フェイト・テスタロッサと同じく、私のを味わい、悦んでいる』

『やぁ……』

『その変態に悦ばされるのが嫌なら、離れようか?』

『やぁ……やぁ……!』

『それも嫌か。なら、君が素直になるまで、この幼い体で存分に相手をしてもらおう』

『あ、はげ……ああぁああぁ! 駄目なのに! 私、私の初めては……恭文さんのだったのにぃ!』

「…………アンタ、さすがに引くわ」

『彼女とは初めましてをした覚えすらないんだがぁ!?』


あはははは……そうだよねー。それはもう、ほんと……仕方ないよねー。というかあの、なんか……ごめんなさい! ほんとごめんなさい!

でもこれも作戦なの! なにせ時間が……ヒロリスさん達、早くしてくれないかなー! というか恭文もだよー! こう、そば屋の出前より急ぐ感じで!




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――スカリエッティのアジト付近 森林地帯


あんなヘリ程度なら楽勝……と思っていたら、たやすく防いでくれたよ。


「――――へぇ、やるじゃないの」


PGM へカートIIの弾丸を再装填。ボルトアクションだから、一発一発入れていくのはまぁ面倒なこと。

でもまぁ? こんなものが連射できる時点でいろいろアウトだと思うしさぁ。一撃必中なのは別に…………ん?


星が瞬いた。それは揺らめき、流星のようにこちらへ迫って…………!


「……あぶな!」


慌ててへカートIIの一挺を抱えながら、左に側転。放たれた弾丸は背中の肉を抉り、地面に着弾する。

そうして爆発……ただ光だけが鋭く、瞬間的に霧散しただけ。それを見てつい軽く舌打ち。


「ホントにやってくれるって、どういうことだろうなぁ……!」


そうして上を見るのは……まぁ許してよ。


『ずるずる……ずるずる…………』

(マジで誰……あれ……!)


このグダグダの原因≪カップヌードルを食べている女≫のせいで、気が散って仕方ない……むしろそれで助かったんじゃないかとも思うよ。


「いや、それより……今の、あのコースからは絶対予測できないはずなんだけど!」


せっかく着込んだアーミージャケットが台なし……まぁ身体は問題ないけど?

エグれた肉も、血管や神経もすぐに再生する。だけど今重要なのは、ダメージを受けたことじゃあない。

こっちの居場所は大まかにでも割れて、向こうはもう生かして捕まえるつもりもない。そういう警告をされたことだ。


しかもあのヘリにいるのは……オレの”跳弾術”についても予測していて、それを逆読みし、即座に反撃できる腕利きってことだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「うっし……今の見えたな、ストームレイダー!」

≪はい。距離二.三キロ……茂みに隠れていました≫

「だが当たりは浅かった……」

≪この距離で、確率六割ならば掠っただけで十分かと。ブランクも問題ないようで安心しました≫

「まだまださ……さて」


向こうは逃げた感じでもない。こっちの挑発に乗ってくれるのは何よりだが……問題はここからだ。

なにせ向こうさんも俺と同じ。”魔弾”の使い手だからな……!


「……やっぱ俺は、走り回ってライフルを避けるデカにはなれねぇなぁ……!」


坊主達とのドタバタを思い出しながら、ストームレイダーのカートリッジを装填し直す。

改めて静かに……ヘリの床に寝そべり、構え直す。


「結局チキンレースだ」

≪仕方ありません。我々にはこういう勝負しかできませんから≫

「上手く札を回して、一抜けするしかない」

≪そういうことです≫


…………あぁ、そうだ。俺は人間なんだ。普通に人間なんだ。

身内へのミスでビビっちまって、俺を許そうとする妹からも逃げる程度には……馬鹿な人間なんだ。

だがそれも終わらせる。人間なのは変わらないが、もうちっとマシになっていく。


そのためにも、俺は俺なりの戦いをして……雪辱を晴らす。


奴には……ロビン・ナイチンゲールの仲間には、妹も世話になったからなぁ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『…………HGS!?』


作戦会議の祭、坊主がロビン・ナイチンゲールの能力を解析してな。その結果が……魔法社会暮らしにとっては、かなり怖いものだった。


「そうだよ。というかフェイト……おのれは本当に、バルディッシュに感謝しないと駄目だよ?」

「ふぇ!?」

「おのれが聖王教会で撃たれて、潰されたときの弾丸……跳弾で跳ね返ったのは確かだけど、その前に弾丸が不自然に曲がっていた。
その上でぶつかって、方向転換して、おのれらへ向かっていったのよ」


坊主が画面を展開……そのときの映像や各種探査データも含めて、てきぱきと説明していく。


「それについては最初に狙撃されたとき……クロノさんとカリムさんがやられたときもだ。
派手にチュンチュン言っていたけど、そうなる前に曲がった弾丸が幾つもあった」

≪それはジガンも、お姉様も……海月やレイジングハートお姉様も感知しているの! 間違いないの!≫

「で、それと同じ状況が……クアットロにいたぶられたときにも起こっていたんだよ」


話を引き継いだのはアコース査察官……って、そうか。例の査察能力で、その記憶もチェックしたんだよな。


「クアットロは相当混乱して、恐怖して……だから心がへし折れたんだけどね」

「だからHGS……念動力≪サイコキネシス≫ですか!
でもそれなら、エリオ君……!」

「普通の魔導師には、ほいほい対応できないよ!
一発で”あ、曲がる弾丸を撃っているな”なんて分かるわけないし!」

「でも、ほら……一度逮捕されていたんだよね! それで分からなかったのかな!」

「こっちじゃHGSはほとんど見られないし……検査項目にも引っかからずってパターンだろうね。あとはやり口によっては……」


……そこで坊主が、ちらりと俺を見た。

それだけで言いたいことが分かるってのは、いいのか悪いのか……ちょっと迷うような視線だった。


「……ねぇ、そういう狙撃ってやっぱり、アンタでも……よね」

「さすがに無理だって……。今の話だって、向こうが能力を連発して、それを解析できたから掴めたことだし」

「……おいおいお前ら……一番はそこじゃねぇだろ」

「え……!?」


軽く冷や汗を流しながらそう告げると、ティアナとエリオ達が驚いた顔をする。


「だね……」

「……下手をすれば、俺達でも危ないしな」


ただ坊主もそうだし、ヒロリスの姉御、サリエルの旦那は冷静だった。そりゃそうだ、なにせ経験値から違う。


「ロッサ」

「実はクアットロが魔弾と言うべきものでいたぶられたときも、その姿は見ていないようなんだ。
更に相手が撃ってきたスタン弾……それでできた傷から、口径としては対物ライフルに近い代物なのは分かっている」

「それでよく死ななかったな……。非殺傷設定って言えばなんでもOKじゃねぇだろ」

「戦闘機人としての身体が強いことと、防弾・防刃のスーツに助けられてようやくって感じですね」

「まぁなんにしても、奴がキロ単位の弾丸制御能力と、その下地たり得る広範囲射程≪ワイドレンジ≫を持っているのは確かと。
それも対物ライフルレベルのものをぶっ放して、誘導弾にしちまえるだけのものを……」

「それって、ヴァイス陸曹と同じ……!」

「いや、俺よりヤバいな」


そう……そこが、逮捕されてなおHGSのことがバレなかった理由……かもしれない。


「ちびっ子達が言った要素で更に強化されるから……文字通りの支配狙撃≪グラスパースナイプ≫。
もしかするとだが、アイツがやった暗殺はそういうのがほとんどで……だから局もHGSと関連づけられなかったっつーのは」

「僕もそういう印象を受けました。……今回については、あのボルトより厄介かもしれません」

「そっか! 一番の問題は、距離と範囲……それによっては、本当に戦場を支配しかねない!」


ティアナも理解したので、その通りと頷いておく。

……ただ至近距離でドンパチできるだけなら、まだ分かるんだよ。でもその射程が長く、そんなもんを使ってぶっ放せるなら……と、そうか。


それなら……一つ答えが出るかもしれねぇ。


「なぁ坊主、中央本部でレオーネ相談役が爆死したの、まだ原因不明だったよな。
……アイツが狙撃でドガンってのは、なしか」

『……!』


おいおい、みんな息を飲むなよ……。俺もわりと適当に言ってるんだしよ。


「そこもヴァイスさんに聞きたかったんです。もしヴァイスさんが同じ立場なら」

「実弾と魔力弾って違いに目ぇ瞑れば……できるぞ」

「というか、車ってそんなポンポン爆発するものなんですか!」

「……するよ、エリオ」

「スバルの言う通りよ。例えば魔力弾に化学反応系のセッティングを組み込むなら、私達の領域でも楽勝。
実弾だと……ガソリンなり、他の爆発物で火花が起きるとか? 空気の状態によっては自然に起きる場合もあるし」

「スバルさんとティアさん、詳しい……って、当然ですよね! レスキュー部隊にいたんですから!」

「まぁそれを狙撃でやろうってのは、常識外だったけどね……!」


ティアナ、そんな救いを求めるような目で見てくるなよ……。そこは俺も同じなんだからよぉ。

しかし……その技で生き残ってきたなら、当然長所短所も理解した達人≪マスター≫だろうしな。俺でもできるって言うくらいなんだ。


だったら……。


「なのでヴァイスさん、すみませんけど」


分かっていると、右手を挙げて止めておく。


「俺とストームレイダーでやる。ヘリの強化は大丈夫なんだろう?」

「……もちろん殺傷設定で、急所狙いですよ?」

「分かっているから安心しろ」

「ちょっと、ヴァイス陸曹……! 囮になるつもりですか!」

「それが一番手っ取り早い」

「ヘリごとミンチになりますよ!? 対物ライフルなんて連発されて大丈夫なのは、コイツや鷹山さん達くらいですから!」

「そ、そうだよ! それは真似しちゃ駄目だと思うんだ! 人間じゃないし!」

「分かってるから落ち着けって! 俺はそこまで自分を誇れねぇよ!」


なんだよコイツら! 俺が走り回って、ライフルを避けるとでも思ってんのか!? 無理だ無理! そこまで器用な魔導師じゃねぇんだよ、俺は!


「ティアナ……フェイトォ……鷹山さん達はともかく、僕まで巻き添えにしやがって……」

「……やっさん? やっさんも同類だから」

「そうそう。私らだってさすがにないよ? 足下で爆弾ドガンとか、ミサイル直撃とか」

「嘘でしょ! 砲撃とかあったでしょ! あったはずでしょ! 僕は人間だからぁ!」

≪あの、ちょっと近づかないでもらえますか? 私はノーマルなので≫

「おのれも同類!」

「「やっさんもな!」」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――そんな先輩達に励まされ、マスター級と狙撃勝負となっているわけだが……実に有り難くねぇなぁ、おい!

ほんと癒やしはもちょだけだよ! いや、癒やされている場合じゃねぇんだけどさぁ!


「……勝負は一瞬だな」

『えぇ』


一発撃ち損じれば、その時点で……お互いデカい大砲を向け合って、逃げ場もなく、真正面から構えているんだ。

だがこれでいい。俺が命を張ることで、フェイト隊長やエリオ達の危険も……EMP弾をぶっ放したニムロッド捜査官の危険も格段に減る。

今のでアイツも、まず空のヘリを落とさなきゃ、どうにもならねぇって分かったからな……!


だがあとは……何をどう狙ってくるかだ。俺がスナイパーなら……アイツなら……。

魔導師に、ヤクの力も借りて勝つなら……必要なのは……。


”……ヴァイスさん、ストームレイダー、聞こえますね”


そこで響いたのは、坊主の声。こっちの邪魔をしないよう、いつもより控えめなのが有り難い。


”おう、聞こえるぜ”

”敵の位置、掴みました。距離二.三キロ……茂みに隠れています。更に対物ライフルを複数所持。詳細はストームレイダーに送ります”

”受信完了……表示します”


坊主が≪広域探査魔法≫で調べてくれたデータが、サブウィンドウ的に展開。……大体俺達の見立てと変わらなかったが、予想外なところもある。


”連射可能か……”


対物≪アンチマテリアル≫ライフルは基本単発。それを連射できるとなれば、相応に注意も必要だ。

だから思考を上書き……より高精度に、最悪な事態を想定していく。


”助かったぞ。この暗闇だと、さすがにそこまではなぁ”

”いえ。……連携してさくっと潰しますよ“

”スバル達の方に行っていいんだぞ?”

”だから、さくっと潰すんです“

”おうおう、怖いことで……”


まぁ、”今の坊主”がいてくれるのは有り難い。恐らく『五番目の悪魔』を使っているんだろうしな。

……スナイパーは孤独なソロプレイヤーじゃない。観測手という眼があって、その本領を二乗にも三乗にもできる。

あとは俺が……ギリギリまでそれを悟られず、上手く踊れるかどうかだ。


そのためなら……多少の痛みは、払うしかないか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


まさかあんなスナイパーがいたとは……いや、そういや六課には一人いたな。

ヘリパイロットなんだけど、元々は狙撃に特化したストライカー級魔導師ってのがさ。

名前は……ヴァイス・グランセニック。妹の目んたま撃ち抜いて、狙撃手からは引退したってやつだ。


そういや、その妹を人質に取ったのは……。


『…………聞こえるか! ロビン・ナイチンゲール!』


おぉ……耳がきーんってなったぁ! 一気に挑発してきやがったよ!


『てめぇんとこのクソ舎弟には、妹ともども世話になったからな! たっぷり礼をしてやるよ!』

「おやおや……やっぱりかよ」


そう……その誤射事件を引き起こしたの、オレが元いた組織なんだよねぇ。あははははー♪


「あれもクアちゃんの試作麻薬で振り回されたせいなんだけどなぁ……」


ひとり愚痴りながら、へカートIIをさっとチェック。

こういうときは焦った方が負けだからねぇ。落ち着くためにも、こんな無駄作業も必要。


「ま、向こうには関係ないか。しかしこっちの”魔弾”もバレているとなると……手札を見せすぎ? 一芸特化の弱いところだ」


どうするどうする……へカートII一挺の重量は、大体十四キロ。抱えて走って、身を隠すってのもアリだ。

または地上で楽しく遊んでいるちびっ子どもを、ちょいちょい狙い撃ってかく乱。向こうもさすがに、対物ライフル相手に警戒しないはずがないし?


だがそれは…………無意味と判断する。


敵はこの……二キロ以上の長距離誘導狙撃を、平然と行える。それだけの凄腕スナイパーだ。

魔法の有無なんて関係ない。素質の有無なんてもっと関係ない。それを可能とするだけの鍛錬を、経験を積んできた男だ。

その達人相手に小細工なんてすれば、かえって状況を悪くするだけだ。向こうもそれが分かっているから、逃げることをせず、守りを固めている。


ヘリに積んでいた武装……デカい盾を構えてな。


「…………アンタの考えはよく分かるよ、旦那」


長々としたガン待ち戦法なんて望んでいない。味方を危険に晒すだけだと完全に割り切っている。

あのデカブツを引きずった上で、オレと長距離での打ち合いを楽しもうって言ってやがるんだ……!

もちろんこちらもデカブツを構えたまま、逃げの手を打っても……この情勢じゃあいずれ囲んで叩かれる。さすがにあの、デカいドラゴンとかは殺せないし?


あぁ、あれで森ごと焼き払えばおしまいだ。なのに、わざわざ決着を付けようって言ってくれている……優しいじゃないの。


「ま、しゃあないか」


腰を据えてしっかり踏ん張り……両手に力を込める。一挺十四キロのデカブツなのは確かだが、ヘルズドアーのおかげで羽毛を抱えるみたいな心地だ。

だが、それでも力を込める……意識を、身体から沸き上がる力を弾丸に込める。その力を通し、世界を知覚し、自由な鳥となるために。


……トリガーを引く瞬間は、もうすぐだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――――――今か今かと待ち構えていた。

いつ火ぶたが切って落とされてもおかしくない。それは……その瞬間は、いつだって唐突に訪れる。

ラグナのときもそうだった。それまでの任務でもそうだった。音速を超えて飛ぶ弾丸は、一瞬でその答えを突きつける。自分にも、相手にも。


今度はそのまま、死に直結する大勝負だ。しかも音は頼りにならない。その砲声すら置き去りにして、死の配達人は俺達へと迫る。

本来なら緊張の一瞬。だが俺は……妙に冷静だった。


「………………」


相手は姿見も、言葉も、文化も分からない正体不明な怪物じゃない。地に足をつけ、俺達と同じ言葉を話し、飯を食い、寝て、トイレにでも行く人間だ。超能力が使えようと、それは変わらない。

しかも相手は同じスナイパーだぜ? だから、見えてくるものがあるんだよ。


(音速すら超える対物ライフルの弾すら誘導するサイコキネシス……。
肉体の即時再生すら可能にして、身体能力を極限まで高める麻薬の力……。
得物となるライフルを複数所持……)


見える札は決まっている。その上で、俺とストームレイダーが狙う一瞬は。


「坊主じゃないが、ショウダウンだ……ストームレイダー」

≪はい≫


指にかかったトリガーを引き絞る。

静寂の中、敵は見えない。だが狙う一瞬は理解できる。

ヘリが反転をし始めた一瞬……無線誘導シールドもタイミングもそれをカバーするように、動き始めた一瞬。

ヘリの守りが微弱でも、薄れた一瞬…………自分を狙うために、どうしても必要となった動きが生まれたこの瞬間!


だから迷いなく、弾丸を放つ。もう外さない……全てを賭けるのだと、その弾丸に願いを、思いを込める。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


狙うタイミングは読まれている。となれば、あとはどう虚を突くかだ。シールドは確かにヘリを、本体をきっちり守っているように思える。でも僅かに死角があった。

だから……構えたライフルで一発目を放ち、すぐさま脇の二挺目を拾い、転がりながら構え直す。その間に向こうの弾丸が飛び、オレの背中を……左足を打ち抜き、潰すが、かまっちゃいられない。

そんなものよりも、二発目の弾丸だ。弾にありったけの力を込めて……はき出すように放つ。


……一発目は直撃コースじゃない。むしろ外れている……外している。あのままだとヘリの真下を通過するだけだ。なにせなんの力も入れず、ただぶっ放しただけだからな。

だが二発目は違う。二発目の弾は、曲げるのではなく加速させる。ひょろひょろと風や気圧の影響を受け、揺らめく弾に命を吹き込む。

そうしてただ一直線に……物理法則すらこのときは無視して飛んだ弾は、一発目の横っ面に命中。いい音が……いい手応えが響いてくる。


一発目の弾はどうなる。当然跳ねるよな? その火花が見えるわけじゃないが、手応えからそれを感じ取り…………そして、ヘリの真下から突き破ってくる。

狙うは向こうのガード範囲より下。ヘリに搭載されている動力炉≪ジェネレーター≫……!

そりゃあ本体装甲も鍛えているだろうが、さすがに対物ライフルは無理だろ! つーか、OKならあんなシールド持ち出さねぇよ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


衝撃がヘリを襲う。こりゃ伝わり方からして、動力炉……ち、やってくれるぜ! まさか対物ライフルでリフレクショットまでできるとはな! レオーネ相談役の件があっても、半信半疑だったよ!


≪ヘリ、落下します≫

「おう……!」


ヘリは……ストームレイダーが制御するヘリは、乱回転しながら落ちていく。このままだと俺もおだぶつだ。普通なら……俺達だけだったら。

だが俺はまだ冷静だった。だからストームレイダーのカートリッジを入れ替え、改めて……視界がめまぐるしく移り変わる中、デッキに変わらず這いつくばり、ストームレイダーを構え直す。

足は潰した。即時再生っつっても限界点はあるだろう。だから、狙える。もう一撃狙える。


アイツが違和感に気づき、動いた瞬間が……本当の勝負だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


…………オレの弾丸は、確かにジェネレーターを捕らえた。手応えもあった。

ヘリへの狙撃も考えられたから、あの最新型の奴もきちんとカタログスペック、調べたし? そこに手は抜かないって。

だが妙だった。予定通りなら、弾はジェネレーターの真芯を捕らえ、炎を上げるはずなんだ。


だがヘリは乱回転を続けて落ちていくだけ。ただそれだけで……弾が逸れた? いや、これは……。


「………………!」


全てを察し、慌ててへカートを持ち上げ立ち上がる。が……その瞬間周囲に、蒼色の刃が次々と走る。

一瞬……立ち上がり、反応しようとした一瞬。全く別の意図で放たれた刃が、腕を、銅を、腹を、足を貫き、その動きを止めた。


しかもこりゃ……あ、魔力ダメージも……こっちが非魔法能力者ってのを加味して、きっちり入れてきやがった……!


「やっぱ、そういう……ことかよ……!」


油断した……隙を取られた。

敵は奴とデバイスじゃなかった。それは余りに、あの狙撃手に対して無礼だった。


(観測手がいやがった! それもかなり有能な……つーかこの攻撃は)

「……があぁああぁああぁあぁ!」


強引に……力任せにその軛を引きはがそうとあがく。麻薬≪ヤク≫の力ならそれくらいは楽勝だった。

ここにいるのはまずい。とにかくまずい。だから…………相手もそれを理解していないはずがなかった。


「さすがにそれはやらせないって」


今度は全身にワイヤーが鋭く巻き付く。蒼と翠の宝石を伴うワイヤーだ。

それに巻かれた途端、今度は蒼い光が包んでくる。それで体から……肉体から力が抜けていって…………。


麻薬の高揚感が……あっという間に、消失……!?


「静かなる祈り――魔力や肉体の損耗を完全回復させるAAランクの高位回復魔法だ」


だから、ワイヤーを伝い……夜闇に紛れたそいつを。

あの、六課の医務官と同じジャケットを……色違いだが、蒼いそれを纏うそいつを、忌々しく見やって……。


「当然麻薬による肉体異常も、回復させる。ここは実験済みだ」

「蒼凪、恭文……!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そうだよ、ロビン・ナイチンゲール。坊主はずっと……観測手を努めてくれていたんだ。

俺やエリオ、キャロ、フェイトさんを守るためにな。そのために“使うのが本意ではなかった五つめのトイフェルライズキー”も出してくれた。


マルバスヴィント――ベリトクリエイターが直接戦闘能力を有したフルバックなら、こちらはシャマル先生のような最後衛型。

癒やしと支援を本領とした≪ヴィータ副隊長やフェイトさんが、当初想定した坊主の理想型≫だ。坊主自身シャマル先生ほどロングレンジでの支援や回復が得意じゃないが、そこはあれだ。

……シャマル先生が前線出動禁止になったりとか、ポカをやらかしたのにかこつけて、持っている魔法やらデバイスの情報を、根こそぎぶんどって……コピーしたんだよ……!


坊主が今装備している≪クラールヴィントII≫も、その不足分を補う形でセッティングされている。魔力もジガンのカートリッジでなんとかって感じだ。

そこさえ埋まれば、坊主の処理速度も生かし、かなり優秀なフルバックが完成する。繰り返すが、シャマル先生が出られなくなった関係で、その役割を埋めるために作っていたキーだからな。


≪アルトアイゼンから連絡……ロビン・ナイチンゲールを捕縛したそうです。乱機動停止しますか?≫

「いや、このままでいい」


だから今乱回転しているのも、ストームレイダーの制御によるものだ。動力炉には……装甲には傷一つついちゃいねぇ。

坊主がピンポイントで……ロングレンジシールドを多重展開してくれていたおかげだ。それも実弾態勢に特化したものをな。たとえ坊主の防御魔法が紙同然でも、それで逸らすくらいはできるってことだ。


それで捕縛できたなら、もう詰みでもいいが……あいにく、それはそこまで甘くない。

まだなにか隠している可能性もあるし、回復魔法による麻薬効果の軽減も、どこまでうまくいくか微妙なところだ。


つまり、恨み辛みはすっ飛ばした上で……安全確実にいくなら……。


「…………」


またも一瞬の勝負。でも迷いはない。俺はもう目標を捉えているし、アイツは撃たれることを覚悟している。

それができない奴じゃないと、顔も合わせていないのに言い切れた。言い切れてしまった。


……そんな、不思議な虚しさを感じながらも……そのトリガーを引き絞り、俺の決意を、傲慢を叩きつける。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヘリが墜落し、乱回転する中……自分が圧死するかもしれない状況の中、トリガーを引いてきた。奴の光が見えたんだ。それは鋭く迫ってくる……動けないオレに迫ってくる。

あの状況でほんの一瞬、針の穴より小さな一線をひた走った。それがただの偶然で……味方の援護だけで得られたと?


……違う、そんなことはあり得ない。

こうやって弾を交わし合ったからこそ分かる。そんなことは”あってはならない”。

達人は確信を持って、確定した未来の如くそれを達成する。それを可能とするだけの技能を……修練と経験を積み重ねる。


これは必然だ。あの男が本気で殺す気にかかれば、わけもなくできることなんだ。

しかもこっちだって、同じスナイプを仕掛けた。弾丸は交差し、確かに奴のヘリを捉えていた。防がれたとはいえ、その死角を突いたんだ。

だが、それでも仕留め切れない。それは数の問題ではないと、迫ってくる弾丸が……命穿つ意思が示している。


その違いはなんだ。同じタイプの能力を使いながら、技能も拮抗していて、その差はなんだ。

答えは簡単だ。本当に、シンプルな答えだと悟る。


(……奴は、信じていたんだな)


たったそれだけ……数多の物語で使い古されているワード。それがオレ達の差。

信じていただけなんだ。鍛え抜いた技能を……積み重ねた時間を。

それも一変の淀みもなく、全身全霊を賭けていた。


自らを達人たらしめるものは、裏切りも、後悔も、何一つ生み出さない……生み出させないという覚悟があった。


だがオレは違った。そう、違っていたんだ。

それなりに修羅場をくぐって、自分の技に自信を持っている。それなりのもんだという自負がある。

だが淀みがあった。奴が百とするなら、オレは九十九……小数点以下の綻びがあった。


小さくともそれは差だ。その差は一体なぜ生まれたかも、もはや問いかけるまでもなかった。


(……あぁ……当然だよなぁ)


迫る、迫る、迫る……オレの間違いを、オレの愚かさを突きつけるように、光は届く。


(人の情を馬鹿にしつつ、それをアテにしてオレ達を引っ張ったクアちゃん……。
そのクアちゃんの作った薬を忌ま忌ましく思いながら、それを手段として取り込んだオレ……。
なんの違いもない。なんの差もない。それが淀みを生んだ。分かった上でも、一片欠けさせた)


それがオレの頭を捉え、潰し、淀みにより狂う程に研ぎ澄まされた肉と骨を断ち切った。

首が……頭がはじけ飛び、意識が乱回転を起こす。今度はオレの世界が乱れる。そしてオレにはもう、それを止める手段が何一つなかった。


(……納得だ)


オレは負けるべくして負けた。自分の命を、未来を開いてきた技を信じ切れず、正真正銘の達人に負けた。


(あぁ……本当に、納得だ)


それがオレの、半端なチンピラの限界だった。オレには世界を批評する権利なんてなかった。


(悪い、ムール。お前の仇も討てなかった……みんなも、すまねぇ)


こうまで突きつけられたら、もう笑うしかなかった。


(だがよ、すげぇ奴に会えた。こうなりたかったって……そう思える男に……会えた……。
だから…………地獄で会えたら、聞いて……くれよな……。オレの…………ばな…………し…………)


……これが、この無様さこそがふさわしいのだと、笑い続けた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『――ナイスショット』


ヘリがストームレイダーの制御で乱回転を止め、低空で安全機動を取り戻す。それと同時に、坊主の声が響いてきた。


「動けない的を狙い潰しただけだ。そこまでじゃねぇよ」

『二キロ単位ですよ? 十分そこまでのことです』

「……おう」


……ロビン・ナイチンゲール……アンタはすごい奴だったよ。

もし俺に一欠片の差がなかったら……ラグナを撃ったときのままへたれていたら、間違いなく死んでいたのはこっちだ。

まぁ、あれだ。


『でも非殺傷設定だったんですね』

「殺すには惜しい男だからな。……それに、レオーネ相談役への狙撃絡みも吐いてもらわないといけねぇだろ」

『……えぇ』


坊主のおかげで、殺すところまで追い詰める必要はなくなった。俺が有利になるようことを進められた……それだけだ。

何度でも言う、アンタは本当に凄い。アンタ一人で、俺やあの古き鉄を足止めして、スカリエッティへ届かないようにしていたんだからな。

……アンタの相方≪ムール・ランドリー≫については、俺も一緒に弔ってやるよ。日当たりのいい、日陰なんてない……逃げ場のない場所にな。


それでまぁ、機会があったら……酒でも飲み交わそうや。


「で、スバル達は」


坊主が麻薬の効果を無効化できなきゃ、無理な始末だった……そういう戒めは刻みながら、状況に思考を戻す。


「つーかヒロリスの姉御達はどうだ」

≪…………今連絡が来ましたよ。戦闘機人ナンバー1:ウーノを確保。
同時にシステム面での基地掌握は完了。追加のガジェットや兵器が出現することも、自爆などの恐れもありません≫

『スバル達は……うまく時間稼ぎしてくれているみたいですね。さすがはAVだ』

「あれ、マジで流したのかよ……!」

『シャーリーも喜ぶことでしょう』

「むしろ泣いて反省しろ!」


だがうまく行ってはいるんだな。それなら安心。


『ただ、スカリエッティがドライバーのぱくりで変身しています』


……なのに、一つ懸念事項が出てきたようで……坊主の表情は苦かった。


「なら、外は俺とフェイト隊長達で哨戒する。坊主は中に」

『必要はないですよ』

「信頼してんのか?」

『まさか。三億棒に振ったから、恨み辛みは持っていますよ。
ただ……』


……どうやら中には突入しないだけで、坊主は坊主なりにやりたいことがあるらしい。


『スバルとディードが……ウェンディ達が求めているものには、いくつか邪魔なものがあるな』

『そうなの。主様、そこを潰すだけでも』

『しょうがないかー』


その呆れた様子には、もう笑うしかなかった。


≪……言わぬが花ですよ、マスター≫

「分かってるよ」


マルバスヴィントの能力は説明した通りだが、ここにはいくつかの問題点がある。

まずアサシン的な強襲力や機動力が売りの坊主を、完全に下がらせ、フルバックとして動かす……それ自体が一つの矛盾だということ。

その場合、坊主に直接戦闘をさせないよう注意する必要もある。それをやらかすと、味方への支援も滞るからな。


だが、それも使い方次第だ。そういう奴だからこそ、必ず出てくる……そこを仕留めるなんて敵の裏をかけるし、何より……。


坊主が“前を任せてもいい”と思える仲間がいるなら、そいつらが前に出ているなら、それは矛盾じゃない。立派な信頼だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ここまでのあらすじ――。


「アンタ、まず男として責任を取りなさい。世界征服とかそういうのは、その後よ」

「そうだよ! 認知してよ!」

『なにをだぁ!? というかない! これはない! 明らかにねつ造だ! これについては私、完全に無実だぁ!』

「奥まで揃って満たしてあげたんでしょ!? そりゃあ結果が出るわよ! そりゃあお赤飯も炊かなきゃいけないわよ!」

『その覚えがないんだよ! 全く、これっぽっちも!』


スカリエッティが変身したので、シリアス台無しを覚悟で……アイツ制作のイメージビデオを見せつけました。そう、全部ねつ造よ。全部演技よ。

なお台本協力はシャーリーさんが……! そりゃあなんかエロゲーみたいな感じになると思う……いや、したことないけどね!? 私はほら、未成年だし!


「嘘吐いてんじゃないわよ! アンタ、よく考えたら身内が全員奇麗どころの女ってのもおかしいでしょ! それでフェイトさん達とか捕まえようとしたのもおかしいでしょ!
……絶対なにかしているでしょ! 正直触れたくないけどさ! そりゃあそうよね! 男だもの! アイツだって私の裸を見て、ウェイクアップしていたし!」

『君達の個人事情に巻き込まないでくれるか!? いや、待て! 本当に待ってくれ! 私は…………と、というか私……その…………経験、ないし…………』

「そうやってフェイトさん達の母性本能をくすぐって、あんな卑猥な形で辱めたのね……! このケダモノがぁ!」

「そうだよ。ティア……ケダモノだったよ。一晩に十回も…………あ、でもそれくらいなら普通なのかな」

『それが普通かどうかも分からないんだよ、私はぁ! というか……嫌だよ!?
自分がやらかしたことならともかく、こんなえん罪まで加算されて裁かれるとか!
君達も一応法の番人なら、もうちょっとこう、正統的にねぇ!?』

「こんなことをしでかしたテロリストには言われたくないよ! というかテロリストに人権なんてないでしょうが!」

『だとしてもえん罪はよくないよぉ! 私、テロリストだけど……なんかもうグダグダだけど、それだけはよく分かるよぉ!』


…………その瞬間だった。アイツの脇から”腕”が飛び出してきたのは。


『……っと』


そのガントレットに包まれた手には……装着している指輪には、見覚えもあって。

しかもその襲撃は察知され、あいつに……マダマに捕まれて、拘束されて……!


『…………くると思っていたよ、サンプルH-1』

『さすがに隙がないねぇ』


即座にアイツの腕から火花が走る……でもそれは禍々しいダークパープルのフィールドに遮られ、何一つ効果を発しない。


『物質変換の対策も混みか。今度はやて達にも、爪の垢を煎じて飲ませてあげてよ』

『君達を排除したらそうするさ。
しかし彼らを前に出し、混乱させた上での襲撃……作戦としては悪くないが、それは安牌過ぎる』


そこは、読まれていたか……! というかやばい! 空間接続であいつの居場所にも繋がっているから、そのままやられかねない!


『まぁいいさ。この力は君対策も兼ねていてね。せっかくだから味わってみるといい』

『お断りだわ』

『まぁそう言わずに』

『機械的暗示のドーピングで、同じ土俵に立ったと勘違いする奴の相手なんてさぁ』


……………………そこで、スカリエッティの動きが止まる。


『アークシンギュラリティビジョンだっけ? フェブルオーコードやSAWシステム……管理局の淀みや歪みを体現した、暗示による強化システム。
殺意や敵意を暴走させて、それで戦闘力を強化って理屈は分かるよ』

『…………まさか……』

『でもさせない…………お前は、もっと疑問を持つべきだった』


いや、それだけじゃ終わらない。

変身したスカリエッティの全身から、突如火花が吹き出す。同時に複眼がもがくように点滅し始めて…………。


『あ、あがぁああぁああああああああ!?』


スカリエッティは思わずアイツの腕を……砕かんばかりに握りしめていた腕を手放す。でも逆に、アイツがその手を掴んだ。

更に指輪の宝石が台座ごと射出。ワイヤーとなってアイツの全身を縛り上げる。


『デザイアドライバーへのハッキング開始。
投与ナノマシンの分泌物操作率、ランダム変動……。
アークシンギュラリティビジョンの機能、全カット。発動権限はマスターへの生態確認方式に書き換え』

『きみ、は…………』

『いくらメガーヌさん達の存在があるとはいえ、基地の全機能を停止させるようなことをなぜしなかったのか……。
そもそもそれを避ける形で、どうしてEMP攻撃ができたのか……。
ならそれを可能とするだけの情報が手元にある中で、お前が切り札としていたデザイアドライバーは無事なのか……もっと言えば』

『君、達は……!』

『“自分達が仕掛けた攻撃をやり返される危険は、もう終わったのか”……真剣に考えるべきだった』


そう……こんなくそみたいなねつ造映像を見せたのは、その時間稼ぎ。そういう疑いを完全にすっ飛ばす“ミスディレクション”。

それに引っかかったと、後悔するスカリエッティが揺らぐ。反吐を吐くように俯き、よろめき……。


『…………AAAAAAAAAAAAAAAA!』


獣のような叫びを上げながら、強引にワイヤーを断ち切った。宙を舞うペンタグラム達は自由軌道を描き、即座に指輪へと戻るけど。


「まだ、終わらない……!」

『あぁ、まだだ……私は、こんな決着では終われない!』


アイツは……ナノマシンで頭の中もぐちゃぐちゃで、立っているのもやっと。なのに、それでも踏ん張っていた。

未来予知みたいな能力ももうないのに、それでも……それでもと……。


『安心していいよ。僕もここで終わらせるつもりはない』


アイツの腕が消える。それにスカリエッティが驚くけど、アイツは……当然のように答えた。


『今邪魔したのは、このまま倒された場合、アークシンギュラリティビジョンの反動でお前に相応のダメージがいくからだ』

『……それも、覚悟の上だったのだがね」

『そんな麻薬に頼って壊れたら、ディードが……ウェンディとオットーも悲しむ』

『…………』


麻薬……あぁ、そうか。アイツがこのプランを言い出したとき、疑問だったんだけど……ローウェル事件のことを思い出したのね。

それで被害者と直に接したから。それで人生が傷つき、壊れる痛みを知っているから。


「……そうだよ、スカリエッティ」


だからスバルも、そんなものは必要ない……そんな未来はいらないと、笑って拳を握る。


「決着をつけて終わりじゃない。人生は……続くんだよ。呆れるほどに」

『……後悔しても知らないぞ。窮鼠猫を噛むという言葉もある』

「私達から噛みついているから大丈夫!」

「…………ふ…………」


その言葉にアイツは笑う。スバルも笑う。これから……命がけで戦うっていうのに。でも私も、ギンガさんも笑っていた。


「恭文、ありがと」

『別にいいよ。天使のためだし』

「はいはい。だべるのはそこまでよ? ここからは本気の喧嘩なんだし」


それにアンタは、最初から私達に任せて……自分は後ろで支えるって決めてくれていた。

フェイトさんやヴィータ副隊長が望んだ、”六課の一員としての有り様”を肯定することでね……!

だからこそ隙が突けた。それが一つの矛盾を孕んでいるからこそ、払えた枷がある。


これが……これこそが、アンタ達に仕掛けた最大最高のトラップ。まさか……想像もしなかったでしょ。


準マスター級ではなく、ペーペーな私達が……アンタを倒す切り札だったなんてねぇ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文も下がって、改めて戦闘開始。本当の意味で真正面から向き合っての喧嘩……正直怖くはある。

でも、負けるつもりはない。ただ相手を壊して終わるつもりもない。


(……母さん、これでいいよね)


この人を見て、思ったのは……憎いとか、殺してやりたいとか、そういう感情じゃなかった。

ただ悲しかった。どこにでもいる、家族を思いやる……人の気持ちが分かる優しい人って印象で。

確かに悪いことへ突っ走っちゃうときはあるけど、それでも…………傲慢かもしれないけど、なにかしたいって思った。


助けたいとか、そういうのとは違う。ただ、その気持ちを……抱えていた怒りを、憎悪を受け止めて、止めたくて。

……だったら私達は……そのために必要な力は……。


「ディード……あれ、やるよ……」

「はい……!」


聞き返しなしで答えてくれるのが嬉しくて、必死に……踏ん張りながら立ち上がれた。

……こっちだって、こういう状況を予測していなかったわけじゃない。だから用意していた……切り札を用意していた。


その発案者は恭文だった。夏休み、ギン姉と散々いちゃつきながら、協力を頼んでいたらしい。


――いい? バルバトスブレイカーとドリームバエルには、リミットブレイクを搭載している――

――リミットブレイク!?――

――戦闘機人としてのスバル……そしてディードの能力を十二分に使うためのモードだ――


だから私とディードに託された。特に私は、ギン姉とは遺伝データも、特性も近いから。

……そもそものことを言えば、私達は……クイント母さんの遺伝情報が盗用されて、そのクローン的に生み出された戦闘機人だから。

でも……その痛みを生み出す事実すら、この状況を打開する光明になってくれた。


私達の人とは違う身体が……強い身体が、少しだけの無茶を受け止めてくれるから。


――……ただし、発動時間はそのときの体調によって変化するから、平均で四分前後。
それを過ぎたら安全リミッターがかかって変身も解除される。だから、絶対に使いどころを間違えないで――

――数分だけの限界突破……安全性優先とはいえ、かなりリスキーですね――

――使わないのが一番だけどね――

――分かった。それで……発動方法は――


ライザーにキーを差し込んだまま、スイッチを三連続で押し込み、トリガーを引く。


――更に発動ワードも必要……当然これは――

「「…………変身!」」


その瞬間、私達の魔力……エネルギーの波動が、全身にほとばしる。


≪≪――リミットブレイク!≫≫


身に纏っていたジャケットや各部装甲に、その波動が焼結。ガンプラのクリアパーツみたいに煌めき、輝き……辺りに静かなプレッシャーをまき散らす。

でもそれもすぐに静まる。一片の無駄もなく、溢れる力を閉じ込めるようにして……それを背負う重圧はあるけど、大丈夫。


≪イニシャライズ! ――リアライジングブレイカー!≫

≪イニシャライズ! ――リアライジングドリーム!≫


これは背負いきれる力だ。


――――The only one who can stop you-the one who flies towards your dreams!――――
(特別意訳:お前を止められるのはただ一人――夢へ向かって飛ぶ者だ!)

『リミットブレイク……!?』


これは、私達を羽ばたかせる力だ。


『君達の技量で、その絶大な出力が使いこなせると』

「できる!」


確かに無茶だけど、無理じゃない。だってこの力は、ただのエネルギーや機構じゃないから。


「あなたが世界の、組織の淀みを体現して“それ”なら、私達は希望を信じる!」

「託し、託され……誰かと笑顔で繋がっていく未来を、悪意に負けない明日を信じます。
だから――」


そう、何度でも言える……ううん、言い続ける!


『お前を止められるのはただ一つ――』


ディードと、ギン姉と、ティアと……みんなで声を揃えて、スカリエッティを指さす。それからすぐに、自分を親指で指して。


『私達だ!』

≪The song today is ”REAL×EYEZ”≫


一気に加速――闘志をたぎらせるスカリエッティへと、全速力で飛び込む。

音楽が終わったときが、変身解除の瞬間……それまでに全部の決着を付ける!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


明日を、未来を……悪意に負けない、か。なんと眩しい。なんと輝いた可能性だ。

だがそれは私も望んでいたものだ。娘達も望んでいたものだ。なのになぜ負ける。なのになぜ差がつく。

……その答えを知るのなら……やはり、戦うしかない。


『たとえ未来が視えなくとも……いや!』


だからこそ笑い……感謝を込めながら、飛び込んでいく。ナノマシンによる猛烈な頭痛や吐き気はあるが、それより歓喜が勝っていた。

ここで私の身勝手に……私の我がままに付き合い、最後まで殴り合ってくれる彼女たちに、心から感謝していた。

その感謝を、暴力でしか返せないことに申し訳なさもある。だが、最後の最後まで抗ってみる。


これは、勝ち負けではない。もはやそれでは決着しない。ただ答えを確かめるための衝突なのだ。


『私に、もうお仕着せられた未来はいらない!』


確かにアークシンギュラリティビジョンによるブーストはなくなった。だがその素養と出力は彼女達や娘のライザー以上。

ゆえにまずはスバル・ナカジマ……打ち込まれたリボルバーナックルめがけて右ストレート。


拳と拳が衝突した瞬間、何かが弾けるような感触を得る。結果私の拳は脇に弾かれ、ボディブローの連打を食らう。


『む……!』


それを払いのけるように左ミドルキック。彼女にはガードされるが下がってもらい……すぐさま二時方向のディードに対処。

右腕で彼女の斬撃を防御するが、それもまた爆発を伴う一撃だった。その圧力に押され、軽くたたらを踏む。

そのまま彼女達は肉薄し、幾度も幾度も……だがなんだ。攻撃の通りが明らかに悪い。向こうの攻撃に、妙な衝撃がある。


それをなんとか捌き、ディードの斬撃には腕を取っての投げで。スバル・ナカジマの強襲には右後ろ蹴りで払いのける。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!」


するとそこを狙い、あのメタルホッパー達が襲い来る。打ち込まれた巨大な拳を左ストレートで撃ち砕く…………いや、それらはすぐさま分散。

スバル・ナカジマとディードの拳と刃にまとわりつき、二人が加速…………今度は反応できなかった。

破裂音が響いたかと思うと、顔面を殴られ、胴を流れる。それも幾度も、幾度も、幾度も……!


『ちぃ!』


アクセラレイター・オルタで加速。強引にその強襲の網から抜け出すと、今度はティアナ・ランスターの弾丸が襲う。

すぐさまバリアを展開し、全て防ぐ…………が、それらの弾丸が着弾直前、メタルホッパーによってコーティング。

物理弾によってバリアが相殺される。金属は溶かされたチョコのように消失し、私には次々と魔力の弾丸が突き刺さる。


それによりバランスを崩し、床に倒れるが……すぐに起き上がり、突撃する二人の拳を、その刃を両手で受け止める。

が…………耐えきれない……地面を削りながら押し込まれ、結局適当に脇へ弾き、スバル・ナカジマには左エルボーを。ディードには右バックブローで胴を叩くしかなかった。


『超高速移動能力……フェイト・T・ハラオウンの、真・ソニック……それ以上だと!』


だが二人は揺らがない。踏ん張り耐えきり……。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


また拳が私の胴を捉え、刃が両肩から袈裟に打ち込まれ……特殊金属でできた装甲に、深い傷が刻み込まれる。

ディードは更に刃を返し、メタルホッパーを両刃に纏わせ……このフロア全体を切りつけるような、巨大な斬撃を放つ。

炎を伴うそれはオートバリアの出力すらはねのけ……ガードした私の腕すら斬り裂き、爆発の帯を刻み込む。


その衝撃に焼かれながら、地面を転がり……この異様さを、改めて解析する。それだけは、そうする機構だけは、生かされていた……。


『ここまで得られたデータが……いや、もはや意味がないのか』


あれは文字通り爆発だ。リミットブレイクによって生まれた余剰出力を、全身に纏わせている。それ自体が一種の炸裂装甲となっているんだ。

それもただ防御的なものではない。纏っていたジャケットや武装すらも巻き込んで、爆発……その加速力で、あのレベルの超高速戦を……アクセラレイター・オルタすら超える力を発揮している……!

本当に無茶苦茶だよ! ヴァリアントシステムで即座に装甲が再生されるとしても、丸裸な状態を晒す部分はあるだろうに!


だがそれでも……あぁそうか。これを……信頼で使いこなせるのが、彼女達なのか!


『一つ分かった……。
まず君達が、彼を信じていること……それが、未来を凌駕するという覚悟に繋がっていることが』

「……それ、少し勘違いだよ」


それでも……まだ終わらないと、立ち上がる私に、スバル・ナカジマは拳を握り、また突撃の構えを見せる。

ディードも同じだ。決意は揺らがない……何一つ、揺らいでいない。


「未来は分からないから未来なんだ! 予測を超えられるから未来なんだよ!
その力はあなたにも、みんなにもある!」

『君は……』

「悪意なんかに負けないで! ううん……認めて、受け入れて……それでもと開く未来を諦めないで!」


その言葉には笑ってしまった……。


『あぁ、そうだ……』

「私がまず示す! 私という限界を超えて……未来を変えて!」


再びアクセラレイター・オルタを発動……真正面から彼女に突撃する。


『私は……』


彼女もそれに答え……私達は、お互いに右拳をたたきつけた。


「未来図をぶち抜いていく!」

『それが見たかった!』


笑って、笑って、笑って…………その衝撃が、その圧力が耐えきれず爆発する。

私達は揃って吹き飛び、それでも数十メートル下がり、踏ん張って停止。


………………そこで放たれる弾丸。咄嗟に回避行動を取るが、その八発の弾丸は放物線を描き、地面に着弾……その瞬間に爆煙を次々と生み出す。

目くらまし……しかもこちらのシステムにも対応したチャフも込み。となるとここで来るのは強襲か。


だからこそ、デザイアドライバー上部の≪デザイアリローダー≫を連続プッシュ。


≪悪意・恐怖・虚構・怠惰・傲慢・無知・偽善・栄光・楽園・繁栄――ラーニングエンド≫


本来はアークシンギュラリティビジョンの能力を最大に生かしたものだが、万が一に備え、フルドライブのみの使用もできるようにしておいて正解だった。


≪パーフェクトコンクルージョン≫


確かに視界は悪い。だが…………渦巻く悪意のエネルギーが、最高評議会への憎悪が、右足に収束していく。

そのほの暗い炎に煽られ、煙が揺らぐ。否……一瞬で払いのける。

そうして真正面から、彼女が……スバル・ナカジマが現れた。


「…………一撃……必倒!」


左手に魔力スフィアを展開し、右拳を振り上げて……。


『……終わりだよ、スバル・ナカジマ』

「ディバイン――」


真正面から、堂々と立ち向かってくれた彼女に感謝と尊敬の念を送り……非殺傷設定ではあるが、最大威力の攻撃を叩きつける。


「バスタァァァァァァァァァァァァァ!」

『……ふん!』


彼女がバスターを放つよりも早く踏み込み、右足を突き出し……その胴体を捉えた。







ザ・ア ン ブ レ イ カ ブ ル



瞬間、憎悪の炎がはき出される。彼女は……私の前方ははき出された炎によって焼かれ、壁を何枚も抜き、このフロアを半壊させる。

その爆煙が止み…………彼女は……それでも立っていた。それでも私の右足を受け止め、打ち震えていた。


『……尊敬するよ。心から……君の闘志は、吹き飛ぶことすら許さず、進み続けるのか』

「………………そりゃあ、そうだよ」


そのとき……彼女の口から漏れたのは違う声だった。

そしてオレンジ色の光が目の前で弾ける。目の前にいたのは……私が蹴っていたのは……!


「勝ちに行くんだから……!」

「タイプゼロ……ファースト……!」


彼女は右足を……私の足を掴み、笑って耐えていた。しかもジャケットは発光していた。スバル・ナカジマやディード達と同じように。


(あの特殊システムを搭載していた……!? それで特殊金属アーマー≪メタルホッパー≫を一極化させて、私のフルドライブを受け止めたのか!
姿が変わったのは……ティアナ・ランスターの幻影魔法! だが、爆発……一瞬視界が遮られたタイミングで!)


無論ダメージはある。だが直撃ではない……ぎりぎりのところで耐えていた!

その代わりアーマーは衝撃から、粉砕されるが……それでも寸前で止まり、衝撃を殺し…………そこで、青の光が走る。


この後に及んで、こんな自爆を当然とするはずがないと……そう動揺していた自分に、思い違いに、その光が気づかせてくれた。


(馬鹿か私は! 彼女は……彼女達は! それだけ彼が作ったものを、託されたものを信頼しているんだ!)


足を引こうとする。だがその瞬間、全身に痛烈な衝撃が走る。


「――!」


ファーストの両手から発せられた≪振動破砕≫。それが私の足を……肉や骨を、引きちぎらんばかりに走っていく。

当然この特殊スーツでは対策を立てていた。だが、彼女はその装甲を突き破り、指で私の足を……肉を穿っていて……!


(戦闘機人の力で、強引に……いや、これは……特殊装甲の変異によるネイル! 直接身体を穿たれては、スーツも意味がない!)

「これが、正真正銘……本命の!」


崩れ落ちる……身体が崩れ落ちる。だがそれでも踏ん張り、ファーストへ組み付こうとする。その両手を伸ばす。

彼女を引き寄せ、盾にすれば打てない。そう信じていた。だからこそ…………両腕は、突如上から降り注ぐ誘導弾によって撃ち抜かれ、強制的に下ろされる。

更にそんな私の身体を、燃ゆる蛇腹剣が縛り上げ、側頭部に衝撃が走る。


……自分の頭にも弾丸が撃ち込まれたと悟ったのは、この瞬間だった。

実弾と魔力弾……両方の衝撃が、質の違う痛みが、混乱を一瞬引き延ばす。


「させるわけがないでしょ……!」

「そういうことだ!」


その間にファーストは私から離れていく………………あぁ、だが……だが……。

私には、それを覆す未来がもう、見えない…………。


≪ブレイカー!≫

≪ドリーム!≫

(…………スペックでは、こちらが上だった……)

≪≪リアライジングドライブ!≫≫


あぁ、もう遅い……全てが遅い。


「「リアライズ――!」」


振り返ると、セカンドが魔力スフィアを左手で形成。そのまま飛び込み、右拳を振りかぶっていて。

更にディードも、蛇腹件を引き寄せながら……燃ゆる左の刃を振りかぶっていて。


「インパクト!」

「ストラッシュ!」


焔の剣閃が私を両断し、空色の光が私を包み込む。

文字通りの必殺攻撃。零距離から放たれた、バリアも、装甲も穿つ挟撃。






カ ― ズ ク ロ ス イ ン パ ク ト!



二色の力が混じり合い、爆発の帯を作る。その嵐に飲まれ……吹き飛ばされながら、視覚を……眼球ごと潰されるような衝撃を味わいながら、痛感する。


(ラーニングも、完璧だった。
この形態ならば、サンプルH-1も倒せただろう。
あぁ……それでも……だとしても、勝てなかったのは…………)


これがケジメ……敗軍の将としてのケジメ。

全ては必然だったのだろう。痛みとともに消えていく意識の中で、ようやくそれを悟った。


(私には何一つ……何一つ……積み重ねることが、できなかったからだ)


スペックではない。ただ知識を得ただけではない。それだけなら、この姿で勝利していた。

それを血肉とする鍛錬……それを行ったと自負できるだけの経験。それが生み出す発想力に負けた。

いや、そもそもの話を言えば…………。


『……あぁ、そうだよ。たとえ奴らへの嫌みだったとしても、お前は憎み、払おうとした淀みに身を委ねた。その力を、未来をよしとした』


音楽が終わっていく中、サンプルH-1から声が届く……。


(そう、そこが私が犯した、最大の間違い。サンプルH-1が対策を整えられたのも当然だ)

『トイフェルドライバーを改悪したのだってそうだ。
柘植のやり方を……ダンケルクとキュベレイのやり方を再現したのだってそうだ。
……その時点でお前は、自分から勝つことを捨てたんだよ』

(あぁ、私は……結局この程度だったんだ)


世界を破壊できるほどの力も、度胸も、覚悟もなかった。

私の半生や屈辱、怒りなどはなんの意味もなかった。


第55話


彼女達が……娘が機動六課で積み重ねた数か月に比べたら、粗末なほどに軽く、つまらないもの…………だった……のか…………。


『未来図をぶち抜いていくのは』


(第56話へ続く)








あとがき


恭文「というわけで、難航していた最終決着。もう次回からはエピローグです。これがまた長くなるんだけど……今書き上がっている分だけでも二話くらい」

古鉄≪ゆりかごの顛末とかもありますしね。でもお待たせしました≫


(なかなかまとまらなかった……)


恭文「で、今回出てきた新要素のアイディア絡みがこちらです」


◆◆◆◆◆


※リアライジングモード

バルバトスブレイカーとドリームバエル、メタルクラスタジャスティスの隠しモード≪リミットブレイク≫。

万が一マスター級、または無効化できなかったライズキーによる変身などでスバル達が窮地に陥ることも想定し、恭文が搭載した奥の手。

使用デバイスともどもリミッターを解除するのみならず、装備した武装をあえて分解し、瞬間再装着しつつ分解した一部をエネルギーとして取り込み、吐き出す≪リアライズ≫という機能が特徴。


この機能により理論上は、真・ソニックなどを超える機動力とパワーを発揮することが可能。

更に基本となる装甲やバリアジャケットもそれに追従できるよう、リミッター解除段階から調整されるため、使用者への負荷は最小限のものとなっている。

説明だけなら自爆に等しいものだが、ISの運用において行われる瞬間加速≪イグニッションブースト≫を応用した技術であり、その安全性は保障されている。


理論上は全てのライズキーで発動可能だが、使用者よりデバイスへの過負荷が大きいため、長時間の発動は不可。

更に全員のバイタルに合わせての調整時間もなかったため、戦闘機人であるスバルとディードの使用を前提にセッティングされた。

(これは同じ戦闘機人であるギンガから取ったデータを元に調整すれば、少ない時間で有効かつ有力に調整ができるためである。
ギンガがマダマのフルドライブを受け止められたのも、このシステムによる出力増強があればこそ。つまり二人を見せ札とした≪ミスディレクション≫である)


使用者の身体保護のため、生体リミッター≪バイタルサウンドアラーム≫も併用される。

これは生体データに基づき、使用者の限界手前までの発動時間を予め計測し、それに応じた音楽を流すというものである。

変身時間が変動する上、一度発動するとキー自体にメンテナンスの必要が生じるため、これのみでの長期戦はそもそもできない。


しかし今回のように大将戦へと持ち込み、味方のサポートも受けられる場合には、十二分に有用な機構となっている。


◆◆◆◆◆

※マルバスヴィント

・変身エフェクト

ベルトが展開してから、フラウロスライズキーを取りだし、スイッチオン。

≪チェイン!≫

続けてドライバー右側のタッチパネルにスキャン。

≪オーソライズ!≫

ライズキーを手元で回転……折りたたまれていたブレード部分を開く。

「変身!」

ドライバー右側のスロットに装填。閉じられていた左半分のカバーが開き、円形のクリアパーツも輝きを放つ。

≪プログライズ!≫

クリアパーツから……納められたライズキーから飛び出した数々の装備。

上半身とフルドレスの内側には、シャマルさんと色違いの蒼いローブ型ジャケットを装備。

ジガンの上から両人差し指と中指に、指輪四個≪ブーストデバイス クラールヴィントII≫を装備。

最後に、頭に……これまたシャマルさんとお揃いの帽子を装備して、変身完了。

≪痛いの飛んでけ! ヒーリングッド!
――マルバスヴィント!≫
――Become a breeze, heal and support everything――
(特別意訳:吹き抜ける風となり、全てを癒し、支えよ)


※概要

ベリトクリエイターと並ぶフルバック用ライズキー。

バルバトスブレイカーなどと同じ初期タイプだが、念のため用意していた切り札の一つ。


ベリトクリエイターがゴーレム戦を中心に立ち回る『直接戦闘能力を有したフルバック』なら、こちらは更に後ろ……当初ヴィータやフェイトが想定した、恭文の理想型。

前線での戦闘は仲間に任せ、自身は強力な回復魔法や支援魔法で味方を支える最後衛型となる。

これらはクロスボーンフォーム(基本フォーム)との兼ね合いも取られており、接近されても恭文の技量で相応の戦闘力を発揮できるのも強み。
(無論最後衛がそれだけ接近され、支援を止められるということ自体は大問題だが)


AMC装備使用が前提とされる戦闘に置いては、癒やしと補助の効果はより絶大となり、使用するブーストデバイスの補助もあり、恭文でもシャマル並みのロングレンジサポートとサーチが可能になる。

……というより、開発時間短縮のためシャマルに迷走した件をツツき、クラールヴィントや保有魔法を根こそぎ吐き出させ、複製し、AMC装備として調整した。

そのためバリアジャケットのデザイン、性能、ブーストデバイスの形状からシャマルとクラールヴィントのそれに近く、ぶっちゃければ色違いなだけである。


なおシャマル本人は、これをペアルックと捉え喜んでいたが……当然どつかれた。当然のようにどつかれた。


※注意点

最後衛スタイルという括りのため、敵の接近や支援以外のことに手間を取られることそのものが『味方への支援が滞る』というリスクを抱えることになる。


二つ目に恭文の攻防出力は決して高くないため、回復・ブースト魔法はともかく防御魔法についてはアテにできない。

そのため前線に出る味方もそこを理解した上で、立ち回る必要性が出てくる。


更に言えば『アサシン的強襲能力と最前線での生存能力が高いスーパーオールラウンダー』を、最後衛に下がらせることそのものがイレギュラーであり矛盾を孕む部分がある。

しかしこれも状況次第であり、”だからこそどこかに潜んで隙を窺っている”、”必ず前に出てくるから、そこを仕留める”という敵の裏をかくことができる。

そうして仕掛ける心理戦こそがマルバスヴィントが持つ最大の武器となるが、それも恭文自身が元々それを得意とし、『信頼して前に送り出せる仲間』がいればこそとなる。


※クラールヴィントII

両手人差し指と薬指に装備する指輪上のブーストデバイス。(計四個)
元祖クラールヴィントはアームドデバイスに定義されているが、恭文の特性を鑑み、より支援能力に特化する形で製作された。

指輪上のリンゲフォルムと振り子型のペンダルフォルムへの変形も、カートリッジシステムを内蔵していないのも原典通り。

ただ恭文自身がこの手の支援特化デバイスの扱いにはまだ手慣れていないので、アルトアイゼンとジガンのサポートを受けつつ、なんとかシャマルに及ぶかどうかというレベルで収まっている。


・リンゲフォルム≪Ringeform≫

魔法補助を強力に行える基本形態。蒼と緑の石が嵌められた指輪で、シャマルはこれでまたテンションを上げた。


・ペンダルフォルム≪Pendelform≫

指輪に入っている石が分離、拡大して振り子(Pendel)となり、指輪本体とワイヤー(再構築可能)でつながった状態。
通信・運搬などの際に使用する。
この振り子は自在に動き、ワイヤーは伸縮式。旅の鏡(後述)を仕掛ける際も、この紐でフレームを構成し、空間接続を行う。


◆◆◆◆◆


恭文「はい、リアライズはもう言うまでもなく、あれだね」

古鉄≪あれですねぇ。≫

恭文「それで五つめの通常ライズキー。あえて六課始動時に理想とされていた流れを踏襲する形に」

古鉄≪スバルさん達に前を任せると、腹を括ったからこそ使える装備ですね。なお使用魔法もシャマルさん準拠……時間がなくて完コピでしたから≫

恭文「まぁなんにせよ、これで戦闘は終わり……もうドンパチもなくマジでエピローグ! なにせ今回はミサイルも、爆弾も、もう出尽くしているからね!」

古鉄≪それはフラグでしょ≫


(そんなフラグを乗り越えられるかどうかは、また次回……これもさくっと近日中に。
本日のED:J×Takanori Nishikawa『REAL×EYEZ』)


恭文「しかしアークグラシャラボラス……本領を発揮させるとマダマ死亡コースもあったとはいえ、なんとか穏便に片付けられた」

フェイト「全く穏便じゃないよ!? というかなに、あの台本! シャーリー!」

恭文「NTR同好会での経験が生かされたんだよ。笑ってあげようか」

ギンガ「笑えないよ! いくらきわどいところは見えないようにしているからって……さすがにね!? というか、キャロちゃんがノリノリだったし!」

恭文「まぁそれもよい思い出としてすっ飛ばすけど…………実は12/24はセシリアの誕生日でもあるのです! セシリア、誕生日おめでとうー!」

セシリア「ありがとうございます。……ただ、今日は少し遠慮をいたしますわ。雪歩さんが先約ですもの」

恭文「ちなみに、遠慮がなかったら……」

セシリア「それはもう……このわたくし、セシリア・オルコットがあなたの一番だとしっかり刻み込みます」

雪歩「な、なら……一緒に頑張りましょう!」

恭文「雪歩、落ち着いて! その前にタン……持ってきた牛タンからだから!」



(おしまい)






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