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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第54話 『それでも問いかけ続ける正義』


「EMP…………!」


クアットロが仕掛けた攻撃! クアットロの場合は核ミサイルだったが……それを、平然と仕掛けてきた。


…………だからウーノは……恐らくセイン達も行動不能に陥っている!

戦闘機人である彼女達がこの攻撃を受ければ、身体機能にも異常が生じる! それほどに強烈な電磁波を送ってきた!

もちろん迎撃に出したラプターやガジェット達も壊滅している! それどころか増援も出せない!


どこまで攻撃されたかは分からないが、出撃経路も全て自動制御≪オートマティック≫! こちらから指示を出さない限りは手動でこじ開けるしかない!

だがその指示を出す手段もない! もちろん外に出たルーテシア達への連絡手段もだ!


「完全にやられた……このための夜襲か!」


彼らはこの基地の構造を完全に把握している! 私がどの辺りにいたかも、おおよその見当を付けた上で戦略的攻撃を仕掛けてきた!

まずタイプゼロ・セカンド達が囮となり、その間に飛行船の撃墜準備を整え、実行! だがそれすら目くらまし!

本命はEMP攻撃により、基地機能を奪い、我々を連携させず、各個撃破すること! 当然彼らはEMP対策はきっちりしている! それで自爆するわけがない!


ここがゆりかごの研究施設を兼ねているため、郊外にあるのも利用された! 我々は……元から”こういう攻撃”を受けやすい立ち位置にいたんだ!

だが油断した! 人質がいるからと、六課が……管理局が動けないから”戦略級攻撃はあり得ない”と決めつけてしまった!

その判断すらさせないため、油断しやすい深夜にこの騒ぎだ! これは、私の敗北だ……。


私が指揮官として、父として、皆を守る気概と、知恵と、強さを携えなかったがゆえの……敗北だ――!


「ど……く…………タ…………」


悔しさで唇を噛みちぎる寸前まで思い詰めていると、声が響く。

慌ててウーノを揺り起こすと……彼女はうつろで、焦点も合わない目で……私を見て……。


「いって……ください……。最下層…………ラボなら…………あれ、が……」

「ウーノ、喋らなくていい!」

「急げば……間に合うかも、しれま……せ…………ん……。
最高傑作…………アーク、グラシャラボラスなら……きっと……!」


ウーノは私の襟首を掴み……震える手で突き飛ばす。

たとえ自身が倒れ、ゴミのようにの垂れてもだ。


「そうして、私達の、夢を……ドクターの、夢を……!」


………………もう私に、迷う権利などどこにもなかった。


「あぁ、分かっているよ」


娘に懇願されたのだ。ならば行くしかない……だから私は、彼女に背を向け走り出す。

一縷の望みに書けて……振り向くこともなく……彼女を、道具のように捨て置いて……!


「何も……何一つ、無駄にしないよ……ウーノ――!」


間に合わないかもしれない……途中で彼女達に鉢合わせでもしたら、それこそおしまいだ。

だから賭ける……たとえ外の誰もが倒されたとしても、私一人でこの祭りを成功させる。夢を叶えるのだと、自分を賭ける。

それが……その程度のことが、私には絶対に必要な、払うべき対価だった。


……それを払いそびれていたことが、惜しんでいたことが、私の罪だった。




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ルーテシアの嬢ちゃんに引っ張られて、外に出たまではよかった。適当にあの坊主達を餌に、恭文とまた楽しく遊ぶ……そういうコースではあった。

だがまぁ、そうしたらどうだ。各々好き勝手に対処し始めた途端、何かが走った。

その正体は最初分からなかった。だが……俺のデバイスと、これまでの経験が上手く生きてくれた。


「おい、童子切……おい……」

≪……そう何度も呼びかけずとも、聞こえています……主≫

「そう言うな。知ってのとおり臆病者でな」


空で何かが破裂したというか、そういう感じはあったが……それとて正しい認識かどうか理解できていない。

ただ一つ言えるのは、こういうのには少々覚えがあるということだ。


「で、アジト内部との通信は」

≪一切が途絶……少なくとも我々がアクセスできる区画は≫

「もうちょっと媚びを売っておくべきだったな。……EMP攻撃か」

≪間違いなく。以前機能停止した際と、似た波長……電磁パルスが観測されました≫

「年は食うものだな。こういうときに役に立つ」


EMP……クアットロがやらかしたやつだが、似たような電子兵器破壊攻撃というのは、以前やり合ったマフィアで受けたことがある。

それで童子切については、その手の対策を整える改造も施していたんだが……さて。


「セッテ達は大丈夫だといいんだが」

≪かなり広範囲かつ強力な電磁パルスです。こちらも機能の幾つかに制限が出ました。術式サポートなどは一切できないと考えてください≫

「いつものことだろ。……まずは砲台を潰すところか」

≪肯定……仮に戦闘機人達が無事でも、二度・三度と攻撃を受ければ、どうなるか不明≫

「この近辺にはいるはずだが……さて」


……そう言いながら童子切を抜刀。背後に回ってきた影を……打ち込まれた蒼い鉄輝を、こちらのデスストリームで迎え撃つ。

俺達はまた、あのときのように…………いや、コイツは恭文じゃなかった。

だがそれでも刃を打ち合わせ、滾らせ……笑いながら振り抜き、お互い左拳を打ち込んでいた。


友情を確かめ合うように……命を奪い合うように打ち込まれた拳がぶつかり、ギリギリとせめぎ合う。


「……やぁ、執務官殿。副隊長の仇討ちか?」

「そんなところだけど……私としては、生かして捕まえるつもりだから」

「できるといいなぁ……」


拳をお互いに引き、今度は袈裟・逆袈裟と刃をぶつけ合い、つばぜり合い…………そのまま左に走り、肩をぶつけ合う。


≪……特別に打ち上げた私の刃にも揺らがない。さすがと言いましょう、閃光の斧≫

≪その言葉、誠意を持って返しましょう≫


すかさず足を掬ってやるが、奴はバク転しながら距離を取る。

そこを狙い三連の刺突……だがきっちり見切って回避を取ってくる。

返す刃も金色の魔力刃……バルディッシュで防ぎ、払いながら懐へ入り……すくい上げるような刺突が放たれる。


それを左スウェーで避けながら、一気に地面へ転がる。こちらも返しの薙ぎ払いが打ち込まれるので、なんとかやり過ごす……その上で左掌打。

顔面を狙い、指を曲げて、突き立てるような一撃に対し、奴はバルディッシュの柄尻で防御……同時に電撃を迸らせる。

その爆発に溜まらず下がり……軽く焦げたスーツの上から、息を吹きかける。


「一張羅に傷を付けないでほしいものだな」

「……目つぶししようとした人に言われたくはないよ」

「ほう……よく鍛えてきたと見える。
だがお前達の活人剣じゃあ、殺人剣には」

「それは、あなたが正義を諦めたから?」


ほう……挑発関係には弱いタイプと聞いていたが、冷静に返してくるか。それにはつい肩を竦めて……。


「剣一本で何ができるか……あなたは理由ややり方はどうあれ、正しいことをしようとした。
……だから」


不意を突くように踏み込み、斬馬を打ち込む……それは確実に、奴の首を取れるものだった。

だが俺が斬り裂いたのは、奴の残像のみ……リミッターがかかった状態でこの動きなのかと、つい笑ってしまった。


(一度見られた技とはいえ……研究して対処するか……!)

「…………スカリエッティに付いたのかな!」


飛び上がりながら打ち込まれた片刃剣を、今度はこちらが見切って左スウェー。

避けた直後に顔面へ蹴りを打ち込むが、それはすれすれで回避……すかさず足を返し、首に回しながら身を捻る。

もう片方の足も使い、奴の身体を挟んで強引に投げ飛ばすと、奴は地面に叩きつけられながらも転がり……そこを狙い踏み込んで蹴り上げ。


バルディッシュの柄でガードされるが、奴の上半身が上がった……そこを狙い刺突……!


≪Sonic Move≫


高速移動魔法の残像を切っ先が捉えた直後、今度はこちらの横っ面に蹴りが叩き込まれる。

咄嗟に左腕でガードするが、派手に雷撃が爆発し……つい舌打ちしながら下がる。


「……攻撃してきたってことは、図星みたいだね」

「実戦で隙だらけな奴を狙っただけかもしれないぞ?
というか、お友達になりにきたなら、喫茶店が開いている時間に出直してくれ」

「悪いけど、これが私達の戦い方だから」

「……そうだったな」


あぁ、そうだった。コイツらは正義を貫ける力も、状況もあった。俺とは違う……俺とは、全く違う……っと、駄目だな。

恭文ではなくコイツがきた時点で、気にするべきことがある。読み取るべき事項がある。


「だが恭文はそのつもりもないようだなぁ。ここまで姿を見せず、EMPなんて持ちだしたのが何よりの証拠……容赦なくすり潰すと」

「…………それについては、あなた達も悪いと思うよ!?
核ミサイルとか毒ガス飛行船とか……ヤスフミのトラウマを散々持ちだしてきたんだから!
おかげで私達も散々振り回されたんだよ! あんまりに手段を選ばないから、どう自首させようかって相談しているところなんだよ!」

「俺は雇われの身だ。そういうのはスカリエッティに言ってくれ」

「言うよ! あとで言うよ! あなたも含めて、拘置所でたっぷりとね!」


その言葉にはつい……戦いの場ということを忘れるほどに笑ってしまった。


「おいおい……生かして俺を捕まえるつもりか?」


その結果がどうなるかは、明白だろうに……シグナムもそうだった。

アイツについては俺も無礼だったと反省はしているが、それを見てなおそうくるとは……。


「殺人剣……あなたの領域で勝負するよりは、ずっと勝ち目があるよ」


…………だが、その笑みは続く言葉でかき消されてしまう。


「それにエリオやディードへのやり方で分かった。あなたは”同類”じゃないと本気を出せない……出そうとしない」

「…………ほう、そうくるか」


だったら、自分達の領域へ引きずり込める……かもしれない。

だから自分がきた……恭文ではなく、シグナムでもなく、純粋な局の魔導師である自分が……か。

思った以上に女狐で、またどんどんと……楽しくなっていく。


「俺には女性を見る目がないようだ。
シグナムに続いて、お前の有り様も見損なっていた」

「……私もあなたと大して変わらないよ。
自分の信じていたものが……夢見ていたものが嘘も含んでいたと知って、今だって逃げたくて仕方ない」


そう言いながら奴は、愛機を……金色の刃を右に引く。

白いマントを羽ばたかせながら、こちらを見据え、ただ一閃を……それが放たれる瞬間を狙っていて。


「だけど……私には踏み込む理由があるから」


奴は本気だった。

殺人剣と活人剣……その違いを、その差を理解しながら、あえて後者を信じていた。

自分に人を殺す技を振るう力も、覚悟もないと……弱さを認め、それでもと突きつめてきた自分を信じる心。

その有り様は、手にした刃の如く鋭く、強く打ち上げられていた。


「なるほど……な」


つい小さく呟いていた。

なぜこの女が隊長で、シグナムほどの豪傑がその補佐に甘んじていたのかと……疑問ではあった。

だがこの女もまた強者だった。迷う自分を正し、そうして強さを得ていく覚悟があった。


となれば……。


「いいだろう。俺も長々と相手をするつもりはない」


状況を忘れ、沸き立ってしまうのが俺の悪いクセ。斬馬の構えを取り、奴の覚悟に向き合っていく。


「――すぐに終わらせてやる」

「――やってみればいいよ」


その言葉に感謝を込め、デスストリームをサイド打ち上げ……踏み込み、鋭き殺意を叩きつける。

それは奴の黄金色の刃と交差し、俺達は互いに振り向き……それぞれ違うものを狙い、更に斬撃を叩きつけていく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


夜の進軍は続く……哨戒を続けるガジェット達を、ヴォルテールが、私とエリオ君を乗せているフリードが破壊していく。

あるものは踏み潰し、ある者は火球で払われ、そしてある者は放たれる熱線で大地ごと両断される。

ただそれも、空に違和感が走る前のこと。今はもう、この場で稼働しているガジェットも、ラプターもゼロだよ。


あとはどこまで予定通りに進められるか……私が押し通せるかという話だった。

そういう意味では、究極なる一も今回は切り札じゃない。分かりやすい見せ札であり、相手の思考を硬直化させる一手。

私達なりの……身勝手でこんな喧嘩を始めた私達なりの、冴えた一手を叩きつけるための前振り。


不思議と気持ちが高ぶっていると…………紫のダガーが次々と降り注いでくる。


「来た!」

≪Wheel Protection≫


左腕のケリュケイオンを……恭文さんから借りたベリトクリエイターの一部≪スレッドユニット≫をかざす。

二基のブーストデバイスは既にシステム的にリンクしていて、よどみなく詠唱した術式を発動させてくれる。

紫の回転するバリア系魔法により、雨あられのように降り注いだ短剣は、次々と弾かれ、あらぬ方向へ飛ぶ……でも。


(これで何とかなるなんて、向こうは最初から考えていない……なら)

≪七時方向から反応!≫

「任せて!」


エリオ君はストラーダを引きながら、左腕のライトニングガーターをかざす。

そこから電撃が走り、フリードの死角を追おうように不可視のフィールドが展開……それが、音を斬り裂く”何か”を請留、弾き……脇に飛ばす。


「見えた……大型口径の弾丸! ストラーダ、ヴァイス陸曹達に射線データを送って!」

≪既に送信済み…………もう一度来ます!≫

「「……!」」


今度は私も見えた……音速を超えて突き抜け、瞬間的な嵐を巻き起こした弾丸が、”反転”した。

音もなく、自然と……私達目がけて飛んできて……だから右手をかざし、プロテクションを展開……!


≪Protection≫


でも砲弾はまたそこで方向転換。バリアをすり抜けるように曲がって……!


「……!」


そこで……黒い手が差し込まれた。巨大な拳は脇から砲弾を潰すように撃ち込まれ、そのままどこかへ弾いちゃう。

だから私達は自然と、ヴォルテールを……助けてくれた大事な子を見上げて。


「ありがとう、ヴォルテール!」

「キャロ!」

「地上戦に移るよ! ヴォルテールも気をつけてね!」

「……」


フリードの手綱を引いて、一気に加工……森の中へ飛び込みながら、ヴォルテールの竜魂召喚も一旦解除。

元の小さいフリードに戻るのを見ながら、私とエリオ君もそれぞれ着地。そんな私達に……木々を蹴り砕くような音が響く。


「……!」


エリオ君は咄嗟に飛び上がり、私目がけての突撃を……爪での刺突を払いのける。

そうして改めて、あのガリューと向き合い、空中で突撃しながら得物をぶつけ合って交差。

ガリューは回し蹴りでエリオ君を吹き飛ばそうとするけど、ライトニングガーターの電磁フィールドで蹴りを流され……脇を剃らしたところで、エリオ君が突貫。


ガリューの背を貫きながら、木々を何本もなぎ倒し、離れていく……。


”エリオ君!”

”乱戦は隙が大きくなるだけだ! こっちは任せて!”

”分かった!”


まぁ、それは私としても都合がいいかもしれない……そう思いながら、前を見やる。

……光を失った、アスクレピオスの同型機を……それを携えながら、ぬらりと出てきたルーテシアちゃんを。

あの子は苦しげに胸を押さえ、こっちを睨み付けていた……。


「どうして、まだ……邪魔をするの……!」



あの子は疑問を口にする。なぜ、なぜ、なぜと……混乱のままに首を振る。


「もう、あなた達の部隊はない……隊舎も私達が壊した……。
なのに、なんで……戦う理由なんて、どこにもないのに!」

「私達がまともじゃないからだよ」

「それになにをしたの……ドクターと、あの人達と連絡が取れない……ガジェット達も」

「犯罪者にいちいち説明はしない」


説明の義理立てはない。もう話し合う必要もない。

私は管理局員として、機動六課の部隊員として……ミッドに暮らす一人として、この子達を力尽くで止めると決めたから。


そう端的に告げると、彼女が少しおののいた気がした。


「基地機能も、あなた達の兵隊≪ガジェットやラプター≫も、もう役に立たない。ミッドの飛行船ももう消し飛ばした。
エース級のあなた達は、私達で抑える」

「私に、勝てると思っているの……?」


ルーテシアちゃんの後ろに、巨大な魔法陣が浮かぶ。

召喚魔法陣……それもベルカ式ベース。あの大きさ、発せられる魔力から、出してくる固体は分かる。

でもデバイスも機能停止しているだろうに、まだ……やっぱり資質が相当高いんだ。それを伸ばす努力も怠っていない。


本来なら、私がマトモにやって勝てる相手じゃない……だけど。


「勝つ必要なんてないよ」


殺気じみた魔力にも、そこから現れる白い虫形召喚獣……ヴォルテールと同サイズの巨体を見ながらも、つい笑っていた。


「あなた達がここで無駄な抵抗をしている……閉じこもるしかないという状況を作ってしまえば、あとは囲んで叩ける」

「そうして、お母さんを殺すの……? また邪魔をするの……!?」

「そうだよ」

「そんな権利……あなた達にない!」

「あなた達のために、第二・第三のあなた達を出す権利もはないよ!」


叫びながら、右のスレッドユニットをかざし……備え付けられた宝輪を回転させる。

魔力を走らせながら、周囲の物質に干渉。その変換や操作能力は、恭文さんの術式を……私自身の無機物操作魔法を応用して対処できる。


「白天王……地雷王……殺して……」


だから、周囲に桃色の火花が走る。

それは地面を……ただの物質を、命ある物質に変換する。そうして二人の従者を形作る。


「私を、お母さんを……大事な人を傷付けるみんなを! 全員殺してぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


だから…………その白天王とやらが洗われると同時に、彼女の両脇に現れたカメムシ……地雷王の顔面が、砲声とともに穿たれる。


「え…………」


電撃を走らせた直後のことだった。更にもう一体の地雷王も、伸びたオレンジ色の髪で顔面から真っ二つにされる。

それが翻り、紫色の血が……崩れ落ちた巨体が翻る中、ルーテシアちゃんは私の脇を見やる。


私の両脇に現れた、二体のゴーレムを……。


「それ、は……」

「力を貸して! 舞衣姫、クーガー!」

『『――!』』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


野外戦……木々も多いアンブッシュ。本来ならダークカラーのガリューを目で追うことも難しい。

下手に空中戦に持ち込まれるよりは楽とも言えるけど……背負ったウイング型スラスターから魔力の残滓を噴かせながら、地面に足を付け、滑るように反転。

ライトニングガーターでシールドを展開しながら、背後を取り、突き出された爪を防御……!


(僕もフェイトさんと同じように装甲が薄い方だけど、装備次第でこうも変わるのか……!)


いくら試作装備……余り物とはいえ、これをくれた恭文さんと篠ノ之博士には感謝だ。

さっきのスナイプだって今まで通りだったら、間違いなく対処できなかった。だけど……今は違う!


「…………!」

「ガリュー! 君も召喚獣なら分かるはずだ!
もうルーテシアは、本当に大量虐殺犯の仲間だ! 彼女が望んだ未来のために、何人も何人も死んだ!」


ガリューは虚空で留まり、爪を引きながら左回し蹴り。構えたガーターの脇から振るわれる蹴りを伏せて……身を翻しながら回避。


「ストラーダ、フォルムツヴァイ!」

≪Dusenform≫


地面を切っ先でこすりながら、瞬間的にストラーダが形状変換。

基本形態≪スピーアフォルム≫では後方二基だけだったブースターが、側面部にも四基表出。装甲が開くようにして、円筒形のそれがせり出した。

石突の噴射口もより鋭い形状となり、ノズルは全て独立可動が可能。

ヴィータ副隊長……グラーフアイゼンのラケーテンフォルムを参考にした第二形態だ。


ストラーダの刃から電撃を迸らせる……あえて鉄輝一閃のように凝縮せず、まき散らすように。

表出したサイドブースターの片側二基が火を噴き、僕の身体は鋭く回転。距離を取り、魔力弾を放ってきたガリューにそのまま突撃。

その際、雷撃は更に嵐のようにまき散らされて……魔力弾を誘爆させるデコイとなってくれる。その中を突っ切り、虚空のガリューに肉薄して……!


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ガリューの爪でのガードを打ち据え、電撃を放出……!


「その過去は変えられない! だけど、未来ならまだ変えられる!」

「……!」

「家族じゃない人も、家族も……両方大事にできる道だってある!」

「――!」

「きっとあるんだ!」


更にまき散らし……スタンダメージを与えながら、ストラーダを振り抜き吹き飛ばす!

直ぐさまサイドブースターを噴射して、回転しながら強引なホバリング……そのまま石突のリアブースターを噴かせて、ガリューに突撃!

ガリューも背中の翼を羽ばたかせ、着地直前で停止。爪に魔力を纏わせ……僕の刺突に合わせて打ち込み交差。


火花と魔力が夜闇を照らす中、お互いに木々に足を付け、何度も何度も突撃……そのたびに二の腕や頬、脇腹に傷が生まれる。

対してこちらも……肩の甲殻や頭に傷を付けるけど、浅い……直撃を取りきれない!


(やっぱり練度では僕が下……速度の制御も向こうが上手か!)


フォルムツヴァイを解除し、木の一つに足を付ける。


(だったら……)


一瞬足先に纏わせた魔力で停止してから、すぐ左に跳び、開けた地点へ対比。

連射された魔力弾を横目にしながら、草木を踏み締め、滑りながらも停止する。


「ストラーダ!」

≪Unwetterform≫


ストラーダはフォルムドライに形状変換……これもサードリミッター解除後に解禁された形状変換。

スピーアフォルムのメインブースターと石突から、電撃変換強化用の制御アンテナが飛び出す。

カートリッジを四発……フルロード。魔力を高めながら、深呼吸……周囲で響く跳躍音に耳を……ううん、違う。


音は関係ない。惑わされるな……そう思っていたら、自然と目を閉じた。


≪「………………」≫


……圭一さんや魅音さん、悟史さん達からも驚かされたことだ。

恭文さんやなのはさん達との模擬戦で、たくさん盗ませてもらったことだ。


自分より強い相手には、相手より強い武器を持って戦う。僕の場合はスピードや電撃変換だけど、それでじり貧なのが今だ。

キャロが狙撃を受ける危険も考えたら、もうモタモタなんてしていられない。早急に勝負を付けていく必要がある。


なら、どうする? そこであえて強い武器に拘る?

ううん、違う……戦い方は一つじゃない。これまで出会ってきたたくさんのものが、それを教えてくれた。


(思い出せ……このシチュエーションは知っているものだ。
雛見沢のオフトレで、恭文さんとレナさんに……圭一さん達に散々弄ばれた)


リズミカルに……動かなくなった僕目がけて、牽制の弾丸が飛ぶ。だけど僕は避けない……どれもこれも当たらないって知っているから。

ジャケットを、頬を掠めて、その風が身体を傷付けても、周囲を穴だらけにしても、僕は避けない……決して避けない。

見た目は派手だけど、どれもこれも避けた隙を狙うものだ。必要がない……怖くもない。



(音を追いかけても間に合わない。姿を見ようとしてもやっぱり遅い)


狙うはただ一閃。研ぎ澄ませた力を、向こうの防護フィールドすら突き抜ける形で打ち込むこと。


(漂う気配を……それが殺気となって、行動に移る一瞬を見極めるんだ)


そうだ、怖くはない。怖いのはここで何もできずに倒れること。託された願いを通すこともできずに倒れること。


(大丈夫、できる)


まだまだよちよち歩きで、フェイトさんやいろんな人を心配させる僕だけど……。


(ううん、やってみせる)


見上げて、焦がれた夢があるんだ。

いつかそれに追いつきたいと思っている僕が、ここにいるんだ。

だから逃げない、負けない……正義の味方を張り続けられる自信もないけど。


(それでも……僕は!)


この手に握った相棒も、望んで持ったわけじゃない力も……。

いつか、大事なものを掴めると……信じたいから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その人間は奇妙だった。

自分と高機動戦をするつもりもなく、目を閉じ、ただ佇んだ。そしてどれだけ牽制射撃を行っても、当たらない……皮一枚ですり抜ける。

避けようとすらしていない。まるで自分の攻撃が当たるものではないと、見切っているようだった。


あり得なかった。我が主よりも戦闘経験も、資質も下の子どもが……その姿には覚えがあった。

自分を、主を、陵辱が如き形で叩きのめした、あの憎き剣士と同じものだった。

自分達の願いを、理想を悪だと断じ、生きる価値すらないと殴りつけた……あの青年と同じだった。


許せない、許せない、許せない……たとえ悪逆だとしても、そうしなければ取り戻せないものがある。そのための自分だと誇っていたからだ。

ならば知らしめよう。ならば打ち据えよう。主に間違いはなく、そして自分はその主の正義を示す刃だと。


だからこそ全力で……今までの最高速で……その背後から、爪を振りかぶり襲いかかる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……風が変わった。

響き続ける音の質が、向けられている視線の色が、鋭くなった。

紛れもない殺意。今まで何度も感じてきた、害をもたらす存在が放つ特有の気配。


だから……その方向と、速度を見定めた瞬間、身体は動いていた。


≪「――――!」≫


足を滑らせるように倒れ込む……。

紫の光ごと飛び込む守護獣は、僕の心臓を狙い、右の爪を突き出していた。

でもそれは届かない。倒れ込みながら構えたライトニングガーターが……強化された防御シールドが、命すら奪いうる一撃を逸らしたからだ。


そうして攻撃をギリギリでやり過ごしつつ、引いていたストラーダを突き出す。

音速をも超える敵意を……その中心を、決して逃がすことがないように。


「……雷輝」


ただ一点……本来なら広範囲攻撃用のフォルムドライだけど、それを応用してより強い形で、刃を打ち上げた。

それが確かに守護の獣を……ガリューの胸元を捉える。


「絶穿!」

「…………!?」


鋭く、薄く、そして力強くたたき上げた僕なりの鉄輝。

それに自ら飛び込んだガリューは、一瞬跳ね上がりながらも半身を斬り裂かれ……乱回転しながら地面に落下する。

その衝撃で木々も何本か倒れる中……荒くなっていた息を整えながら、すぐに起き上がる。


≪お見事です≫

「まだまだだよ」


……深い傷が付いていたライトニングガーターには、心の内でお礼を言いつつ……改めてガリューと向き合う。

非殺傷設定だったから、命は奪っていない。だけど、それでもガリューは……腕や足、背中の甲殻が砕けながらも、立ち上がろうとしていて。


「……まだ、焦がれた頂きには遠い」

≪共に歩みましょう≫

「うん……!」


そのためにも……まずは!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「くきゅー!」


フリードが追撃のブラストフレア。あの子は咄嗟に砲撃を発射するけど、それはフレアとぶつかり相殺。

その爆炎が、魔力を纏ったインゼクト達が突撃……それもまたオレンジ色のツインテールが翻り、尽く両断されていく。


「クーガー、スタンバレットセット……ファイア!」


更に響く砲声……ルーテシアちゃんは咄嗟にバリアを展開して防ぐけど、衝撃からそれも砕け、ルーテシアちゃんの身体も吹き飛び、地面を転がる。


「舞衣姫!」


脇に控えていた女性型ゴーレムが跳躍――ルーテシアちゃん目がけて跳び蹴り。

ルーテシアちゃんは咄嗟に左へ転がり避けるけど、地面は蹴りの衝撃で陥没し、その衝撃があの子の身体を吹き飛ばす。


「だから、どうして……それは……!」


そんな言葉に意味はないと、舞衣姫が髪を鋭く展開……ルーテシアちゃんの身体を縛り上げ、強引に振り回し……。


「ああぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」


適当な岩に頭から叩きつける!


「あ……!」


走る鮮血……崩れ落ちるルーテシアちゃんは、強引に魔力を迸らせ……その圧力で舞衣姫の髪を引きちぎった。

それも舞衣姫は下がりながら、もう一度私の脇に立ち……近くの地面や木々を削るように吸収し、髪を再生する。


「なん、で……あなたは、召喚……」


それを見かねた白天王が、眼光を輝かせる……でも無意味。


「ヴォルテール!」


割り込むようにヴォルテールが左フックを噛まし、白天王を殴りつける。

そのまま組み付き、私達から距離を取った。



「白天王……!」

「あなたの気持ち、多分……私やエリオ君はよく分かる」


あの子の気を逸らすため、あえてそんなことを語りかける。……それもお為ごかしだと、クーガーを操作しながら。



≪クーガー、対真龍クラス用レールジャベリン、スタンバイ……≫


ルーテシアちゃんから放たれる衝撃波を、舞衣姫が再生した髪を振るい、次々と斬り裂く。

その間にクーガーは周囲の物質を取り込み、杭のような大型砲弾をキャノンに装填……。


「大事な家族のため……居場所を守るため……そう思って、必死になっちゃう気持ちなら、よく分かる」

「だったら……なんで邪魔するの!」

「だから止めるんだよ!」

「――!」

「私も、自分の家族を……大切な人以外を守ろうとしない世界なんていらない! それが正しいと叫ぶあなた達になんて、一ミリも譲れない!」

「そんなの、奇麗事……!」


分かっている……そう言いたくなる気持ちも、分かっている。だからあの子が涙目で首を振っても、全く揺らがない。


「ドクターだってそうだった……ウーノやアギトも、ゼストもそうだった……。最高評議会だってそうだった……この世界がそうだった!
みんな、自分が一番大事! 自分の家族だけを守ればそれで満足する!
それ以外を助けようともしない人達のために……なんで、私がお母さんを諦めなきゃいけないの!?」

「……それは、あなたやスカリエッティ達が弱いからだよ」

「違う!」

「誰かを犠牲にしなきゃ何も守れない……そんなルールに屈服して、尻尾を振って甘えている。
そのルールと戦おうともせず、こんなところに引きこもって……でも、そうじゃない人達だっている」

「そんなの嘘!」

「そうだね、嘘かもしれない……だけど」


私は、狙いを……白天王の右腕に腹に示し……。


「だからって、自分が負け犬だって認める気にもなれない――!」

「……白天王、逃げて!」

「ファイア!」


再び号砲が鳴り響く……。

クーガーも衝撃で地面を踏み砕く中、白天王の振り払いをあえて受け、ヴォルテールも脇にズレる。

故に……そんな揉み合いをしているから、白天王は回避なんてできなかった。


クーガーから放たれた大型の槍は、その衝撃から白天王の右腕を抉り、肉を潰し、骨を粉砕し……紫の雨を、歪な切断面から吹き上がらせる。


『………………………………!?』

「……白天王!」


白天王の腕は落ち、血に塗れながら大地の一部となる。

そこを狙ってヴォルテールが左フック……そこから左右の連打を打ち込み、脇腹に爪を突き込み、抉る……!


これは大型生物討伐用のレール砲……というか、鉄血のオルフェンズ……ガンダム作品に出てくる”ダインスレイヴ”を参考に、私が勝手にアレンジした。

質量兵器禁止の原則から相当に外れているけど、今回はその矛盾も、痛みもしっかり飲み込む!

これだけの火力がある……そう見せつけるのも、EMP砲弾を撃ったシルビィさんへのカバーになるんだから!


でもそれだけじゃない! 今回私達は、強襲で鎮圧が目的……だから。


”シャーリーさん、例の映像を!”

”了解!”


念話経由で、バックヤードに連絡。その上でベリトクリエイターのキースイッチをオン!


≪クリエイター!≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


嘘、白天王が……あんな、簡単に……!

しかもあの子……ようやく気づいた。あの宝輪も、帽子も……スカートも、いつものジャケットと違う。

あの緑の色は、私達がホテルを襲ったとき、あの人が使っていた……!


それにあのゴーレム達も! あれで地雷王も、インゼクトも好き勝手やられて!


「どうして……どうしてあなたが、それを……!」

「エールをもらったから」


あの子の脇にいる女の子のゴーレムも、オオカミのゴーレムも……あの人が使っていた。

彼女は召喚師で、ゴーレムマイスターじゃないのに。なのになんでここまで!


「それに、言ったと思うよ」


あの子は決意の表情で、私を……傷つき、あの黒龍に殴られ続ける白天王を指差す。


「あなた達を止められるのはただ一つ……私達だ!」


…………踏みにじられる。

お母さんを助けたい……ただ一つの約束すら、踏みにじられる。

しかもドクターたちと連携することすら封じられて、なぶり殺しにされる。


私が、悪い子だから? 悪い子だから、こんな風にいじめるの?


でも、違う……私は……ただ……大切なものを…………!


『…………ずるずる…………ずるずる…………』


でもそんなとき、空から……声が聞こえた。


『んぅ…………』


場に合わないような、似つかわしくないような、そんな声……それが気になって、ふと上を見ると………………。


「………………え?」

『ずるずるるる…………』


……黒髪の……知らない女の人が、何かを食べていた。そういう映像が流れていた。

それも何も言わず、黙々と……カップラーメン、かな。それを食べている映像が、空いっぱいに広がっていて…………。


『んー♪』

「これ、なに…………」

≪――ビートスマッシュ!≫


……そこで光が走る。私の胸元に突き刺さった桃色の閃光は、円錐状の魔力スフィアになって……ゆっくりと回転。

その回転が進むたびに、私の身体は……このゴーレムの拘束とは違う力に、締め付け……られてぇ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


よっし……キャロがやってくれた! 本当にやるとは思わなかったけどね!


「………………?」


殺気全開だったガリューも、さすがになんだと呆けていた。

その隙にゼロシキマルコシアスライズキーのスイッチをオン!


≪ゼロシキ!≫


左手で器用にライザーを取りだし、ガリュー目がけて銃口を向けて……トリガーを引く!


≪――ブレイキングチャージ!≫

「――――!?」


呆けたガリューはこちらの行動に気づき、反応しかける。だけど負った傷のせいで回避ができず、放たれた金色の閃光が鋭く胸元へと突き刺さった。

それは円錐状のスフィアとなり、ガリューに空間バインドをかけながら展開。

その様子を見ながら、ストラーダを引いて……フルドライブの出力をブースターに、その刃に回しながら、腰だめに構える。


そう、これは恭文さんが以前模擬戦で使っていた蹴り技≪イグニススマッシュ≫と同質の技!

というか、あれは炎熱変換を使ったバリエーションだから……その基本技≪ビートスマッシュ≫って言うべきかな!

僕の場合は突きになっているけど、キャロともども便利そうだからって、盗ませてもらったんだ!


スフィアによるバインドで動きを固定し、更にその収束で攻撃魔力も一点に集め、バリア貫通効果も付与するアンブロッカブルアタック!

古流武術のような殺すための術を使う力も、覚悟も今の僕達にはないけど……でもそれでいいと思いながら、狙いを定める。


(……殺さず制する戦い……甘いかな、やっぱり)


少し自重しちゃうけど、すぐに迷いは振り払う。


(ううん、今は……これでいいよね)


僕達はまだいろんな可能性があって、分からないことだらけで……だからどんな僕達にもなれる。

だから、今はこれでいい。武装局員として……機動六課の一員として。フェイトさん達に育てられた魔導師として。


……僕達は、僕達なりに……身勝手な奇麗事を通していく。


「ストラーダ、フルブースト!」

「………………! ――!?」

≪Sonic Move≫


金色の魔力光に包まれ、僕達はスフィアに突撃……一瞬で零距離に詰めて、雷光そのものとなって突き抜ける。

僕達を受け入れるように、スフィアも高速回転。それはガリューの肉体を抉り、その魔力を砕かんばかりに霧散させ……。


「……………………!?」

≪「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」≫


夜闇に……雷撃の帯を、幾つもの爆発を刻みながら、僕達の姿は消失。

スフィアとともにガリューへと吸い込まれながら、その移動速度を質量として……魔力ダメージとしてガリューへと叩き込む。


「――!」


そして背後に現れた僕達は、草木を抉るように滑り……十数メートルで停止。

雷撃の爆発はガリューを巻き込み、薄暗い森を焼くかのように……鋭く照らした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


離れない……動かない……私は強いのに。あの子達は、弱いのに……家族に守られて、弱いはずなのに。

それであのロビンって人も、ボルトも、ドクターやウーノ達も助けてくれない。連絡が取れない……。

フォースライザーも使えない……どうしてか使えなくて、変身もできなくなった。


白天王も腕がちぎれて痛いのに、殴られ続ける。もう抵抗もできない……しようもない……!


「……これで終わりだよ!」


あの子は走り込んでくる……インゼクト達が止めようとするけど、それもあのオオカミのゴーレムが先行し、振り払う。

走るだけで、展開した刃で切り裂かれて……あの子はその背に飛び乗って、更に跳躍する。

足先に……月みたいに輝く魔力を迸らせながら。


「剣峰、蒼凪恭文直伝――」

「やめて…………」


そのままスフィアへ……私へ飛び込んでくる……。


「こないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


ありったけの魔力を迸らせるけど……それで全部振り払おうとするけど、そんなの無意味だった。


「ビートスマッシュ!」


私に突き刺さったスフィアは、あの子が飛び込んだ途端に高速回転を始め、それが放出した魔力を穿つ。

ううん……巻き込み、力にするかのように取り込み、嵐となって私に反転してくる。

それが接触点を視点に、光の渦となって木々を斬り裂いて……でもあの子は、止まってくれなくて……そのまま、そのまま…………!


――――スフィアと一緒に私を突き抜けながら、全てを砕いてくれた。

パリンって……胸の内で何かが割れるような音が響くと、身体から力が抜ける。

意識が消えていく……ただ、ラーメンを食べる女の人の顔だけが、目に映る。


私は悪い子として、夢を壊される。お母さんも取り戻せない。

だから何度も謝る……謝ろうとした……だけど、それも…………できな…………て……………………。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヤスフミの鉄輝一閃も参考に、ホーネットのセッティングを見直して正解だった……!

そうじゃなかったら、この斬馬っていう技で一刀両断されていた。リミッターもかかったままだから余計にだよ!

でも大丈夫……まだ、なんとか対応できる。シグナムが、ヤスフミが戦ったデータで、何度もシミュレートしたおかげだ。


速度なら同等……でも気を抜いたら一瞬で置いていかれるほどに速い。正直怖い……ここまで命がけの斬り合いなんて、初めてかもしれない。


「…………はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


左サイドを取りながらの右薙一閃……それを防御させて、踏み込みながら右ハイキック。

腹を蹴り飛ばしながら踏み込むと、よろめきながらあの人の指が伸びる。

咄嗟に頭を後ろに逸らして目つぶし回避。でも頭を捕まれてすぐ膝蹴りが……しかも、魔力を……杭状に纏わせていて……!


≪Defender≫


バルディッシュが防御魔法で軽く受け流し……私も頭を逸らして、直撃を回避。

右手のバルディッシュを逆手持ちに変えて、脇腹目がけて一閃。スーツを軽く斬り裂き、肉も抉りながら……何本か毛を抜かれながらも離れてくれる。

でもそこで、自分のデバイスを鋭く投てき……面食らって、これもオートバリアで防ぐ。


――ビートスラップ!――


…………そこで、ヤスフミに模擬戦でやられた攻撃が瞬間的によぎる。

実際刃先に纏わせた魔力が、バリアと噛み合って固定されていた。だからすぐに身を左に逸らして……。


「せい!」


次の瞬間、左肩を掠める刃の感触……血と肉が噴き出す痛み。骨も軽く抉られているのが分かった。


「つ……!」


武器を蹴って、強引にバリアを貫通する技……古流武術の基本なのかな!


「……はぁ!」


驚き右にふらついている間に、あの人が掌打。バルディッシュの刃で防ぐけど、直ぐさま左ボディブローが叩き込まれる。

軽く反吐が出かけると、今度はハイキック。顎を蹴り飛ばされ……宙を舞いながら、地面に叩きつけられた。

意識が揺らぐ……それでも、反射的にバク転。あの人の手元に戻り、打ち下ろされた刃をすれすれで避ける。


起き上がってすぐに逆袈裟・刺突・右薙・唐竹・右切上・刺突・逆袈裟と連撃。

それをバルディッシュでなんとか捌きながら、木の一つに背を当て…………咄嗟に反転して、鋭く木を足場に駆け上がる。

胴を狙っての右薙一閃をすれすれで避け、頭上を取りながらプラズマランサーを連続生成……瞬間発射!

あの人は咄嗟にデバイスをかざすけど、それでも肩や腕に幾つか直撃する。


それでも……ダメージがないわけじゃないだろうに、必死に耐えて、こちらに跳躍しながら回転斬り……!

バルディッシュでその一撃を捌くと、再び落下しながら連撃が飛ぶ。十七合ほど打ち合うと、懐に入り込んで逆風の切上……。


「はぁ!」


でもその出だしを……地面を斬り裂きながらの一撃を、魔力を込めた右スタンプキックで停止させる。

接触した瞬間走る雷撃……それにより斬撃の勢いも、込めていた魔力も散らされ、攻撃は無効化される。

直ぐさま目元目がけて右薙一閃。あの人は身を逸らしながら回避し、こちらに拳を握って迫ってくるので…………!


「…………えいやぁぁぁぁぁぁぁ!」


逆に踏み込み、全力で頭突き! 鼻っ柱をおでこで潰し……血が噴き出す感覚がちょっと怖くなりながらも、追撃で左ボディブロー!

術式をこっそり詠唱し、仕掛ける中……再び電撃が爆発し、あの人は相棒のデバイスごと蹈鞴を踏む。


それでも砕けた鼻を、流れる血を見ながら笑い…………。


「……!」


ぞっとした様子で、空から降り注ぐ魔力弾丸を右薙に払う。その魔力の残滓が、あの人のジャケットを……肌を軽く焼いて。


(ヴァイス陸曹……間に合ってくれた!)


そこを狙い最高速で踏み込む。もちろんあの人も、すぐに対応のため動こうとする………………だから縛り上げられる。


≪Struggle Bind≫


さっき詠唱していたバインドに……前にヤスフミにやられたトラップだよ!

さすがにヤスフミほどインスタントに詠唱できないけど、それでもやりようだ!


≪主……!≫

「ち……!」


だから再び弾丸が走る――――それは、もがいていたあの人の右側頭部を派手に打ち抜いて。


「ぁ…………」


私もカートリッジ三発をロード。ホーネットの刃に電撃を迸らせ、より研ぎ澄まし――。


「雷光乱舞!」


あの人と交差しながら、合計九連撃……バインドごとその身体に乱撃を叩き込む。

交差しながら見えるのは、裂けるジャケットとバインドの粒子……そして、笑いながら崩れ落ち、倒れるあの人だった。

停止して直ぐさま振り返り、左手をかざしてバインド展開。身体を厳重に縛って、デバイスも……物質操作魔法でこっちに引き寄せておく。


「…………二人がかり……しかも、一人はマスター級のスナイパー……かぁ…………」


意識を断ち切れていない……!? 警戒するけど、あの人は指一本も動かせず……それでもまだ、笑っていた。

私は息も絶え絶えで……その笑みには、痛みと浮かんでくる涙でしか応えられなかった。

その迷いには、その笑みには、どこか覚えがあって……それと同時に、まだ実力不足だなぁとも、通関していて。


……今の狙撃がなかったら……空に上がったヴァイス陸曹のフォローがなかったら、こんなに早々決着できなかった。

うん、あの……今空に上がっている映像はね、ヴァイス陸曹のヘリを隠すカモフラージュでもあるんだ。

それは近くで暴れていたヴォルテール達も同じだけど……とにかくそういう目くらましを仕掛けた上で、ヴァイス陸曹は改造ヘリで空に上がる。


ストームレイダーが防御もしっかり固めつつ、空から高精度スナイプで各所を援護って手はずなんだ。


「なるほど……質で勝てないなら、数か……」

「……卑怯と笑ってくれて、構いません」

「いや、正当だ。お前達は自分の気に食わない奴をぶっ潰すため……全力を尽くした……」


そうしてあの人は視線だけをこっちに向けて……あぁ、また笑うんだ。仕方ない……仕方ないと、堂々と……誇りながら……!


「初手から……いや、中央本部のときからその流れはあった。それで改善しなかった俺達が悪い」

「その潔さを、今度はもっと……上手に生かしてください。
あなたならそれができるはずです」


なんでだろう。この人はシグナムのことも殺しかけた人なのに……どうしても、放っておけなくて。だからこんな言葉が出ていた。


「シグナムの生き方を認めてくれたあなたなら、きっと」

「あんなのはお為ごかしだ」

「それでもあなたの本心です」

「……正義の形も分からないのにか」

「だったら、何度だって探せばいい! 私だって言った通り、迷ってヘコんで、勝手にうじうじして……そんなことの繰り返しです!」

「……俺は、たかだか剣一本で、目の前の気に食わない奴をぶっ飛ばすことしかできなかった……納得できないルールを壊すことしかできなかった」


そうしてあの人は空を軽く見やって……頬を引きつらせる。


「正義の味方とは言わないが、それでもと……想い続けながらここまで進んだ。結果迷って、腐り始めた」

「だから、スカリエッティみたいな犯罪者に与したんですか……!」

「一宿一飯の恩義はあったからな。それに少なくとも……」


…………あぁ、うん…………そうだよね。

ちょっと、いら立つ気持ちも……すごく分かるよ。だって空では……そらでは、ねぇ……!


『もうそろそろいいんじゃないかなぁ。
ちょっと固めが好きなんですけど、固すぎましたね……バリバリ……いただきまーす。
ん……ずるずるずる……ズルズル……んー、おいひー♪』

「…………こんなのを戦闘中に流す馬鹿どもよりは、マトモだろ」

≪……全く同感ですね≫

≪…………それについては、何一つ否定できません≫

「あぁ、だが……俺に必要だったのは……こんな馬鹿さ加減なのかもしれないな。
または、アンタみたいに……アイツみたいに……ウジウジ迷って、それでもと……そういう気持ちだ」

「……それを探すところから始めたって、いいはずです。きっとどこからだって……やり直せます」

「…………一つ、頼みがある」


油断はせず、距離は取って……聞くだけは聞くと、軽く頷きを返した。


「戦闘機人の連中は、文字通りかごの鳥……スカリエッティや俺達の言いなりで動いていた奴らだ。
……生まれたばかりで、人間らしい戦い方ってやつが分からないのもいる。そいつらには……まず世界のことを、教えてやってほしい」

「……だったら、あなたも手本を示してください。そうじゃなきゃ全てが嘘になる」

「キツいなぁ……」

「でも、それが生きるってことだと……私は思います」


そうしてまた笑うこの人を見て……ふと思った。


「……トーレ、軽く恨むぞ。お前の頼みは……一生ものになりそうだ」


この人がもしそんな迷いを抱えなかったら……。

ヤスフミと戦ったときみたいに、完全に振り切れた戦い方をしていたら……。

多分私は、ここには立っていない。結果は死を伴う形で真逆になっていた。


私達は事情はどうあれ、迷いを振り切っていた。その上で、管理局員として……”正義の味方”として、自分が正しいと思う戦い方をやることにした。

それで私の力は……私のやり方は、残念ながらこの人の本気を出させるほど、高いものではなくて。それは、言った通りだよ。


(だからこの勝負はきっと……私の負けだ)


魔導師として、剣士としては完全に負けていた。ただ殺人剣の使い手として……その本性を全開にさせなかった。

寝首をかくように力を削いで、その上で勝利した。ヴァイス陸曹というここで初めて見せる札を使って、数の暴力で叩き伏せただけ。


管理局員として……事件を止めるお巡りさんとしてなら、それでも正しいけど……やっぱり、悔しいな。


「もう一つ、ついでにいいか」

「……えぇ」

「…………誰だ…………この女は」


そのとき、空気が凍り付くのを感じた。

……そっか…………それも、やっぱり……気にしちゃうよね……! 私だって同じ立場ならふぇーってなっちゃうし!

じゃ、じゃあえっと……いや、勉強した! うん、私もヤスフミの婚約者として……成長するんだよ?


「えっと…………あ、ヤスフミの……お嫁さんの、お友達ですよ? 麻倉ももさんって言うんです」


うん、勉強したんだ。声優さんで歌やステージもやる人だけど……だから大丈夫だとガッツポーズ。


「嫁?」

「うん。俺の嫁って言うから……雨宮天さんって人がそれで、そのお友達ならそうなるんです」


応援する人……というか、自分の彼女さんやお嫁さんが頑張っているのを応援すると、俺の嫁って公言できるんだよね。ネット検索で勉強したんだ。

ヤスフミはえっと、雨宮天さんが好きだから、その人のお友達で、同じユニットを組んでいる人だし……お嫁さんの友達って認識で大丈夫だよね。

でも雨宮天さんって、写真を見たら奇麗でスタイルもよくて……歌もすっごく上手なんだよね。それで今は二十七歳。


ヤスフミより十歳とか年上だし……うん、やっぱり婚約者として、間に立ってリードしないとだよね。頑張ろうっと。


賢明な読者なら分かってはいると思うが、一応説明しておこう!
フェイトは俺の嫁という言葉の意味を完全に誤解している上、雨宮天さんに派手なとばっちりをかましているのだ!


「だったらその嫁も含めて言っておけ。
どういう縁かは知らないが、こんなところで流す映像は撮るなとな」

「あ、そうですね。それはちゃんとお話します……はい」


うん、それも……婚約者として頑張らないとね。まぁそのヤスフミは、どこにもいないんだけど。

そうだよそうだよ……それがとんでもなく怖いんだよ! つい敗北感やらなんやらで忘れていたけど、本当に怖いの!

あとは、アレもあるでしょ!? あの、恥ずかしいけど……頑張って撮ったのも!


使うタイミングはもうなさそうだけど、それでも作戦が斜め上すぎるよ! それは怒るよ! 誰だって怒るよ!

あと一番最悪なのは……それでヤスフミが、もうスカリエッティ達をマトモに相手したくないって感情が……ありありと見えるところだよ!

私にこの人の相手を任せたのだってそうだよ! もう手段を問わず潰して、全部終わらせたいって感じだもの!


この人も察しているよ! だからもう諦めている感じなんだよ!

しかもそれを悪びれもしないとか、本当に最悪だからね!? それはぐれるよ! 非行の始まりだよー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いやぁ、マジで凄いな……! 隙だらけにも程があったぞ! あのサンダーエッジ・ボルトについても、なんとか鎮圧できたしな!

いや……仕方ないけどな!? 普通にやらないと思うけどな! 俺だって想定外だわ!


ただただいい感じの女性が、カップラーメンを食っている動画が、戦闘中にでっかく流れるなんてよぉ!


『こちらライトニング04! ルーテシア・アルピーノを確保!』

『こちらライトニング03! 召喚獣ガリューを鎮圧! 縛り上げた上で、警戒を続けます!』

「よーし、よくやったちびっ子ども! 怖い狙撃手は俺に任せて、きっちり守りに入れよ!
フェイト隊長もサンダーエッジ・ボルトを確保した! 作戦は順調そのものだ!」

『フェイトさん、よかった……! あ、でも警戒は了解です!』

『ヴァイス陸曹も気をつけてください!』

「おうよ!」

『……ちょっと硬かったかなー。
ん…………みなさん、こんばんはー。なにしてますかー?』


……なぁ……なんでカップラーメンを食べた直後で、あんな挨拶ができるんだよ! 信じられねぇよ! その神経が全くもって信じられねぇよ!


『……チリトマト……かんぱーい♪』


いや、カップ麺のパッケージとスープを見せながら、そんなことを言われても! 可愛いからってなんでも許される……許されるな! 俺は許しちまったよ!


『いや、でもこれは……もうみんな、分かっているってことなのかな?』


何も分からねぇよ! 分からねぇと思うから……説明しておこうか。

……今動画でカップラーメンを食べていた女性は、坊主やヒロリスの姉御達、大下の旦那達がハマっている声優の一人≪麻倉もも≫さん。

なんでも一昨日、向こうの動画サイトで公式チャンネルが開設されて、ニューシングルもでますよーって告知動画もアップされたんだ。


で、信じられないだろうが………………今空に映し出されたのが、そのお知らせ動画だ……!

俺達も信じられなかったよ! だがちゃんと動画タイトルにもあるんだよ! 『もちょからのおしらせ(9/12/2020)』ってよぉ!


ほんと、初めて見たときの衝撃はどう言葉に例えればいいのか……。

動画の最初は無言で、カップラーメンのトマト味を食べているだけ。それも夢中に、幸せそうにだ。

普通に食事して、そこから話し始める……それがお知らせ動画と聞いたときはもう、唖然としちまったよ。


そう、唖然とした……通常時で、声優さんに詳しくない俺でもそうだ。ティアナ達もそうだった。

だったら戦闘中で、予備知識なしでやられたらどうなるかって話だよ。


というか、普通にないだろ……! 声優の動画チャンネル開設&ニューシングル発売告知動画を、戦場で流すなんてよぉ!

音楽流すより非常識なもんがあると突きつけられるなんざ、俺達の誰も想定外だよ! だから余計効果的ってのが辛いけどなぁ!


「……だが……」


だが……あぁ、だが……笑顔が、瞳が、なんて愛らしいんだ……!


「麻倉ももさん…………もちょ…………もちさん………………」


こんな可愛い子が、日本にはいるのか? いや、年齢的には俺より年上なので、可愛い人と言うべきなんだが。


「俺も例のライブ、行けねぇかなぁ」

≪マスター……≫

「いや、でも写真集も見せてもらったけどよ! 可愛くてスタイルもよくて……声も愛らしくてさぁ! 最高じゃねぇか!」


あの、はっきり言っていいか? …………滅茶苦茶好みなんだよぉ! 多分即行で結婚を申し込む程度には大好きなんだよぉ!


「やべぇよ……やべぇよぉ……ラグナ、俺はお前の姉になってくれる人を見つけたかもしれねぇ」

≪相手はタレント業ですよ? 知り合おうとしたらストーカーですよ≫

「だよなぁ! くぅ……だが、天使なんだ! 俺は天使と出会ったんだ!」

≪健全に応援して――――――右翼防盾、展開≫


そこでストームレイダーが声を上げ、ヘリに増設された大型無線接続防盾を稼働。

それが右翼から迫る砲弾を受け止め、ガキンと鈍い音と衝撃を放つ。


「ち……夢に浸らせてくれる暇もねぇってか!」

≪発射角度、計算。ただし途中で軌道変更の形跡あり。予測精度六十パーセント!≫

「構わねぇ! 反転だ!」


ストームレイダーは素早く機体を操作。左へ回避行動を取るとともに、マップにて射線の予測コースを提示。


≪衝撃、防盾の状態から見て、アンチマテリアルライフルと推測。弾頭口径は12.7mm弾≫

「直撃したら、俺もミンチよりヒドいことか……!」

≪一時退避という手もありますが≫

「当然却下だ」


こうなったら覚悟を決めるしかない。坊主からもらっていたデータを頭の中で反すうしつつ、幾つかの作戦を立てる。

ストームレイダーも防盾を俺の前に展開し、防御の構えを取ってくれる。


「今離れたら、エリオ達やフェイトさんが狙われる。……俺達で仕留めるぞ」

≪了解≫


シンプルなゲームだ。今の一発で、向こうの弾丸はなんとか受け止められる。だからあえてもう一発受ける。

その上で発射元を補足し、しっかりと仕留める。もちろん……殺傷設定でな……!

さすがにビビる部分はあるが、覚悟もしてきた。あとは坊主が上手くやってくれることを祈るのみ……いや、違うな。


「……」


本当にシンプルなゲーム。その根底を忘れちゃいけねぇ。

……俺が、俺の腕をどこまで信じられるか……たったそれだけなんだ。


だからゲームを動かすため、俺の直感で……俺ならどう撃つかと目算を立てながら、弾丸を構築。

構えたストームレイダーの銃口にスフィアが形成され、スコープはイメージインターフェイスで、俺の目当てを絞ってくれる。


だから、ただシンプルに……その命すら穿つ弾丸を放つ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――スカリエッティのアジト

最下層≪特別研究区画≫



床を壊し、道を開き……アコース査察官達の安全も確保しつつ、なんとか前に進んできた私達。

そうしてたどり着いたのは、まるでホールのような……薄気味悪い部屋だった。近くには手術台みたいなのも幾つかあって……。


……なんとなく、身震いを走らせたのは気のせいじゃない。


「ここは……」

「データ通りなら、最下層の研究室。スカリエッティのラボってところね」

「……そう、その通りだ」


……その声に軽く身構える。すると白衣姿のスカリエッティが、右脇の……自動ドアらしきところから出てきて。


「まさかここのことまで把握されているとはね。だから本当に、タッチの差だった」

「ドクター……」

「おっと、言葉は不要だよ。
私は今更引くことはできないし、かと言って君達を恫喝できる札もない。
残念ながら……こういう形での反撃は想定外だったからね。戦局を制したのは君達であり、私は既に敗者だ」


アッサリ負けを認めた? それで両手を挙げて………………ちょっと待って。

あの、腰に付けているの……トイフェルドライバーに、似てないかな……!

あの、正面のバックルが白色で、なんか……血の色みたいなモールドが入っているんだけど……!


「分かっているなら、投降するのが筋じゃないの? それと腰の物騒なドライバーも外しなさい」

「さぁ、大人しく縛につくんだ……!」

「できないんだよ」


ティアが、ランディさんが銃口を向けているのに……私やギン姉だって警戒は全開なのに、あの人は決して揺るがない。


「私は善悪をさて置き、矛を取り、この祭りを……虐殺を当然にした。
娘達を道具扱いした愚かな将として、相応の幕引きを担わなければならない」

「……ここで傷一つ負わずに投降するのは、命を賭けてくれたみんなに失礼ってことかな」

「ケジメは必要なのだよ。タイプゼロ・ファースト」


そうして右手であの人は、白いライズキーを取りだしスイッチオン……。

咄嗟にランディさんの銃弾が、ティアの魔力弾が放たれるけど、不可視の防御フィールドでどれもこれも弾かれ、音を立ててあらぬ方向に消えていく。


≪アーク!≫

「……分かった」

「スバル」

「大将戦なら……言った通り、未来に繋がる喧嘩なら、付き合うよ。
……殺し合いはゴメンだけど」

「殺してくれても構わない。君にはその理由がある」

「理由があっても、そうしたら私は……私達は、自分の悪意に負けたことになる」


それでも止まれない……止まりたくない。その気持ちに整理を付けたい。

そのための喧嘩なら、私は向き合える。たとえ親の仇だって……うん、それでいい。



「それに負けたのがあなた達なら、私達は……何があっても、踏ん張らなきゃいけないんだ――!」

「スバル……」

「…………」


そうだ、私達はきっと……それでいい。


「感謝する。…………スバル・ナカジマ」

「――!」


白いライズキーは、恭文が使っていたネクストライズキーみたいに自動展開。


「変身――!」


それをスカリエッティは、ドライバーに装填……バックルが赤く、血の色で輝きながら、大きく展開する。


≪アークライズ!≫


輝きがワイヤーフレームとなって、スカリエッティを包み込む。その形はまるで、人間の目玉みたいな……!

それが身体の形に凝縮したかと思うと、部屋中に吹き荒れる風圧を巻き起こす。

私達がそれに耐えている間に、フレームは黒いスーツとなり、肩や胸元、足、腕……左右非対称の、白いアーマーが装着されていく。


≪渇望! 底なし! 悪辣! 本能! 全てを飲み込み、満たされるまで突き進めぇ!≫


頭部は三本角で、丸い複眼が赤く輝く。やっぱりそれは、血の色で……!


≪アークグラシャラボラス!
――Conclusion ONE≫
(特別意訳:全ての結論は一つ)

「仮面、ライダー……!?」

『さぁ……私を止めてみたまえ』


――第54話


『正義の味方達よ――!』


『それでも問いかけ続ける正義』


(第55話へ続く)






あとがき

恭文「というわけで、EMP攻撃によりエース級の戦力も孤立させた上で、数の暴力も使いつつ各個撃破。
ボルトについてはいろいろ悩んだけど、まぁここからって感じで……」

あむ「……相手がアンタやシグナムさんみたいな”ガチ”じゃないから、本気を出す前に……フェイトさん達の得意領域で圧倒したって感じなんだよね」

恭文「全力勝負ではなく、本当に……淡々としたシステム的鎮圧行動だ」

あむ「で、アンタはこのときなにしてた!? 一ミリも出てないんだけど!」

恭文「フェイトがあんなヒドい勘違いをしているとも知らず、ロビン・ナイチンゲール打破のため走り回っていたよ!」

あむ「それがあったかー!」


(『え、勘違いじゃないよ。だってほら、はやてやシャーリーも教えてくれたし』)


恭文「あの狸と眼鏡はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

あむ「それ説教が必要じゃん! というか……知り合いでもなんでもないわけだしさぁ!」

恭文「かざねはいるけどね! でもそこ経由でってのも不純だから、そういうこと言わないし! ソーシャルディスタンスだし!」

あむ「そうそう! 大事だよ、ソーシャルディスタンス!」


(意味が違います)


あむ「で……スカリエッティが変身しちゃったんだけど!」

恭文「まぁ当然ながら、あのドライバーも、ライズキーもまたコピーしたやつだよ」

あむ「だよねー!」


◆◆◆◆◆

※デザイアドライバー

トイフェルドライバーのデータを盗用して作ったスカリエッティ用ドライバー。

人造生命体でもある自身に合わせ徹底調整しており、フォーミュライザーと同様意図的なライズキーのオーバーロードにより、その出力を跳ね上げる機構も搭載。

しかしその最大の特徴は、生体接続によるラーニング機構にある。


万通りもの未来予測をこなし、戦闘に関する的確な行動を使用者にフィードバックし、有利に戦える。

ヴァサゴスナッチャーの発展機能であり、鍛え上げた戦闘者ではないスカリエッティをサポートする目玉機能。

ただしそのラーニング能力は使用者に絶大な負担を与えるため、生体接続時には投与されるナノマシンにより、負荷を緩和している。


アークグラシャラボストイフェルライズキー
≪渇望! 底なし! 悪辣! 本能! 全てを飲み込み、満たされるまで突き進めぇ!
アークグラシャラボラス!
――Conclusion ONE≫
(特別意訳:全ての結論は一つ)


ソロモン七十二柱の一角を名前に関するライズキー。デザイアドライバーとスカリエッティに合わせこちらも調整されたワンオフ品。

スカリエッティ自身は決して優れた戦闘者とは言えないため、このライズキーには使用者へ強烈な暗示をかける機能≪アークシンギュラリティビジョン≫が搭載されている。

変身中は後、相手への敵意、殺意、憎悪……あらゆる負の感情を増幅させ、敵対行動への順応力と総合的な戦闘力を上昇させる。


通常のキーと違い完全なパワードスーツ型となっているのも、変身者を外界から遮断し、その暗示を強烈にさせる効果があるため。

この機能自体はフェブルオーコードやSAWシステム……管理局が世界統制のために作り上げた禁呪カテゴリーに属する機能を応用したものとなる。

つまりこのキーとドライバーを使って変身する≪アークグラシャラボス≫は、管理局の裏の理念……その淀みを体現したものでもある。


そこに加えてフォーミュラ由来の機能(アクセラレイター、ヴァリアントシステム)も発動可能なため、通常の魔導師では手も足も出せない。

ただし、その機能は『戦闘及び破壊行動に関することのみに特化している』とも言える。

その点を利用すれば、一時的にでも能力を弱体化させることは可能…………かもしれない。できる人がいればだけど。


◆◆◆◆◆


あむ「なに、この物騒極まりない設定……! つーかアークワン!?」

恭文「あっちの方がタチ悪いって……まぁ大将戦だし、これくらいはね」

あむ「で、アンタはどこ!? マジでロビン・ナイチンゲールを探す感じ!?」

恭文「……もう出番ないかも」

あむ「ちょっとー!」


(中央本部襲撃編で暴れまくったので、最終決戦では極力スバル達に頑張らせたいらしい)


恭文「まぁ奇襲と絡め手で寝首をかきつつね」

あむ「だから言い方ー! いや、アンタはアンタで大仕事してるけど!」


(パトレイバー2の後藤さんポジに落ち着く……のかなー。
本日のED:麻倉もも『明日は君と。』)


恭文「ほんとヴァイスさん……というか、最後方からぶっ放せる人がいるとなんて助かりすぎる。
フェイトもリミッター解除できないから、さぁどうやってボルトを処理しようと思っていたら……ヘッドショットという魔法のワードよ」

あむ「アンタががちでドンパチやると、殺し合いだしね……!」

恭文「それ以前に、僕もボロボロになってもう戦えなくなる。一対一交換と考えれば悪くないけど、不測の事態もあり得たしね。
むしろ向こうに損をさせまくる感じじゃないと」

あむ「趣味を交えないと……アンタ、ホント容赦がないよね! 知ってはいたけど!」

恭文「交えていいの?」(にっこり)

あむ「……やめてください」(様々な暴走を思い出し、本気の懇願)


(おしまい)




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