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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第47話 『その日、機動六課/PART2』


新暦七十五年(西暦二〇二〇年)九月十一日 午後九時

機動六課隊舎隊員寮 ≪高町なのは&フェイト・T・ハラオウン≫自室



明日に備えて、私も早めにお休み……ヴィヴィオもなのはがいなくてちょっと不安だし、その分しっかり一緒にいないと。

なのでいつもより速くパジャマに着替えて、二人で床に入ろうとしていたら……。


「……こっちのママも、フェイトママのママ……こっちのママも、ママ……」


ヴィヴィオがベッド脇のフォトフレームを……ハラオウン家の家族写真と、プレシア母さんの写真を見比べていた。

二人のママというのが不思議そうだったので、隣に座って頭を撫でてあげる。


「うん、そうだよ。私もママが二人いたの。テスタロッサのプレシアママと、ハラオウンのリンディママ……どっちも大事なママだよ」

「ん……ヴィヴィオと、同じ」

「そうだね、同じだ」


……次元の狭間に落ちていったプレシア母さん。母さんは結局、私を見ないまま、アリシアとともに消えた。

私の伸ばした手は届かなくて、それはやっぱりいつまでも忘れられない傷で……痛みで。


そんな私に手を伸ばして、家族として受け入れてくれたのがリンディ母さんとクロノ、エイミィ達。

ちゃんと母さんって、最初は呼べなかったんだけど……でもエルトリア事変で、母さんがレヴィから助けてくれたとき、ようやく言えるようになって。

その母さんが今、どうにもならない袋小路にいて、苦しんでいて……それを助けたいと足掻いて、結局無意味で。


私の手は、やっぱり無力だった。今やろうとしていることだって、ここまで積み重ねた局員としてのキャリアを、その時間を放り投げるのと同じだし。

ただ、そこで一つ思い出す。


――あなたとアルフに、強さを教えることにしました――


なのはとの出会い……ジュエルシード事件が終わった後、私の生まれ故郷でもあるアルトセイムで見つかった日記。

それはリニスが、私を魔導師として……バルディッシュを私の愛機として完成させて、消え去る直前まで書き記していたもの。

そこに記されていたものが、私とアルフに情状酌量の余地を与えて、実刑判決だけは避けられる道を示してくれた。


……消える前のリニスは、とても強く思い悩んでいた。その原因は私の出生の秘密。

プレシア母さんは時間も、優しさも……全てを死んだアリシアの復活に注いでいた。だからリニスは考えた。

私に真実を告げるか、プレシア母さんを説得するか……それとも私とアルフを連れて、遠くへ飛び立つか。


でも、どれもできなかった。まず母さんの寿命は、重度の肺血腫により生存確率は十パーセント以下……延命も難しい状態だった。

リニスはそれを、母さんがアリシアを亡くした罪悪感から、我が身を省みなくなったせいだと分析していた。

そうしてたどり着いたのがあの男が関わっていたプロジェクトFで、でもそうして生み出した私はアリシアじゃなくて。


……そう言えば修行期間中、ヤスフミが言っていたっけ。魂のコピーは不可能だって。

身体が器で、記憶が同じでも、使者を蘇生させたいのであれば、その当人の魂を……個人が個人足る意味≪マイナンバー≫も呼び戻さなければならない。

なんでもそういうの、地球のオカルト……魔術協会の間では常識みたい。いわゆるゾンビとかを作る死霊魔術もあるせいだって言ってた。


だから私はアリシアの記憶を持った”フェイト”だし、エリオも元のエリオとは違い、ヴィヴィオも聖王オリヴィエとは違う人間になっている。

……それについては、ゼスト・グランガイツも同じなんだろうね。たとえ身体も、記憶もそのままでも、据えられた命はどこか変わっている。


とにかく閑話休題……その事実が、その見落としが失敗だと感じ、母さんは心が壊れてしまった。

そんな母さんの使い魔としてリニスが命令通りにすれば、私とアルフは不幸になる。

かといって私とアルフと逃げ出しても先はない。母さんは最後まで運命に裏切られ、同時にリニスの存在がその寿命を縮める。


先が定められた母さんにとっては、使い魔の維持……その消費魔力すら大きな負担になるから。

もちろん母さんを説得するのも時間がかかりすぎるし、リニスも主である母さんが死ねば消える使い魔。

それで結局リニスは、母さんを裏切ることも、私とアルフに真実を告げることもできなかった。


だけど……。


――あなたとアルフに、強さを教えることにしました――


リニスは運命に抗って、私達に強さを残してくれた。


――どんなときも絶望せず、悲しいことがあっても……苦しくても、切なくても、立ち上がって自分の道を行ける強さを。
間違いや過ちに『違う』と言える強さを――


その強さが、なのはと向き合って、手を繋ぐきっかけになってくれた。

はやてとも、シグナム達八神一家とも……キリエさんやイリスさんとだって。

だから、だからって……ヤスフミも同じようにって。ただ敵を倒すだけじゃない。そんなの強さじゃないからって。


そうして一緒に進めば、きっとリンディ母さんだって喜んでくれる。気持ちが伝わったって安心してくれるって。

……だけど、それこそ間違いだった。私は母さんに……伝えるべきことをまだ伝えていなくて。


そうだ。私は……大人になって、大切な人達ができた私は……。


『――――!』


そこで通信のアラーム。アドレスは母さん……少し気になりながらも、通信を繋ぐ。

いや、だって……タイミングがよすぎて。


『はーい。フェイト……それにヴィヴィオー』

「……こんばんはー」

『はい、こんばんはー』


画面の中にいる母さんは、笑顔で……なぜか、本局制服を着ていて。まだ休業中のはずなのに。


「母さん、こんばんは。……でもどうしたんですか、いきなり」

『娘に通信をかけるのに理由が必要?』

「……今回については、そうかもしれないです。特にどうして制服姿かって辺りで」

『突然だけど私、復職することにしたから。明日の公開意見陳述会にも参加する予定』

「は……!?」

『……さすがに三提督があんなことになって、放置はできないわよ』


止めようとしたけど、母さんは使命感に瞳を燃やし、揺らがない様子を見せる。


『騎士カリムも、はやてさんもまだ入院中でしょう? それにクロノも航行艦隊と準待機中だし』

「いえ、それについてはロスコ部隊長代理もいらっしゃいますし、なのは達だって」

『……悪口を言うみたいであれだけど、彼は信用しない方がいいわ。
現に三提督と大幅に揉めだしたのも、彼が六課に関わってからだし』

「母さん……」

『そういうわけだから、有事の際は私の指示で動いてちょうだい。その方がやりやすいでしょ』


さすがにヴィヴィオの前なのでと視線で制するけど、母さんは止まらない。


「というか、クロノは知っているんですか? エイミィだって」

『そこは心配いらないわよ。さっきも言ったけど、クロノも現場のことまでは手が回らないし』

「……あ、そうです。航行艦隊と準待機中っていうのは」

『あぁ……そっちにはまだ伝わっていないのね』

「なにか、あったんですか?」

『先日の籠城騒ぎを警戒して、次元航行艦隊はSAWシステム導入部隊を中心に本局から出動。
ミッド近辺で、いつでも事態に介入できるよう軌道上で待機予定なの』

「え……!」

『これ、地上部隊の人間には言わないようにね? 警戒されるとまた大変だから』


艦隊が……じゃあ本当に、クーデターかなにかだと警戒して!? レジアス中将の拘束とか、明らかに本局がやりすぎた感じなのに!

じゃあ場合によっては、本局と地上、スカリエッティ部隊……それに六課とで三つどもえ? 四つどもえ? 大混乱だよぉ……!


『あと、恭文君とも改めて話をしないといけないもの。
……局員として、世界を守る一員として戦う責務とその意味を』

「母さん、それも……ヤスフミ自身の志望がありますし、ご両親だって」

『それも分かってもらうから大丈夫よ。これはあの子のため……同じ親として話せば、それだって理解されるに決まっている。
貴重な若い時間を、子どもの遊びや管理外世界での活動で使い潰すなんて絶対に駄目だもの』

「……それは罪です」

『罪なんて』

「罪です。……間違いから目を背けて、その始末を他人に押しつけている」


私達は間違っていない。何もしていない。だから購う必要も、手間をかける必要もない。

そういう言い訳を続けて、ただ人に配慮されようとしていたと……今なら言える。


『……どうして、そんなことを言うの』

「家族だからです。家族だから……止めて、手を伸ばすんです」

『それでもこうしなきゃ……こうでもしなきゃ、取り戻せないの。
お願いだから、分かって……大丈夫だから。私があなた達を守るから。
恭文君だって、こっちの方が幸せなの。だから大丈夫……大丈夫……!』

「だったら、今すぐやめてください。それじゃあ本当に、誰も救われない」

『フェイト……!』

「フェイトママ……」


ヴィヴィオには大丈夫だと、頭を撫でてあげて……。


「とにかく私は私で、好きにやらせてもらいます」

『ちょっと待って。もう一度ちゃんと話を』

「母さんは、現場に出ないでください」

『違う、私は……』

「失敗は取り返せない……受け入れて、またできるところから一つ一つ始めるしかありません。
そのためにも今は、休みましょう? ゆっくりと……心が落ち着いて行動できるまで」

『フェイト、お願いだから話を』


……通信をこちらから切る。その上ですぐエイミィとアルフに連絡……じゃないと、とんでもないことになりそうだから。

もうなっているかもしれないけど、それでも……もらった強さを、これ以上は裏切れない。託された想いを、これ以上忘れることはできない。


リニス、私はリニスみたいにできるかどうか分からないけど……それでも、頑張ってみるね。



魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七十五年(西暦二〇二〇年)九月十二日 午前十一時十五分

ミッド地上本部 エントランスホール



私はロスコ部隊長代理と一緒に会場入り。デバイスもエリオ達に預け、ちょっと不安。

……ううん、大丈夫。こういう状況に備えて、準備もしてきたし…………あぁ、でもやっぱり不安かも!

私はともかく、ロスコ部隊長代理の方が心配だよ! 会議場参加者としてコッソリ入り込むとはいえ、盲目だし!


その上母さんのこともあるし……エイミィ達に連絡を取ったら、本当に飛び出しちゃったそうなの!

……でも今更じたばたしても仕方ない。合流の手はずはちゃんと整えているし、そこはなんとかなると信じよう。


「……」


……ちょっとモニターを展開して、テレビの様子を確認っと。


『公開意見陳述会の開始まで、あと三時間を切りました。本局・各世界の代表によるミッドチルダ地上管理局運営に関する、意見交換が目的です。
しかし波乱含みの議論となることも少なくなく、地上本部からの陳述内容について注目が集まっています。
今回は特に議論も絶えない、地上防衛用迎撃兵器【アインヘリアル】、及び食糧自給率低下問題について話し合われるものと思われます』

『あー、ちょっとごめんなさいね』

『……はい。なんでしょう、ケリーさん』

『現在中央本部は一般人の出入りも禁止だけど、どんな感じかな。本局の駐留部隊などは』

『……はい。やはりアインヘリアルについては市民からも様々な意見が出ており、どうしても気になり……という方々も多いようです。
本局の駐留部隊も外周部を中心に展開。ただ現場の状況はかなり剣呑としています。
先日レジアス中将が事情聴取のため一時拘束され、その後各世界の地上本部が籠城体制に入ったことも起因しているかと』

『そうですか……』

『とにかくこちらの方、会議の様子も交えて逐一お届けできればと思っています』


……そんな感じらしい。とりあえずモニターを仕舞(しま)って、内部警備に集中。

部隊長代理とも別れ、改めてなのはと合流。なのはもレイジングハートをみんなに預けて、警備中だった。

仮眠や小休憩などもちゃんと取っているから、体調も万全。何が起こっても、言った通りちゃんと対処できる。


(……でも、これで襲撃しようって考えるのかなぁ)


だってフォーミュラがあると言っても、中央もそれを踏まえた上で迎え撃つつもり満々だし。

私だったらさすがに、無理かなーって。AMC装備まであると、ガジェットも問題ないだろうし。


だけど……ああもう、このまま何も起きなければいいんだけど。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


上手く会議場に入り込み、コッソリと……ひっそりと……隅っこにて頬杖。

まぁ目も見えない傷痍局員など、気にするだけ無駄という判断だった。それ自体は別に問題ない。

六課に入り込む名目とはいえ、仕事はきっちりする。それは私の個人的な拘り……意地と言うべきものだったから。


それで問題があるとするなら……。


「横、失礼しますね」


有無を言わさず隣に座り込んできた、本局の女提督だろうか。

たとえ本当の盲目だったとしてもこの声と気配、溢れかえる色香でよく分かる。


「どうぞどうぞ……と言いたいですが、ご家族からも頼まれていまして。今からでもお帰りになりませんか? リンディ提督」

「問題ありません。私は後見人として、現場の監督をしにきたのですから」

「警備課長やレティ提督が相応に気を使っているのは、承知しておいてほしいんですけどねぇ……。
特にレティ提督には、泣きつかれる勢いで頼まれましたし」

「……でしたらなぜ、私との約束を守っていただけなかったのかしら」


あぁ、通信で言っていたことかぁ。一応善処するって話だったのに……それでは許してくれないようで、視線が妙に厳しい。

おそらくは昨日、ハラオウン分隊長にセミリタイア宣言を食らったのも効いているのだろう。冷静でない人間は、自分が冷静という勘違いをしているわけよ。


「残念ながら現場に顔一つ出さない後見人のためには、指一本も動かしたくないという反骨心で溢れかえっていましてねぇ」

「それをしっかり宥め、八神部隊長が復帰した後の状況を整えるのが、あなたの仕事ではないの?」

「組織的な上下関係ではなく、信頼からの協力をを求めるのであれば……現場にきっちり顔をさらすべきだった。
もう上と下は折り合えませんよ。あなた方のやることは、この腹いせに暴れまくる現場の尻をきっちり拭うことだ」

「……だから、私達に首を賭けろというの……!? あなたは私達を犠牲にして、それでハッピーエンドを誇るつもりなのかしら」

「別に問題ないでしょ」

「それは間違っているわ。そんな犠牲を、私達は当然にしない……したこともない」


おやおやおやおや……一体どの口で言えるのかと、つい吹き出しかけてしまう。


「……何がおかしいの」

「古き鉄やGPO、EMPDに維新組……現場で苦労した人間の手柄を奪い取り、自分のミスを取り返そうとしたあなたを見習っているんですよ? 現場は」

「――!」

「もちろん六課設立のことだって同じだ。だから……現場は、あなた達を憎みこそすれど、信じる理由がカケラもないんです」


リンディ提督の視線が厳しくなるのも気にせず、頬杖を続けながらため息。


「だから、違う……違うわ。私は、そんなこと……していない……」

「ならもっと前の話をしましょうか。
……ジュエルシード事件の折、ハラオウン分隊長がジュエルシードを海上で多数暴走させたとき、あなた達アースラ組は静観を決め込んだ。
暴走によって分隊長が危ないのはもちろん、海鳴近辺への甚大な被害も予測されたのに……魔力切れを起こしたところを狙うと決めた」

「私は、犠牲なんて当然にしたわけじゃない……ただ、ただ、ちょっと、我慢をしてもらいたいだけで……」

「その我慢の結果、ハラオウン分隊長は死ぬかもしれなかったんだよなぁ……」

「やめて……」

「お分かりですか? あなたは……ヴェートル事件が始まる前から”そんな人間”だったんです。もちろんご子息のクロノ提督も含めて」

「やめてぇ!」

「やめませんよ。……俺も現場を見た身として、彼らの代わりにあなた方をいたぶり、苦しめ……相応の末路を提示しなきゃいけない」


そんな悲鳴は通用しないと笑いかけると、リンディ提督は席を立とうとする……なので遠慮なく肩を掴んで、抑えつける。


「痛……!」

「……逃げるんですか? 仲間と向き合うことから……また……」

「ひ……!」


あなたは心を病んでいるとか。でも私には、それに気づかう理由がない……何一つない。

あなた達の悪巧みで……あなた達があんな脳髄どもに利用されたせいで、私は大事な妹を一人失ったし、可愛がっていた妹を一人、殺さなきゃいけないから。


だから、追い詰める。徹底的に……心が壊れるまで、容赦なく――!


「そんなこと、するつもりじゃなかった。
ただ、ただ……取り戻したくて……元に戻したくて……」

「あなたはもう人殺しです」

「違う……!」

「ほら、その手を見てください。こんなに真っ赤に汚れて……もう拭えない、人殺しの手ですよ」

「私は、人なんて殺して……」

「蒼凪嘱託魔導師の、地球での生活や将来も踏みにじろうとしたでしょ? 我慢させるために……それも、立派な人殺しですよ♪」

「――!」


顔を真っ青にして、ガタガタ震えるリンディ提督が本当に可愛くて……愛おしくて。だから、こっそり耳元で囁いてあげる。


「――今日は、その辺りについてたっぷりと話をしましょう」

「ゆる、して……」

「飛び込んだのは、あなたですよ? はははははははは……♪」


本当に、これからの会議は……とっても楽しくなりそう。

人間ってこういう状態で四時間とか五時間とか詰問されたら、どうなるのだろうか。


心が壊れるかどうか……それを試すだけでも、なかなかのゲームだと思った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


フェイトに拒絶された。私がおかしいと……病気だと、医者と同じことを言う。

私はただ、全部を取り戻したいだけなのに。あんなことにならなかった未来を、取り戻したいだけなのに。

なのに…………。


――古き鉄やGPO、EMPDに維新組……現場で苦労した人間の手柄を奪い取り、自分のミスを取り返そうとしたあなたを見習っているんですよ? 現場は――


ちょっと我慢をさせる。でも必ず幸せにする……幸せな道を示す。そう声を上げることすら否定された。

私のせいだと……私の姿から学んで、私達に全ての咎を押しつけようとしていると。それじゃあ……私はまた家族の幸せを守れない!

なのに、逃がしてくれない。ロスコ部隊長代理は私の足を机の下で踏みにじり、手を潰れんばかりに握り、笑顔で威圧する……念話に切り替え語りかけてくる。


何度も何度も、私のせいだと……私が悪だと……心が壊れるまで、すり込むように……。

悲鳴を上げることもできない。助けを求めることもできない。この場でそんなことをして、フェイト達の進退に影響が出たらと思うと……とても怖いの……!


『…………』


いや、それ以前の問題かもしれない。地上の人達は、私をゴミみたいに見る。

私をこの世に生きてはいけない人間だと、視線で伝えてくる。

きっと誰も助けてくれない。私は頭がおかしくなったと今度こそ証明されて、精神病棟にでも収容される。


やめて、やめて、やめて、やめて……こんなことになるなんて、思わなかった。

私が元々”そんな人間”だったなんて、知らなかった。

そんな人間がフェイトの母親になろうだなんて、間違っているって……気づかなかった。


謝るから、許して。もう許して……このままじゃ、私は死ぬしかない。

死にたくない……許されたい……誰かに、このままでいいんだと……私は悪くないんだと、許されたい――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――――これからの行き先を示すような曇天。雨は降らないけど、その分どこか中途半端さも感じさせる。

会議も始まり、地上本部はまぁまぁ騒がしさを増す中……僕は密かに入り込んだ上で、通信をかける。


『――はやてとカリム……それにリンディ提督のこともあったから、なんとか地上の方には入り込んだよ』

「助かります。とりあえず中央の方はいいので、CW社の方に」

『本来ならこういうの、職務規程やらなんやらでアウトなんだけどねぇ』

「どの口で言ってるんですか……サボり魔なのに」

『だからこそ一線はぎりぎり越えないようにって話。
でも恭文、最低でも一人……前線指揮官クラスくらいは捕まえないと、さすがに意味がないよ?』

「承知しています」

『それならよろしい。じゃあ、とにかく気をつけてね。
クロノも警備課長に隠れて、各所での黙認の取り付けはしているけど……それでも限界はあるから』

「はい」


こうして、サクッと通信は終了……非常階段の中で軽く息を吐く。


≪さて、今日の警備も相当ですけど……それでも攻めてきますかねぇ≫

「五分五分ってところかな。普通ならそうはしないけど……でも」

≪……ヴィヴィオちゃんのことなの?≫

「これを目くらましにするなら、隊舎から連れ出すくらいは楽勝だろうね」

≪そんな目くらましがあるの!? それに向こうだって被害が……≫

「それもやり方次第だ。あくまでも電撃的なテロとかなら、まだ……うっし」


なんにしてもまずは、横馬達と合流からだ。非常階段を軽やかに上がってーっと。


「じゃああの子も待っているし、ぱぱっと動こうか」

≪そうですね。各所への連絡も済ませましたし……≫

≪あとはやっぱり、出たとこ勝負なの?≫

「情けないことにね」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


窓の外――中央本部の中庭はどうも薄暗い。というか、空は曇天だった。今にも雨でも降りそうな色だ。

ただ天気予報では夕方頃には晴れるらしいし、それにはちょっと安心。


「――あのぉ」


あっちこっちに制服姿の局員さん達が歩いている。

今回の会議、予言のことを抜いても大事なものだから。

例えば手続き関係でここへくる市民がいても、今日は出入り禁止になっている感じ。


「……あのぉ、もしもし」


本当に中央本部へ攻撃が仕掛けられるのかな。

でも……さすがにこの厳戒態勢で喧嘩を売るとか、もはや自爆テロだと思うんだけどなぁ……!


でもでも、敵はこっちの情報とかに通じているし、やり方次第で……たとえば、しょんべんを引っかけるみたいな即行勝負なら。


「もしもしぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「ひやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


後ろから声がかかったので振り返ると、聖王教会のシスター服を着た女性がいた。

翠髪で、身長は百五十前後。腰まである髪は柔らかい色合いで、声も無駄に穏やかな感じ。

その隣には、オレンジ髪の……あれれ、あれー!? 確かこの子って!


「な、なんですかあなた! いきなり大声出さないでください!」

「いえ、先ほどからお呼びしていたんですけど」

「え、そうなの!?」

「はい。スクロールを戻して読み直していただければ、お分かりになるかと」

「スクロールってなんですか!」


過去ログ!? 過去ログってことかな!? そういうお話なのかな、ねぇ!


「あ、申し遅れました。私、聖王教会所属の教会騎士兼シスター、シオン・ソノバラと申します」


シスター・シオンはペコリとお辞儀。更に懐から封筒を取り出す。


「気軽にプリンセス・シオンとお呼びください」

「はい……って! それは全然気軽じゃないですよ! お姫様ってなんですか!」

「あら、そんなことは決まっています。私という存在は至高であり究極。神に等しいからです」


この人マトモじゃなかったー! なんか極々普通に自信過剰な人だったー!


「まぁプリンセスは見て分かると思うので、シスター・シオンで大丈夫です」


どこが大丈夫!? というか、その自信満々な笑みはやめてー!


「失礼ですが、高町なのは一等空尉でよろしいでしょうか?」

「はい、そうです」

「あなた方を手伝うようにと命令を受け、派遣されて参りました」

「派遣? でも、聖王教会の方からはなにも」

「私、騎士カリムの同僚に仕えておりますので」


つまり、あれ? その同僚さん経由で私達の……と。

そこでシスター・シオンが封筒を渡してくる。

どうやら読めということらしいので開いて確認。


……そこにはなぜか、芸能人みたいなサインがあった。


「あの、これは」

「プレゼントです。いずれ価値が出ますので」

「紹介状とかじゃなくて!?」

「というわけでよろしくお願いします」

「どうやって!? ……というか、そっちの子はシャンテ・アピニオン!?」


そう、オレンジ髪の子には見覚えがあった。というか、雛見沢出張のとき、シスター・シャッハやカリムさんから教えてもらったんだ。

シスター・シャッハが鉄拳矯正した不良で、今は更生して教会のお仕事を手伝っているーって。

しかもシスター・シャッハも認める特殊技能の使い手で、恭文君にもいずれ紹介したいなーとか言ってたんだけど……。


「あの、カリムさんから聞いたよ! 新人シスターさんだって」

「いいや、違う!」

「え、でも」

「問われて名乗るもおこがましいが、知らないならば聞かせてあげよう。こちら――ファンキー……アピニオン!」

「ファンキー!?」


そのグラップラーさん、もう一回転してVサインですか!

あれ、待って……この名乗りは……この勢いは。


「そして」


シスター・シオンはさっと襟を掴(つか)み、服を引きはがしながら変身。

そこには黒のノーネクタイスーツを纏(まと)い、サングラスを装備した……!


「デンジャラス――蒼凪!」

「デンジャラスぅぅぃうぃうぃうぅぅぅぅぅう!?」


そう、恭文君だった。

どういうことなの……!


どういうことなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?


「……恭文、これやっぱ楽しいかもー!」

「でしょー? ……僕も、いろいろ思い出しちゃった」

「どういうこと!? というか二人とも、一体いつ知り合って仲良くなったのー!」

「あ、内緒でお願いね」

「できるかぁ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……恭文君が出現したすぐ後、フェイトちゃんと合流。フェイトちゃんは飛ぶが如(ごと)き勢いでやってきた。

でも恭文君とシスター・シャンテは、こちらに合わせる様子もなく。


「……あ、ふたば軒の株価が落ちてる」

「夏の新作、不評だったみたいだねー」


なぜか休憩所の一角で、コーヒーを飲みながら……くつろいでいます。

新聞を読んで、ノンビリしています。そしてフェイトちゃんの話はガン無視です。

……どういうこと!? どういうことなの!? もしかしてなのは達を馬鹿にしてるのかな!? だから遊べるのかな!?


「な、なのはー!」

「……フェイトちゃんも夏の修行していたのに、知らなかったんだ」

「全くだよ! というかこれは……うん、婚約者としてお話を」

「そこはいいから……!」


とりあえずフェイトちゃんは落ち着かせようと、一旦下がらせておく。


……そうしながらもヴィータちゃんと念話。

そうだ、仕事に戻ろう。落ち着こうと言いながら、なのはが一番落ち着いていない……素数を、素数を数えなくては……!


”――で、今はそのシスターと談笑中か”

”うん。ヴィータちゃん、やっぱり”

”聞いてねぇな……。騎士カリムも会議に参加できればとか言ってたが……いや、関係ねぇか”

”リンディさんもそうだけど、無茶しすぎだよ……”


まぁ心配してくれるのは有り難いけど、鉄火場になると予測されている場所だよ? そこに半病人がいると、なのは達の方が心配で倒れるって。


”やっぱあれじゃねぇか? 中央の専従捜査班に特機戦力として数えられたから、それで使えそうな奴を引っ張ってきたとか”

”それである意味顔パスかぁ”


だから恭文君も武装状態だよ。がちで頑張っているところだよ。

でも、今までの斜め上な有り様を考えると……ほんと、滅茶苦茶怖い……!


”それでなのは、今回の予言……内部でのクーデターって線はやっぱないんだよな”

”むしろ六課や三提督……本局が危ないって言われる程度にはね”

”……地上も地上でヤバいとは思うが、こっちがまずきっかけを作った話だしなぁ”

”軌道上の艦隊待機だって、バレたらどうなることか……!”


もちろんゆりかごとか、ヴィヴィオのこととか……本命っぽい情報は出ているよ? でもそれだって多角的に検証しないと痛い目を見る。

だからアコース査察官や査察部も、その辺りを丁寧に調べてくれたんだ。だけどやっぱり、クーデターでどうこうというのは……。


”というか、地上にはクーデターを起こす理由がないって断言されたよ”

”本局がこれだけやらかしているのにか?”

”その辺りに絡むのが、食料などの自給率問題。ほら、今日の会議でも討論されているよね”

”あぁ……ヴェートルやパーペチュアルからの移民で、一時的に低下しているってやつか”

”独立した場合、食料もそうだけど、エネルギーの自給はどうするか……生産世界から輸入するにしてお、今までと同じ金額では無理かもしれない。
ならそのお金もどうするか……ようは各世界がいろいろな意味で連携しているから、そこを崩すのは自滅行為って話”

”そりゃまた腹立たしい枷だ”


枷って……いや、まぁその通りなんだけどさ。さすがにそれで口減らしをするような世界やその首脳陣に、未来を期待しろって言うのは無茶だしさ。


”結論としては、やっぱり武力と権威の両面からによる管理局へのテロ攻撃だね。
多分レオーネ相談役が爆殺されたのも、ミゼット提督達が突如失踪したのも……。
実際そのせいで三提督のシンパが衝突状態。本局の中も混乱が加速しているらしいし”

”それで艦隊出動がよくできたな”

”混乱しているからこそ先走ったんだよ”

”でもそう考えると、地上より本局に攻撃の比重が向いているんだよな。
……ばあちゃん達は疑いや嫌う感情を捨てて、融和ってやつを説いた。
でもばあちゃん達やそのシンパ自身がその疑いに駆られているとするなら”

”それも計算した上でこれなら、かなり底意地が悪いよ……!”


士気減退戦術にも程があるよ! これで三提督もバラバラになったら、六課へのサポートなんかもほとんど無意味になるだろうし!

いや、実際バラバラというか、一人は死んで二人は消息不明なんだけどさ! もう無意味になってるんだけどさ!

しかもなのは達の立場を鑑みても、いい気味とかは言えない……いや、人が死んでいるっていうのもあるんだよ。


でもそれ以上に上層部やあの三提督が混乱して、管理局の権威が更に貶められるのは……。


”とするとやっぱりゆりかごで制圧なのかな……。今回の艦隊出動も、その辺りへの対抗策ってのが大きいみたいだし”

”制圧するだけで、高みの見物って可能性もあるからなぁ。抑えの一手って考えればまだ分かるけどよぉ。
……だからレジアス中将も、この状況で何も言わないのか? さすがに察してくらいはいるだろうに”

”かもしれないね……。あえてクーデターを示準することで、本局を恫喝するような人だもの”

”だがそんなのを打ち倒して、仮に成り代わるとして……それは受け入れられねぇだろ”

”そうでもないかも……”

”というと?”

”去年の事件が示しているもの。国を治めるのは『特定の誰か』じゃなくていいってさ”


カラバ王党派を皆殺しにしたクーデター派は、主犯のマクシミリアン・クロエが急死するまで健在。

動揺する国民達を統制し、短期間とはいえきっちり国を守っていた。

それまで信望していた王族を皆殺しにした、そんな人達の統治を受けていたんだよ? それも反乱とかそういう流れがあった記録もない。


まぁ起こる前に大まかに解決したせいかもしれないけど……ただ、こうとも言えるわけで。


”それに足る権力と、国民を守るシステム……それがあるなら誰でもよしか”

”もちろんその能力があるかどうかを見定め、選ぶ権利が……選挙などで政治に関わっていく道はある。
でもそれだって戦乱で吹き飛ぶほどに、危うく柔らかい土壌なんだよね”


うん、悲しいことに王様じゃないんだよ。

いや、運営に人の手は必要だよ。

王様だって必要……でもそれは器だ。


スカリエッティ達はもしかしたら、器の中身を捨てようとしているのかも。

そうして自分達という新しい中身を注(そそ)ぎ込むわけでもなく、ただ捨てる……ただ無意味あったと踏みにじる。

もちろん無政府状態になった世界で、彼らは絶対的な強者として振る舞える。その中身になり得る存在となれる。


だけどそのまま収まるかどうかが、なのはには正直疑問で……空のどんより具合に押されているのか、悪い方にばかり考えちゃう。


”てーか……お前は事件の前に、ヴィヴィオのことに頭を使えよ”

”あぁ、それなら……朝焼けを見ながら、結論を出したよ”

”マジか!”

”先送りにするの”

”……って、おい!”

”まずは引くことも、踏み込むこともできる未来を守ろうと思うから”


だから先送り……幸い今の私には、自分なりにその手伝いができるかもしれない位置にいて。

その上でまた、ちゃんと考えようって……まずそこだけは決めた。


だって、あの子の笑顔が戦乱で壊れていくかもしれないのに……その可能性があるのに、笑って送り出すことなんてできないよ。


”というかね、話し合うのもやっぱりそこが解決しないと……! 通信越しですることじゃないし、休みだって欲しいし”

”世知辛いなぁ。公務員ってやつは”

”その分いろいろ恩恵をもらっているけどね”

”それに平和じゃなきゃ、子どもだって夢を見られない”

”そういうことだ。だから……まず一つ決めたよ”


先送りとは言ったけど、だからこそ一つ定まった。


”……ゆりかごがあるなら、絶対に壊す。どんな手を使ってでもだ”


その悪用はヴィヴィオのことだけじゃなくて、その力を平和のために使い、眠らせた聖王家の人達への侮辱だとも思うから。

だから終わらせよう。もうそんな亡霊に縛られる時代は、とっくに過ぎたんだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文のアホ、平然と内部に乗り込んでいたらしい。

しかもシスター・シャンテも連れて……マジでいつ知り合ったんだよ!

その上デンジャラスにファンキー!? やっぱり頭のおかしい友達が多いな!


「恭文さん、リインというものがありながら……また他の女ですか!」

「お前は、心の結婚式を挙げただろ……」

「身体の結婚式も必要なのですよ、これは! 現に誕生日のときとか……もう凄い勢いで!」

「いいからあと八年待て! もう嫁に行くなとは言わねぇから……せめてそれだけはぁ!」


とにかく……えっと、時刻は十八時か。会議開始から四時間――もうそろそろ終わりだな。

近くにいるスバル達を見やると、気合いを入れ直していた。


「予定時刻は過ぎてますけど、会議は白熱してますしね」

「アインへリアルの運用やらなんやら、過激だったしねー。
というか、本局とのいざこざもあって全体的に熱狂……」

「……本局がこの有様だからって論旨を振りかざされると、アタシらは何も言えねぇんだよなぁ。
しかも不満を持っている各地上部隊も味方にできて、一石二鳥ってわけだ」

「確かに……会議が熱狂するたびに、警備人員も熱を持つ感じですよね」

「かなり騒がしかったしね……」


エリオとキャロが言う通りだった。その熱の分、アタシらは異物として扱われるわけだけどなぁ……!


「まぁそれもあとちょっとだ。上手く終わることを祈って集中しようぜ」

「「はい」」

「……そういやギンガは」


そうだ、ギンガが見当たらない。ティアナ達も気づいてなかったようで、辺りをきょろきょろ。


「あ、ギン姉ならさっき、警備状況の報告に行くって臨時詰め所に」


するとスバルがあっけらかんと、八時方向を指差す。


「……アンタ、一人で行かせたの!?」

「何やってんだよ、てめぇ! 状況を分かってねぇのか!」

「私も言ったよ! そうしたら……なんか、女の子の日だから、一人にしておいてほしいって」

「なんだそりゃあ!」

「……あぁ、ギンガさんって重たい方だったのか。それでちょっと情緒不安定と」

「それ!」

「お前は分かるのかよ!」


というかその日って……そういうのか! そういうのなのか! でもよりにもよって今日かよ! 一人で行動するのはやべぇって状況なのによ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あれからひと月と少し――天は俺を見放さなかった。

救われた俺は泣きじゃくるアギトと、視力を奪われたルーテシアとともに、この日を迎えた。


……俺は一人ではない。虚空を踏み締める俺の隣には、アギトがいた。

そうして今再び、俺達は正義のため……戦場へ向かおうとしている。


「連中の尻馬に乗るのは、どうも気が進まねぇけど……あんま言えないよなぁ。ルールーの目も治してもらったし」

「それに貴重な機会ではある。今日ここで全ての決着がつくのであれば、それに越したことはない。
……アギト」

「心配しすぎだって。かなりやばかったけど、ルールーと同じくアタシも完治だ。
……だから今度こそ、あのクソ野郎にも引導を渡せる……!」

「そうだな。レジアスの方も大事だが、そちらも騎士として通すべき使命だ」


本来であれば、アギトはルーテシアに付かせるべきだろう。だがそうもいかん……なぜなら奴には、断罪の炎を浴びせる必要があるからだ。

奴の能力を打破するならば、アギトの力が必要だ。アギトもまたその正義を理解し、ここにいる。


……俺達の前には道が拓けている。なんの迷いもなく……真っ直ぐな道が。


「あの野郎をぶち殺した上で、このムカつくヒゲおやじのところまではついていく。旦那のことを守ってあげるよ」

「……助かる」


自嘲しながらも改めて、中継の様子に目を向ける。

空間モニターの中央で、我が物顔で語っているのは我が友人。


……蒼凪恭文、どこにいる。

貴様は、機動六課というこの世界の希望までも汚染するのか。スカリエッティ達を止められる、新しき勇者すら……!

ならば俺の寿命が尽きるまでに、貴様という世界の害悪を駆逐してみせる。


貴様も戦闘者としての誇りがあるのならば、出てこい。今度は決して負けん。

たとえ刺し違えてでも、俺の死んだ後――ルーテシア達が暮らす世界から消し去ってみせる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


時は進む……時計の針は決して戻らない。

迷いはある、これでいいのかとまだ迷い続けていた。私はそれほど強くはない。

既に戻れない歩み、突き抜け勝利することでしか、私の復しゅうは果たされないと知っているのに。


「……クアットロ」

『攻撃準備は全てばんぜーん♪ あとはGOサインを待つだけですぅ〜』

『お嬢と騎士ゼストも、所定の位置についたよ』

「では、その前に一つ確認だ。病み上がりの君達……体調は万全かね」

『こちらサンダーエッジ・ボルト。セッテともども配置に就いた……が、この名をコードネームにするのはやめてくれ。恥ずかしくなる』


そう言いながらも、従ってくれる君には感謝しかないよ。やはり義理堅い男だ。


『こちらナンバーVI、セイン。同じく万全だよー』

「セイン、何度も言っているが」

『分かってる。戦闘はぜーんぶお任せするよ』

「頼むよ」


念押しした上で、モニターの一つ――ルーテシアを見やる。


『ナンバーX、ディエチ……問題ないよ。フル出力もいける』

『ナンバーVチンク、ナンバー\ノーヴェともども問題ありません』

『ドクター、私も大丈夫……ガリューとアギト、それに私の目も治してくれて、ありがと』

「礼には及ばない。だがルーテシア、気をつけたまえ。間違いなく彼も会場内にいる」

『……だったらぶち殺してやるよぉ』


おやおや……やはりノーヴェは怒り心頭か。


『トーレ姉の仇討ちだ! 才能も、力もねぇ凡人がアタシら戦機に歯向かったらどうなるか、たっぷり刻み込んでやる!』

『……やめとけ。お前じゃ殺されるだけだ』

『なんだと! だったらてめぇからぶっ潰してやろうか!』

『ノーヴェ、落ち着け』

『でもチンク姉!』

『何より事実だ』

『……』


だが拳をバキバキと鳴らして、怨嗟を漏らす顔は、悪鬼の如く歪んでいた。

……その顔を見ると、私のやっていることが矛盾と非道に塗れているのだとよく分かる。私は親としても失格なのだろう。


『だからあれは姉がやる。無論作戦行動を達成した上でだがな……』

『お前もやめておけ』

『マスター級の剣術使い殿は、我ら戦機の能力を少々甘く見ているのではありませんか?
姉ならばどのような剣閃であろうと、全て防ぎ、触れずに戦えますが』

『そりゃあ悪かったな。ならただの剣術使いは黙っておくことにしよう』

『えぇ、そうして頂ければ問題ないかと。……ドクター』

「あぁ」


……剣呑なやり取りに軽く頭を痛めつつも、深く深呼吸……自然と左手も握って、飛来手を繰り返す。s


「ただし全員、分かっているとは思うが」

『極力殺したりはするな、でしょ? 分かってるよ』

『これは私達が管理局の代わりになれるって証明するためのもので、非殺傷能力も見せつけないといけない……面倒だけど仕方ないよねー』

「その通り! さぁ始めよう」


こうして私達は引き金を引く。

今度は明確に、世界と憎むべき敵に対して――。


「我々が時間をかけて揃(そろ)えた布陣と、たった一人の『英雄』とその相棒! 今一度、どちらが強いか証明する!」


未来を渡せと力で押し迫る。

その結果が敗北にせよ、勝利にせよ、我々は世界に歴史を刻むだろう。


だが誤解をしないでほしい……先に引き金を引いたのは、世界の方だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――同時刻

機動六課隊舎



――機動六課隊舎もまた、会議終了までは厳戒態勢を保っていた。

預言に記された中つ大地の塔で、派手な大騒ぎが行われている真っ最中だから。

万が一のときには隊舎から現場のフォワードを支援するために、部隊員も気を張り詰めていた。


そんなときだった……機動六課の外線ナンバーに、一本の電話が電話がかかってきたのは。


「はい、こちら遺失物管理部機動六課です」

『………………』

「もしもし? どうされましたか」

『――――その隊舎に爆弾を仕掛けた』

「…………は…………!?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――――初手はこの私から。決してしくじれない責任感も背負いながら、ゆっくりと無機物の中を泳いでいく。

この重苦しい会議ももうすぐ終わる。さすがに二日続けて、しかも中央本部全体の厳戒態勢は疲れるっぽい。


……しかし物事は最後の一割が大事。

管制室で気合いを入れなおすよう、四十代くらいのおじさま上司が部下に促していた。


その様子を天井裏から、人差し指先のサーチカメラでこっそり観察……そこで突如警報が鳴り響いた。


「どうした」

「エネルギー反応……おい、嘘だろ!」

「通信管制システムに異常……クラッキング!? 侵入されています!」

「なんだと!」


お、クア姉のシルバーカーテンが始まったか。

くくくく、瞬間詠唱・処理能力レベルの電子戦能力だよー。

止められないよー、怖いよー。


というわけで、懐から睡眠グレネードを取り出して……っと。


「どこからだ! 対処は」

「駄目です、ハッキング元不明……止められません!」

「通信システムそのものがおかしくなっています! これでは」

「緊急防壁展開! 予備のサーチシステム、立ち上げ急げ! ……まさか本当に本部が襲われるとは」


とか言ってたみなさんへ、グレネードを放り投げプレゼント…………というところで砲声が響く。


サーチで人影が飛び込んできたから、それで察知できた……理解できた。

そうして慌てて引こうとしたけど遅かった。その影は私の位置を見もせず正確に把握して発砲。


結果私の手は壁の一部とともに穿たれ、ちぎれ飛ぶ……!


「つ……!」


それでも墜ちたグレネードは、蒼い魔力に包まれ、火花を走らせながら爆発。中に込められていた催眠ガスもあっという間に消去させられる。

でも止まれない……アイツは、飛び込んできた影は私を追い立てるように、ショットガンを構え連射するから。

それも壁を貫通するスラッグ弾! だから必死に……手首から先が消えた右腕を抱えて、逃げていく……逃げるしかなかった。


ディープダイバーで完全に潜り込んだから、普通の弾丸なら通用しない。でもあれは壁すら貫通する代物だ。

潜り込んだ壁が文字通り消し飛ばされて、それを成した弾丸を私の身体がすり抜けるかどうか……それを試す気にはなれなかった。


”――――こちらセイン! 管制質制御に失敗!”

”はぁ!? ちょっとセインちゃん、どういうことよぉ!”

”蒼凪恭文だ!”


そう、あの悪魔から……容赦なく私の動きを掴み、攻撃し続ける弾丸から。


”いきなり飛び込んで、ショットガンをぶちかましてきて! おかげで腕が……!”

”ああもう……だったらセインちゃんは予定通り待機! システムさえ掌握できれば問題ないから!”

”ごめん!”


でもアイツ、なんなの! 容易くこっちの動きを…………だったらマズい。

他の姉妹達も、襲撃されているんじゃ! なにせ相手は対テロの専門家だよ!? なんか、それくらいできちゃいそう!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……ち、上手く逃げたか」


ショットガン≪レミントンM870≫から、ポンプアクションで使用済み薬莢を排莢。

それがからからと音を立てて落ちる中、耳を塞ぎ、しゃがんでいた局員の皆さんがざわざわしながら立ち上がる。


「えー、みなさんお騒がせしました! 僕は嘱託魔導師の蒼凪恭文……人呼んで、デンジャラス蒼凪!」

『デンジャラス!?』


なので一体なんだこれはとか言われる前に、一気呵成に説明! こういうときは勢いが大事だからね!


「というか、蒼凪嘱託魔導師……レジアス中将から話は聞いている! では、今のは!」

「敵は管理局の内情について詳しいので。ここについても一番に押さえ、指揮系統を混乱させると予測しまして」

≪でも危ないところでしたよ……。今のは非殺傷の神経ガスですよ? もう分解はしましたけど≫

「だが、この場所については秘匿していたというのに……! それに、守っていただいてなんだが、クラッキングが!」

「それでも管制役であるみなさんが崩れたら、余計に混乱する」

「……確かに、その通りだ」


ここを取り仕切っているらしい髭のおっちゃんは、ブラウンの髪を撫で上げ深呼吸――。


「各員、クラッキングに全力で対応! 先ほどの指示通りに、冷静に動いていけ!」

『はい!』

「――――蒼凪さん!」


するとどたどたと、物々しい武装を施した地上部隊の魔導師達が入ってくる。

中央が設立した専従捜査班の武装隊員さん達だよ。もちろんストライクカノンや電磁剣などの、AMC装備もきっちり身につけている。


「おぉ、来た来た……すみませんけど、みなさんの保護をお願いします。僕はまだあっちこっち回らないといけないので」

≪どこでどう襲ってくるか分かりませんから、全力で警戒をお願いします。場合によっては避難を最優先に≫

「了解しました!」

「蒼凪嘱託魔導師……本当に、感謝する」

「いいですよ。趣味ですから」


問題ないと笑って、廊下に飛び出てまた走る。

……本来関係者なり高官しか知り得ない総合管制室の位置を、きっちり掴んだ上で制圧に出た。

この時点でいろいろアウトだ。となると次に襲われるのは。


「束、聞こえているね」

『ほいほーい』


中央本部の近くで絶賛待機中な束に、まずは通信……。


『クラッキングについては、束さんの方でなんとかしてみるよ』

「できるの?」

『そのためのシステムだよ……ISを応用した演算システム≪なんでも分かる君≫は!
有馬記念も、今年のガンプラバトル大会優勝者もバッチリ予想したしさ!』

「……その予想をゼロシステムが如く押しつけたせいで、暴走させたくせに」

『今回はそうならないようリミッターをかけてますー! 大丈夫だよー! 束さんは天才だから!』


そう、これがヒロさんとサリさんが作っていたものだ。元々は競馬や競艇の予想ソフトとして組もうといたのに、いきなりゼロシステム化して大変なことに……!

束がイメージインターフェイスで、予想を予知夢的に見せようとか言い出さなければ、まだなんとかなったのにね! まぁそれに助けられているから複雑だけど!


『ただやっくん、ギンギンちゃんのフォローはすぐできるようにしとかないと駄目だよ? ”クラスタ”があるとはいえソロプレイなんだし』

「もちろんだよ。ただその前に……」

『例の子達?』

「あとはゼスト・グランガイツだ」


例のユニゾンデバイス……アギトも一緒なら、さすがに面倒だしね。上手く引きつけて、被害を抑える必要もある。

もちろん奴らが苦手とするフィールドに飛び込ませる必要もあるし……よし、一旦戻るか。


なのはとフェイトを上手く逃がして、その次はスバル達だ。


(もし動き出すとしたら、このタイミングだろうからね……)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ちょっと、どういうことよ。セインちゃんが待ち伏せなんて。


「こちらの手の内が全部読まれているの? 虫けらの分際で、生意気な……」


せっかくの楽しさを邪魔されて、つい爪を噛みかける。

……でも、すぐに気を取り直した。


「ふん、まぁいいわ。フォーミュラもある私達に、サンプルH-1が……タイプゼロ・ファーストが勝てるはずもないし〜」


結局は無謀に命を散らすだけ。だから笑って、こんな想定外には意味がないと見下しておく。


「ルーお嬢様ー、予定通りではないですけど、お願いしますー♪」

『……遠隔召喚、開始』


……中央本部の外庭に、次々とルーお嬢様の魔法陣が展開。

そこから現れるのは地雷王やガジェット達。それと……苦心の作。

予定よりずっと少なかったけど、何とか培養・量産できた赤髪・眼帯騎士達が出撃。


その名はオーギュスト・クロエ。その数……ここは十体で大丈夫ねぇ。

では親和力事件の犯人を、なぜ私が準備できたのか。それはぁ……とーっても簡単。


……オーギュスト・クロエを改造したの、私だから。


妹達へのバージョンアップに繋(つな)がるかと思って、試したかった技術をつぎ込んだ実験体。

そう、彼女に使った改造技術は全て戦闘機人のもの。後天的に戦闘機人化したとも言えるわ。

彼女の『眼(め)』も、後天的に発現したIS。正式名称は【魔破眼(オーダン・ルージュ)】。


そうしたらまぁ、サンプルH-1にも劣る駄作ぶりだったわけでー。

でもぉ……そんな駄作でも、魔導師相手には最強キャラなのよねぇ。


「逆に、ここまで出さなくて正解だったかしら」


大量に集まったガジェットはその場でAMFを展開し、その高濃度により警備局員達は無力化……まぁ完全ではないけど。

AMC装備……ストライクカノンやレールガンによる砲撃、更に電磁剣やロッドによる近接攻撃により、彼らはガジェットの排除を試みる。

しかしそこで地雷王の電撃がゴミどもを焼き、オーギュスト達は疾駆。そこから楽しい虐殺と思ったら……地雷王の頭が撃ち抜かれる。


AMC装備により発生した物理バリアにより、地雷王の電撃は、追撃の斬撃は完全に防がれていた。

更に地上・本局の魔導師隊が全員、地上へと降り立った。それも急に……逃げるようによ。

そのまま地上に足を止めて、陣形を組んで砲撃連射。質では敵わないから、手数で圧倒しようという虫けららしい戦い方。


無駄無駄無駄無駄……オーギュストは魔法を見抜く眼を持つのよ? あらゆる魔法を事前に察知し、回避する。

だからそんなものは無意味だった。そう一瞬でも思ってしまった。


……高密度に圧縮された、質量弾寸前の魔力砲撃。色とりどりのそれが、オーギュスト達を次々と撃ち抜く。

頭を、腕を、足を、振りかざした刃を……一気に四体がやられて、さすがにマズいと他の機体も退避し始めた。


「ちょっと……なによなによなによ! 虫けらが立派に頭を使ってんじゃないわよぉ!」

『いや……ドクターの命令もあるし、さすがに今のは』

「加減はしても、死んじゃう虫けらよぉ!?」

『完全に悪役の台詞だ』

「シャラップ! ……こうなったら、仕方ないわね」


不愉快すぎるわ。またこっちの戦術が……手札が読まれている。


『――こちらボルト!』


それについてはどうやら、あのおじ様と……おじ様に付かせていた七番セッテも同じらしい。

二人は地上の空戦戦力を押さえる役割だったんだけど、画面の中で色とりどりの砲撃に圧倒され続けて……。


『おい、どうなってる! 空戦魔導師達が出てきたと思ったら、踵を返して砲撃戦に持ってきたぞ!
おかげでこっちは羽虫のように潰されるのを待っているところだ!』

『クアットロ姉様、七番セッテです。予定とは大分違うようですが……』

「……誰かが妙な入れ知恵をしているみたいねぇ」


まぁ大体誰がやっているかは分かるけど……でも、無駄よ。


「ならこっちも奥の手を切りましょうかぁ」

『奥の手?』

「そう……とっても楽しいことよぉ」


おじ様には笑って答え、直ぐさま別のモニターを展開。


「最高評議会三人の生体データにより、システムの最高クリアランスに……アクセス成功。
地上に駐留している本局部隊、更に衛星軌道上に待機している本局艦隊に謀反の疑いあり」


音声入力も込みでさらーっとシステムに命令を下す。その根源は、ドゥーエ姉様が制圧済みの一室。

奴らは間抜けなことに、自分達が使用しているホストコンピュータをそのまま、SAWシステムの母体としていた。

あとはAIによる自動制御が基本だけど、いざというときは自分達で命令を下し、管理局を制御しようという腹だったのよ。


でも、それはとーっても危ないこと。だから見ていなさい……愚かな脳髄ども。


「SAWシステムの緊急セキュリティ発令。各導入部隊に対し、ナノマシン経由での鎮圧を試みる……というわけで」


入力完了……それを知らせるように、右指をパチンと鳴らす。


「It's――」


そうして生まれるのは、まごうことなき地獄絵図。


「Show Time!」


一体何が起こるかは、まぁご覧じろってやつかしら〜♪


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


地上本部襲撃直後――ミッドチルダ衛星軌道上

次元航行艦≪クラウディア≫ブリッジ



かなり無茶な艦隊出撃と思っていたが、今回については大正解と言ったところか……。

まさかこうも堂々と、攻撃を仕掛けてくるとは……!


「クロノ提督、クラウディア全武装隊員、転送ポートにつきました」

「各艦の部隊も、転送準備完了したとのことです!」

「よし、地上本部近辺の安全域に転送。その上で事態に対処せよ」

「了解。転送開…………ちょっと、待ってください!」


するとオペレーターの一人が血相を変えて振り向く。


「五番艦ブラウゼアが、こちらを補足……最高速度で接近しています!」

「なんだと! ――こちらクラウディア艦長クロノ・ハラオウン! 五番艦クラウディアクルー、応答せよ!」

『こちら…………ブラウ、ゼア……艦長、ライゼル……クリオス……!
クラウディア、回避を……回避をぉ!』

「なにがあった、クリオス艦長!」

『艦のコントロールが! それに武装隊員が突如暴走して、施設破壊を……がああぁぁあぁぁぁぁ!』


そこで通信が途絶する。その間にもブラウゼアが接近してくる。

いや、こちらだけではない。他の艦も、まるで同士討ちするかのように突撃を行っていた。

幸いこちらを狙っていたのはブラウゼア一隻だけだが、中にはタコ殴り同然に囲まれる艦も……!


「取り舵いっぱい! ブラウゼアの突撃を回避しろ!」

「もうやっています! ですが武装隊の転送が!」

「安全圏に離脱するまではこのままだ! ――艦内の各員に告ぐ! 本艦は緊急回避行動に入る!
各員は衝撃に備えよ! 繰り返す、各員は近くのものにしがみつき、衝撃に備えよ!」


艦は急激に傾き、突撃コースからの退避を試みる。その間にもオープンチャンネルでは各艦からの悲鳴が響く。


『こちら、十八番艦ライゼル! 艦が制御できない……落ちる……このままではミッドに落ちるぅ!』


ある船は艦隊を離れ、大気圏へと真っ直ぐと落下していく。


『こちら二十一番艦シュヴァイツァー! どいてくれ! 衝突する……こちらは操舵不能! 解析…………あぁあぁあぁあぁぁぁぁあぁぁぁ!』


ある艦は中央から突貫を行い、進行方向上の仲間達に追突を繰り返し、巨大な船体をへし折りながら瓦解していく。


『一番艦ビードゥル……駄目だ、来るな……来るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


そしてある艦はブリッジに突撃を受け、爆散を繰り返す。

そんなあり得ないほどに雑で、大規模な同士討ちの中、我が艦とブラウゼアはギリギリのところで横っ腹が掠め……交差する……!


その衝撃で弾かれるように横に揺れるが、なんとか席にしがみつき、耐えて……艦隊の中から、はい出て……!


「……艦隊の陣形から脱出成功! ですが更に距離を取らないと、また再度の衝突が……現場への転送設定も最初からやり直しです!」

「それも大丈夫だ! 艦の安全を最優先に!」

「はい!」

「でも、どうしてこんな! 一隻二隻ならともかく、ほとんどがいきなり制御不能って!」

「それは僕が…………」


手を動かしながらも吐き出された悲鳴に、皮肉交じりに答えかけた。……だがそこで停止する。


「ぁ………………!」


一番、五番、十八番、二十一番……今回異常を訴えた艦船は、SAWシステム導入艦艇だった。

ではまさか……まさか……!


「……!」


激情に従い、通信を繋ぐ……そしてそれは、幸運なことに繋がった。


『はい、蒼凪です……って、クロノさん? なんだか画面が』

「お前の危惧が当たった――!」


そう言いながら駐留部隊との通信ラインをかけるが……くそ、繋がらないか! システムがジャックされた関係か!?


「済まないが、こちらから駐留部隊への連絡ができない! お前の方でなんとかできるか!」

『やってみます! でもクロノさん』

「集中してくれ……」


本当に情けないが……もう、そんな強がりしか言えなかった。


「もう、覚悟はできているからな」

『……はい』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――――まさか、本当に魔法を見抜く敵が……オーギュスト・クロエが出てくるとは。

実は突然……警備中に念話を受けたとき、正直信じられなかった。


――こちら、機動六課及びミッド地上第八特務捜査班所属の嘱託魔導師、蒼凪恭文!
聞こえる!? 本局の駐留部隊……それに地上の警備部隊!
念のため戦闘は地上戦で、魔法を使わず戦って!――


それは、オープンチャンネルで届いた声だった。しかも嘱託魔導師だと言われ、誰もが邪魔に思っていたところで。


――敵方には、僕が……古き鉄が、犯罪者の改造に関わった可能性がある!――


古き鉄というワードが届く。

ヴェートルの英雄……となればと話を聞いたところ、その危惧は大正解だったわけだ。


『中隊長、敵勢力の殲滅は順調です!』

『本当にオーギュスト・クロエが出てくるとは思わなかったが……いや、でも助けられた?』

「腹立たしいことにな! だが油断はするな!
――各隊、AMC装備による防御とアウトレンジ攻撃に徹しろ!
距離さえ取って、魔法を使わなければどうということはない!」

『第一分隊了解!』

『第二分隊了解!』

『第三分隊、了解!』


突然の襲撃に際し、本局や地上の垣根は既になくなっていた。

ただ迫り来る敵を……予想されていた転送での奇襲も踏み越え、蹂躙する。

こちらについても予想していたよりもずっと楽に対処できていた。


確かに不意に現れるのは驚くが、それでも魔法陣を介しての出現。前兆さえ察知できればあとはモグラ叩きだ。


巨大なカメムシのような召喚獣もまた、一匹二匹と顔面を頭部ごと穿たれ沈黙し……。

ガジェットやそれに混じるラプター達も、ガン待ちの姿勢を構え、ひたすらに撃ち続ける我らに近づくこともできなくなった。


『こちら第四分隊! 海上から接近していた男と女の二人組ですが、足止め継続中!
一人は例のサンダーエッジ・ボルト! 女の方はタイツスーツから、戦闘機人であると思われます!』


そこで映像が送られてくる。ストライクカノンによる砲撃を必死ですり抜けるのは、桃色髪で大型の女。

両手にはグリップが峰側に二つ付いた、弓のような件を持っている。鍔もなにもないそれに妙な違和感があった。


「よし……だが油断するな! 戦闘機人についてはフォーミュラを使ってくるぞ! 各員、ジャケットの対フォーミュラ設定を怠るな!」

『はい!』

『――ちょっと待って! 本局駐留部隊はすぐに安全圏へ下がって!』


……すると、アドバイスをくれた当人からとんでもない声がかかった。


「何を馬鹿なことを! 今下がれば地上本部が!」

『SAWシステムがジャックされてる!』


……だが、その叫びと同時に均衡が崩れた。


「あ……あぁあああぁぁぁぁあ……!?」

『今クラウディアのクロノ提督から連絡がきた! 軌道上の本局艦隊も暴走・混乱している!』


ある者は慟哭し、空を見上げ打ち震える。

その可能性も……万が一の場合は起こりうる可能性も、提示されていたのにだ。


「げばばぁあぁあぁあぁぁぁぁ……!」

『だから……もしもし……もしもし! 誰か返事をして!』


ある者は突如吐瀉物を吐き出し、そこに塗れるように転がり悶える。


「ひぃ! やめろ……やめろぉ! 来るなぁ!」

「おい、どうし……ぶぐ!」


ある者はストライクカノンや電磁剣を振り回し、恐怖に駆られ味方を攻撃する。

そんなことが広範囲に……数百人もいた駐留部隊全員に起きたものだから、もはや混乱どころの騒ぎではない。

彼らは命を奪い去るにふさわしい存在を前に、明確な隙をさらけ出していた。


「なんだ、これは……」


だから、一人、また一人と……迫り来る死に神にすら構うことができず、狩られていく。

まるで害虫を駆除するかのように、冷徹に、無感動に、機械的に……ただ邪魔なものとして潰していく。

そうしてミッドチルダ地上本部の外周は、悲鳴もなく、ただ赤に染まる。


「なんだ、これはぁ…………!」


命の赤……組織を信じ、精鋭として尽力してきた命が、無惨に散らされ、消えていく。

自分もまた衝撃に打ち震えながら……振り下ろされる刃を前に、何もできずに跪くしかなかった。


「なんだなんだ」


――第47話


「こればぁ」


『その日、機動六課/PART2』


(第48話へ続く)









あとがき


恭文「というわけで、本局艦隊の一部が大気圏突入……コロニー落としが如き被害を各所にもたらすまであと数分。
更に駐留部隊もSAWシステムを戦闘突入中に乗っ取られて、一方的に虐殺されることに……警告しても、結局止められなかったって」


(さすがに個人で止めるには規模がデカすぎました)


恭文「本来ならこのツケも最高責任者としてミゼットさん達が払うんだけど、お亡くなりになったからなぁ。
まぁ当然この場合は、疑問も持たずに導入を推進した方々に払ってもらうしかないわけで……」


(蒼い古き鉄、合掌)


フェイト「ヤスフミ、そんなこと言っている場合!? ほら、あの……アイリ達がペアクルージングのチケットをー!」

恭文「あぁ、それなら商店街の福引きで当てたんだよ」

フェイト「そうだよ! 二人ともまだ小さいのにこんな高いのを…………福引き!?」


(そう、六月二十一日は父の日。というわけで父の日プレゼントとして、双子の子ども達からもらったのだ)


恭文「券が溜まっていたから最初は僕がやってみたら……もうてんで駄目で。
……やっぱり福引きって仕込まれてるよね」

フェイト「……それは、ヤスフミの運勢が常時最悪なせいだよぉ。福引きの罪はないから」

タマモ「そうですよ、御主人様……心を強く生きてくださいまし」

恭文「シャラップ!」

タマモ「で、とにかく最近生意気盛りな小姉と、だんだんと野上良太郎に似てきた小弟が引いたと」

恭文「一発だったからビックリしたよ…………。二人とも、乱数調整したのかな」

タマモ「福引きにそんなのありませんから……」

フェイト「あのね、あのがらがらって……そういうのじゃないから。純粋に運だと、思うんだ」

恭文「運ゲーなんて認めません!」

フェイト「福引きしておいて!?」

ジャックフロスト「おぉ……二人とも凄いホー」

ジャックランタン「日頃の行いがものを言ったヒーホー」

アイリ・恭介「「う゛ぃくとりー!」」

黒ぱんにゃ「うりゅ……♪」


(ふわふわ末っ子も、双子に抱かれながら幸せそうに尻尾をふりふり……ふりふり。
本日のED:最上静香(CV:田所あずさ)『Catch my dream』)


あむ「……これ、ウェンディさん達も例外なく軌道拘置所行きじゃ……!」

やや「そうだよー! ここまでやって更生とか、簡単に認められないよ!?」

恭文「でぇじょうぶだ。全部リンディさんのせいにすればいい」

あむ・やや「「最低か!」」

リンディ「ほんとよ! 無理無理無理無理……私も悪いところがあったけど、だからといって背負うべき限界点をK点突破してるから!」

恭文「でもほら、機動六課の残っている後見人の中で、一番ベテランで責任のある立場にいる人となると……ね?」

リンディ「あ………………」(人生が終わった音を聞いたような顔)

あむ「い、嫌過ぎる……! しかもドクターストップがかかって、今まで現場にNoタッチだったのに!」

恭文「ぎりでタッチしちゃったから……」

あむ「そんなセーフがあるかぁ!」

やや「というかというか、爆弾とか言ってたよ! 六課に爆弾って! 一体どうなるのかな!」

恭文「その辺りについてはまた次回だね。今回は尺がなかったから」


(おしまい)




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あきゅろす。
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