小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作) 第42話 『天国と地獄と/PART1』 新暦七二年(西暦二〇一七年)六月――時空管理局武装隊≪ミッドチルダ北部 第四陸士訓練校≫ 『……試験をクリアし、志を持って本校に入校した諸君らであるからして……管理局員・武装隊員としての心構えを胸に、平和と市民の安全のための力となる決意を、しかと持って訓練に励んでほしい』 『――はい!』 『以上! 解散! 一時間後より訓練に入る!』 『はい!』 いよいよ踏み出したこの道。兄さんのために……何より私自身のために。 いろいろな不安や疑念がないわけではないけど、それでも襟を正して入校式を終える。 で……まずやることと言えば。 「各員! 仮割り当ての部屋へ移動!」 厳しい教官の声に従い、トタトタと掲示板前に移動。 ここは資料通り……ペアを組んで実習と。一人が気楽なんだけど、そうも言えないか。 「二人部屋のルームメイトは、当面のコンビパートナーでもある! 試験と面接の結果から選ばれた組み合わせだ! 円滑に過ごせるよう努力するように!」 教官もまた鋭く注意してくるけど、それより部屋番号よ。できれば私みたいに、人付き合いとかサラッとしているタイプだと嬉しい。 「えっと、あたしは……」 「さて……」 みんなが表示された番号……というか自分の名前を探して右往左往する中、青髪ショートの子と視線が合う。 「「……三十二号室…………あ、はい。そうです」」 ついハモってしまった。それにハッとしている間に、あの子はぺこりとお辞儀。 「私、スバル・ナカジマ! 十二歳です! 今日からルームメイトでコンビですね! よろしくお願いします!」 「……正式な班とコンビ分けまでの仮よ? ……ティアナ・ランスター、十三歳……よろしく」 どうやら、初手から願いは叶わないらしい。なんて悲しいことだろう。 というか人なつっこそうな顔立ちや瞳がちょっと辛い。こう……子イヌに見上げられているような感覚が……! それでも体裁は取り繕いつつ、ナカジマに背を向ける。 「荷物置いて、着替えて行こう。準備運動もしっかりやりたいし」 「はい! ――――」 …………その子イヌみたいな視線を受けて、何かが、ギリギリと……だからつい振り向き問いかける。 「……なに?」 「あ、いえ! 何でもないです!」 「……あと立場は対等なんだから……いいわよ、丁寧語じゃなくて」 「はい……じゃない、うん」 …………どうしよう、凄く対処に困る。 兄さん、私はもしかしたら、コミュ障というやつかもしれません。 というかどうしてこうなった……教官は何を理由に、この子と私が合うと思ったわけ!? 魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 新暦七一年四月二十九日。ミッドチルダ北部臨界第八空港にて、大規模火災が発生した。 利用者・職員共に多数の負傷者を出し、空港施設全てがほぼ消失する歴史的大事故。 でも奇跡的に死亡者は出なくて……同時にそれは、私達にとって因縁の一つとなった事件でもあった。 なぜならその事件が起きた背景には、ちょうど……その二週間前に、回収任務として関わったロストギアと、とある自律行動型機械兵器の存在があったから。 それに対しての対策でクロノも、はやても頭を痛めるようになってから……あっという間に一年が経つ。 「……新人さん達、みんな元気ですね」 「えぇ」 今日はちょうど、ここの入校式。これからみんな、ここで寮生活をしながら……局員生活の基礎をみっちり叩き込まれていく。 私も……その、わりと短期だったのでお世話になったから、窓からその様子を眺め……つい頬が緩んで。 「今年も元気な子が揃ったわ。 ……数年前のあなた達に負けず劣らず、やんちゃな子達もいるのよ」 「はい」 「まぁあなたとなのはは、たった三か月の短期プログラムだったけど」 「その節はお世話になりました」 デスクに座り、優しくそう答えてくれるのは……私となのはにとっても恩師である、ファーン・コラード三佐。 ここの学長を務めていて、あの……ヘイハチ・トウゴウさんとも盟友。数少ないマスターの称号を持つ魔導師でもある。 ファーン先生は白髪の髪をアップに整え、温和で……でも、その分ズバって切り込んでくるから、結構怖いかも。 ……そんなファーン先生が、ふと……ドアの方を見ると、ノックの音が響く。 「どうぞ」 凄い、気配で察知したのかな……。 ビックリしている間に、私の連れてきた二人が入ってくる。 「「失礼します!」」 「シャーリー、エリオ」 「あ、どうもです! 本校・通信士課卒業生シャリオ・フィニーノ執務官補佐です! 配置換えで、今はフェイト執務官のところでお世話になっています!」 「知っているわよ、シャーリー……あなたもやんちゃだったから。 それにそちらは……」 「はい! エリオ・モンディアルです! 今日は見学の許可をいただきまして、ありがとうございました!」 「いいえー」 「訓練校のこと、いろいろ勉強させていただきます!」 「はい、しっかり勉強していってね」 シャーリーにはエリオの見学に付き合ってもらって……なんだけど……ちょっと申し訳なくて、謝らないと。 「シャーリー、ごめんね。エリオのこと」 「勝手知ったる母校ですから、ご安心を!」 「勝手知りすぎて、ハッキング犯と知能戦なんてやらないようにね……また」 「いぃ!?」 「シャーリー、そんなことしたの!?」 「いや、あの……なんか、盛り上がっちゃって」 「えぇ、盛り上がったわね。おかげでしばらくの間、訓練校のシステムダウンを余儀なくされたわ」 「その節はとんだご迷惑をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 いや、ご迷惑ってレベルじゃないよ!? クビだよ! 訓練校を追い出されるレベルの不祥事だよ! それでどうして……いや、まぁ……それを言えば、私となのはもやらかして……まぁそこはいいか。 「えっと、エリオ……」 「はい!」 「私は学長先生とお話があるから」 「はい、フェイトさん!」 少ししゃがんで、エリオの襟元を正し……優しく笑いかける。それで、エリオもそれに返してくれて。 「シャーリーについて、いい子でいてね。帰りは一緒だから」 「はい!」 「あとシャーリーが悪い子になりそうなら、報告してね……わりとすぐに、即決で」 「それも了解です!」 「フェイトさんー!」 これなら安心だと、後をシャーリーに預けて……。 「じゃあ、行ってきます!」 「いってきまーす!」 「気をつけて」 ……二人はそのまま学長室を出て………………でもシャーリーには、後で話をしようと思います。 というか、グリフィスとレティ提督にも……じゃないと、不安が……! 「――いい子ね」 シャーリーの有様に軽く動揺していると、それを宥めるようにファーン先生がほほ笑む。 「あの子が例の?」 「えぇ。私が研究施設から保護した子です」 「プロジェクトFには深入りしない方がいいわよ。 原則として、あなたは”加害者遺族”でもあるのだから」 「それでも、私が……プレシア母さんの娘として、止めるべきことですから」 「だったら局員は辞めるべきね」 「学長……」 「法を……その厳しい枷を正義と信じ、貫いてきた先人達の思いを鑑みるならね」 ……私の行動はただの私怨で、私情。プロジェクトF……その残滓の事件に関わることは、本来ならアウト。 それは、分かっている。でも……それでも私は、あの男を……。 「……それで、あの子も将来は局員に?」 いろいろ悩んでしまっていると、ファーン先生はエリオ達が去っていった方を見やる。どうやら突っ込むのはやめてくれたらしい。 ……少し安堵してしまうのが、教え子としては……とても、情けない。 「…………本人はその気みたいですけど……よく考えるようにと言っています。今日は単に社会勉強ですから」 「しかしあのやんちゃ娘達の片割れが、もう子どもの世話をしているとはねぇ……。 ヘイハチが新しい弟子を取ってから随分経つし、私も年を取るはずだわ」 「またまた……」 苦笑しながら思い出す……新しい弟子って、古き鉄だよね。 ……オーバーSだろうと相手にならない、新世代のマスター級。 その代わり命令違反や問題行動も多い、最強最悪の嘱託魔導師……ヘイハチさんのデバイスを受け継いだっていう。 私やクロノ達も会う機会には恵まれていないんだけど、そっか……ファーン先生は知っているんだね。 でも、それを引き合いにロートル気分はやめてほしいなぁ。腕は鈍っておらず、ミッド式を代表するマスターって評判は変わらずなのに。 「そう言えば、もう一人のやんちゃ娘(シャーリー)とはいつから」 「先月です。希望指名で補佐に付けてもらいました」 「優秀だものねぇ」 「もう本当に助かっています」 いわゆる交渉ごともそうだし、基本の事務やコンピュータ関連、更にはデバイス整備に調整まで……ありとあらゆる形で働いてくれている。 もう、私……シャーリーなしじゃお仕事できないってレベルだよ。一人だったときとかもう……凄く大変だったのに。 「特にあなたはどうにもドジが多くて、コンピュータ関連だとガタガタだし」 「そ、それは……改善していますので! はい、頑張っています!」 「それは何より。……じゃあそろそろ、本題に入りましょうか」 ……糸目だったファーン先生が薄くその目を開き……ちょっと、ゾッとしてしまう。 「……執務官殿の相談ごとはなにかしら」 「……はい」 未だ衰えぬ覇気と眼光……あれから大分強くなったとは思うけど……やっぱり、まだまだ勝てそうにないや。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――この訓練校で私達は、局員として……陸戦魔導師としての基礎を叩き込まれる。 ほとんどの戦闘魔導師は陸戦魔導師からスタート。今も一番数が多い、空を飛ばずに戦う魔導師よ。ここはその訓練校。 ……実は意外に思われそうだけど、先天資質でAクラス以上とか……そういう人を除くと、飛行訓練というのは相当に大変。 実際私も自己練習だけじゃどうにもならなかったし、そういうエリートが入る士官学校への入学も弾かれた。 だから兄さんみたいな空戦魔導師になる前に、陸戦魔導師として訓練と実戦を積んで、ランクを上げて……! (…………ああもう) だだっ広い陸戦訓練場に入り、まずは支給デバイスの受け取り……そういう段階に来て、また迷いが頭をもたげる。 そうだ、迷いはある。局員になる……見も知らぬ上司に仕えるという図式に、吐き気すらしてくる。 だって管理局は、決して正義の味方じゃない。兄さんを貶めた上官は、確かに悪として処罰されたけど……でも……。 (それでも……決めたじゃないの) 兄さんが貶められて、それが悲しくて、苦しくて、ただ泣いているしかなかった私……。 そんな私に、それが勘違いで嘘だと……そんな嘘で私を傷付けて済まなかったと、そう謝ってくれた人を思い出す。 優しく無骨な手で、頭を撫でてくれて……だから私は……ミッド地上だったら……あの人が治めるここだったらって……。 ……それでもみんながみんな、あの人みたいじゃない。それも分かっているから……まだ迷っちゃうのかな。 「――」 軽く被りを振って、そんな迷いはグッと飲み込み……そうしている間に支給への説明がスタートする。 「では、一番から順番に訓練用デバイスを選択! ミッド式は片手杖(ハンドワンド)か長杖(ロングワンド)! 近代ベルカ式はポールスピアのみだ!」 あぁ、やっぱりここも資料通りかぁ。でも杖は趣味じゃない……だから訓練着姿の相方(仮)に振り返る。 「スバルだっけ? デバイスは」 「あ、私はベルカ式で、ちょっと変則だから……持ち込みで自前なの」 そうしてあの子は、着替えの溶きに持ってきたバッグから荷物を取り出す。 両足にはローラーブーツ……デバイスで、いいのよね? それに右手には、タービンを付けられたカートリッジ搭載式のナックル。 「自分で組んだローラーと、リボルバーナックル! インテリシステムとかはないんだけど、去年からはこれで練習してるの」 「格闘型……前衛なんだ」 「うん! ランスターさんは?」 「私も自前。ミッド式だけど、カートリッジシステムを使うから」 自分のバッグから、アンカー仕込みのガンを取りだし……周囲をチェック。 他のみんなは次々訓練用デバイスを取って、自作持ち込みっぽい空気はなかった。 「どうやら変則同士で組まされたみたいね。自作持ち込み、他にはいないっぽいし」 「わ……銃型! 珍しいね、カッコいい!」 「………………」 兄さん、私はやっぱり……なんというか、コミュ障かもしれません。 「あ、え……」 「並びましょ」 「う、うん……」 褒めてくれたのに……上手く応対、できないんです。というか、やっぱり子イヌみたいな視線は辛い……! なんで人の目を覗き込むかのように、真っ直ぐ見てくれるのよ! アンタには気恥ずかしさや闇がないの!? 天使か! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 訓練はスタート。まぁまずはコンビネーションを鍛える意味で、二人一緒の行動……迅速な移動を練習という感じよ。 「――次! Bグループ、ラン&シフト!」 「いい? 障害を突破して、フラッグの位置で陣形展開……分かっているわよね」 「うん……」 一応年上でバックスなので、筋道もきっちり立ててあげる。……まぁ、これくらいはね。 「前衛なんでしょ? フォローするから先行して」 「うん!」 「――三十二、セット!」 教官の号令で、駆け出す用意。あの子は地面に伏せて、両手を付いて……ローラーを回転させながら溜めて………………え、ちょっと待って。 「――――ゴー!」 「――!」 その瞬間、私の眼前で大地が爆発。土にまみれながらただただ立ち尽くしている間に……あの子は一人でコーンをグルグルと突き抜け、フラッグ位置に到着。 「フラッグポイント、確保………………って、あれ!? ランスターさん! どうしたの!」 教官が慌ててホイッスルを鳴らし、こちらに駆け寄ってくる……でもその間も、私は立ち尽くしていた。 「三十二! 馬鹿者! 何をやっている! 安全確認違反! コンビネーション不良! 視野狭窄! 腕立て二十回! 二人揃ってだ!」 「そんな! だって、失敗したなら私が!」 「連帯責任だ! ほら、ランスターも」 「………………」 「………………とりあえず……顔を、洗ってからで……いいぞ?」 「……ありがとうございます。でも、大丈夫です……はい、はい……!」 あぁ、よかった。教官は優しかった。厳しいけど優しかった。私の押し切られた痛みを理解してくれたんだもの。 とにかく土をぱぱっと払って、腕立て伏せ……同時にお小言よ! (足があるのは分かったから……緊張しないで、落ち着いてやんなさい……!) (ご、ごめん……) (次はちゃんと……というか、ちょっと待って) そこで嫌な予感が頭をもたげる。 今の遠慮がない突っ走り……私が付いてきて当然だという驚きよう……もしかしてと、思うけど……。 (人と訓練するの、初めて?) (ううん。ギン姉……お姉ちゃんも同じスタイルで、模擬戦形式で教わってた) (…………方針は) (一撃必倒全力全開!) (それ、今日から禁止) (え……) (禁止……!) がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 予想した通りかぁ! それであの突っ走りなんだ! こっちの調子も見ないでさ! というかこの速度とパワー……格闘型としては天才的なレベルだけど、使いこなせなきゃ無意味でしょうに! コイツの姉はなんなの! 脳筋のアマゾネスなの!? 絶対仲良くなれそうもない! なにより子イヌに……子イヌみたいに従順なコイツに! そんな馬鹿正直なやり方を教えたら……こうなるのは必然でしょうがぁ! (つーか、アンタの姉に会ったら一発殴る……!) (どうして!?) (どうしてもよ!) そんな威圧もしっかりした上で、次の訓練に移ります。 もう、嫌な予感しかしないけど……とても、嫌な予感しかしないけど……! 「……次は垂直飛び越え。ほら、ああやって両手で相手の足を乗せて、押し上げて……天辺に乗せてから」 「引っ張り上げてもらう!」 「そう。アンタを先行させるのは不安だから、私が先ね? ……それで、いいわね……さっきの半分くらいで……三分の一くらいでいいから……!」 「え、でも届かないんじゃ」 「そのときはそのとき。とにかく加減することを覚えなさい」 「分かった!」 まぁ届かないとぶつかって痛いんだけど、そこは私の力も込みでしっかり蹴り上げれば……何とかなると思おう。 というわけで、ナカジマが組んだ両手に右足を乗せて…………。 「いい?」 「うん!」 「いち、にーの…………」 「さん!」 ――その瞬間、私は鳥になった。 ううん、人間ロケットかしら。空を飛んで、自由に舞って……あはははははは、壁があんな下にー。 ………………って、どういうことよぉ! 力加減って言ったのに……なんでこんな、砲弾みたいに飛ぶのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 「――――ランスターさん!」 そこであの子の影が見える。 あの子は訓練用の壁を自力で三角飛び……岩山方面へと叩きつけられそうな私に追いつき、素早くお姫様抱っこ。 「ウイングロード!」 更にローラーの足下から、魔法陣を……道のように続く魔法陣を展開。そのまま……空を走りながら、元の位置に着地……。 た、助かった……でも、止まらない。身体の震えが…………とま、らない………………! 「ご、ごめんなさい……大丈」 「…………んなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「べごぉ!」 躊躇いなく左アッパーでテンプルを撃ち抜き、馬鹿をぶちのめす……と同時に身を翻しながら着地し、ふらつく足でげしげし……げしげし! 「い、痛いよぉ!」 「ちゃんとするちゃんとするって言うなら、最初からそうしてよ! というか、なんなのよ、アンタはぁ!」 「こらぁ! 三十二番! 訓練中断! 一度引っ込」 「無能の片割れはちょっと黙ってなさい!」 「はいー!?」 「つーかね、私は被害者なのよ! この子の馬鹿力に危うく死にかけた被害者なのよ! なんでこんな奴と組ませたのよ! どういうことよ……ほんとどういうことよぉ! これでまた懲罰とか理不尽にもほどがあるでしょうが! いいから責任者出てきなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 「ご、ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」 こうして……局員として足を踏み出した初日は、とても散々なもので。 しかも悲しいことに、子イヌ虐待の汚名を着せられながらも私は……この馬鹿とのコンビを三年近く続けることに……なってしまって。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 時空管理局武装隊≪ミッドチルダ北部 第四陸士訓練校≫ 陸戦訓練場・見学用スポット フェイトさん、あの件を相談……だったよね。事件から一年経ってもほとんど進展していないし、大変だなぁ。 というか、はやてさんとクロノ提督もか。事件対応の基礎も作れず、結構焦っているみたいだし。 まぁ今問題なのは……。 「……わぁ……あれ楽しそうです!」 「……エリオは、真似しちゃ駄目だよ? フェイトさんが泣いちゃうから」 「――――ランスター、落ち着け! とりあえず、念入りにスキル確認から始めるぞ!」 「そうだな! まずそこからだ!」 「いいから責任者を出しなさいよぉ! 二か月も待てないのよ、こっちはぁ!」 「「まぁまぁ!」」 それに……あぁ、教官が総出で宥めているよ。というかツインテールの子が半泣きだよ。 そりゃああのツインテールの子も泣きたくなるよ、喚きたくなるよ。スーパーサイヤ人みたいな力で振り回されたもの。 というか、あれは早々にコンビ変更決定かなぁ。あそこまで決裂するのもまぁ珍しい……。 「……そう言えばシャーリーさん」 「ん?」 というか、エリオもキモが据わっているなぁ。あの大騒ぎを見て動じないとは……まさかよく分かっていないのでは。 「あの……コラード学長さん、フェイトさんとなのはさんでも勝てないって言っていたんですけど、本当ですか?」 「またどうしたの? いきなり」 「いえ、あの人……凄いパワーじゃないですか。 それでもフェイトさん達よりランクも下なのに、それ以上となると想像できなくて」 「そういう理由かぁ。そこのところはね……事実なんだよ」 エリオと一緒に手すりにもたれかかり、つい脅かすように笑っちゃう。 「まず優秀な魔導師には、その能力や資質に応じた称号が与えられる……これは知っているよね」 「はい! フェイトさん達が、一騎当千のエース!」 「そう。でね、称号は他にもあるんだよ。 エースがエリオの言うように一騎当千なら、チーム戦の要としての栄誉が≪ストライカー≫。 その中でも、戦闘魔導師のありとあらゆるポジションを瞬時に使いこなし、チーム全体を支える人を≪スーパーオールラウンダー≫と呼ぶの」 「全てのポジションを……!? でも、魔法適性の関係から、兼任できるポジションは一つか二つって……フェイトさんだって」 「そうだね。フェイトさんの本領は近接型だけど、装甲が薄いから盾役のフロントアタッカーはできない。 できるとしたら中遠距離を射撃・砲撃で制するセンターガードだけだ。 だから自分の資質と向き合い、長い時間をかけ……それぞれのポジションに特化しつつ、応用力のあるスキルで対応って感じかな」 「なんだか、凄いです……!」 まぁ都市伝説っちゃあ都市伝説なんだけど……ただ、実際にそれだけのスキルを備えた魔導師はいるらしい。 私も詳しくは知らないけど、カタストロフ・ドッグって二つ名の魔導師がね。一体どんな人なのか……って、閑話休題っと。 「で、ファーン・コラード先生がもらった称号は≪マスター≫。 魔法資質に依存せず、突きつめたスキルによりどんな状況も、どんな困難も打破する達人だ」 「マスター……でもそれは」 「エースの上位互換って感じで受け止められているね。 でももう一つ特徴があるんだ。……マスター級と呼ばれる魔導師は全員、魔法資質が平均的なの。 ファーン先生の魔導師ランクはAA。なのはさん達より低いし、魔力量や出力も……というか、エリオより低いくらいだよ?」 「えぇ!? で、でも…………それで勝てないって!」 「常勝無敗な能力も、スキルも存在しない。どんなに強力無比で無敵に見えても、必ず穴がある。 マスターはそれを十二分以上に理解し、状況に応じて使いこなし、的確に突き崩す……文字通りの魔法使いって評価もある」 「魔法、使い……」 「実際剣”術”や武”術”って表現をするでしょ? 突きつめた技は、見る人によっては魔法にしか見えないってことだよ。 ……そういう意味では、さっき言ったスーパーオールラウンダーもマスターの形だね」 これもまた都市伝説……って言えればいいんだけど、そうでもないんだよねー! だから、つい……軽く頭を抱えてしまって……。 「実際……私が在学中にも、あったんだよ。 訓練段階でオーバーS。実戦や模擬戦でも負け知らずって人達はね。 そういう人達には大抵ファーン先生が出張って、特別講習をするんだけど……」 「……誰も、勝てないんですか」 「………………天狗の鼻をへし折られて、ファーン先生を目標に凄い頑張り屋さんになる。なお、フェイトさん達もそんな一角だ」 フェイトさんも……一応同門のよしみって分かってから教えてくれたけど、相当ショックだったみたい。 「でもフェイトさんが……」 「明確に天狗だったわけじゃないよ。エリオも知っているクロノさんとか、シグナムさんとか……格上の人もいたしね。 でも生まれ持った資質や才能に甘えて、力押しになっていたのかって……なのはさんと反省しまくったらしいよ」 「なりかけだったかもしれないと」 「そんなところだね」 エリオがそれでも信じられないって様子なのは、よく分かる。 だって……本当に、鬼みたいに強いの……あの人……! 非魔導師である私でも見ていてそう思うのに、他の訓練生……魔導師訓練を受けている子達なんか、もうね!? 凄いんだから! ある意味この学校の名物だよ! ファーン先生が出張るイベント! 「それで、まだ……追いつけない……」 「実際ヘイハチ・トウゴウさんと戦ったときとか、木刀で集束砲撃をぶった切られたそうだし」 「木刀で!? ……でも……マスター……資質に頼らない強さ……僕も……」 「長い道のりだ。それにエリオも、フェイトさんに言われているでしょ? よく考えるようにって」 「はい。だけど……やっぱり僕は……」 ……エリオは、フェイトさんに助けられた。命だけの問題じゃない……心を、存在を救ってもらった。 プロジェクトF……フェイトさんの母親≪プレシア・テスタロッサ≫が参加していた、生命操作の違法研究。 生み出したクローンに別人の記憶を転写。そうして疑似的に人を蘇らせる研究だって聞いている。 まぁ結局その試みは上手くいかず、記憶転写により教育などの手間が省けて、戦力にしやすい人造魔導師を作る技術って感じだけどね。 ……そして、その技術は一つの歴史として……規範として、悪い人達に利用されている。 エリオはモンディアルという家の人達が、亡くなった跡取りを取り戻すために生み出したクローン。 でも当人はそれを知らず……ある日突然、非人道的な組織に連れ去られた。 しかもその組織は、クローン製造が違法であることを突いて、ご両親を黙らせ……エリオを助けようともしなかった。 目の前で泣き叫んでも、目を背け保身に走った両親。その姿で、エリオはどれほど傷ついたことか。 もちろんその組織はエリオを重要な実験体として、相応の処置を施し……フェイトさんが助け出したときには、心身共にボロボロ。 大人を、社会を、世界を……何も信じられず、保有していた先天性の電気変換魔力で暴れる野獣で。 そんなエリオに笑顔を、人を信じる心を取り戻したのがフェイトさん。 フェイトさんも同じ身の上だから……エリオを放っておけないと、傷つくのも厭わず手を伸ばして。 ……だから、本当に最近なの。エリオが……こんなふうに、屈託なく笑うようになったのは。 それで……フェイトさんのようにと、今度は自分がフェイトさんを守れるようにと、夢を描いているのも分かる。 まぁフェイトさんは大人として、厳しい仕事に就いている身として、それは止めたいようだけど……私としては。 「……人生にはいろんな選択があるんだよ、エリオ」 「シャーリーさん?」 「エリオはとっても辛い思いをして、今ここにいる。 でも……あえて悪い言い方をするね? それはとっても長い人生の中で、ほんの一瞬」 「――!」 エリオは衝撃を受ける。 あの絶望が、あの悲しみが……それが終わった後も続く何かがあることに。 もう、その兆しに足を踏み出しているのに……でも、みんなそんなものだ。 「エリオにはこれから、呆れるくらいの時間が待っている。 それを……その全てをここで決めることは、やっぱり暴挙だよ」 「なら、どうすれば」 「考え続けること。決めた道を進む……その気持ちに偽りがないかどうか、常に問いかけ続ける。 だから私だってやっているよ? 学校に通って、普通に恋愛して、お嫁さんもアリかなーとか」 「で、でもシャーリーさん、結婚できる年齢では……あと二年くらいあるような」 「いいの! そうして夢見て、いろんなことを考えて……それに近づこうと足掻いていれば、二年なんてあっという間だよ!」 「……そう、ですね」 そうして私達は、空を見上げる――。 「僕はまだ六歳……二年も、おじいちゃんになるのも、ずっと先!」 「うん、そういうことだ!」 「だったら僕、いろんなものを見てみたい! 学校も、町も、人も……たくさん見て、学んで!」 長い人生……永遠に思える人生……でも限りがある命。 それを後悔しないように使い尽くすため、迷って悩んで、また歩いて……そんなことを繰り返す覚悟。 それは、人生と同じようにどこまでも広がる空を見上げていたら……自然と、定まる気がして。 「フェイトさんと私も一緒に勉強していくから、頑張ろうね」 「はい!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ミッドチルダ西部――陸士108部隊隊舎≪隊長室≫ 「はい、父さん……」 「おう、ありがとな」 まだまだ新人局員な私ことギンガ・ナカジマ……今日は比較的平和な日で、出動や訓練もお休み。 細々とした事務仕事はあるけど、それも終わって平穏な時間。 部隊長へお茶のお届けもしつつ、それを悪用して家族のお話も……ちょっとしてみたり。 「……そろそろ入学式も終わった頃か」 父さんはお茶を一口飲みつつ、またソワソワと……私のときもこうだったのかなと、つい笑っちゃう。 「スバルはちゃんとやれているのかねぇ……」 「そうですね……ちょっと内気な子ですから心配は心配なんですが、あの子なりに頑張って、上手くやっていると思いますよ」 「……だといいがなぁ。だがお前……結局全力の模擬戦しかしてないだろ」 「変に基礎を教えると、クセが付いちゃいますし……とにかく一撃必倒がシューティングアーツの心構えということだけは」 「……アイツ、加減ができねぇからなぁ……! 何かやらかしそうで、怖い」 「怖い!?」 え、父さん……待ってください! それはアレですか! 私の教え方がマズいと! でも今言った通り、真っさらな感じが一番だと……私も実際それで何とか、上手くここに収まりましたし!? 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」 凄く深いため息を吐かれた!? やっぱり私の活動に思う所が!? そうなんですかぁ! 「つーかよぉ……俺はお前も、スバルも、局員なんぞにはしたくなかったんだがなぁ……」 「……すみません」 部隊長として……局員として、”なんぞ”という言葉は咎めるべきだと思う。でもそれも仕方ない。 ……父さんはあの事件……母さんやゼスト隊の人達が亡くなった戦闘機人事件から、管理局という組織を一切信頼しなくなったから。 仲間は信じていると思う。少なくともこの部隊の人達は……目の前にいる人達だけは。 だからこそ部隊長としてみんなの信頼や期待に応えようとするし、部隊長なのに現場にも堂々と出張ろうとするし……そういう意味では問題部隊長です。 だけど私も、スバルも、そんな父さんや母さんの背中を見ていたからこそ……局員というものに嫌悪感はそこまでなくて。 「でも私の夢と目標を叶えるには、”こっち”が最短ルートだったので」 「……スバルもかねぇ」 「えぇ。母さんも、きっと喜んでくれていると思います」 「……だがアイツ、高町嬢ちゃんが救助隊の人間だって昨日まで信じ込んでいたぞ?」 ………………大丈夫と温和に笑ったはずなのに……その言葉に、頬が引きつってしまう。 「………………い、一撃必倒で……なんとか、なりますよ」 「その調子で、お前も何とかなるといいな」 「父さん!?」 「ここからは仕事の話なんだよ。……急で悪いんだが、コイツの面倒を見てほしいんだよ」 そこで父さんが展開したモニターには、クリクリとした瞳の……栗髪の女の子が映る。 えっと、嘱託魔導師で……空戦のDランク? あ、地球の出身……えっと、蒼凪恭文…………ヤスフミ? 「そんなナリだが、お前と同い年の男だ」 「えぇ!?」 いや、だって……肌艶とか、瞳とか……それに身長も百五〇とか! 私よりも小さいんですけど! 「今うちが追っている、薬物密輸の件があるだろ」 「えっと、ヘブンズドアー……でしたよね。効果は不明と聞いていますけど」 「それを扱っている組織は二つ。召雷党とカグヤファミリーってとこだ。 ……だが、どっちも薬物に手を出すのは今回が初めてなんだよ」 「新興組織が、独自開発した商品をばら撒こうとしている……でしょうか」 「いや、どっちも二十年以上の活動経歴がある。 それがいきなり、物騒なもんをってのがどうも引っかかってなぁ」 「それで嘱託ネットワークの方にヘルプの依頼を?」 万が一に備えて、戦力をと……でも、それにしては。 「でも、Dランクですよ? これじゃあさすがに……フルバックなんでしょうか」 「実質はAランク以上あるそうだ。なにせあの古き鉄だからな」 「な……!」 古き鉄…………伝説のマスター≪ヘイハチ・トウゴウ≫の弟子にして、そのデバイスを受け継いだ……最強最悪の嘱託魔導師!? 数々のオーバーSや不正が絡む事件を解決してきた凄腕でもあるって……それが、こんな……女の子みたいな可愛い子なの!? 「ふだんは地球で学生生活してるのもあってか、魔導師ランクやなんかへの向上心が皆無だそうでな。最初に取った資格のままらしい」 「いや、それは危ないような……!」 「だからお前に面倒を見てほしいって話だ。昼頃に来る予定だから、まぁ交流がてら模擬戦でもしてくれ」 「……分かりました」 そういうことならと快諾し、お盆を持ちながら敬礼……。 それに、興味がないわけでもなかったから。 伝説のマスター……そのデバイスを受け継ぐにふさわしい実力の魔導師……もしも、噂通りに強いのなら……。 そういう子と戦った経験もきっと、私の夢と目標に……母さんに近づく一歩になるかもしれない。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 私もだんだんと不安になっているところで、例の子がやってきた。 それも…………十数人の重軽傷者を引き連れた上で! うちの管轄で暴れていたカラーギャング、通りすがりに出くわして潰したっていうの! もう滅茶苦茶過ぎて泣きそう! というかどうして出くわしたのか……あぁ、可愛い外見だから絡まれたとかかな! 「いやぁ、もう参ったよ……奴らは僕が男かどうかの区別も付かないんだから」 ≪それは仕方ないと思いますよ? 鷹山さん達だって間違えていたでしょ≫ 「あれは老眼」 ≪そうですか≫ 絶対老眼じゃないと思う……! だって私も間違えたもの! というか私、視力は5.0だよ!? どっかの部族くらいにはあるし! と、とにかく……そんな蒼凪君を連れて隊舎を案内……まだちゃんと挨拶もしていないのがおかしいけど……おかしいよね! 仕方ないので反転して、一応ほほ笑む……多少引きつっているけど、許してほしい。 「ま、まぁ大変だったけど……ようこそ108部隊へ。私は捜査官のギンガ・ナカジマ二等陸士です」 「蒼凪恭文です」 ≪どうも、私です。で、ドンパチの相手はどこですか≫ 「もう身体がウズウズして仕方ないんだよねー。核爆発を止めてから、しばらくは休養期間だったし」 「ついさっき、カラーギャングを壊滅させたよね……! というか、核爆発……あ、八神司令から聞いているよ」 「はやてと知り合いなんだ」 「ここで研修していたこともあるんだ」 そう……実は八神司令とは友人だそうで。というか、友人になったばっかり? ここ一年とかそれくらいの知り合いらしい。 ついさっき……たまたま連絡してきて、この子のことを話したら……結構詳しく教えてもらって。それはもう本当に大助かりだった。 「一応……簡単にだけどスキルも教えてもらったんだ。 向こうでは忍者さんで、それを生かしたフィジカル戦闘と魔法のハイブリッド運用が得意だって」 「はやての奴め……」 「怒らないであげてほしいな。こっちがスキル確認で躍起になっていただけだから……なのでドンパチについても、ちょっと落ち着いて」 「でもアイツらだけじゃない……っと、そうだ」 あぁ、バッグの暴力団とかがいるって話かな。それなら……と思っていると、あの子は白い回数券みたいなのを渡してくる。 ……いや、ちょっと待って。この回数券、なんだか変な……甘ったるい匂いが……。 「アイツらのリーダー格が持ってたんだよ。最近売りさばこうとしていたもののサンプルだって」 「…………違法薬物ってこと!? 名前とかは」 「ヘブンズドアーって言ってたかな」 そのとき、私の中で電流が走ったのに気づいた。 「それだよ……」 「え……」 「それなの! 今回問題にしている組織が、扱っている薬物!」 証拠を潰さないよう注意しながら、あの子の両手を握る。あぁ、小さくて可愛い手……やっぱり女の子みたい。 「サンプルはこれだけ!? アジトは……あぁそっか! もう捜索班が向かっているよね!」 「そういう手はず、整えていたしね。取り急ぎ分析もできるかと思って、一個持ってきてたんだけど」 「ありがとう! じゃあ、分析室があるから……というか君、幸運だよ! これで捜査が一気に進展する!」 ≪よかったですねぇ。こんな美人に感謝されて……またフラグが立ちますか≫ 「黙れ……!」 フラグとかよく分からないけど、とにかく移動開始。この子と一緒に……自然と手も引きながら、廊下を歩いていく。 でも同い年の男の子……やっぱり、そうは見えないな。むしろうちのスバルとお友達って感じかも。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――同時刻 時空管理局武装隊≪ミッドチルダ北部 第四陸士訓練校≫ 学長室 …………外から轟音が響き続けていた。 というか、やけに大きいような……訓練が始まったのは分かるんだけど、初日だよね。 「……広域活動する、正体不明の機械兵器……ねぇ」 あ、集中しなきゃ。ファーン先生は平然としているし……。 「えぇ。それに……その機械兵器が最初に確認されたとき、私となのは達で回収したロストロギアが」 「レリック、だったわね」 「そのときは一個は無事に回収できました。でも……二個目は手が遅れて、爆発を」 そのときの記録映像も見せる。 百メートル級のクレーターが出てくるから、ファーン先生も細い目を更に鋭くする。 「幸い発掘現場の人達は全員避難完了していたので、死傷者は出ませんでした。 ただ……その二週間後に、今度はミッドチルダ北部で空港火災を」 「空港火災? ちょっと待って……それって去年の」 「公にはされていませんけど、密輸品として運び込まれたレリックが爆発したものです。 後の調べで判明しましたが、この機械兵器も近隣で目撃されていました。 ロストロギアに付随することから、ガジェット、またはドローンと仮称しています。 ……問題はこれら一基ずつで”AMF”を展開する機能を保有していること。 そして特定のロストロギア……今のところはレリックですが、その確保のために現れ、群がり行動すること。 これらが多数出現すれば、武装局員達は各地で対AMF戦を強いられます」 「下手をすれば都市部で……レリックに万が一のことばあれば、空港火災の二の舞」 「今度は、死傷者なしなんて奇跡は期待できません」 ……本当に……本当に私達は運がよかったんだよ。手を伸ばして、取りこぼす命を出さずに済んだだけ。 都市部への進出は空港火災の件で立証されているし、本当に危険度が高い。 もちろん爆発させず、ただ確保されても大問題。こんなものを作る相手に、ロストロギアを渡したら……! 「お伺いしたいのは……そういった状況下に対応できる魔導師を育成するとして、かかる時間と”卒業”の期待値についてなんです」 「なるほどね…………でも時間は確実にかかるし、卒業期待値もあまり高くないわよ?」 ……やっぱり、かぁ。いや、ファーン先生が悪いわけじゃないの。 陸士学校の特性(局員活動の基礎を叩き込む)から、そういう……応用の段階まで対応するのは難しいんだよ。 そう、ここで言う”卒業”というのは、対AMF戦に対応できるようになるという意味。でもそれが……余り高くないとなると……。 「何より、本局所属のあなたに言うと嫌みになるけど……そこまでの予算が出せないわよ」 「……ミッドだけじゃなくて、各世界の地上部隊はやりくりも厳しいって言いますけど、本当なんですか?」 「地上部隊の動きが遅れ気味だとか、そういう不満があるのは知っているわ。 でもない袖は振れないのよ」 ファーン先生もその辺りは苦慮も多いらしく、軽く頬杖を突いた。 「予算がない……それは人を育てる時間や設備の確保も、行政としてのサービスの充実もできない……現状維持で手一杯になってしまう。 問題が起きても放置するしかないものも増える。それは所属する人達のみならず、世界に住む人達すら不安にさせて、人が離れる。 結果人出が不足して、マンパワーでどうにかするということもできなくなり、残った者の仕事は激務化……さらに人が離れて悪循環よ」 「ミ、ミッドや他の世界は、そこまで末期的じゃないと思いますけど……」 「でも一歩間違えて破綻すれば、いつでもそうなる可能性がある。 ……あなた、地球の夕張市って知らない?」 「北海道の……メロンが有名な」 「あそこは一四年前に財政破綻を起こして、その負債を必死に返しているけど……今言ったような状況のまっただ中なのよ。 それで中央政府に打診して、負債の返済計画を練り直しているくらい」 「ふぇ……!?」 し、知らなかった……メロン美味しいーって食べてばかりで……今の日本で、そんな大変なことが起こっていたの!? 「もちろん次元世界内でも似たような状況はあるわ。 そもそもオルセアの内戦が勃発したのだって、杜撰な財政管理に端を発しているから」 「具体的には、何が問題なんでしょう。ミッド地上に限っても、レジアス中将が相当厳しくやっていますし……」 「……これも嫌み……というか、個人の志望もあるので難しいところなんだけど、本局が人を攫っていくのが結構大きいのよ」 「人を?」 「例えば今日入学してきた子達を一人前に育てるのに、どれだけのお金と時間がかかると思う? それがもし……地上部隊に配備された後で、本局から引き抜かれたら」 「それは……」 あぁ、そっか……一人当たりで二千万くらい費用がかかるとか……言われているものね。 単純なお金で二千万ってわけじゃないの。育てる時間とか、そういうコストを簡単に表すとって感じ。 というか、耳が痛い……! 十人引っ張るだけで、二億だよ!? それがまるまる損って! というか、人手不足にも繋がるよね! あ、でも……でも……。 「……本局の任務内容もありますし、同じ組織内のことなら……とは」 「管理世界の拡大は急ペースすぎて、ヴェートルのような問題も起きているでしょ。 それに同じ組織なら、地上本部と本局の予算は一緒にするべき」 「……ですよね」 「噂ではレジアス中将が音頭を取って、移籍金を払わせる規約を作る……なんて言われているわよ」 「そこまでこじれることは、想像したくないですけど……」 「でも十二分にあり得る。特にレジアス中将は入局から四〇年……一番ヒドい混乱期もなんとかまとめ上げて、今の地位に立っているから」 あり得る惨状を……可能性の一つを知っているから、それを止めるためには、かぁ。 だけど、そこまでしたら本当に別組織。地上本部との溝はとんでもなく広がるし……できれば、分かり合いたいけど……お金は大事だし。 ……すっごく難しい問題で、なんだか……悪いことをしている気がしてきたよ。 「そのために戦闘機人計画なんて持ちだしたくらいだものねぇ」 すると、ファーン先生が引っかかることを……確かそれって。 「あなたには耳タコかもしれないけど、戦闘機人……その技術で戦力補強をって計画、管理局が進めていた時期があるのよ」 「本当、ですか……!?」 「もちろんペーパープランで終わったけどね。倫理的にも大問題だもの。 ……でも、そうも言いたくなるくらいに、陸が無茶振りされているのも現実よ」 ファーン先生が少し呆れ気味に腕組み……私、もしかしてかなり非常識なことを言っている? 「地球には……なんだったかしら。市民や犯罪者に”無言のまま、姿も見せず、権力があると通達することが大事”と説いた人がいるそうよ」 「通達?」 「監視社会の利点というものね。それが犯罪抑止となり、同時に個人単位の幸福値も底上げするのよ」 「……それは、管理局としていいんでしょうか……!」 市民の生活を監視するってことだよね。 なんの罪も犯していない人達を……それなら市街地のサーチャーで十分だと思うし、行きすぎているよ。 それに、そういうことならやっぱり、本局ともっと融和を……規模ややることは違うけど、それでも手は取り合っていけるはずだし。 私となのはが……はやて達が、仲間になれたみたいに……きっと……そうは、思うんだけど。 「でも間違ってはいない。あなたも割れ窓理論は知っているでしょ?」 「……割れた窓を放置することは、そのエリアが管理外であることを示す……それは犯罪や非行を助長させる」 「そう。これもまた、『徹底した管理』が治安維持に必要だと説いているわ。 割れた窓を見つける人、修理する人、そもそも誰かが窓を割らないよう巡回する人……そういうものが揃って、初めて根底的治安は維持される。 そういう意味ではレジアス中将が本局を嫌う理由も、納得はできるのよ」 「その邪魔を、しているということでしょうか」 「実際人員やお金は、ほいほいと取り返しがつかないもの。 ……まぁ話が逸れたように感じるかもしれないけど、そうじゃないのは分かるわよね」 「……はい」 そうだ、今の話は……私達の悩みにも繋がる。もはやことは事件対処ではなく、政治の問題……管理局の事件対処を変えようって話になるから。 「適性のある精鋭を揃えて、短期集中で訓練するなら、私の古巣≪戦技教導隊≫に依頼するべき……と本来なら言うんだけどね。 それもこのおにぎりメカの脅威がしっかり伝わっていなければ、そもそも依頼がかからない」 「その辺りもやっぱり、目撃例がまだ少ないので……」 「本局広報室に相談は?」 「そちらははやてやクロノ提督から。ただ、各地上本部にまでとなると、やはり事例が……」 もちろんミッドも変わらない。ミッドを預かるレジアス・ゲイズ中将は、いわゆるレアスキルや本局の魔導師や部隊……その干渉を凄く嫌っている。 本局に迷惑をかけられる形で、散々苦労したから……というのが通説なんだ。 本局が見過ごした犯罪者が、ミッドで暴れるとか……そういう事件が積み重なって、かなり痛烈にこちらを批判してくる。 それで問題なのは、その主張が……悲しいことに正しくて、更にレジアス中将には政治家としての才能が溢れていること。 豪腕な政略家ではあるけど、それは裏を返せば公言したことはやり通すということ――。 しかも人を引きつける牽引力もあるから、ミッド地上には”レジアス中将がいるから”という理由で働いている人や、暮らしている人も多い。 本局との衝突で問題を起こすこともあるけど、それも頑張り過ぎって印象みたいで……支持率もほとんど落ちたことがない。 そんなレジアス中将が、地上本部の戦力だけで大丈夫……本局の教導なんていらないって突っぱねたら……それに倣う人達が多いって話だよ。 つまり私達は、その危険度も含めて……うぅ、本当に組織改革って話だよ。 「とにかく事態が急転し、その辺りの危惧も認められた……そういう状況も想定して、準備をしたいんです。数年計画で」 「それはまた……クロノ提督達も苦戦しているでしょ」 「そもそもAMC装備が……結界も張っていない市街地での使用を想定していないので」 「AMFで結界が潰される可能性もあるし、ほいほい使うのは大問題よねぇ。 ……それにしたって難しいわよ」 ファーン先生も困った様子で頬を書き、改めて私が提示したデータを確認してくれる。 「新暦になって質量兵器使用が原則として禁じられて以来、兵器や戦力もほとんどが純魔力頼み。 AMC兵器にしたって、大型の戦闘車両やタンカー相手の鎮圧兵器って名目で、存在を許されているに過ぎないから……」 「はい……」 「ただ……」 「なにか手が?」 「GPO、聞いているわよね。最近だと維新組の存在も出てきたけど」 「え、えぇ。ヴェートルの半民間組織で……質量兵器使用者やレアスキル持ちを、多数保有していると」 維新組は……:あ、そうだ。中央本部が置かれている人工島≪EMP≫の地元警察EMPDが設立した部隊だよ。 管理世界の人間が起こす犯罪に、武力を持って対応する過激派組織って聞いている。 質量兵器すれすれの武装……えっと、甲冑みたいなものを付けて戦うんだっけ。それで魔法能力者相手でも拮抗して。 ……そういうのも、できれば理解を示してほしいけど……でもファーン先生が名前を出したということは。 「ああいう局以外の外部組織に依頼して、対応させる方向もあるわよ」 ファーン先生がぶん投げた……!? いや、それはさすがに。 「実際地球でも実例があるのよ。PMCっていうのがね」 「ぴーえむしー?」 「……あなた、地球育ちでもあるんだから、ちょっとは勉強した方がいいわよ」 「ふぇ!?」 「簡単に言えば、民間で運用する軍事会社よ。 銃器などの武力使用が必要な状況……危険地域での要人警護なんかで雇う、フリーランスの人達。 まぁ軍事法律の抜け穴も突いているし、武装している時点でテロリストにもなり得る危険因子ではあるんだけど……」 「……局のルールで動けないなら……それで対応と」 いや、確かにそれならまだ……だけど、さすがに危険が高すぎるような。 ファーン先生も触れているけど、本当に抜け穴だよ? それで問題が起きたとき、責任問題とか……う、胃が痛い……! 「もちろんあなた達には取りにくい手だろうけど……考えておいた方がいいわよ」 「……そうですね。事件がルールを変えるまで待ってくれるとは限らない」 「現に空港火災ではそうだった」 「……はい」 この仕事を始めて、何度も突きつけられていることだ。私達が動くとき、もう事件は起きていて……手遅れなんだって。 傷ついた人がいて、死んだ人もいて……それでも取り直すのが私達だけど、そういうことに覚悟は必要な仕事で。 それは、改めて刻む必要がありそうだ。今この瞬間も、レリックやガジェットは動いているかもしれないから。 「あとは……嘱託かしら」 「嘱託? あ、でも……確かに民間の魔導師なら」 「特に古き鉄なんてお勧めよ? ヘイハチの弟子だもの」 「さ、さすがにそれは……」 「でも彼、現段階でも……腕はあなた達よりいいわよ?」 「ふぇ!?」 「だって以前あなた達に出した問題、秒で解いたもの」 それって……あ。 「ファーン先生が出してくれた、強さの問答!」 「それ」 「でも、秒って……!」 私となのはは一か月くらいかかったのに! あれをすぐ解けるの!? 「まぁ前提条件が違うから、そこまで気にしなくていいわよ」 「というと」 「そういう戦い方をしなきゃ、生き残れない程度には凡人ってことよ」 「……というか、お知り合いなんですか!?」 「あの色ボケと長い付き合いなのよ、私」 そうだったぁ! それは……親友のお弟子さんなら、知っていて当然かも! でも、どういう関係なの!? それでOKってぇ! 「まぁせっかく来てくれたんだし、もうちょっと詰めた話をしましょうか」 頭を抱えたくなっていると、ファーン先生は前のめり……データをささっと纏めてくれる。 「ついでに、あなた達の最近についても……彼氏の一人くらいできないの?」 「そ、それはまだ……」 「古き鉄なんてハーレムしているわよ? 頑張りなさい」 「どうして私達が対抗する形に!?」 「……この間、あの馬鹿に煽られたもの。 ”ワシの弟子は将来有望。お前さんの弟子はIKIOKUREの継承者”ってね……!」 「ファーン先生ー!」 お、落ち着いてください! というかIKIOKUREって……私達はまだ十六歳ー! そんな、彼氏なんて……だ、駄目! その……む、胸を触るのとか……挟んであげるのとかも、結婚してからぁ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 新暦七五年(西暦二〇二十年)七月三十一日 午後八時三分 クラナガンハイウェイ・ミッドチルダ南部方面行き いやぁしかし、聖王教会であれだけ派手にドンパチしておいて、アッサリ逃げおおせているというのも気持ちが悪い話で。 それもこれもなんというか、この夏に……趣味の悪いローブとマスクを羽織っているおかげだった。 おかげでオレ好みのオープンカーで派手に突っ走っても、全く……これっぽっちも、局のサーチャーに引っかからないときたもんだ。 そんな余裕のおかげで、ボードのスマホに楽しくお話できるわけで。 「いやー、でもこのクアちゃんが作った認識阻害ローブ? 凄い威力……まさか料金所すら普通に通過できるとか」 「自分も驚きでした。ETCの自動改札に限り……とのことではありましたが」 『褒めてくれるのは嬉しいけどぉ、そこまで大層な技術は……というより、余り物を貸しただけだから、ちょっと心苦しいわねぇ』 「余り物?」 『周囲の景色や色に合わせて、その表面形状すら変化させて、景色の一部として擬態する。 セインちゃんが使っているヴァリアントギア≪オクトパス≫の試作品なの。ギアとして武装生成するにしても、元のデータは必要だからぁ』 「それでも十分……でも、それならいっそ姿を消すとかは? 魔法でもあるでしょ」 『そこが難しいところでねぇ。姿が見えなくなっても、熱関係まではきちんと処理できないのよぉ 実際私達戦闘機人の目ならぁ? あの忌ま忌ましい幻術使いのステルスだって見抜けちゃうしぃ』 あぁ……例のレリックを見事ぶんどったっていう可愛いガンナーちゃんか。そう言えばそれも魔法の幻術で上手く誤魔化されたんだっけ。 だからクアちゃん、可愛い顔が軽く歪んじゃって……美人さんなのに台なしだ。 「……自分は専門外なのですが、ようは人間の熱と、周囲の熱との差で見抜かれてしまうと」 『そうそう。赤外線センサーなんかでね。でもオクトパスはその差も上手く誤魔化せる。 今のサーチャーはそういうものも含めた複合的なものだから、むしろそっちの方がお得意なのよ。 なので……しばらくの間はこっちも訓練しつつ準待機。悪いんだけどうまーく市街に潜伏してくださいませぇ。 あとひと月……公開意見陳述会の日にはお声がけしますのでぇ』 「OKー。ただ……幾つか疑問があってさぁ」 『なんですかぁ?』 「なんで後見人達、殺しちゃいけなかったの? いやまぁ、オレとしては有り難かったけどさ」 最初から、クアちゃんにはそういう指示が飛ばされていた。 あくまでも後見人に重傷を負わせ、部隊長や隊長陣、古き鉄もあわよくばって感じで。 その知り合いとして巻き込まれた美人さんや、例のシスターなら見せしめに殺してもいいーって話だったからね。 それも、戦闘機人とやらではなく、魔法能力者でもないオレらを使ってだ。ナノマシンの干渉もあったとはいえ、さすがに……。 『あぁ、簡単ですよぉ。後見人や部隊長があのザマなら、当然本局からそれなりのてこ入れが入るでしょう? そうなればSAWシステムの導入はもう止めようがない。結局あの虫けら達は、戦わずに負けちゃうってことですよぉ』 「なら、例の核は? 聖王のゆりかごなんてデカい話も出たけど」 『まず核の問題は、私達も混乱してるんですよぉ。ルーお嬢様のお話では、スポンサー経由から出たそうですけどぉ。 でもそのスポンサーも大慌てでしょうねぇ。なにせ明確に、聖王のゆりかごの存在が捜査線上に上がっちゃったんですからぁ』 「だったら、そこに触れたアイツらは……消されるはずがないかぁ」 『そんなことしたら”コレが正解です”って叫ぶようなものですからねぇ。 一見無謀な中継に見えて、実は命綱にもなっているっていう……とんだ悪魔ですよ、あのチビ』 そう考えると、オレら……というか、親元≪所属組織≫がアッサリ潰されたのも納得できるなぁ。 なにせ悪党が悪党として、悪党のやり口を知り尽くした上で封殺しているんだから。 オレだって今日、ムールの行動がなかったら間違いなく死んでいた。だからもう、悪党というか悪魔っぷりは凄く感じています。 『ただまぁ、仮にスポンサーが私達の対抗策として核を持っていたとしてもぉ? それは聖王のゆりかごで帳消しにできますからぁ』 「すぐ誘拐(さら)っちゃわないの? なんならオレ達がやるけど」 『今は困りますよぉ。まだ調整段階の子達もいますしぃ。 なので、さっき言ったように少し大人しくしてもらえると』 「じゃあさ、もう一つだけ」 『なんですかぁ?』 「……オレ達がお勤めしている間に、組織にヘブンズドアーを広めたの、クアちゃんでしょ」 風を流しながらそう告げると、モニターの中で僅かに……嘘くさい笑みが凍り付いた。 「じゃなかったら、あんなヤバい薬を改良なんてできるはずないし? あれ、どういう原理なのよ」 『ん……原理って言うほど難しくありませんよぉ? 人造魔導師素体や戦闘機人の調整には、ああいう薬物もよく使いますからぁ』 否定すらしないか……すぐに笑みを取り戻して、堂々と言い切ってくれたよ。 ムールもさすがに視線が厳しくなるが、それは制しておく。むしろ腹の探り合いがなくて助かったしね。 『それにぃ、そのおかげで組織をぶっ潰したにっくきサンプルH-1や、108に復讐できる機会が、力が得られたでしょう? だったらぁ、お互いここは持ちつ持たれつ……うまーくやれると思うんですよねぇ』 「確かにねー。いや、これでスッキリしたよ」 『納得していただけましたぁ?』 「それはもう。惜しいなぁ……クアちゃんが未成年じゃなかったら、お付き合いを申し込みたいところなのに」 『うふふ、それは成人していたとしても駄目ですよぉ? では、よいドライブを』 「あいよー」 そうして通信は終了……いや、でもほんと、オレ達はなんつうか……馬鹿だよなぁ。 「……」 「〜♪」 つい無言になってしまったのが辛くて、口ずさむ……この蒸し暑い夜にふさわしい歌を、感じていた圧迫感を吹き飛ばすように奏でる。 そうして突きつけられるわけだ。オレは結局、あの息苦しい日々を送ってきたときから、何も変わらないってさ。 「……ロビンさんがいつも口ずさむ歌、いいですね。 誰の曲なんですか」 「ん……尾崎豊っていう、昔死んだ奴の歌。15の夜ってね」 オレが生まれる前に流行ってさぁ。ガキの頃でももはや懐かしソングだった。 「ただ不良が暴れて、好き勝手する不健康な歌……なんて言われるが、違うんだよねぇ。 思春期の……大人になりたいけどなり切れない、そんな中途半端な居場所にいるクソガキども。 その息苦しさや、それを分かってくれない大人や社会。そういうものから飛び出したくて、逃げ出したくてさ。 でも逃げられないんだよねぇ。見上げる大人や社会の一部にもなりたくないって足掻いたら、オレらやボルデントの旦那みたいになっちゃうし」 「……ロビンさん、なんでしたら自分だけで……既にネタは上がっています。機会を待てば」 「お前、不器用不器用言いながらジョークだけは上手いねー。 というかオレはまだいいけど、お前なんて常時服用が大前提なんだから、一番ヤバいでしょ」 「いえ、自分は」 「分かってるよ」 あんな麻薬(ヤク)に手を出して、無事で済むはずがない。あぁ、分かっている……オレ達は分かっている。 人間にあれだけの可能性が出せるとしたら、オレ達はそれに必要な努力もせず、噛み切れ一枚で前借りしているんだ。タダで済むはずがない。 それにあの性悪女は、オレ達を使い捨てるつもりだ。最初から戦力として期待しているわけでもない。 スカリエッティ様の顔を拝ませてくれていないところからも、それはバッチリだ。 オレ達はただのハッタリ……ただの鉄砲玉。あちらの戦力を大きく見せるためだけの賑やかし。 結局そんな程度で終わる。そんな程度で終わって、くたばって…………でもさ。 「……でもさ、そういう寂しいのは……なしにしようや」 ――――そうしてまた、流れる景色や風に溶け込むように、歌を口ずさむ。 蒸し暑く狭っ苦しい空気を吹き飛ばすように、オレはうたう。うたい続ける。 「……はい」 行き先は地獄だろう。オレはオレ達のために、たくさんの人間を殺し、不幸にしてきた。 それは仕方のない処断だ。それはもう引き返せない道だ。”地獄への扉”は叩いたからな。 ……だがそれでも、やるべきことがある。こんなクズなオレ達でも、通すべき仁義くらいは……一欠片はある。 ――第42話 それを通して、笑って地獄へ落ちるためにも、止まれない……もう決して、止まれない。 『天国と地獄と/PART1』 (第43話へ続く) あとがき 恭文「――というわけで、今回のお話は漫画版StS第一巻でやった部分。スバルとティアナの出会いに、ファーン先生とのお話。 3.5話でエリオが言っていたあれこれは、このお話となります」 古鉄≪一応書き上がってはいたんですけど、出せるタイミングがなかったんですよね……。 それと同時に今の話もちょっと進めます。……これでロビン・ナイチンゲールとムール・ランドリーの二人が、クアットロ側と判明しましたね≫ 恭文「まぁ思わくはそれなりにあるようだけど、それは後々だね。 ……というわけで、いよいよ六月だよ。リリカルライブの雪が遠い昔のようだ」 古鉄≪あなたが志保さんの誕生日をさて置き、突貫したライブですね≫ 恭文「でもいいライブだった……。ゆかなさん、奇麗だったし……水樹奈々さんの生歌もやっぱり凄かったし」 恭介「……植田佳奈さんのSnow Rain、雪が降ってて奇麗だった……」 アイリ「恭介がまた植田佳奈さん大好きオーラを……というかまた反すうしてるし!」 黒ぱんにゃ「うりゅ……」 フェイト「恭介、どちらかというと大人しい子なんだけど、こういうところはヤスフミに似てるんだよね」 (エンジェリックレイヤーから追いかけているそうです) 恭介「だって、ライブディスク……まだ出ていないし」 恭文「そうだよ。まぁコロナ渦でいろんなところが大変だし、気長に待つしかないんだけどさ」 アイリ「まだまだ学校も再開って感じじゃないしねー。 ゼロワンとキラメイジャーも撮影は再開したけど、Re:RISEとか他の所もまだまだだし」 フェイト「まぁ、それもやっぱり気長にだよ。こういうときこそ冷静に……だね」 白ぱんにゃ「うりゅりゅ、うりゅー♪」 茶ぱんにゃ「うりゅー?」 灰色ぱんにゃ「うりゅりゅ!」 (ぱんにゃ一家もこの状況だけど元気です。手荒いは欠かさないとか。 本日のED:水樹奈々『Play』) フェイト「でも前に拍手でもらった通り、コロナ関係も劇中でやってたら……ヤスフミ、全く動けなかったよね」 恭文「あー、わりと土壇場で参戦って感じだろうね。それまでは比較的原作通りにボコボコで」 フェイト「原作はボコボコじゃないよ!? だってクロノやカリムさん達、無事だし! というかどうするの! この状況だと六課は……」 恭文「そもそも部隊長のはやてがアレだからねぇ。もうシステム導入は避けられない。 ……だけど、戦力ならあるよ」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |