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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第29話 『撃ち貫け、奴よりも速く』

前回のあらすじ――ミッドに、核攻撃の危険が生まれた。もちろんまだ確証はない。

これがその……フィルムバッジで、きちんと放射線があるような場所で運用されていたという証拠が提示されて、初めて話が進む。

ゼスト・グランガイツが放射線にやられていたのだって、そのコンテナが原因だとは……今はきちんと証明できないんだから。


うん、だから……何が言いたいかというと。


「……なぎ君、あの……落ち着いてくれた?」

「な、なんとか……あの、ギンガさん……そろそろ離れても」

「駄目だよ。私は大丈夫だから」

「ふぎゅう……!」

「……いや、親の前だってのを忘れるなよ」


父さんもしー! 確かに……なぎ君をこう、ぎゅっとして……顔に胸を埋めてもらっているけど、それは必要なことだから!

なぎ君を落ち着かせないと、父さんだって吐瀉物塗れのオフィスで仕事をすることになるんだし。うん、だから……これでOK。


というかね、理解したよ。どうして新聞を読んで、平然としていたのか………………必死に耐えてたんだよ!

思い出すから! 足下で核爆弾がどかんという、不謹慎かつ恐ろしい過去を思い出すから! それで平然としていたんだよ!

よく思い出すと足が震えていたような気がしなくもないし! というか、今も実はガタガタ震えているしぃ!


「か、帰りたい……地球に帰って、貝のように引きこもって暮らしたい……全部押しつけたい……」

≪あ、主様がへし折れているの……!≫

「いや、仕方ねぇだろ。俺がコイツと同じ立場でも、さすがにビビる……つーか嫌過ぎる……」

≪まぁでも、今回はゆかなさんがいないからーで見捨てても……それはそれで人でなしなんですよねぇ。悲しいことに≫

「なんでだぁ! 僕はもうあんなことにだけはならないよう、真面目に生きてきたはずなのにぃ!
なのに、なのに……なんてとんでもないことをやってくれてんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「落ち着いて!? 錯乱しないで!? ほら……いっぱい、甘えていいから……」

「ん、んぎゅうう…………」


よ、よし……なぎ君は、これでまた落ち着かせて。恥ずかしいけど、その……裸を見られているんだし、婚約者として頑張るとして……あとは!


「……それと八神部隊長」

『なんや……核兵器のことなら、こっちでも本局に報告するし』

「六課後見人の裏に、伝説の三提督がいるってのはどういうことですか」

『…………は…………!?』

「ゼスト・グランガイツを名乗っていたあの男と、例の情報屋が……スピアについて触れる前に、そのことを話していたんです。
それを、どうして男のスポンサーは止めなかったのかと」

『――――!?』


私の念押しで、八神部隊長は顔面蒼白。もう打ち震えるしかない様子だった。

信じられなかったのに、この反応は……まさか、本当に……!?


「ちょ、ギンガさん……」

「さすがに隠しておける情報じゃないよ……!」


核兵器が持ち込まれたかどうかの検証だってあるし、否応なしに、あの映像は見せることになる。

それを隠し通したり改ざんしたら、それこそ大問題。まぁ……なぎ君は隠したかったみたいだけど。きっと悪巧みのためだね。


「裏の情報屋が知っているってことは……結構広がっている話みたいだな。……八神、お前……だから知っていたのか。
事件に戦闘機人が絡むのも、スカリエッティみたいな犯罪者が暴れるのも」

『それは……あの、それより恭文です! この調子で無茶をされたら』

「逃げるな……!」


父さんが鋭く、しかし低く一括すると、八神部隊長が顔面蒼白のまま俯いてしまう……。


「言っておくが、単純にお前が嘘を吐いたどうこうって話だけじゃなくなったぞ。
この調子だとその情報屋、いつ口封じされるか分かったもんじゃない」

『ぁ……!』

「なので八神、答えろ。お前にはその義務がある」


もしそれが事実なら、どこからバレたのか……そこを探ることで、情報屋に行き着くこともできる。

仮に口封じで間に合わなくても、スポンサーに繋がる情報が……そう察して、八神部隊長が小さく息を飲んだ。


『済みません……それは、うちだけの判断では……。ちゃんと、後見人達に話をせんと……』

「言っておくが、スバルとティアナは引かせるぞ。恭文もこっちで預かる。
事と次第ということじゃねぇ……これは決定事項だ」

『三佐、待ってください! みんなもようやく纏まって……これからなんです!』

「約束したはずだよな、お前……!」


……父さんはそう告げた上で、通信を叩き切る。これ以上は言うことがないと言わんばかりに、全力で。

そうして見やるのは、なぎ君だった。


「……で、いつから知ってたんだよ……お前は」

「……一か月以上前から。知り合いの情報屋に聞いたんですよ」


なぎ君は私の腕から抜け出して……それが、少し寂しかったり。

でもちょっと顔を赤らめてくれるのが、嬉しくもあった。それは……私のこと、意識してくれたってことだから。


≪しかも私達のせいとはいえ、隊長陣と雨降って地固まっちゃいましたからねぇ。
あの時点で適当に放置していれば、まだよかったのに≫

「だね。完全にミスだ」


……そんなこと、言ってほしくなかった。

スバルも、ティアも、なぎ君には感謝していた。フォローしてくれなかったら、隊長達との溝は残っていただろうし。

なぎ君とアルトアイゼンだって、きっと見過ごせなかった。スバルも、ティアも……エリオ君達だって、夢を持って六課に入ってきたから。


それが仲違いして、踏みにじられるのは見過ごせないって……うん、そう言う子なんだよ。なぎ君は。

でも……今度はその”甘さ”が原因で、スバル達が余計に苦しむことを気に病んでる。


だって部隊長が……そんな事情で六課に入れたのなら……それは……!


「すみません、ゲンヤさん。ギンガさんも、ごめん」

「……今更謝るんじゃねぇよ、馬鹿。
つーか高町の嬢ちゃんと溝なんてできたら、更に傷だぞ?」

「そうだよ。それに……八神部隊長も、私達が自然な形で事件に関われるようにしてくれた。そう考えることは」

「ギンガ」


………………分かっていると、父さんには首肯を返す。

それでも……致命的なミスを犯すかもしれないし、やっぱり駄目だよ。それを分かった上でとなるのは、やっぱりね。

それは私達を育てるため、局の中で踏ん張ってきた父さんからすると……いろいろ許せない部分があることで。


「とにかく、お前については一旦うちで預かる。六課よりはやりやすいぞ? 知っているだろ」

「そうですねぇ、ぶっ殺せと命令してくれるのならいいですよ?」

「……なぎ君ー?」

「おう、やってやるよ。そりゃあ腹を決めて、どーんとよ」

「父さんー!?」


あぁ、やっぱり絡ませちゃ駄目だ! 関係者が事件に関わるとか、ろくなことじゃないよ! 父さんがこういう命令を出す時点でアウトだし!

となると……と思っていたら、父さんの据え置き型端末から着信音。父さんは舌打ち気味にそれを繋ぐ。


……画面に出てきたのは、またまた八神部隊長だった。


「……なんだ。もう相談ができたのか」

『いや、その前に……お話することが、ありましてー! あの、どうか落ち着いて……どぉどぉ……』

「人を馬扱いしてんじゃねぇよ! つーかなにかあるならとっとと言え!」

『はいー! ……今、恭文はいますか?』

「いねぇぞ。憂さ晴らしするっつって、食堂に引っ込んだ」


すると父さんは、画面外のなぎ君を亡きものとして扱う。というか、平然と嘘を……!


≪「………………」≫

≪なのぉ……≫


だからなぎ君とアルトアイゼン、ジガンも、シーのポーズ。私も結局、それに倣うしかなくて。


『ほな、本題です。……申し訳ないですがゼスト・グランガイツの遺体とレリック、すぐ本局で預かっても』


本局……それってうちで確保した被疑者を、引き渡せってことだよね。

みんなの手柄も絡むから、私も視線が厳しくなる。


「分かった」

「部隊長!?」

「うちで置いといても、いろいろと問題だろ。関係者の不文律的によぉ」

「まぁ、それは……でもレリックはともかく、遺体の方は」

『そっちもちゃんとしたとこに預かっておかんと……やっぱりな』


なるほど、だからなぎ君を気にしてと……。

この話を知ったら、絶対首を突っ込んでくるもの。


……部隊長はそれで、また派手にドンパチって展開を恐れているんだ。


「なら明日の朝一番でやるか。うちの中でも、口の堅い奴に護送を任せる」

「まずは中央本部、それから本局ですね。私もついた方が」

『ん……私らも護衛に入るわ。なにせ相手が相手やし』

「馬鹿。スカリエッティに目を付けられているお前らが、がん首揃(そろ)えて動いたら目立つだろ」


う……それを言われると、弱い。スカリエッティは私達家族にとっても、因縁深い相手。

もしかすると私やスバルも、モルモットとして注目されている可能性も……でも。


「とりあえず、いつでも救援を出せるようにはしておいてくれ」

『……分かりました』

「頼む。ギンガ、お前もそのつもりでいろ」

「はい」


私達は日常を演出し、その上でゼスト・グランガイツは、『ありふれた犯罪者』として護送。

そう手はずが決まり、八神部隊長の通信は本当に終わりとなった。


………………なぎ君がそこにいることも知らずに。


「……つーわけだ、恭文。お前もまだまだ暴れたりねぇだろ」

「えぇ」

「だが、お前が追いかけるのはあくまでも”囮”の方だ」

「囮? あの、父さん」

「馬鹿正直にするこたぁねぇってことだよ」


……なるほど、そういうことか。確かに……敵のやり口とかも考えると、こっちも手段を選んでいられないのかも。


「こっちも相応に備えておくから、上手く合わせろよ」

「細かい情報交換はなしで、あとはアドリブダンスと。了解です」

≪さて、それじゃあ……今日は車中泊ですか?≫

「焼き鳥しよう! 焼き鳥! もう焼かなきゃやってられないし!」

「「車でやることかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」」




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そうして体よく利用されるうことが決まり、追い出されたものの、ティアナ(車)へ乗り込み隊舎を出る……と見せかけ、こっそり脇道にて待機。

さて……ここからは張り込みかな。準備していた鮭(さけ)ハラスのおにぎりを、お茶でかき込みつつノンビリ。


≪なのなの……でも注文が面倒なの! アドリブで合わせて護衛しろってー!≫

≪まぁ仕方ないでしょ。そもそも召喚師達がどうやって脱獄したかも現時点でさっぱりですし≫

「こうなると犯人達を確保して、スピアの行く先を吐かせないと……ほんと、とんでもないことになるしね。これくらいの罠は張りたくもなるよ」

「ん……でもこのハラス、美味しいね」


そう、ギンガさんです。私服に着替えたギンガさんは、助手席で……幸せそうにおにぎりを一個ほおばっていた。


≪ギンガさんがいれば、やり口が分かる感じなの?≫

「参考にはなる。親子だもの」

「それは頑張るけど、なぎ君達だと手出しする暇もなさそうなんだよね……」

≪私とか、ゲンヤさんとよく将棋していますし。
だから言いますけど……危険手ですよね。既に召喚師も、スカリエッティも、ゼスト・グランガイツの”逮捕”はもう知っているはず≫

「だけど父さんが言うように、うちでこのまま預かって取り調べも……うん、そうだね。
なぎ君じゃないけど……あの人はもう、死んだものと同じなんだ」


ギンガさんは”五個目のおにぎり”を……108の食堂から用意したおにぎりを食べる。

なお、後部座席にはボックスに詰められたおにぎりがたくさん……きっと朝までには食べ終わるだろう。ギンガさんがね!


「似ているようで違うの。小さいころ、家に来たあの人と……何もかも違う」

「……そりゃあ七年とか八年経てば、誰でも変わるものさ。好きな女の体型だって変わるって、鷹山さんが言ってた」

「そうだね。私も……まさか自分が、こんなに大きくなるとは思ってなかったし……」


……ギンガさん、その……おにぎりを食べた手で、カーディガンの上から胸をふにふにしないで。気になるのもあるけど、いろいろ台なし。


「ただ、変わるにはキッカケくらいあるものだ」

「それが、私達の敵……」

≪襲撃が起きたら更に念押しで確定ですね。しかも高町教導官達の動きまで読まれたら……≫

「本当にスパイがいるってことになるしね。
下手をすれば部隊内……自覚なく情報を漏らしている可能性もあるけど」

「そういうの、あり得るかな」

「やり方と、相手との関係性次第って感じかな。なんにしてもはやては目算が極めて甘い」


あれは六課の戦力が、順当に調えば……後手に回っても問題なく鎮圧できる。そう考えているのだろう。だけど甘い……実に甘い。


「……なんのために僕が、散々隊舎襲撃とか言っていたと?」


もうとっくに、その順当という前提は崩れているかもしれないのよ。悲しいことにね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


深夜――ルーテシアとアギトに、悲しいお知らせをしなければならない。

潜入任務中の、次女のドゥーエから伝わってきた情報だ。


『おい……ふざけんなよ! 旦那がどうして!』

「お出かけ中、108のガサ入れに巻き込まれたそうだ。直接捕まえたのはサンプルH-1だが」

『あの野郎が!?』

『……アギト、本当みたい。ゼストと連絡が取れない』

『絶対許さねぇ! 旦那は犯罪者じゃない……お前達とは違うんだぞ!』


ウーノの視線が厳しくなるが、左手で制しておく。


「それは否定しないよ。彼の人生を滅茶苦茶(めちゃくちゃ)にしたのは、他でもない我々だしね。
……が、君達はそんな我々の手を借りなければ、彼を救出できない」

『け! お前達の手なんざ必要ねぇよ! この烈火の剣精アギト様が、旦那のことはぱぱーっと助けて』

「君達の情報は、既に管理局のデータベースに登録されている。
街を歩くだけでも通報ものだよ」

「だからこそ今日も騎士ゼストは、お一人で行動されていた。そうでしたよね」

『ぐ……!』

『アギト、ドクターの言う通り……一度逮捕されているし、冷静に行動しようってお話したよね』

『くそ、全部アイツのせいだ! 旦那やアタシらのことも何も知らず……正義を踏みつけやがって!』


アギトはゼスト・グランガイツに肩入れしているから、冷静な判断ができないようだね。

このままでは二の舞……しかし、それは我々も避けたいところだ。……手が必要かな。


『ドクター、ガジェットを貸して。百体もあればいい』

「自動制御で哨戒している機体なら、手間はかからないかな」

『ありがと。あとは隊舎から護送されるタイミング……このままずっと、108ではないよね』

「そのようだ。既に本局・中央本部は、六課と108からの要請を受け、朝一番での護送を予定している。……ルート情報も取得済みだよ」

『それもちょうだい』

『ルールー、無茶(むちゃ)だ! 六課の奴らがいたらどうする! それにあの、悪魔みたいな能力者も!
……アイツには騎士道も、戦場での理も通用しねぇ。ただ命をゴミみたいに蹂躙する……とんでもねぇクソ野郎だ!』

「心配には及びません。こちらの察知を避けるため、六課と108の主要メンバーは待機扱いとなっています」


そう、つまり手薄なわけだ。だからアギトも、ルーテシアも、それならばと決意する。

彼らの読みは正しい。我々が極々普通の、犯罪組織であればね。


『なら、あの人は』

「彼には伏せられている。……民間協力者の辛(つら)いところだよ」

『馬鹿だね。あの人なら私にも……ドクターにも勝てるかもしれないのに』

「凡人の嫉妬と言うべきかな。とにかく気をつけたまえ、ルーテシア」

『そのつもり』


騎士ゼストの身柄は、我々ならば本局からだろうと連れ戻せる。しかし今それをやるのは危険だしね。

今はまだ、凶悪犯罪者のそしりを受けるときだ。あとは……よし、増援の準備もしておこう。


私の勘では、彼はこの動きを読み、独自に行動するはず。


……そう考え、笑みが零(こぼ)れてしまった。


『てめぇ……何笑ってやがる! 旦那のピンチが面白いってか!』

「面白いね」

『てめぇ!』

「金魚のフンがガタガタ抜かすな」

『な……!』


君は一体、どこまで読んでいるかな。もしかして我々の正体についても、おおよその察しがついている……あり得るな。

君は師匠と同じく、理を突き抜ける達人だ。


「なぜ楽しまない。なぜ笑わない……なぜ興奮しない。それは君や騎士ゼストの世界が狭く、つまらないからだ。
自分の都合ばかりを唱(とな)え、それに殉じることを正義と嘯(うそぶ)く。今君達や我々を縛り付ける、世界の理に毒されているからだ」

『ふざけんな……アタシはともかく、旦那への暴言は許せねぇ! 元はと言えばてめぇらの』

「サンプルH-1への言いぐさにしてもそうだ……私は言ったはずだ。
単純に、君達が彼らや『我々』より弱い……力で圧倒できない。
それを認めたくないから、自分を慰め逃げ続けている」


そう、彼らとは違う。もちろん六課とも……。


『てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

『アギト、落ち着いて。……それに、事実だよね。私達だけじゃ、あの人どころかドクターにも勝てない』

『そんなことねぇ!』

『この間は真正面から負けた……』

『だから、そんなことねぇ! ルールー、アタシと旦那を信じろ! こんな奴じゃなくて……アタシらを!』

「だったら笑いたまえ、喜びたまえ……そして抗(あらが)いたまえ。この難局を乗り切れば」


あぁ、そうであってほしい……。


「我々はもっと進化できるじゃないか――!」


そうしてまた見せてくれ、君の可能性を。

そして私もまた見せつけよう、その進化を。


たとえ悪徳を通して表す、歪(ゆが)んだものだとしても――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七十五年七月三十日・午前八時十七分。

陸士108部隊・遺体安置所



結局昨日は隊舎に泊まりだ。それで起きてすぐ、遺体安置所に。

その中の一室を訪れ、眠るあの男と対面する。


「ゼスト・グランガイツ、陸士108部隊、ゲンヤ・ナカジマ三佐だ。
……これからお前の身柄は、中央本部へと移送。その後本局預かりとなる。
まぁあれこれ言われるだろうが……そいつはレリックのおまけでちゃらにするって感じだ」


レリックについては、コイツと一緒には運ばない。今回は完全に囮だからな。

……これで敵が出てくるようなら、いろいろと読める札も出てくるってもんだ。


「八年前、何があったか……本当なら問いかけるべきだったんだろうがな。だがそりゃ無駄だったってことだ」


クイントは、メガーヌは、お前と仲間達は……一体【何】を見た。

あの召喚師の子どもはなんだ。お前だけがどうして生き返った。だったらクイント達は……。


「……何度か考えたことがあるよ。お前が正義感で突っ走り、クイント達を巻き添えにしなければってよ。
俺も部隊を預かる身だから、余計に考える。だがまぁ……それに対して恨み辛みはもう言わねぇよ。
お前は死んだし、お前の身体を乗っ取っていた悪霊も消えた……それが全部なんだ」


……そう言っても奴は、貝のように口を閉ざす。そりゃそうだ、死人なんだしよ。

昨晩までこの身体を動かしていたのは、本当に悪霊なんだ。

死者の身体に取り憑き、生前の尊厳や成してきたことすら踏みつぶして笑う……悪霊なんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七十五年七月三十日・午前八時二十五分――


今日の朝ご飯は鮭(さけ)ハラスおにぎり、更にポットに入れておいたおみそ汁。

それでほっこりしてから、ネットニュースなどをチェックしていると。


≪……きましたよ≫


隊舎から護送車が出てきた。小型トラック型の、よくあるタイプだ。

サーチ対策も整えられているため、中の人員などは不明。


「なぎ君!」

「意外と常識的な時間だね」

≪中央本部裁判所までのエスコートを偽装、でしょうか≫


なら早速追跡……と思っていると、また一台の護送車が出立。


「……あれ?」

≪これは≫


そして一台――もう一台と旅立ち、合計五台の護送車が隊舎を出ていった。


≪なのぉ!?≫

「頑張ってくれるなー」

≪サーチャーでも付けておくべきでしたね≫


ティアナ(車)のエンジンを入れ、アクセルを踏み――慎重に最後尾の後を追う。

えっと……五台だからなぁ。それで護送車には、サーチジャミング加工がかけられている。

内部の人員を調べて、本命を当てるのも無理。それでアルトが言うように、サーチャーも無理。


それに向こうは天才科学者とその一味。サーチャーの電波を利用される危険もある。

だからここからは、本当にアドリブで楽しむしかないってわけだ。


「でもこれは……あぁ、仕方ないかー!」

「気づかれたらアウトだしね。でもゲンヤさんェ……」


……とか言っている間に、大きな交差点へ差し掛かる。五台の車は三方向に分かれた。

右に一台、正面に二台、左に二台……ルートから調べる方法もあるけど、さすがに余裕がない。


ここは直感で。


≪左です≫

「……分かった!」


アルトの指示に従い、こちらも左折。残る二台を追いかけていく。……なお、僕の直感もこちらだった。


≪ゲンヤさんとは将棋で負けなしですからね。あの人の手ならすぐ読めますよ≫

「さすがはアルト!」

≪私達か、スカリエッティかは別として、対策は必要だった。まぁまぁいい手ですけど、五台は多すぎですよ。
……あの人の悪いクセです。部隊長という立場からか、戦力をきっちり整え、危険度が少ないよう圧倒を試みる≫


アルトの言う通りだった。……五車線に分かれる道なんて早々ない。

だからイビツな別れ方となり、推測の余地を与える。


≪ではなぜ、五台にしているか。恐らく他の四台には、魔導師部隊が存在しています。
本命を護衛するための戦力として。それも遠距離・支援に長(た)けた魔導師が≫

「AMFの弱点だよね。遠距離攻撃に弱い」


もちろん普通の魔力弾なら、AMFによってかき消される。

でも先には続けられるでしょ。近距離で、AMFの中に取り込まれるよりマシ。

たとえ完全キャンセル状態だったとしても、AMFが発生するのはガジェットの周囲十数メートルほど。


数が揃(そろ)うことで広域展開したとしても、密集状態の維持は不可欠。

それゆえに物質操作などで広範囲爆撃を行えば、実はたやすく全滅可能。

当然ゲンヤさんも知っていることだ。……え、遠くからの攻撃が無理な場合?


知らん、そんなのは僕の管轄外だ。


それはゲンヤさんも同じく……だから本命一台に、予備戦力として一台つかせている。

追いかけている二台は都市部へと近づきながら、ハイウェイ方面を目指す。


「この路線だと……四十六号線か。中央本部まで最短距離」

≪そしてそれとは別の路線もあります。中央本部方面に近づきつつも、また別の司法施設へ向かう道が。
ミッド式の魔導師であれば、すぐに救援可能な距離です≫

「当然中央本部の戦力もだ。つまり、どの道を進もうと実は正解」

≪あの人、最初から無事に護送なんて考えてませんよ。襲ってきたのを、返り討ちと考えています≫

「普通なら見捨てるけど、今回はそうもいかない」


だからただの犯罪者として襲う――向こうもいろいろ面倒らしい。


「父さん……娘として、いろいろ恥ずかしいです……!」

≪「まぁまぁ」≫

「なぎ君達のせいでもあるからね!?」


……でもさぁ、それも【ゼスト・グランガイツを救出したい】と思っていればこそ、だよね。

僕なら砲撃なりで、護送車ごと吹き飛ばすよ。ゲンヤさんも割と大胆というか。

いや、クイントさんの件があるから、逆に疑ってるのか。


ならこれはいぶり出しだ。さぁ、鬼さんこちら……手の鳴る方へーってね!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


部隊長のやることなんざ、それほどない。

方針を決めたら準備して、部下を送り出し、あとは右往左往だ。


「カルタス、向こうの様子は」

「順調のようです。四号車(本命)と五号車は四十六号線へ。一号車と二号車も三十二号線、一号車は二十四号線へ入りました」

「そうか」


そして俺自身も、日々の仕事がある。捜査進展の報告会議を終えて、部隊長室へ戻り……ようやくこっちに取りかかれる。

正直会議の最中、実はかなり冷や冷やしていた。何か起こるんじゃないかって、それはもうなぁ。


これは囮……襲撃してきた奴らを返り討ちにして、情報を吐かせるってのが本題の一つだ。

それについては出ている奴らにも伝えているし、相応の危険があるとも通達した上で、納得した奴だけを乗せている。まぁ全員OKだったが。

恭文とギンガも脇にいるだろうから、オーバーS級が出ても対応は可能だ。打てる手は全て打っている。


だが……やっぱり事件なんざ、起こらない方がいいとは思ってな。火種を撒いといて言うことじゃないが。


「尾行の類いは」

「今のところ見られないようです。……上手くやっているってことですかね」

「そういうのは上手な奴だからな」

「いろいろ迷走している可能性は」

「ねぇな。腹立たしいことによぉ……!」


アルトアイゼンもいるし、ギンガだっている。それなら何とかなるだろうが……それは俺にとって敗北前提の話。

昨日の後始末を思い出し、右親指・中指でこめかみをグリグリ。


「しかもアイツらが動くときは、八割がドンパチ。残り二割が趣味の話じゃねぇか」

「……三佐、それは趣味が十割です」

「だなぁ」


アイツら、ドンパチが趣味でもあるしな……!

やべぇ、言ってて絶望した! 本当に関わってきそうで、寒気がしてきた!


「そして今回については、三佐が言う権利はありません」

「だよなぁ……!
とにかく警戒を怠るな……って、これは俺が直接言う台詞(せりふ)か」

「是非お願いします」

「それと”一寸法師”はまだ出すなよ……」

「承知しています」


そうして部隊員達を鼓舞するのも、立派な仕事ってわけだ。ほんじゃあ、通信を繋(つな)いで……っと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


敵の車は五台……でも、ゼストが乗り込んだ車はバッチリ。

さすがに五台飛び出したときはビックリだけど、車の動かし方、ルート選択で何となく読めた。

もちろんドクターがくれた情報もあるけど、それでもね。作戦を立てた人、ドクターや私よりチェスは下手そう。


「それでルールー、どうする」

「極力被害は出したくない……ゼストも、私には戦ってほしくないようだし」

「旦那は遠慮しすぎなんだよ。
……まぁ、一般市民に迷惑をかけないってのは、アタシも賛成。アタシ達は犯罪者じゃないしな」

「犯罪者だよ、立派に……それに迷惑なら、もうかけている。
あの医療施設の人達だって、たくさん殺した」

「この間のことなら気にすることはねぇし、あそこの連中は死んで当然のクズどもだって言っただろ!?
ルールー、頼むからあんな奴の言いがかりに惑わされるな! アタシ達を信じろ!
何より……神様がいたら、旦那とルールーのことは許してくれる! そうじゃなきゃおかしいさ!」

「許されて当然と思う人を、たやすく許す神様……いたら最悪だね」


アギトの励ましは分かるけど、それでも一蹴。……あの人の言葉が、ずっと胸に突き刺さっている。

あのとき折られた両足はもう大丈夫だけど、その痛みと一緒に……刻まれてしまった。


――……傷付けただろ。六課の部隊員とホテルの中にいた人達を――


私はやりたいようにやってる。

心がない私でも分かる。それもまた罪で、いずれは償わないといけないって。


――お前達のせいで、怖い思いをした人達がいる。
オークションや食事を楽しみにしていたのに、その日常を壊された人達がいる。
……仲間を信じていたはずなのに、それが間違いだったと突きつけられた子達がいる。
そんなみんなが、お前達に一体何をした――


でも、それは今じゃない。今だけはどんなに汚くても逃げてみせる。

今も眠り続けている、お母さんを目覚めさせるまで……私は、汚い犯罪者を続けていく。


そう、決意していたのに……胸の奥で、何かが揺れている。


――どうだっていい?
なら、お前達の事情に、身元に、感情に配慮する理由は……僕達にはない――


………………あの人はただ、許されないと告げていた。

私達がどんな事情で、どんな状況であっても、あのときのようなことは許されない……許されてはいけないと告げていた。

それは正しいことだと、私のどこかで叫び続けている。その声が払えなくて……胸の奥が震え続けて。


「――ルーテシアお嬢様」


……ビルの屋上に吹く風――それになびく髪。

右手でそんな髪を押さえていると、私達の脇に立つ人影。


「……トーレ?」

「は……僭越(せんえつ)ながら助太刀に参上いたしました」

「け! 監視の間違いだろ!?」

「アギト。……でもちょうどいい。あの車」


ビルの上から指差すのは、囮(おとり)も含めた全ての車。


「本命以外の四台を、即行で潰して」

「四台だけで、よろしいのですか」

「まずは確実に、相手の選択肢を奪う」

「……心得ました」


そしてトーレは光に包まれる――。


「だけど、誰も殺さないで」

「…………は?」

「普通に走っている人達も巻き込まないで」

「なぜですか。優先されるべきは」

「お願い」

「……承知いたしました」


ううん、光そのものとなって、この場から飛び出した。

――――そうして私は、また罪を重ねていく。

きっとこんな私を、お母さんも……許してはくれないのだろう。


そんな感覚を……そんな予兆を、あの人の言葉に感じていた。


だけど……それでも、私は……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


管理局へ与(くみ)する人間になど、命の配慮は必要ない。

しかし、ドクターとお嬢様は無駄な殺生を嫌う。貴様らが生き残れるのは力ゆえではない。

二人の御心(みこころ)により、救われるのだ。それに感謝しながら……戦機の力を思い知れ。


加速しながら、右手首からエネルギーフィンを展開。

それでまずは一台目……その車体の眼前を横切る。


「な」


驚く間もなく、運転席にいた奴らは、車体前部ごと両断――。

フィンに流れる血を超振動で払い、そのまま跳躍。

そうして車体は派手に爆発。それに構わず、今度は左手首からフィンを展開。


人間とはなんと脆(もろ)いものだ。非殺傷設定だったというのに、簡単に血へどを吐く。

それに呆(あき)れながらも、二台目の眼前に踊り出て、一回転しながら右薙一閃。

二メートルほどに伸びたフィンは、たやすく奴らを両断。


今回は加減したので、爆発しても死にはしない。吹き飛ぶ車体から離れつつ、三台目、四台目と強襲を仕掛ける。


(他愛ない……これならば”FL”を使う必要もないな)


過剰に姿を見せることなく、まずはお嬢様の指示通り取り巻き達を排除。

あとはガジェットで取り囲めば、問題あるまい。


……これで私の仕事は終わりだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……突然護衛車から通信が途絶えた。嫌な予感が走っていると。


『こ、こちら四号車! ガジェット……ガジェットです!』

「なんだと! 一号車から五号車に通達、すぐに」

『駄目です! 何者かによって撃墜されました!』


何者かによって、だと。つまり攻撃手段も……だがアニタもそこそこ優秀な魔導師だ。

恭文や六課には及ばないが、うちの中ではトップクラスだろう。それでもサッパリだと。


「おい、四号車以外の奴ら……聞こえるか! 返事をしろ!」

『でもどうして……魔力反応はどこにも!』

「落ち着け、フランク二尉! 数は、攻撃手段は!」

『が、ガジェットはI型が二十体……何とかすり抜けていますが……遠方にIII型も発見!
なお護衛車の撃墜方法は不明! 数も不明!』

「ナカジマ三佐」


魔力反応もない……つまりアイツら、戦闘機人を投入しやがったんだ!

そういや六課出張任務で既に見えていた札だったな! 我ながら抜けていた!


『…………そうでもありませんよ』


だがそこで、こっちにプライベート通信が届く。


『こちらも観測しましたけど、砲撃や物理投てきなどではありません。
高速移動による切り抜け……出張任務で出てきた青髪です』

『アイツの速度とやり口なら既に把握している。対処方は幾らでもある!』

「これは……」

「……上手くやってくれたか!」

『『当然!』』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


108に入隊して五年――今日ほど、死の恐怖を突きつけられたことはない。

何せ自分が何をされるかも分からず、撃墜される……そんな現実が首元にかかっている。

ガジェットはまだいい。でも、問題はさっきの光。高速移動系? それとも曲がる砲撃か何か?


いずれにせよ、魔力反応は欠片(かけら)もない。そこからの先読みはできず、恐怖の余りハンドルを持つ手も震える。


(あぁもう、情けないなぁ……!)


それでも必死に、命を繋(つな)ぐためにスラローム。ガジェット達のバリケードをすり抜け、II型の爆撃も何とか回避。


(運搬役は、自分から買って出たって言うのに!)


そこらかしこが戦場のように、爆発と破砕で満たされる中……目の前に立ちふさがるのは、III型。

それもハイウェイを遮るように、五台。駄目だ……あれは、ぶつかっても弾(はじ)き跳ばせない。

そもそも質量が違いすぎる。中央本部……駄目だ、時間がない!


それを正解だと示すように、III型達からベルトアームが伸びて――。


『――そのまま突っ走って!』


そこで外から、聞き慣れた男の子の声。そして急接近する車が、サイドミラーに映った。


≪The song today is ”Cops And Robbers”≫


あれ、何この音楽! あの車から……あぁ、声がなくても正体が分かる!

こんな馬鹿なことを本気でする奴ら、あの二人しかいないもの!


その車は周囲の地面を物質操作――。

弾丸に変化させながら、上方・左右・前方へと次々射出。

そうしてガジェットを三十体ほど撃墜し、こちらに急接近。


「この、声」


更に目の前からも火花が走り、それは一メートルほどの杭(くい)となる。

III型のベルトアームをたやすく砕き、その本体も穿(うが)つ。

しかも正面に出ていた三本の杭(くい)は、そこから更に変化――護送車がギリギリ通れるような坂となる。


意図を察し、アクセル全開――まだ増え続けるガジェットの爆撃を避けながら、坂を上り――。


そのまま爆炎を飛び越えて、奴らの包囲網を突破する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


よーし、護送車は無事に着地! こちらもティアナ(車)で爆炎を突っ切り、そのまま追走。

安全確認した上で、またティアナ周囲の地面に瞬間干渉。

それを物質変換で砲弾に作り替え、連続射出。


護送車の後ろから、横から迫るガジェット達を次々撃ち抜き、爆散させる。

更に頭上から爆撃を試みたII型も、真上へ放たれた砲弾達の餌食となる。

砲弾も最低限の強度で作っているため、ガジェット達の巻き添えで粉々となる。


なので周辺被害はなし……異常を察し停止した一般車両をすり抜け、備え付けのマイクで張り叫ぶ。


≪ルートはこっちでナビゲートします。いいですね、一ミリも違わず走ってください≫

『蒼凪くん!? それにアルトアイゼンも!』

「ほら、返事!」

『は、はい! えっと……御協力、感謝します! お礼にデートでも』

「死亡フラグも禁止!」

『何それー!』


確かにアニタさんは美人だ。いわゆるラテン系で、褐色の肌は艶(つや)やかだし、オパーイだって大きく美しい。ぶっちゃけ好み。

でも……それは死亡フラグ! パインサラダレベルでヤバいやつだから!


「アニタさん、デートは私から……私からです!
そうだよね、なぎ君! 一緒にここでお泊まりしたんだから!」

「ギンガさんも落ち着け! それより現状対処だ!」

「あ、そっか! でもこれで……本当に……!」

≪こっちの情報はダダ漏れ……でもアドリブに対応するだけの面白みはない。
これだから偉い奴らは嫌いなんですよ≫

「おむつくらい履けってんだ!」


ハンドルを鋭く右に左に動かし、熱線をかいくぐる……。

そうして追加で回り込もうとするガジェットに砲弾を生成・射出し、強引に粉砕しながら進んでいく。


「ゲンヤさん! 進行ルート周囲の探査は!」

『首都防衛隊に連絡して、既に開始している!
ただこっちにも直前まで黙ってたからな! 間に合うかどうかは微妙だ!』

「中央は足が重たいからなぁ!」

『だがそのまま玄関先へ飛び込むとも通達したからな! 遠慮はいらねぇぞ!』

「あとは避難が済んでいることを祈るのみ……残り五キロ」


――ハイウェイを走りながら調べたけど、ここが襲撃予想ポイントとしては適切だった。

ここら一帯は再開発地域に属する上、住宅地などもない。

そして中央本部からは微妙に離れているため、救援を出しても時間がかかる。


護衛車を撃墜した上で取り囲むなら、すぐに終わる。召喚魔法もあるしね。……というわけで。


≪私達なら楽勝ですね≫

≪なの! あとは戦闘機人……ジガンがサーチ全開にしておくの!≫

「お願い。――――教えてやろうか。犯罪が割に合わないってことを」


こういうこともあろうかと、パトランプを用意していましたー。

ちゃんと使用許可をもらっているものだから、そこは安心してほしい。それを車体上部にセット。


≪最大ボリュームでやりましょ。――It's Show Time!≫


する前に、アルトがスイッチオン。結果けたたましく……車内で音が鳴り響く。


「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

≪なの!?≫

≪あなた、とっとと装着してくださいよ≫

『その前にスイッチ! スイッチを切れぇ! こっちにも響いてきやがったぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

「アルトアイゼンの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


突然、ハイウェイで音楽を鳴らし、突っ込む乗用車――。

それが現れた途端、周囲で地面がはじけ飛ぶ。ううん、弾丸に作り替えられ、ガジェット達が次々撃ち抜かれる。

不意打ちで対処しようとしても、音が響く範囲に入っただけで、音響爆弾が生成。


型は関係なく、空気振動によって切り刻まれ、爆炎に早変わり。

そうしているうちに二十機撃墜――三十機撃墜――。


「くそ、またアイツかよ! どこまでも目障りな奴め!」

「アギト、冷静に」


護送車を転送魔法のトラップで引き寄せようとしても、先読みで回避コースを取られる。

こちらは瞬間詠唱なんてできないから、魔法陣をすり抜けられると弱い。

再詠唱している間に、四十機撃墜。四方八方取り囲んでも、ガジェット達が回避行動を取っても、全てが爆炎となる。


それが帯を作り、あの車の周囲で咲き乱れていた。――六十機――七十機撃墜。


「何でだよ! ルールー、こうなったら大型術式だ! ハイウェイを覆っちまえ!」

「やってる……でも無駄」


あの乗用車、更に護送車の周囲百メートルが、魔法陣に覆われる。

でも転送が発動する刹那――二台の車は連続転送。

一気に魔法陣の範囲から抜け出し、更に三度転送。


そうしてふわりと浮かび上がりながら再出現し、多少スリップしながらも着地。

中央本部まであと二キロという距離を突き進む。ガジェットで行く手は塞いでいるけど、無駄だね。

また車ごとの転送ですり抜け、一気に距離を縮められる。残り、一.七キロ。


「向こうは瞬間転送能力者(テレポーター)」

「くぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! あの卑怯(ひきょう)者がぁ!
仮にもベルカ式を使う騎士なら、正々堂々迎え撃ちやがれ!」

「アギト、それはこっちにブーメラン」

「ルールーはどっちの味方なんだよ!」

「事実を言ってるだけ」


……アギト、少し頭が固すぎ。

ううん、自分の都合がいいように、解釈しすぎって言うべきか。


「私は、あの人を凄(すご)いって思ってる」

「いいや、凄くねぇ! あんなのはただの卑怯者……クズだ! 旦那だってそう言ってた!」

「私はアギトとは違うから、別にいい」

「ルールー!」


…………六課の魔導師はそう思わないのに。

きっとただ魔法が、能力が強いだけじゃない。使い方が本当に上手なんだ。

それで勘もいい。こちらの手を読んで、ギリギリのところを狙ってすり抜けてくる。


ドクターが楽しそうだった理由、よく分かる。あの人はただ、全力で戦っているだけ。

なら、それに追いつけたなら? 私達もまた、それくらい強い存在だって証明できる。そういう気持ちなら……少しは、理解できる。


……感嘆としている間に、残り二十……これはもう、私達だけじゃ無理かな。


「トーレ」

『……邪魔者の排除ですか』

「倒せなくてもいい。ほんの数瞬、注意を逸(そ)らして。それで何とかしてみる」

『ルーテシアお嬢様、我らを見くびってはおられませんか』


トーレは鼻で笑い……ハイウェイ上を疾駆する。

目で捉えるのがやっとな光が、あの人の車へと迫っていた。


『我らは戦機。あのような欠陥品、すぐ始末します』

「……そう」


確かに、あの人の魔力資質は、能力を除けば大したことない。

魔法出力なら絶対に負けない。でも……不思議と確信していた。

トーレは負ける。それもこっぴどく……ガリューみたいに。


私も召喚師として負けたから分かる。あの人は油断していい相手じゃない。

何度だって言う……強い……本当に強い。それが怖いって、思うほどに。


だから、私も全力を出す。


(……インゼクト……お願い)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


広域に展開する魔力ソナーは、ガジェットの接近を的確に知らせてくれる。

広げている魔力の網が、AMFで消されるだけでも分かるんだよ。それは転送だろうと同じ。

転送魔法によって生まれる、空間の揺らぎ――それも魔法陣が現れる前に、ソナーで先手を取って察知できる。


微弱な反応だから、普通の魔導師には解析不能。でも、僕はテレポーターよ?

自分の得意技でどういう影響が出るかくらい、すぐに理解できる。

それはアルトも同じ。だからこそ上方を元に、逐一進行方向・速度を指示。


そうしてガジェットの包囲網を突破し、残り五百メートル――しかし油断はできない。


≪さすがにこの状況だと、召喚師にも構えませんね≫

「腹立たしいけどねぇ……!」


九割進んでからが本番って、古いことわざにも……!?


≪主様!≫


それで後方から感じる殺気――同時にソナーを突き破る、超高速の物体。

この速度はフェイト……しかも真・ソニックレベル! 実際は見ていないけど、映像関係では把握済みだ!


「……!」


咄嗟(とっさ)にハンドルを回し、車体を左へと逸(そ)らす。


それでも消えない、濃厚な死の気配――それが楽しくて、つい笑っていた。

車体にブレイクハウトを走らせ、そのボディの分子を操作。

アルトの刀身と同じレアメタル製に変化させたところ、迫ってくる物体と交差。


それは、青髪タイツスーツの女。

ピンクのエネルギーを纏(まと)い、こちらに追いつき……追い越しながら。

左手首から発生したエネルギーブレードで切り抜け。


それはティアナ(車)の側面を掠(かす)め、火花を走らせながら通り過ぎていく。


もし回避しないままだったら。

ボディを強化しないままだったら。

僕の体はお腹(なか)から真っ二つになっていた。


それほどに強烈な切れ味だった。でも……ねぇ!


「きゃあ!」

≪やりますね……≫

「まぁね!」


となれば、次の手段は……備えて術式詠唱。


「でも……ギンガさん、抱きついて!」

「え……」

「早く!」

「わ、分かった!」


更に衝撃でスピンしかけたので、アクセルワークとブレーキングで軌道修正。その間に女は、次の手を打っていた。

ティアナのアイディアでできた、術式ストック後の連続処理……それを応用して……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ライドインパルスの加速に反応・回避しただと……しかも車体まで作り替えたようだ。


(……いや、偶然だ)


我ら戦機の速度に、ただの人間がついてこられない。

私に油断はなく、万全だ。戦力差も冷静に評価できている。ならば偶然……奴が拾い上げた機運。

驚きを冷静な考察で諫(いさ)め、右手を開きながら奴に向ける。


そうして運転席とエンジン部を狙い、エネルギー収束――速射砲を連射。

しかし奴の車はスラロームで回避し、直撃を避ける。……運転席狙いの砲撃は、その脇を掠(かす)めるのみ。

エンジン部狙いの二発目は、左前輪をカウルごと撃ち抜き爆破。


その衝撃で車体が吹き飛び、横転。その様子を見つつ三発目をチャージ開始。

今度は確実に、そのふざけた顔を撃ち抜いてみせる。そうして思い知るがいい……我ら戦機の力を見せつけ…………そこで魔力反応が走る。


決して大きくはない魔力が精密に組まれ、驚異として背後から迫る。

射撃魔法か何かと思ったら、全く違った。


…………なぜか突然、辺りが白い煙に包まれたからだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


奴が前に出たところで、術式発動。

車体の相対位置を固定し、その強度を跳ね上げる。

同時に回避行動を取るも、ティアナ(車)の左前輪が被弾。


術式の発動……その寸前で攻撃を受け、タイヤがホイールごと爆破。その衝撃で車が横転。

残り四百メートル……あとはハイウェイを降りて、下道を直進するだけ。


一般車両も多く行き交っているし、あとはコイツを潰すだけで十分!


吹き飛びながら、続けて離れいく護送車を再度転送。

百メートルほど先へ飛ばし、ハイウェイの出口へと飛び込んでもらう。

三つ目は当然ながらこれ!


≪Magic Mist≫


周囲の水蒸気……更に地面を一部分解して、辺り一帯を白い霧に包む。

分解する際に生まれた破片がチャフとなり、周囲のサーチを一時的に塞ぎ、更にこの霧が簡単に晴れないようそれぞれを繋ぐ。

そう、奴を取り込んだのは、結界だ。同時に奥の手を見られないための手段。


……もう加減はできない。

ここで手をこまねけば、アニタさんが……下道の市民が危険に晒される。

幾らまだ使い道があると言っても、死体一つのためにそこまでのドンパチはあり得ない。


だからこそ冷徹に心を律し、奥の手を発動する。


≪Valiant Core――Drive Ignition≫


周囲に存在する車という機械部品を、瞬間的に分解。

その物質のエレメントに干渉し、飛行魔法で反転しながら、それらを一つの形と……想定通りにはしない。まだ隠しておきたい札だからね。

これもまたチャフとして周囲にばら撒き、あらゆる観測を無効化させてもらう。


「ウィングロード!」


ギンガさんが真っ直ぐに伸ばした空の道。その上に着地し、滑るようにホバリングしながら……ギンガさんに術式をかける。

真上目がけて物質透過魔法をかけ、そのまま空へと弾き飛ばす!


「…………きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


その上で、自由となった両手で刃を……アルトを掴んで抜刀。右薙に振るい、形状変換発動。


≪Saiha Mode≫


柄が七十センチ大に伸長。鍔は二つに分かたれ、横に広がる。

そして銀色の刀身は水のようにうねり、一気に僕の身長ほどのぶ厚い両刃剣に変化した。

アルトは強度重視のためカートリッジシステムこそ搭載していないけど、大型の敵や一撃必殺の必要がある場合に備え、これだけは搭載している。


言わば大太刀……あえて言うなら斬艦刀と言うべきか。長所・欠点もフェイトのザンバーと近くではあるけど、アレとは違う点がある。

…………僕の方が、より美味しく扱えるってところだ。


「――――フルドライブ」


歳破モードのアルトを蜻蛉に構え、意識を集束……!

この刃を振るうのに、肉体強化は必要ない。高速移動魔法も……まぁ基本的には必要ない。

そんなものに頼らずとも、僕達は既に”術”を備える。そのために日々自らを叩き、研ぎ澄ましているのだから。


さぁ……共感しろ。

追想しろ。

感動しろ。


いつだってやることはただ一つ。

全身全霊をただ一筋に……焦がれる理想目がけて、自らを打ち上げ、全力で打ち込む。

そうして初めて生まれる光がある。そうして微かにでも捉えられる背中がある。


それを追いかけるように……身体を前に倒し、右足から踏み出す。

蹴り出すような力は使わない。体重の動きにより自然と出てくる足で、ただ鋭くかける。

そうしつつ刃を軸に打ち上げるのは、魔力分解による新しい鉄輝。


魔力分解というのは、魔力結合に並ぶ新技術。凍結変換を応用して、魔力をまた別の形に変換するのよ。

凍結から変換できるものは、今のところ一つ。空気中の水分操作を応用した≪水面(みなも)≫。

まだまだ研究過程だから、魔力を水そのものに変換ってのは難しい。だから一手間かけているって感じに近い。


そう、水だ。水は変幻自在であり、使いようによってはダイヤモンドすら両断する。

故に歳破を軸として打ち上がる新しい鉄輝もまた、その切れ味を跳ね上げるものだった。


「流華一閃――――!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


瞬く間に広がる白煙。その中を突っ切ろうとしている車体。

一体何を……そう思っていたら、信じられないことが起きた。

車体が一瞬で粒子分解され、反転し、サンプル1が体勢を立て直した。


更に私の視界にもノイズが走る。周囲の情景が見えない……これは、何かのジャミング魔法?

奴はいきなりデバイスを構え、大剣とした上でこちらに突撃の構え……。

展開したウイングロードの上を滑りながら、刃を振り上げてくる。


(ふん、いいだろう)


この私と速さ勝負を挑むとは……しかも、あのサイズの実体剣で? 馬鹿げている。

フェイトお嬢様が扱うザンバーのように魔力刃とすれば、軽量でまだやりやすいというのに。


……あぁ、それもできない凡庸な魔力量しかなかったのだったな。

ならば自覚するがいい。そして恐れおののくがいい。


真に才ある者の領域には、貴様のような凡人が入り込むことなど許されないと。


(その愚かさ、すぐに突きつけてやろう)


だから拳を引き、フィンブレードを鋭く展開。それを震わせながら加速の準備を……。


「フルドライブ」


そこで、奴の足が動く。


「流華一閃――――!」


……その一歩がウィングロードを踏み絞めた瞬間……奴の姿が消失する。

足音もなく、ただその姿が消えた。


「……!?」


転移魔法……いや、魔力反応はない。一体なにが……そう考えている瞬間、全てが決していた。


「――――チェストォォォォォォォォォォォォォォォ!」


――――――それは正しく迅雷だった。


蒼い閃光が私を両断する。

しかも斬撃の衝撃はただ私を切り伏せただけではない。

ぶ厚いコンクリでできたハイウェイも、私ごと……百メートルに渡って、霧ごと両断していた。


「――――――!?」


そんな一撃を食らい、私もただで済むはずがなかった。

ジャケットも、肌も、強化骨格も……展開していた全ての守りがただ一振りによって打ち壊された。


……衝撃と水しぶきに塗れ、私の身体は地面へと叩き落とされる。


「が…………はぁぁぁ………………!?」


鎖骨から胸骨、腰骨が粉砕……強化臓器にも、損傷多数……。

頭蓋にも裂傷。神経ケーブル断絶。視界、五感……その全てに重大な機能障害。


……もう、立ち上がることすら、できない……!


(なんだ、今のは……)


防御フィールドは張っていた。耐刃・電撃防御は万全に整えていた。

それはフェイトお嬢様に対抗するためにも必要だったからだ。私はそのためにも調整されていた。

それが、こんなぶ厚いだけの刀で……いや、それだけの問題ではない。


(この私が……戦機足る私が、回避も、防御も……その暇すら、与えられなかった……? このぶ厚い刀の打ち込みで)


……全く、見えなかった。

こんな武装で、強化魔法や高速移動魔法を使った様子もなく……。


フェイトお嬢様のザンバーより…………私より、速い……だと……!?


(あり得ない、あり得ない、あり得ない……あり得ない……!)


それはつまり、身体の作り云々ではなくて……ただ、コイツの一撃が……その技が。

戦機足る私を、ただただ圧倒していたということで……。


(こんなことが、あり得ていいはずがない!)


今まで経験したこともない熱に打ち震えながら、意識が混濁していく。

そうだ、これは睡魔………………戦うことを放棄することが怖くて、余りにおぞましくて。

必死に抵抗する。必死に意識を繋ぎ止めようとする。だが無駄……無意味だった。


「ばか…………な…………」


私の心は折れていた。


「わたし、は……ナンバーズ……さい、そく……。それが……それ、がぁ…………」

≪……知らなかったんですか? 私達に断てないものはないんですよ≫

「それに安心できたよ。お前より速く動ける奴がいないなら、”僕達”を避けられる奴もいないってことだ」

(駄目だ。コイツをドクターに……妹達に関わらせては……)


妹達にとって、絶対に近づいてはならない危険な存在なのに……もう、私には……それを伝える術が…………ない……。

だがらもう遅い。

全てがもう、遅い。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


歳破モードのアルトを肩に担ぎ、左手を向ける。

ジガンのカートリッジを三発使い、しっかりとバインドで捕縛しておく。じゃないと面倒だしね。


≪しかしアホでしたねぇ≫

「本当にねぇ」


……速度に自信ありな上、僕を確実に殺そうとしていたしね。

それにコイツの目からは、僕を見下すような色が幾つも見えた。だからね、絶対乗ってくれると思ったよ。

一見有利な状況での真っ向勝負を挑めば、逃げることを思考から外してくれるってさ。


でも残念……示現流及び薬丸自顕流は、歳破モードのような大太刀だろうと、これくらいは一撃を叩き込むことができる。

とはいえ…………。


(……僕も修行が足りないか)


髪の毛一本でも早く打ち込め……そう教わり、積み重ねる鍛錬。その成果は出ている。でも、まだ雲耀には足りない。


(雲耀……先生がベースとしている示現流の奥義。稲妻の如き一撃。
……今のは、稲妻にはほど遠いよね)


”秒”は超えられていると思うけど、”絲”に到達できているかも怪しい。

歳破モードとはいえ、これは再修行……そう反省した上で。


”……ギンガさん、ちょっとそのままで”


ウィングロードを再展開し、空中で静止していたギンガさんには一声かけておく。


”周囲を警戒してて”

”うん……でもなぎ君、そろそろ雲耀っていうのに届いているんじゃ”

”まさか。まだ五つくらいは壁がある”

”……一生涯賭けて登る頂きってことかぁ”


だから……情けないねぇ。

せめて絲は飛び越えていたら、意識を完全に奪えていたと思うし。うん、やっぱり僕はまだまだだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


私は、このまま……捕まる、のか……?

ドクターの……戦機の顔に泥を塗り…………わたし、は…………。


”あぁもう……トーレ姉様、いけませんねぇ”


するとそこで、クアットロの声……そうか、救援が。


”もうそのまま死んじゃってください♪”


………………響いたワードに、全身から血の気が引いた。

同時に胸が……体の奥底が、熱くなる。いや、それはもう炎を生み出す炉心と化していた。


「安心しろ、殺しはしない……お前には聞きたいことが山のようにある」

”実はぁ、この間の損傷を修理するとき、ちょーっと仕込んだものがあったんですぅ。
というか、取り替えですかぁ? トーレ姉様の『胎児』とごっそり……”

「くあ……っとろ……!?」

≪「――――!」≫

”正体は言わなくても分かりますよねぇ。こう言うこともあろうかとってやつですけど、助かりましたぁ”


これ以上、私を……辱めないで、くれ……。


”今ここでFLやキーのこととかバレると、ウェンディちゃん達にも迷惑ですしぃ?
それにクアットロ的にも、これでドクターを……『ジェイル』を生み出せる母親が、また一人減って大助かりですからぁ”


私は、妹にすら裏切られ、ゴミのように捨てられるのか……!?

たった、それだけの……それだけのために生まれた、命だったのか……!?


”えぇ、そうですよぉ。あなたはぁ、サンプルH-1すら慢心で殺せなかった……ゴミクズなんです♪”


許して……くれぇ……。


”いいえ、許されません。油断せずFLを使っていれば、勝てた勝負なのに……ほんと、生きている意味がないわ”


私は、ただ……ただ……自分を、誇りたかった……だけなんだ――――!


”その罪、死んで償いなさい……ゴミクズ”


それでどうして、こんな…………しうち、ぼぉぉぉぉぉぉ………………。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


奴が誰かの名前を呼んだ瞬間、猛烈に嫌な予感が走った。


”ギンガさん、全力退避!”

”え……”

”速く!”


だから身体は自然と動き、瞬間詠唱により転送も発動。

一気に二百メートルほど退避している間に、状況は加速する。


「あ……あぁあぁぁ……ぁあぁぁぁ……くあっ、とろ…………!」


青髪が呻きながら、熱を孕んでいた。アイツの腹を中心に……膨大な熱を。


「だぢゅげ…………た、す…………け…………」


次の瞬間、奴の身体が赤熱しながら膨張……炎の嵐を吐き出す。

それはマジックミストの余韻を吹き飛ばしながら迫り……ちぃ、更に広がるか! なら仕方ない!

さすがに二度連続はキツいけど…………もういっちょフルドライブ!


≪Full Drive――≫

「凍華――」


今度は凍結変換の鉄輝を打ち上げる。冷気を宿した刃が打ち上がった瞬間、迫り来る爆炎に意識を集中。

刻むべきただ一筋に、全精力を注ぎ込むように踏み込み――――!


「――――なぎ君!」

「一閃!」


再び、雲耀を……今は見上げるしかない頂きを見据え、唐竹に歳破アルトを打ち込む。

凍れる鉄輝が焔を捉え、断ち切り、再びハイウェイを鋭く両断。

二つに分かたれた炎は、稲妻には届かないものの……僕が放った鋭さにより、一瞬で散らされる。


そうして熱風が、凍華により生まれた冷気と混じり合いながら吹き抜けて……辺りの温度が元に戻っていく。


「……ギンガさん!」

「大丈夫!」


ギンガさんがウィングロードの上を走りながら、こっちに降りてくる。

……上に飛ばしておいてよかったね。抱えていたままだったら巻き込んでた。


「なぎ君が教えてくれたから……でも、今のは……」

「完全に自爆だ」

「あの青髪が自分で?」

「……どうだろうね。むしろ驚いていたように見えた」

「じゃあ召喚師か……他の誰かが……!」

「くあっとろ……奴はそう言っていた」


ギンガさんは辺りを見渡す。けど、それらしい気配はどこにも見えなかった。

そして僕達の眼前に生まれたのは、爆発により穴の空いたハイウェイ。青髪はその灰すら残すことなく、この世から消え去った。


「阿呆が……」


思わず吐き捨てた言葉を甘さ……言い訳と断じ、軽く首を振る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


これで忌まわしきサンプルH-1も死亡……最悪動けなくなるから、そこをルーお嬢様に回収してもらう。

そう考えていたら…………ちょっと、ちょっと……なによこれぇ……。


「嘘でしょ……!?」


一体どういうことよ! あんな、古くさい剣一つで……爆撃レベルの自爆を切り払ったぁ!?

冗談じゃないわよ! それでトーレ姉様がやられたのもあり得ないっていうのに……非常識すぎるでしょ!

ただ身体を動かすだけのお遊戯が、私達が振るうテクノロジーに対抗できるはずがないでしょ! それなのに……!


「…………まぁ、いいでしょ……」


下らないいら立ちはグッと飲み込み、いつもの余裕を取り戻し……あえて大笑いする。


「これで証拠隠滅は完了。トーレ姉様にも言ったけど、今捕まっていろいろ調べられるのは面倒だしぃ?」


さすがに驚かされるけど、すぐに考えを改め……ビル上でクスリと笑う。


「でもトーレ姉様、本当にゴミクズだったのねぇ。せっかくドクターのお役に立てると思ったら……やっぱり無駄死にだったんですものぉ。
本当に、この世に生まれ落ちたことそのものが罪っていうレベルの……存在価値のないゴミだったわぁ」


計画はどうとにでもなる。トーレ姉様の速度がアイツに通用しなかった時点で、フェイトお嬢様にもきっと勝てないだろう。

それならラプターや……もう一つの奥の手を大量生産した方が手っ取り早い。

そしてそのときこそ、あのサムライ気取りの坊やが絶望し、泣き叫ぶ瞬間。


――第29話


「ふふふ……♪」


そう考えると、余りにときめいて……絶頂を覚えてしまいそうだった。


『撃ち貫け、奴よりも速く』



(第30話へ続く)





あとがき


恭文「というわけで、JS事件リマスターでもやったハイウェイでの追いかけっこ。
ただ今回は犯人確保やら真相究明やらを重視した関係で、その意味合いと後半が変わり……トーレ、死亡。死因は強制自爆」


(でもナンバーズサイドには(一部を除いて)バレていないため、古き鉄へのヘイトが強くなります)


恭文「これで奴が、歌唄のファンになることもなくなったわけだ……この世界線では」

古鉄≪あぁ……本編では更生して、頑張ってたんですけどねぇ。
ちなみにギンガさんとは声優さんが同じでして≫

恭文「ウーノもね」

古鉄≪ただ諸事情でStSで演じていた木川絵里子さんから、Vividでちょっとだけ出てきた早見沙織さんになっているわけです≫


(『…………ガタ!』
『銀さん、自分で擬音を付けないでください』
『どんだけ構ってほしいアルか。いいからお前は新事務所の帳簿を付けとけヨ』
『俺の事務所じゃないからね!? 俺の中の人の新事務所だからね!?』)


古鉄≪つまり今後劇場版とかでナンバーズが出るなら、そのままギンガさんともども二人も早見沙織さんボイスになるかもしれないわけです≫

恭文「まぁStS、兼ね役多いからね。…………は!」

古鉄≪えぇ、そうです。あなたは致し方なしとはいえ、早見沙織さんボイスを死に追いやったわけで……五月蠅い人が来ますよ≫


(『やっさん、てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
俺ガイルの新作も放送延期になった中、やらかしたなぁ……不祥事をよぉ!』
『いや、その不祥事取らぬ狸の皮算用過ぎるんですけど! というかメタいんですけど!』
『新八、銀ちゃんがキモいネ! これはあのクロクロのっぺらぼう提督と入れ替わって、アフレコ現場で好き好き言いまくるネ!』
『いや、クロノさんだからね!? というか銀さんは参加しないから! 声が同じだけだから!』)


恭文「よし、追い回されないうちにとっとと設定紹介とかやって終わろう!」

古鉄≪それがいいですね≫


◆◆◆◆◆


・歳破モード

もしもの日常Ver2020におけるハイブレードモード。本面と違い、形状は斬艦刀と言うべきものになっている。

取り回しのよさや抜刀術の封印を対価として、威力と防御にも回せる頑強さを獲得している。

歳破とは九星気学における言葉で、その年の凶方位のこと。


・魔力分解≪水面≫

凍結変換の応用により生み出された新しい魔力変換。流体としての特性を活かすことで、様々な術式での活用が見込まれている。

まだ新技術の領域のため一般には広まっておらず、魔力消費なども凍結変換を経由するために多くなりがちと問題点も多い。


ちなみにダイヤモンドカッターのような運用方法もあるので、鉄輝との相性は高い。

トーレの基本防御を無効というレベルで断ち切れたのも、歳破モードの威力とこの特性を掛け合わせたため。

※鉄輝一閃のバリエーションとして使用した場合。

通常時≪水花一閃≫

フルドライブ時≪流華一閃≫



・雲耀

某雲耀の太刀はここから来ている。

示現流で定められた単位≪分、秒、絲、忽、豪、釐、雲耀≫があり、雲耀はその最高峰。


一番下の分は脈拍私語回前後の長さで、位が一つ上がるごとに、その速さが十分の一になっていく。

秒になれば〇.五秒。絲は〇.〇五秒――雲耀は〇.〇〇〇〇五秒。ざっくり言うと稲妻が走る速度。

人間の限界反応速度が〇.二秒と言われる中で、そんな一撃を打ち込めばどうなるか……そこに回避や防御が意味を成すのか。それは言うまでもない。


しかし恭文自身はまだその領域へと到達していない。(本編でもそれは変わらず)


◆◆◆◆◆


古鉄≪というわけで、物理こそ最強……私達、オルフェンズってますね≫

恭文「そうだね。レベルを上げて物理で殴るんだ」


(『いや、どんな動詞!? というか、その前に銀さんが飛び出しちゃったんですけど!』
『大丈夫アルよ、新八! やっちゃんは姉御と声同じアル! ゴリラパワーで銀ちゃんも止められるヨ!』
『だからやめろぉ! その似た声を探すゲームを今すぐやめろぉ!』)


恭文「そうだよ! 僕はそもそもゴリラじゃない! そっちはティアナだ!」

ティアナ「うっさい馬鹿がぁ!」(げし!)

恭文「ゴリライズ!?」


(というわけで、今回はふだん馬鹿やって隠しているマジモンの武器を出したお話でした。
本日のED:『悪を断つ剣 』)


銀さん「全ての早見沙織さんボイスは…………俺が守る!」

恭文「……バビロニアの牛若丸」

銀さん「マタマモレナカッター! くそ、こうなったらキラメンタルで……煌めこうぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

恭文「銀さん、気持ちは分かります。僕もゆかなさんで……うぅ……!」

アイリ「…………パパ、銀さん、ほんと頭冷やそう?」

恭介「お父さん、落ち着いて? ほら……ゆかなさんの、お散歩動画」

恭文「あ、そうだ! それがあった……えへへへ、幸せだよね……アイリ、恭介!」

アイリ「恭介、アンタちょっと甘くない?」

恭文「恭介はね、一月のリリカルライブで植田佳奈さんを見てから、すっごく大好きになったでしょ。だから僕達の気持ちが分かるんだよ」

アイリ「そうだったー!」

フェイト「そう言えばTwitterとか凄く……幸せそうに見てるよね」

恭介「そ、そんなことないからー!」

銀さん「わんぱくでもいい……たくましく育ってくれれば」


(おしまい)






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あきゅろす。
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