小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第24話 『Cops And Robbers』
……ルーテシアはジュエルシード搭載機も持ち出し、徹底的に責め立てる。
確かにこれでは、潜入したとしても気づかれにくいだろう。だが。
「ルーテシア、やり過ぎだ。それ以上は」
「いい」
「殺してしまうところだったぞ」
「覚悟の上」
見ていられない……ルーテシアの罪が、その手が血で汚れる。
そうするのは俺の手だけでいい。だから肩を掴(つか)み諫(いさ)めようとすると。
「駄目だ。お前が手を汚す必要はどこにも」
その手はやんわりと……しかし、確かに払われてしまう。
「そうしてゼストやみんなに押しつけるの?」
……それは矛盾だった。
「これは私のやりたいこと……私がやると決めたこと」
ルーテシアには願いがある。たとえそのための道筋が間違っていたとしても、貫くものがある。ならば。
「なら、一番に汚さなきゃいけないのは、私の手だよ。……心がなくても、それくらいは分かる」
「だがその結果、ガリューも卑劣な手段に伏した。
……俺の手を遠慮なく使うんだ、だから」
「邪魔しないで」
だが話は一切聞いてくれない。ルーテシアはぴしゃりと言い、またガジェット達の制御に集中する。
――私のやりたいことで、一番努力するのが私じゃなくて……一体どうしろと?――
似ているものだな、母と子は……たとえ会話を交わさなかったとしても、因子は受け継がれている。
……スカリエッティが言うように、俺は考えが狭いのかもしれない。
ルーテシアのため、アギトのため……そう言いながら、押しつけていたのだろうか。
いや、奪っていたのかもしれん。あのときと同じように。
――隊長が心配してくれているのも、よく分かります。でも大丈夫です……疲れたときはいっぱい甘えますし、友達もいる――
――メガーヌ、だが――
――というか、そろそろその……石頭と時代錯誤なこだわりはパーッと砕きましょうよー。
非殺傷設定への無駄なこだわりとか、邪魔くさいですし――
――無駄とはなんだ、無駄とは。俺は――
――もう過去の繰り返しはしない。これからは局の理念を真(しん)に貫ける時代だ……でしょ?
でもその期待と願望が行きすぎて、時折人の道を押し込める。……そんなことだから結婚もできないんですよ――
――……シングルマザー志望なお前にだけは、言われたくないな――
母一人子一人……それがどれほど大変か、苦労するか……だから止めようとした。
そうだな、俺はあのときと何も変わっていない。そんな俺が正悪を説くこと自体が間違いか。
だが、不安は募る……。
こうした先、光溢(あふ)れる未来は訪れるのか。
俺はやはり、ルーテシアには機動六課のようになってほしい。
彼女達のように輝き、明るい道を進めるのなら……俺も、安心して死ねるのだが。
魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix
とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
(嘘、だろ……!)
ガリューが、まるで赤子の手を捻(ひね)るみたいに。
(だが、何でだ)
ルールーも状況を察し、ガリューにサポートの術式をかけた。それも一つじゃない、幾つもだ。
だからガリューは、怪我(けが)こそしていたけど全力だった。それなのに……いや、決まっている。
銃器や刃物を中心に戦っているなら、アイツが攻撃に消費する魔力はゼロ!
遠距離攻撃も発生前に潰されたら……なんて汚い真似(まね)をしやがる!
しかも今のは二対一だった! 正々堂々、ガリューの全力を受け止める気概もないのか! それが騎士としての心意気ってもんだろ!
こうなったらアタシが……不意打ちで一発しかけて、その間にガリューを回収してもらえば。
”ルールー、ガリューを回収してくれ! 時間はアタシが稼ぐ!”
”駄目…………AMFのせいで、ガリューとのリンクが”
”それもアタシが何とかする!”
さぁ、見せてやるぜ……このアタシが! 卑劣なお前に制裁を加える!
そうして突きつけてやるよ! 戦場の流儀を踏みにじる外道は、しっぺ返しを食らうってな!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
…………向こうの方は片付いた。これでこっちも魔法を存分に活用できる。
故にそろそろ……覗き見している馬鹿に対応させてもらうとするか。
「……」
クーガーで現場周辺を警戒しつつ、魔法の使用を一部解禁。そのまま術式を走らせ、左指を軽く鳴らす。
その瞬間、鳴らされた音楽に魔力が乗り、この空間そのものをソナー効果により掌握。
そうして確認した異物に対し、より強く魔力を走らせ……それは局所的な空間の爆発となって発現。
不可視の衝撃は昇降口側から発射されたばかりの、手のひらサイズな炎の弾丸十数発に干渉。
更にブレイクハウトを用い、昇降口近辺の地面に干渉。
そこから巨大な壁が生まれ、通路を塞ぐ。
これで壁を砕かない限りは外に出られないし、中にも入れない。
……だからこそ壁に衝撃が加わり。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その向こうから、痛烈な悲鳴が響く。
……至近距離で爆発系の炎熱弾を食らったか。それもまともに。
「馬鹿だねー」
素直に閃光弾にしておけば、怪我をすることもなかったのに……そこで別の術式が発動――。
そっちは三十センチの奴じゃない、また別の感覚だ。
それは妖精野郎を引っ張り、すぐに消えて……やっぱり予備策か。
「召喚獣を見捨てて撤退……」
≪手札が他にもあるか、そうじゃないのか……≫
「なんにせよ無駄だけどね」
先ほどFN Five-seveNで駄目押しに打ち込んだ弾丸は、殺傷用じゃない。
追尾用の超小型ビーコンが埋め込まれた弾丸なんだ。弾頭は肉体に到達後分割され、ビーコンのみが体内に残される仕組みだ。
もちろん……サーチャーによる位置関係は丸バレだから、追撃も楽ってね!
…………まぁ、逃げていた場合の話だけど!
「……よし」
そのまま右手をスナップさせて、生まれていた壁を解除。すぐに駆け出しながら、まずは状況確認。
正直さっきの慌て振りを見たら、もうねぇ……!
でも、ここからはようやく好き勝手ができる! 遠慮なく暴れてやるよー!
「シャーリー」
『ガジェットとラプターの侵攻はひとまず止まったよ! 今は取り残された残存勢力の掃討中!
でも……ごめん! シグナム副隊長もそっちに戻ったから、誰も追撃できない!』
「……なんで誰も止めなかったのよ」
『止めたよ! でもティアナがゴリライズしちゃって……それで』
「阿呆が……!」
仕事を放り出してくれるとか、どういうことだよ! 召喚師を押さえるのも状況を覆す一手たり得るのにさ!
あぁもういいや! これで捕まえられなかったら嫌みの一つでも言ってやる!
「転送魔法は…………無理だよねぇ」
『そうなの!』
「だから行ってくる」
『え……』
「フェイト、結界を突破する! 上手く持ちこたえて!」
『あ、うん……!』
駐車場までの坂を走って駆け上り、日の光を浴びながら……奴らのいる方向へとダッシュ!
「リイン!」
『召喚獣とこの人達は、リインに任せてくださいです!』
「ありがと!」
ほんと、リインには頭が上がらないよ。あとでいっぱい美味しいアイスをご馳走しようと思う。
そう決意しながらもビルドフォンを取りだし、ライオンフルボトルを装填。
そのまま前のめりにぶん投げて…………。
≪ビルドチェンジ!≫
空中で変形したマシンビルダーに飛び乗り、ヘルメットも取りだし装備……素早くアクセルを捻り、反転しながら加速!
「アルト」
≪空間の揺らぎは大分収まってますけど、フルスペックでは使えません。八十メートル以上は跳ばないように≫
「分かった! じゃあ……楽しい追いかけっこだ!」
≪なの!≫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……分かっている。私達の指示には、明らかに無理があった。驕りがあった。
だがそれでも、抑えきれない感情がある。下手をすれば誤射で、仲間を撃ちかねない状況だった。
それを叱る義務がある。それでは意味がないと……伝える義務がある。
だからこそズカズカと踏み入り、ぼろぼろの身体を引きずり……こちらに冷たい視線を向ける四人に近づく。
「お前達……」
「なんですか、シグナム副隊長」
平然と答えてきたティアナの首根っこを掴み、右拳を振るい……容赦なく頬を殴り倒す。
いや、奴は踏ん張り、私の拳に耐えてきた。
「シグナム副隊長!」
「何をするんですか!」
「……駄々をこねるだけの馬鹿は、なまじ甘やかすからつけあがる」
……悪者にされるのは、私だけでいい。
私は制裁した。やり過ぎな形で制裁をした。
隊長達の指示は的確だった。全力を尽くした。だが指示に従わない隊員はいたが、私が制裁した。
それで終わり……全てが終わり。それで私は少々お説教を受けるだろうが、それでいい。
そう思いながらティアナの首から手を離す。
「目障りだ。ヴィータが言うようにすっこんでいろ」
そう告げた瞬間、容赦なく私の顔面が撃ち抜かれた……。
鼻っ柱がへし折られ、血が噴き出し……だが倒れることも許さず、ティアナの手に引き寄せられる。
「……なに驚いてんのよ」
言っている間に、二発、三発と撃ち抜かれ……ようやく倒れたところで、マウントポジションを取られる。
かと思うと両拳を握ったまま打ち下ろされ……その打撃により、後頭部が地面に打ち付けられ、鈍痛が走る。
「撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけでしょ」
「ま……」
だが言っている間に、拳が打ち込まれる。抵抗もできず……というより、手を伸ばしても脇に流され、顔面を掴まれた上で何度も何度も……地面に打ち付けられ……!
「まさか殴って制裁したら、逆恨みされることもなく受け入れられるとか……」
「ごぶ……!」
「そんなお人形遊びができる相手だと…………私達をどこまで見下してんだ! アンタらはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ティア、待って! さすがにそれは待って!」
「そうです! むしろ手出しせず、後でパワハラ相談室に話すのが正解です!」
「キャロはなんか違う! 止めよう!? とにかく止めよう!?」
「くきゅー!」
スバル達が引きはがそうとしても、今度は蹴りが襲う。
情けなく腹を、胸を、喉を蹴られ、もんどり打つしかない……。
結局……私がやったことも独りよがり。コイツの心に、何かを伝えるようなことは……一切、できていなかった……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
まさか、ガリューの速度を歯牙にもかけないとは……特殊能力らしいものは一切使っていなかった。
しかも奴は、AMFを使ったようだ。ガジェット達が使う忌ま忌ましき……この世界の文明を侮辱する道具を。
(やはり異世界人ということか――)
ガリューはAMFの中にいるため、回収できず。自力での脱出も不可能。
それは幼きルーテシアの心を痛めつけ……しかもその両手には、髪や身体を燃やされ、苦しむアギトがいた。
「アギト、しっかりして……」
「ごめん、ルールー……アタシは……アタシは……!」
「いいの。ガリューを助けるチャンスは、きっと……あるから……」
ルーテシアに、アギトは震えながら頷(うなず)く。しかし傷はとても重たい。
アギトのようなか弱き者にすら、なんの容赦もしない。それはもはや悪魔の所業と言っていいだろう。
ここでは……こんな森(もり)の奥では、そこまで大した治療はできない。連中に頼るのはごめんだが、そうもいかないのだろう。
「治療が必要だな。ルーテシア、すぐに」
『すぐにそこから移動するんだ!』
だがそこで、突如空間モニターが展開。慌てた様子の奴は、画面の中からガリューを見据え。
『やられたよ……最初から彼は、こちらを見ていた!』
……それで全員が察する。もう、この居場所を掴(つか)まれていると。
「ガリュー、ごめん。でも待ってて……!」
ルーテシアは慌てて詠唱を行い、赤髪――アギトは大慌てでホテルを見やる。
悪鬼が迫る。ならば、正義を知る者として……制裁を加える機会もあろう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『The song today is ”Cops And Robbers”』
「……この音楽、どこからかかってるんだろうなー! 毎度毎度!」
六課ロングアーチは、現在意気消沈……ティアナが、派手にやらかしたから。
いや、現在進行形でやらかしているというか。でもおかげで、なぎ君の要請には対応できなかった。
『……もう六課からは手を引く……絶対引く……!』
「言いたいことは分かるけど、落ち着いて……!」
「というか、シャーリーが落ち着け! 貧乏揺すりがヒドいぞ!」
グリフィスに諫(いさ)められ、つい振り返り睨(にら)む……って、そうだよね! 落ち着かないとどうしようもない!
「とにかく光学サポートだ……それでいいね、グリフィス!」
「当然だ! 周辺の地形、及び空間データを、逐一彼に送ってくれ! アルト、ルキノも!」
「「は、はい!」」
「アルトアイゼン、聞いての通りだよ! とにかく……安全確実に全速力で!」
『やっぱり大人な注文ですねぇ。でもま、なんとかしましょう』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『……速い……バイクに乗りながら、転送魔法……音速域で近づいてくる』
『だが、次元震の影響は……!』
「もう収まりつつある。……近隣のガジェットを向かわせる。数秒は稼げるはずだ」
『お願い、ドクター』
アジトの中、慌てて空間コンソールを叩(たた)いて調整――。
まずはルーテシアからガジェットのコントロールを譲渡。
その上で彼の予測機動上に、ガジェットを配置していく。
動きに合わせ、宛(あて)がうのでは間に合わない。動きを……最短距離を導き出し、的確に配置する。
「ドクター、私もお手伝いを」
「必要ない! 君はルーテシアの転送をサポートしてくれ!」
「心得ました」
長女≪ウーノ≫にはそうお願いし、笑いながら指を鋭く動かす。
「楽しい……あぁ、楽しいなぁ」
あの、伝説の継承者と一騎打ちだ。
きっと彼は、私の予測を超えてくれる。それを私が更に超えられるかどうか……今、私は進化を始めていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
くそ、空間そのものが安定してない……転送するとしても、やっぱ数十メートル単位がやっとか。
≪……光学サポートも、大して役に立ちませんね。補正としては十メートルですか≫
≪にもかかわらず、ドッガンドッガン……派手過ぎるの!≫
なので距離、方向をある程度不規則にしつつ、飛び込んでくるガジェット達をすれすれで回避。
「いいじゃないの……」
走りながらの転送を続け、その惰性も交えつつ緩急をつけていく。
襲撃の数は十、二十、三十と、秒数を重ねるごとに加速していく。
まさに全方位が危険ゾーン。でも……音楽に乗って感じる、空間そのものを頼りに走り続ける。
≪えぇ≫
二時方向・九時・六時からI型。それを二時半方向へ走り、衝突する三機を置き去りに転送。
十一時方向・八十メートルの位置に跳ぶと、頭上からIII型がブレス。
≪ショータイムって言ったでしょ?≫
「そういうこと!」
それも置き去りに走ると、I型が真正面から五機飛び込む。
「よっと!」
突撃と熱線をハンドル操作と体重稼働で軽く飛び越え、奴らを足場にして更なる空間跳躍。
今度は十二時方向・九十メートルの位置に跳ぶと、真正面と左右からIII型が突撃。
転送……いや、駄目だ。僕の限界距離近くに移動する、機影達を察知。
なので上方五メートルほどに転送し、伸びたベルトアームを回避。
合計六本のそれが正面衝突したところで、足場にして一気に疾駆。
真正面の一機に乗り上げ、そのままアクセルを捻り、加速しながらジャンプ――そこで転送。
配置されるIII型達、更に打ち込まれるII型数機のミサイル十数発。
その合間をスラロームですり抜け、III型一機の背後と脇へと回り込みながら抜けていく。
誘導されてきたミサイルは、ドリルクラッシャー・ガンモードを取りだし、振り向かずに連射――。
広範囲にまき散らされた弾丸がミサイルを次々と打ち据え、爆散させていく。うーん、備えあれば憂いなしってこういうことだ。
それを置き去りに、もっと速く……もっと鋭く走る。空間そのものを切り裂き、縮め、ただひたすらに前へ。
その上で一つ……仕掛けを施す準備もして。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
追いつけない……スカリエッティの邪魔も入るなら、追いつけるはずがない。
なにより、音楽を鳴らしながらだと。たとえ自身の領域を作るためと言えど、戦場の掟を侮辱している……!
”旦那、アイツはヤバい……”
”喋るな、アギト”
”公僕ばっかな甘ちゃん部隊と違う……アングラの、危ない奴らとどんがぶりだ。騎士の端くれにもなれない”
”師の血脈は受け継がれているわけか。それも最悪な人間に”
これで間違いない。俺ならば、閉鎖空間でそんな領域は作らない。
相手の全力を受け止めるのもまた、戦の流儀だ。それを遵守しない時点で、奴は面汚し。
……ヘイハチ・トウゴウという英雄の名を汚す、恥部だ。
”師? 旦那、アイツの師匠か何かと知り合いかよ”
”直接には知らん”
あのときの……過去に憧れていた形を思い出し、だからこそ奴に憤る。
”だがよく知ってはいる。俺達の世代では……正しく英雄と言うべき人だからな。彼はその英雄の弟子だ”
”英雄の、弟子”
”ヘイハチ・トウゴウ――だからサンプル【H-1】だ”
”だったらあの野郎は、師の顔に泥を塗る最低野郎だ! それは間違いねぇ!”
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
凄(すご)い……なんて凄(すご)いんだ! 先を読まれる……読んでいるのに、この私が後れを取る!
騎士ゼスト、やはり君は間違っているよ! 彼は格別だ! この閉鎖された世界を突き抜けている!
感動すら覚えながら、より鋭くガジェットを動かす。そのたびに彼は応えてくれる。
私の予測を超え、更に鋭い感性を形にする。感動を覚えていた……。
私達は今、ガジェット越しだが確かに繋(つな)がっていた。そうだ、これが見たかった。
楽しいだろう、君も。バイザー奥の瞳が……口元が、歓喜で歪(ゆが)んでいる。
私と同じように……!
四女≪クアットロ≫の実験体を倒し、クアットロと三女≪トーレ≫自信を追い詰めたその実力。まさしく達人≪マスター≫と呼ぶにふさわしいだろう。
そうだ、君はそれでいい。師と同じように、こんな狭い世界の想定など飛び越えてしまえ。
もっとできるだろう……私に追いつけるだろう! 君なら! その力なら!
ここにいるぞ、私は! 金でもいい、意地でもいい、プロジェクトFの遺産を守るためでもいい!
早く来い……早く! 私を殺しに来い! 仇敵(ライバル)よ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アギトと心を一つにしていると、奴は迫ってくる……ガジェットの猛撃を回避し、とてもたやすく。
更にフロントカウルから歯車型の光弾を連射し、こちらを威嚇する。
更に機関銃のようなものを取りだし、それも連射……魔導師としての誇りも、ベルカ騎士としての維持も感じさせない、下劣な行動の数々だった。
”距離……五百、四百二十、三百九十、三百十、二百三十……旦那!”
”あぁ”
もう目視はできている。奴はふざけたデザインのバイクに乗り、こちらへと躊躇いなく突撃。
……カートリッジをロード……迫る脅威、その動きを予測する。
既に木々の合間へと突入しているが、奴にとってそんなものはないも同然。
余りに異常な速度に対し、アギトも恐怖を覚える。……距離が三十メートルを切った。
なので三時方向・上三十度の角度に、構えていた愛機≪グレイブ型デバイス≫を突き出し魔法発動。
カートリッジも一発ロードし、不可視の衝撃波を放つ……。
バインドも込みの攻撃は、転送した奴の眼前に迫る。
骨の二〜三本は折れるかもしれん。
だがその痛みで、少しは愚行を思い知るがいい。そして気づけ――。
自らのすぐ近くに、おのが手本とすべき輝き≪機動六課≫があることを。
……だがそんな予測は、俺の身勝手は、たやすく覆される。
衝撃波はなぜかせり出した地面に衝突し、爆裂……一気に粉塵が奴を包み込む。
だがその中から奴が疾走。バイクから飛び降りた蒼い光は、一目散に加速してくる。
それは俺の衝撃波……その第二派を――。
その脇を押さえる、アギトの放った火球をすり抜け――。
俺達の警戒、体による衝突すらもやり過ごし、詠唱中のルーテシアに迫る。
「な……!」
物質透過魔法……そう気づいたときには遅かった。
物質透過による【すり抜け】が解除されると同時に――。
ルーテシアに肉薄した奴は、躊躇(ためら)いなく刀を突き立てていた。
ルーテシアは詠唱中のため、反応できない。俺達も対処が遅れた……だが。
『……あぁ』
スカリエッティから、歓喜の声が上がる間に、状況は決着していた。
……ルーテシアの脇に突撃したのは、低空飛行していたII型。
そのまま奴とルーテシアの間に、九時方向から横入り。心臓狙いの刺突を受けていた。
しかし薄いボディを、あの刀はたやすく貫通。だが、ルーテシアには届かない。
急速移動の影響から、刃は僅かに逸(そ)れていた。ほんの数ミリ……それだけの差だ。
だが逸(そ)れた刃は、ルーテシアの左頬すれすれを通過するのみ。その肉体を傷つけるようなことは、一切なかった。
『最高の勝負だったよ……サンプルH-1!』
「………………確かにね」
………………それは、ルーテシアの背後から聞こえてきた声だった。
続いて、衝撃が走る――。
「ぁ………………」
ルーテシアは背中から蒼い閃光を受け、俺達の脇を通り過ぎ……近くの木に顔面から叩きつけられる。
そうしてズルズルと……血を流しながら落ちていくと同時に、転送魔法陣が消失。
「でもごめん」
それを成したのは……蒼凪恭文……二人目の、蒼凪恭文。
「僕は、それだけじゃ止まれない」
『――――!?』
奴は魔力を纏わせた刃を、容赦なくルーテシアに突き立てていた。そうしていたいけな子どもを、何の躊躇いもなく……!
「……………………ルールゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
「…………!」
俺は拳を握り、アギトは炎弾を再び生成し、奴を狙う…………。
だがそんなアギトの背中に、一人目の蒼凪恭文が掌打……そのまま地面にアギトを叩きつけ、内臓と骨を砕き、血反吐を吐かせる。
「が……!」
……その首をグレイブによって両断……だが断面は血肉ではなく、ただの石だった。
(…………ゴーレムを突撃させていたのか……!)
だがそうと分かれば対処も容易い。グレイブを翻し、カートリッジを再度ロード。
英雄のデバイスを鞘に納めた奴へ……………………待て。
(奴は”一体いつ”、刀を鞘に納めた……!)
そして、グレイブを右薙一閃……奴が打ち込むであろう刃ごと叩き伏せる気持ちで、斬撃を放つ。
だがそれはならなかった。
気づくと俺の両腕は……肘から先の感覚がなくなっていた。
青の剣閃により容易く断ち切られ、魔力を込めていたはずのグレイブは手から離れ……木々を斬り裂きながら転がる。
「――!?」
「鉄輝一閃」
低く……這うように伏せながら斬撃を放っていた奴は、刃を返す。
なんという卑劣だろう。小柄な……子どものような体型を利用し、騎士の一撃をかいくぐったのだ。
真正面から、堂々とその刃を……込められた意志を受け止めることもなく……!
「瞬(またたき)」
痛みに呻いている間に、鋭い一閃が頭頂部を抉る。
そのまま蒼い閃光に斬り裂かれ、ただ無力に……地面へと伏せるしかなかった。
「二連」
「がは……!?」
なんだ、これは……みえな、かった……。
(こんな若造の……英雄としての格すらない、異常者の剣技に……俺が、遅れを取るだと……!)
それが認められない。いいや、認めてはいけない。真の正義も、真の平和も理解できない……この出来損ないのために……!
「だん、なぁ……」
「……シャーリー」
『……転送魔法の反応、完全消失。インターセプト成功……でいいのかなぁ』
「いいのよ。さて、賞金は幾らもらえるかねぇ」
「外道……がぁ……!」
倒れ伏したルーテシア、アギト……それを見据えながら、奴に呪詛を振りまく。
今の俺には、それしか……!
「ルーテシアのような子どもにまで、手をかけるか……この外道がぁ!」
「旦那の、言う……通りだぁ……! しかも、旦那の一撃と打ち合わずに……腕を……この卑怯者がぁ!」
≪これはヒドい絡みですねぇ。……そこの男が、うちのマスターより技が拙いだけでしょ≫
「黙れぇ! お前は……人の心が、ねぇ!
アタシらは誰も……お前みたいに、傷付けちゃいねぇんだ!」
「……傷付けただろ。六課の部隊員とホテルの中にいた人達を」
だが奴には、俺とアギトの……正義の批難すらも通用しない。
「お前達のせいで、怖い思いをした人達がいる。
オークションや食事を楽しみにしていたのに、その日常を壊された人達がいる。
……仲間を信じていたはずなのに、それが間違いだったと突きつけられた子達がいる」
≪主様……≫
「そんなみんなが、お前達に一体何をした」
「そんなのはどうだっていいだろうがぁ!
重要なのはただ一つ……テメェが外道で! アタシらが正義ってことだぁ! 覚えておけ! 人間のクズがぁ!」
すると奴が地面を踏み砕き、姿を消す。
「ぁぁぁあぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
…………その悲鳴に、ルーテシアが倒れ伏した方を見やる。
すると奴は……ルーテシアの右足首を踏み折っていた。
既に動けず、抵抗もできないルーテシアを……!
「る……ルールゥ……! やめろぉ! ルールーは、まだ……子ども、なんだぞぉ!」
「いいから喚くな」
その言いぐさに、アギトは顔面蒼白となり……恐怖で打ち震える。
更にルーテシアの足を……もう片方の足も、踏み折ったからだ。
「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「この程度のことでさぁ」
それは明確な脅迫だった。
自分の機嫌を損ねれば、どういうことになるか……。
ルーテシアという子どもを盾に、俺達の信念すら踏みにじろうとしていた。
≪……知りませんよ、私は。去年散々……あなた達の同類に手を焼かされて、お冠だというのに≫
「ぁ、あぁあぁああぁ………………!」
「ほんと時間の無駄だったよ」
≪仕方ありませんよ。だってコイツら、狂っているんですから≫
≪なのぉ……≫
アギトはそれ以上答えられない……それも当然だ。人間であるならば、答えられるはずがない。
なぜならそれは…………悪魔の所業だからだ。
ルーテシアとアギトには明るい未来がある。それを守り抜くのが、俺の……騎士として果たすべき最後の仕事だった。
今日のこととて、確かに罪だ。だが償える機会はあるし、そのように責め立てられる謂われもない。
それは許されて当然のことだ。それが正義……それが世界というものだ。
だがそれの理すら。踏みつけて当然と奴は叫ぶ。俺達の正義が狂っていると、平然と見下す。
顔も知らない……友人でもなんでもない、ホテルの人間のために……そんな非道がまかり通ると思っているコイツこそ、狂っている……!
やはり危険だ。
俺は英雄を知る者として、憧れた者として、その名を汚す奴に怒りしか覚えん。
蒼凪恭文――奴には死を持って、その罪を償わせなければ。そうだ、チャンスはある。
俺達がこのまま捕まることを、”彼ら”とて当然にはしないだろう。得にこのデバイスには、俺が知りうる戦闘機人事件の情報がたっぷり詰まっている。
必ず、やり直せるチャンスがある。そうして……次こそは正々堂々と……!
――もう過去の繰り返しはしない。これからは局の理念を真(しん)に貫ける時代だ……でしょ?――
だがそこで思い出されるのは、メガーヌの……ルーテシアの母が、俺に放った辛言だった。
違う、俺は……その時代を、その息吹を守るために、奴という存在を。
――でもその期待と願望が行きすぎて、時折人の道を押し込める。……そんなことだから結婚もできないんですよ――
……そんな俺の感情も、お前は……お前達は『押しつけ』と笑うのか。
――……シングルマザー志望なお前にだけは、言われたくないな――
――嫌だなぁ、隊長よりは経験豊富ですよ? それはもう、めくるめく恋の数々をー!――
――知っているから、もう言うな――
――それに……人間一人の正しさで律することができるのは、結局自分だけですよ――
――それ以外に向ければ、押しつけか――
――私達は、それほど万能にはなれませんから。伝えることはできますけど――
メガーヌ、クイント……お前達は今の俺を見て、どう思う。やはり俺は、間違っているのだろうか。
この嫌悪感は、正義ではないのか。分からない……今の俺には、それすら分からなくなってしまった。
ならどうすればいい。奴は、一体何を思い、こんな非道な戦い方を選ぶ。奴の正義とは一体なんだ。
英雄の名を汚しながら、貫く正義があると言うのか。教えてくれ……いや、問題はない。
悪逆に染まった男の言葉など、騎士には届かない――正義の在処は既に定まっている。
いや、そうでなければならない。
第24話
今はただ、悪逆の非道に虐げられただけ……それだけなのだから。
『Cops And Robbers』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ガジェットを盾に……そのインターセプトはさすがに予想外だった。
だけどあの青髪には、一つミスがあった。それは僕がこちらの情報を、サーチャーで多く取得していたこと。
サーチャーは潰されたけど、それでも地形や位置関係も事前に把握できたのは大きい。
故に、隙を突いて三人揃って無力化できたわけで……よっしっと。
≪……でも、あのタイミングで防ぐなんて……恐ろしい奴なの≫
≪えぇ、本当に≫
「だからこそ、もっと楽しめるってもんだ」
……張れる煙の中で、倒れているマシンビルダーを見やる。
さすがに無茶が連発だし、またチェックしておかないとなぁ。
……え、解説が必要? では説明しましょう。
地面を破裂させ、粉塵を作った上で……僕そっくりなゴーレムを、最初に突撃させたんだよ。
こっちの目的は、向こうの面をしっかり拝むこと。転送タイミングを考えたらギリギリすぎて、真正面から飛び込むのはちょっと遠慮させてもらった。
で、奴らが再度攻撃することは分かっていたから、突撃したゴーレムには予め物質透過魔法をかけておく。
あとはそれが切れるタイミングで、召喚師をぐさりーっていうのが第一の矢。
第二の矢は……それら全てを目くらましとして、瞬間転送で召喚師の後ろを取ること。
とはいえ召喚に巻き込まれてもアウトだから、あくまでも予備策。でもそこであのインターセプトだ。
あれは実に都合がよかった。だって……あれで僕が背後に回ったこと、直前まで気づかれなかった。妖精もどきとあのおっさんの目くらましになったんだから。
あとは転送魔法による武装強奪で、そのまま召喚師を無力化。ゴーレムも爆破させて、他二人も鎮圧とか……。
ご覧の通りそこまでの手は取らず、鎮圧しつつ事情聴取できる範囲で留めるとか? いろいろ先は考えていたんだけどね。
「さて……」
右指で銃のポーズ……そのまま動かなくなった奴らにスタンバレットを連射。
しっかりスタンをかけた上で、回復魔法を連発。傷口だけは塞いだ上で、バインドもかけておく。
あとはしっかりとワイヤーで両手足を縛り上げて……完了っとー。
「シャーリー、とりあえず生かした状態で捕縛処置完了。誰かこっちによこせそう?」
『それは……ごめん。やっぱりドタバタが落ち着くまでは。
だけど召喚師が鎮圧できたなら、もう有人操作もないだろうし……すぐに何とかする』
「分かった。なら周辺の警戒をお願い。近づくガジェットは排除しつつ、見張っているから」
『ロングアーチ01、了解……っと、待って。それと今更だけど一つ報告。
今日確認された転送反応、海鳴の一件で確認されたものと一致したよ』
「そりゃ何よりだ」
向こうの虎の子……召喚師を仕留められたってのは大きい。スカリエッティと直接対話もしていたし、いろいろ情報を知っていると嬉しいねぇ。
『でもこの混乱で犯人を確保してくれたこと、心から感謝するよ。
まぁ欲を言えば、マニュアルは事前に渡してほしいけど』
「だからミサイルが……」
『それは除いてくれて構わないから……!』
「みんな同じことを言うなぁ」
『それはね!? だってそれ、私達も神に祈るしかないもの!』
『シャーリーの言う通りだぞ……!? まぁなんにしても、現場の保全は頼む。こちらもしっかりサポートするので』
「はい」
……これで捜査も進むと、本当に嬉しいなぁ。
こっちもそれなりにヒヤヒヤさせられたんだ。それでなんとかイーブンに持ち込めると……あとは。
「さて……まずはあの声からだね」
≪えぇ≫
やっぱり……あの通信画面に映っていた男だよね。あれも重要な情報の一つだよ。
≪記録されている音声データに、該当者あり。ジェイル・スカリエッティです≫
≪サーチャーの映像……過去の記録と一致しているの。
とりあえずこれで、存在は立証された感じなの?≫
「スカリエッティを名乗る奴がいるってのはね。……でもいい感じ」
背後から近づいていたI型に振り返り、アルトを抜刀――――そのまま魔力なしで右薙一閃。
胴体部から真っ二つにされたそれは、音を立てて地面に落下。残骸も連続キックで蹴り飛ばし、離れてもらう。
……それから左指を鳴らし、つい笑っちゃう。
「僕達、三億に一番近づいたわけだ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
………………ははははは……もう、なんというか……私は馬鹿だった。
「……ドクター」
「ウーノ、彼らとのラインは全て切っておいてくれ」
「もう処置は済んでいます」
「ありがとう」
「ですが……」
「……止まれない、か」
……まぁルーテシアに絆された時点で、私は趣味に走っていたわけだが……キツいなぁ、なかなか。
結局引きこもりで研究地獄の私と、世間を知っている者との違いというか……なかなかにキツい一撃だ。
「私は彼との対決を楽しんだ……楽しんだだけだった。
だが彼は、そこから一歩先に進むものを持っている。だから負けたんだ」
「……そして、それこそが我々の越えるべき障害」
「”コード”についても、彼なら騎士ゼストのデバイスからすぐ気づくだろう。かなりマズい状況だよ」
「とはいえ、スポンサーが放置しないでしょうし……ルーお嬢様達も早々情報を漏らさないでしょう」
「時間制限はあるがな」
「……ドゥーエを使い、上手く彼らの動きを誘導しましょう。そうして騎士ゼスト達が逃げ出す隙を作る」
「あぁ」
……今日の負けは、貴重な経験としよう。ただ楽しみ、遊ぶだけでは彼らに勝てない……ここで分かったのは非常に大きな経験だ。
ならその一手を……それより先を埋めるだけ。大丈夫、できる……できるはずだ。
それもまた、間違いなく私の夢だからだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ひとまずは一息付ける感じかなぁ……。しかしなぎ君もまた…………完全に楽しんでいたし!
自分と相棒で……危険目がけて突っ走っている瞬間瞬間をさぁ!
だけど……。
「……ルキノ、なぎ君って……あの子って……もしかしなくても」
「……今更気づいた?」
アルトは半笑いだったけど、ルキノの言葉で更に笑いが深くなった。
「魔導師的にも、捜査官的にも型破り。
しかもそれで普通には手出しし辛い相手も逮捕していくから……」
「あぶない魔導師ってわけだよ」
「シャーリーさん?」
「あぶない……」
「そう……あ・ぶ・な・い・ま・ど・う・し」
例の鷹山さん達は、あぶない刑事というドラマのモチーフとなった刑事だしね。
それと肩を並べたなら……あの子が”あぶない”のなんて当たり前だった。
「……でも……」
アルトは多分、子ども相手でも容赦なしだったのが引っかかっている。だからまぁ、先輩として一応フォローする。
私もビックリしたけど……さっきの叫び、ちょっとジンとしちゃったしね。
「それも、絶対に助けたい人達がいるからだ」
「確かに……言ってましたよね。ホテルの人達の……スバル達の平和と安全を壊したって」
「それにアルトアイゼンでの攻撃も、きちんと非殺傷設定だった。
……おっかないのも事実だけどね」
あの子にもちゃんと、燃えるような正義があるんだよ。というか、刑事魂?
きっとそれは例の鷹山さん達や、特車二課第二小隊の人達から学んだことでもあるから。うん、だったら……やっぱり刑事だね。忍者だけど。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
≪しかもあなたに御執心のようですし、このまま行けば≫
「世紀の犯罪者を逮捕した、嘱託魔導師!?」
≪世紀のアイドル、アルトアイゼンがデビューですよ。これでアルトアイゼン教の布教が完了します≫
≪お姉様、ジガンも早速入信したいの!≫
そう、誓う……だって今度こそ僕達、世紀の大金持ちだもの!
なので辺りの気配に注意しながらも、ステップを踏みながら軽く小躍り。
「今度こそインタビュー、受けるかな! 賞金だけじゃなくて、テレビやラジオの出演料もがっぽがっぽ!」
今、僕達の心は三億プラスアルファに奪われっぱなし。いやー、楽しみだねー!
≪以前の会議は巧妙に隠匿され、良いとこなしですしね。今度こそ私、次元世界のアイドルですよ≫
「自伝出版がまたまた近づいてきたよ!」
『そんなこと考えていたのか、君……!』
『なぎ君ー』
シャーリーの呆れた声は気にせず、笑いながら出版予定な本のタイトルを叫ぶ。
「――こうして私達は管理局を救いました・パートIII!」
≪それに、おまけの奴らも踏まえれば……不労所得生活も間近ですよ≫
「いいねいいねいいね! ようやく始まってきたよ、僕達!」
≪なの〜♪≫
『そこ、機動六課のことをすっ飛ばしてるよね? 全力でスルーしてるよね?』
≪シグナムさん達に感謝しないと。このまま行けば、確実に奴らが攻撃してきますよ≫
「あ、それもそっか。……ちょっとシグナムさん! ヴィータ! ザフィーラさん!」
ウキウキしながら通信をかけると。
『……なんだ』
全員がやたらと重たい表情で出てくれた。ちょ、何よ……その僕が悪いーって空気はやめようよ。
あとシグナムさん、なんで……顔がぼろぼろ? 何、III型のベルトアームに連続ビンタでも食らったのかな。
「…………なんですか、その顔は……仕事をサボって、蜂の巣でもツツいたんですか」
『蜂どころかゴリラの巣だったがな……!』
「え、まさか……」
『蒼凪、悪いことは言わん。ティアナは怒らせるな』
「………………」
『怒らせない方が、いい』
「らじゃー」
ティアナに、やられたのか……! それも相当徹底的に! もう怖いよ!
というかアイツ、マジでゴリラだったの!? しかも不破ゴリラだよ! ライズキー力ずくとか……そういう進化をするとは思わなかったんだけど!
でもまぁ、とりあえず……知り合いだしフォローはしておくか。
「まぁ、あれですよ。僕の方からもシャーリーに……ゴリラ解錠はできる仕様だったのか、確認しますから」
『頼む……!』
『いや、そんなことないからね! 確認されるまでもなく、そんな仕様は欠片もなかったからね!?』
「まぁそんなことはともかく……ありがとうございます! 僕、スカリエッティに目を付けられていたみたいで!」
『『無視!?』』
まさかねぇ、サンプルなんちゃらって呼ばれるってことは……ふふふふ……むしろ望むところだよ!
≪このまま狙ってくれれば、返り討ちで三億プラスアルファが私達のもの。夢の印税生活待ったなしですよ≫
『おい、待て。三億……まさか、賞金か!』
「待っていろよ、三億≪スカリエッティ≫!」
『その振り仮名はやめろ……!』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
恭文が召喚師一味の居場所を掴(つか)み、襲撃してから少しして…………残存ガジェットはなのはちゃんとザフィーラにより撃破。
まぁ恭文を追ってきたの以外、やけどな。そっちもさほど経(た)たずに全滅や。
しかも召喚師と、リインと同サイズのユニゾンデバイス。更に追加で……変な頭のおかしいおっちゃんを確保。
今回は逃がさず捕まえられたと、恭文もとても満足げだとかなんとか。
「……めっちゃはしゃいでいる感じか」
『それはもう。ザフィーラとティアナ達が来るまで、コサックダンス踊ってましたから』
「サイコパス過ぎるやろ! 犯人かて恐怖するで!」
『えぇ……現にリイン曹長サイズの子は、ガタガタ震えて失禁を繰り返して……』
「やろうなぁ!」
そんな恐ろしい状況をうちは、情けないことにホテル内の廊下で聞いていて……。
いや、折衝が……やっぱり思ったより時間がかかってなぁ。ようやくこっちの仕事が片付いたところなんよ。
なお通信モニター内には……ヘコんだ様子のシャマルと、困り顔のシャーリー。
更に反省顔のシグナムとリイン……ティアナがちょお、無茶(むちゃ)した関係や。
「そっか。なら……まずはシャマル」
『はい……』
「分かっとるとは思うけど、アンタ達にも原因がある」
『だけど、本当に”もう少し”でした! だったら』
「そやから、”大丈夫”を嘘にしたことも許せと?」
『だから、嘘じゃありません! 私達は全力を尽くしました!』
「嘘や」
シャマルがしがみつく理由も分かる。でも……そんなことに意味はないと首を振る。
「なにより……全力を尽くしただけじゃあ意味がない。結果を伴わんとな」
『はやてちゃん……!』
「八神部隊長や。
というわけで、アンタにも、もちろん副隊長達にもきっちりとした処罰を与える。
特に暴力行為に走ったシグナム副隊長には、厳重にな」
『…………はい』
『なら八神部隊長、ティアナはどうしましょう……ゴリライズとかは』
「ん……それも状況が混沌としとったし、追い詰められた結果ーとかでありかもしれんけど……いや、駄目やな」
こういうときは身内部隊なし……というか、シャマルとかはうちの家族でもあるし、きっちり処断せんとアカン。
それも身内人事が入り込んでいないと、ひと目で分かる感じでなぁ。
となれば……まぁ犯人も確保できたし、ちょうどそれを手土産にって感じかな?
「全部含めて上の方に報告。その上で沙汰を待とうか」
『そうですね。私も……公正に行くべきだと思います』
シャーリーも同意してくれて一安心……。
「それに……反省はうちも同じやしな。
結局関係者との折衝に終始して、現場対応は全部丸投げやったし」
『恭文さんも反省しきりだったのですよ。テロ対策マニュアル、まさか未完成でよかったなんてーって……』
「うん、恭文についてはめっちゃ働いていた分に追加で、反省してもらおうか! つーかミサイル通過前提はおかしいやろうがぁ!」
『なお本人、”だって誰も今必要だって言わなかったから”とか言いだしているです』
「後でどついとくわ!」
一体今までの行動から、どうしてそんな言葉が出てくるんや! さすがにダブスタやしツッコんどこうっと!
「まぁでも……結果オーライやないけど、貴重な古美術品の盗難も防げたし、そこは喜ばしいことやな。
どつかれた警備員の人達も、気を失っているだけやったんよな」
『えぇ』
「アイツ、安心しとったやろ」
『それはもう……八神部隊長、私は今回のことで、本当の意味で分かりました』
「シャーリー?」
『なぎ君を六課に誘ったのは正解だし、絶対に必要な人材です。
技能や過激なやり方どうこうじゃなくて……なんか、ジンときたんですよね』
「そやろー」
確かに古き鉄はまぁ、いろいろ暴れすぎーって評判の方が大きいけど……でもそこは要点を捉えていない。
アイツが一番強いんはな、自分が守りたいって……助けたいって思ったものを、きちんと見据えたときなんよ。
今日のことで言うたら、やっぱりホテルの人達や……召喚獣に傷付けられた人達で。
まぁそやから……もっと上手く対処しようと、また反省した瞬間やった。
アイツがそれに嘘をつけん奴なのは知っているし、うちもそこに…………やしな。
『……あ、召喚師一味の方は、尋問できる状態じゃあないので……中央の拘置病棟に入れる予定です。
それとなぎ君が召喚師と槍持ちのデバイス二基にハッキングして、データを確かめてみたんです。
……まず召喚師の方は、スカリエッティとの交信履歴らしいものは残っていました。ただアジトの居場所などはありませんでした』
『でもあっちのデバイスもかなりの高性能なのですよ。基礎フレーム自体は結構古いタイプなのですけど、改造しまくってこっちのと同レベルの性能なのです』
「ほな、槍持ちの方は? ぱっと見やと保護者っぽい感じやけど……」
すると、画面の中でリインとシャーリーが顔を見合わせる……。
『……これ、見てください』
そうしてシャーリーから送られてきたものは……なんや、これ。術式データ?
でもこれ、初級の……回復魔法かな。そやけどそれがいっぱい、いっぱい、いっぱい、いっぱい、いっぱい………………ちょ、待って!
「なんやこれ!」
『”これだけしか”入っていなかったんです』
「……デバイス丸々ってことか!?」
『念のためデータを送ってもらって、ロングアーチでも解析してもらっているですけど……変な感じ、ゼロなのですよね』
『いわゆるトラップ的なウィルスも一切ありませんでした。なんというか、こっちも気味が悪くて……』
「さすがに、この量はなぁ……」
確かに引っかかるものがある。そりゃシャーリー達も怪訝そうにするけど……初級の魔法術式やろ?
それでウィルスもなくて……一体なんの目的で。なんかのフェチっていうわけやないやろうし……うーん。
「まぁ、一応多角的に解析、お願いしておこうかな。でも慎重にな?」
『心得ています』
「召喚獣の方は、フェイト隊長とリインやったな」
『そちらもしっかり捕縛していますので』
「あとは連中を治療して、尋問しつつ追跡っと。
……ほな、オークション終了まではこのまま厳戒態勢で。みんなも頼むな」
『『『『了解(です)』』』』
そうして通信を終えて……ホッと一息。
……ジュエルシードも全て回収し、封印……今回使われたのが三個やから、残り八個やな。
でも次元震も小規模とはいえ出してもうたし……また上が騒ぎそうやなぁ。そこも上手く対処せんと。
「……お嬢さん」
すると、緑髪ロングで白スーツという伊達男が……すっと微笑みながら近づいてきて。
「もうオークションも始まりますよ? よろしければご一緒しますが」
「……それはどうもご丁寧に。
でもこれでもうちは仕事中でして。どっかのお気楽査察官とはちゃうんです」
「残念ながら、今回は僕も仕事でして」
「あらま、それはまた…………え、マジで? マジなんか?」
「……そこは信じてほしいなぁ」
そう言ってうちらは笑う……笑い合う。なんというか、つい軽く拳も出る程度には仲良しで。
「でも奇遇だね、はやて」
「それはこっちの台詞よ、ロッサ」
そう、この人がヴェロッサ・アコース。本局査察部に務める査察官。
これがまぁ……サボり癖さえ除けば結構な腕利きなんよ。
「でもマジでどないしたん?」
「一応の護衛……って感じかな。当の本人はそろそろ壇上だけどね。
……それはそうとはやて、せめてお茶はご一緒してほしいな」
どういうわけや……とツッコみかけたけど、それも野暮(やぼ)かぁ。だってロッサは。
「今回のことで108の捜査も大きく動くだろうしね。
カリムにも報告しておきたいんだよ」
うちらの後見人、カリム・グラシアの義弟……古代ベルカの希少技能を継承する一人でもあるから。
「それと……さっきクロノから連絡がきた。
明日でいいから、朝一で本局にきてほしいそうだ。フェイト執務官とシグナム副隊長、シャマル医務官も一緒に」
「……次元震の件か」
致し方ないとはいえ、次元震を短時間に……それも局所的に連発させた。
その上ホテルの人達も危険に晒(さら)し、希少な美術品まで奪われかけた。
しかもそのカバーをしたのが…………民間協力者と一部隊員ってのが、もうなぁ。
問題はその有能さを、副隊長達が押しつぶしたことやけど。説明はそこにも求められる。
……覚悟しておこう。相当厳しいことになるのは、ロッサの表情からも予測できるから。
「既に機動課及びその上役は、ホテル防衛の際に発生した混乱を把握している」
「…………は?」
かと思うとったら、話が……かなり予想外の方向に……!
「気持ちは分かるよ。報告書もそちらで纏める前だし、概要だけでそこまでツツくのは、ね……」
「そ、そうよ! どういうことや!? 通信記録とかかな!」
「……機動六課の中には、スパイがいるようだね」
「そう、なってまうなぁ……!」
まぁスパイっちゅう表現が正しいかどうかは、ちょお迷うけどな?
とにかく六課の活動やその動きを、他の機動課や上役に伝達する……そういう人間が入り込んでいるんよ。相応の餌をちらつかせた上でな。
でも部隊員は相応に厳選して…………そやから、ショックは結構大きくて。
しかも今終えた作戦に絡んでやからなぁ。一体どうなっとるんよ!
「改めてクロノから話があると思うけど、覚悟はしておいた方がいいよ」
「……恭文の行動が成果を出している分、余計に」
「僕が掴んだ情報だと、機動課の大半は反ハラオウン一派と言える派閥に入っているしね」
「そりゃ魔女裁判やないかー」
そうは言うものの、ミスも否定できんし、逃げることもできん。
もしうちにできることがあるとしたら……それは。
…………何があろうと、部隊員を守る……そのために手段を選ばんという気概くらいなもんで。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――――――機動六課が防衛戦で荒れに荒れて……また不穏な空気が流れた。
やっぱりこの部隊は疫病神だ。そう思いながら沈む夕焼けを見ていたところで、通信が届く。
非通知……一分待ってもまだ続くかけ方を確認した上で、周囲を警戒。
「………………」
安心して通信に出た。ただし、音声オンリーで。それが約束事だったから。
「はい……」
『不躾になりますが、ひとまずお礼を。
……本日の報告は、非常に有意義なものでした。中将も非常に満足しておられます』
「お役に立てたなら何よりです。ただ済みません、六課にいられるかどうかは微妙なところに……」
『その場合、相応のフォローはさせていただきます。ご安心を』
「それは助かります。……予想以上に最悪でしたから」
『……あまり褒められた言い方ではありませんが、彼らは結局……元犯罪者であり、人間ではない”何か”ということです』
本当にその通りだった。教えてもらった通りに、身勝手で……自分達のためなら、人の命なんてなんとも思わない化け物達で。
『それゆえに彼女達は……八神はやて二佐も含め、今なお疑問視されるのです。これからも一生……』
「その平穏と幸せが、八神家やハラオウン一派だけのものなら……」
『なので引き続き状態観測を頼みます。こちらも今回いただいた情報を元に、早急に査察の準備を立てますので』
「了解しました」
通信を切り、軽くため息。周囲に気配や人影はなし……何の問題もない。
これを全うすれば、相応の立場が、相応の安泰が約束される。ただ元犯罪者を売り飛ばせばいい。それだけでだ。
そう何度も何度も……言い聞かせるように念じながら、また夜闇に溶ける空を見上げる。
それが、この部隊や悪鬼達の終焉を示すようで……少し笑ってしまった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ゴリラな自分に少し悩みながらも、隊舎へと戻り……表玄関で、なのはさん・フェイトさんの前で集合。
「じゃあ、みんな……今日はお疲れ様。
それとティアナは……うん……ゴリラは、やめよう? ほら、女の子なんだし」
「言わないで、ください……我ながらあんな……マジで劇中みたいな真似を……ああああああ……!」
「ティアナ!?」
「まぁまぁゴリラナ……おのれの顔は正しく不破ゴリラだったから。視聴者として僕が保障する」
「恭文さんは鬼なんですか!?」
「やめてぇ! あんな顔、さすがに女としては嫌なのぉ!」
「ティア、しっかりして! 仕方ない……仕方ないよ! 緊急事態だったんだから!」
もう言えない……もう、お前達を止められるのはーとか止められない! 結局似たようなノリで変身しちゃったし! 私も言っちゃったし!
だからもう、絶対やめよう……今度は、キーに頼ることなく……まずそこを目標に……!
「大丈夫大丈夫! 琴乃と莉央もやったから!」
『え!?』
「恭文君……莉央って、神崎莉央さん!? リズノワセンターの!」
「……本当なのですよ。
出張終わりで琴乃さんを寮に送った後、恭文さんが新しく作ったキーを、冗談半分でんーってやったら……ばきりとやらかしたのです」
「莉央、聞いてみたらリンゴを片手で握りつぶせるそうでね? 琴乃も体力大事なんだなと見習って鍛えていたらしくて……あのときはビビった」
「ちょっと、待ってください! ということはティアさんも……!」
『……!』
ちょ、エリオ……みんなも距離を取らないでよ! 潰したことないから! リンゴ片手とかないからぁ!
「というか、もしかしたらライズキーのロックが緩い可能性もあるのですよ? そこもシャーリーと相談してみるのです」
「ゴリラどもに解錠できるなら、そうなっちゃうよねぇ」
「うるさいわよ馬鹿ぁ! というかその神崎さんと琴乃を巻き込むんじゃないわよ! 琴乃についてはアンタの彼女でしょうが!」
「ま、まぁ……とにかく夕方の訓練はなしだから、明日までご飯を食べて、きっちり休んでね。
……それで恭文君は、マニュアルを完成させて……! それはみんなが欲しいものだから!」
「でもさ、ミサイルが通過とか……隊舎が襲撃された場合の備えが……」
「恭文、まだ諦めてなかったの!?」
「おのれら、召喚師一味を見たでしょ? 狂ってるよ、完全に」
そういう理由なの!? そういう理由でいいの!? というか、それだとブレーメンとかも狂っていたわけ!?
「隊舎内にせめて……滑空砲やトラップゾーン、焼夷榴弾とかを発射できるマルチディスチャージャーを設置できれば……。
あ、あと銃器ロッカーね? AMC装備が使えない以上、何かしら理由を付けて銃器をたんまり揃えて……だったら対物ライフルも欲しいなぁ。
部隊員全員で対物ライフルを構えて、織田信長の鉄砲隊が如く撃ちまくれば召喚獣だって何とかなるよ」
「ヤスフミ、待って待って! 勝手に武装化プランを進めないで! というかそれはもはや隊舎じゃなくて武装組織の本拠地だよ!」
「だから、犯人達は狂っているの。OK?」
「何一つOKじゃないからね!?」
「分かった。じゃあ実際に僕が仮想敵として襲撃して、隊舎をメタメタにするよ。そうすれば改築できて万々歳だよね」
「それも模擬戦じゃなくて、許可を得た上での破壊工作ですよ!? 恭文さんがテロリストですよ!?」
エリオの言う通りよ! しかも嬉々として言ってきてるし! どんだけ警察機構の施設に対して不信感を持っているの!?
いやまぁ、相手はAMFとか使ってくるし、今日だってシミュとして考えてもヤバかったし……対応が必要だとは思うけど!
でもね、コイツのやり方は手段を選ばなすぎて、ただただ恐怖するしかないのよ! 本気で怖いのよ!
「な、なのは……なのはからもなんとか」
「……恭文君、残念ながら警察機構の施設は……いつでもどうぞ襲撃してくださいって、笑っているのが常なんだよ」
「なのはも諦めないで!?」
「分かった。じゃあ守るのはやめて、攻め込まれたらさっさと逃げるプランに変更しよう。
その上で入ってきた敵を、隊舎ごと爆破すれば問題ないだろうし」
「ヤスフミィィィィィィ!」
あぁ、フェイトさんが肩を掴んでゆさゆさと……でもアイツは何も見ていない。私達を、見ていなかった。
というか楽しそうに、どうしたら返り討ちにできるかなーって考えて……ヤバい、コイツはかなり危ない奴だ! 今更だけど!
「うん、じゃあもうそれでいいから、とりあえず早めに出してね?」
「おかのした」
「なのは、いいの!? これで本当にいいの!? 隊舎内に爆弾を仕掛けるのが前提なんだよ!?」
「この調子でやっていたら、絶対纏まらないし……!」
「あ、うん…………」
なのはさんの言う通りだった。一回……暫定的でも纏めたものを出してもらって、その上で検討するしかない。
なんというか、人間の無力さを痛感した一幕だった。
「まぁ、それもまた明日からだね。じゃあみんな、お疲れ様でした」
「「「「お疲れ様でした!」」」」
「……お疲れー」
それでなのはさん達は隊舎に入り、アイツも首をゴキゴキ鳴らしながら駐機場の方へ……って。
「恭文?」
「アイスを取ってくるのよ。約束していたでしょ」
「あ、ならお風呂上がりにみんなで食べようよ!」
「「はい!」」
「悪いけどおのれらだけで頼むわ。僕、しばらく留守にするし」
「えぇ!?」
「ちょっと、アンタ……!」
「少し確認しておきたいところもあるからね」
コイツ、また一人で捜査するつもりか……! しかもまた楽しそうに。
「というかそれ、口止め料じゃない……!」
「そこまで要求しないって。
じゃ……大量の銃器と一緒に戻ってくるから」
「勝手に武装化プランを進めてんじゃないわよ!」
「そうだよ……ちょ、恭文! 待ってー!」
止めてもアイツはスタスタと歩き出し……それを、スバル達は寂しげに見送って。
……普通なら私も止めるべきだけど……いっか。好き勝手するのは変わらずだし。
「…………いっそ恭文さんには、明日から本当の課長になってもらった方がいいんじゃ……」
「キャロ、それはそれで怖いよ?」
「あははははは……でもまぁ、アイスは持ってきてくれるし、そのときにまた」
「じゃあ悪いんだけど、私も……」
「……って、ティアも!?」
「少しね、一人で訓練したいのよ。……私の分も食べちゃっていいから」
暗に『一人にしてほしい』とお願いした上で、みんなから離れて寮に…………ミスショットはしなかった。
でもそれは、想定した上で行っていた札が、上手く機能したからだ。そうじゃなかったら……悪魔の力がなかったら、スバルを殺していた。
……それは、きっちり反省しなきゃいけない。人を見捨てる馬鹿どもに言われる筋合いがないくらいには……分かっている。
なのでまず、自分を痛めつけよう。汗を流して、馬鹿だって罵って……それくらいしないと、ちょっと気が済まない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……ティアナ達にはゆっくり休むよう通達。隊員寮前で解散――。
なのはは私の隣で歩きながら、頭を悩ませていた。ヤスフミの対応もあるけど、ティアナの件も引っかかるらしくて。
「なのは、大丈夫?」
「うん……でも、ティアナはどうしよう」
「注意はしたんだよね。というかさっきも」
「とりあえず……暴力は駄目だよって感じに」
「でも、しこりはある…………」
「そこも上手く解消しないと……」
ティアナの手も、信頼も、六課には必要で……だからなのはは悩んでいた。
あのシグナムやヴィータが一蹴されるほど、キレていたそうだし……!
「と、というか……ティアナは、怒らせちゃ駄目。つや消しアイズは怖い」
「なのは!?」
「しかも恭文君も怖い……まさか、本気になるとあそこまでぶっ飛ぶとは思ってなかったぁ……」
「しっかりして! 確かに……もはや狂気の領域だったけど! あのプランとか!」
あぁ、なのはが怯(おび)えてる! 悩んでいるって言うか、怖がってた!
「……なぁ」
そこで後ろからヴィータの声。なのはは顔を青ざめ、すぐさま土下座する。
「ごめんなさい、もう許してぇ!」
「なのは!?」
土下座って……そんなに怖かったの!? というか許してって何! 何を言われたのー!
「……何やってんだ、お前」
「……あ、そこにいらっしゃるのは、近接型なのに魔法なしで投げ飛ばされたヴィータ副隊長!」
「喧嘩(けんか)売ってんのか、てめぇ!」
「その両脇には……鉄拳制裁をされ返したシグナム副隊長と、フィニーノ一士!」
「ぐ……!」
「なのはさんー!? ちょ、落ち着いてください! 混乱しないでください!」
ホントだよ! ティアナへの恐怖で錯乱して、慇懃無礼(いんぎんぶれい)になってる! でもやめて! いつものなのはに戻ってー!
「ああもういい! とにかく……ティアナのことで話がある」
「ティアナの?」
「や、やめ……つや消しアイズ、怖い。キャラ、変わって……!」
「お前も落ち着けよ! 分かる! 怖いよな、アイツ!
スイッチ踏んだら一気にゴリラだもんな! でも上司だろうがぁ!」
……今日無茶(むちゃ)した件、かな。それを言われると、上司としても断れないし。
だけど……ああああ! どうしよう! ゴリライズだっけ!? こんなのさすがに予想外過ぎて、どうすればいいか分からないよぉ!
(第25話へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、逮捕されてしまった奴ら! どうするの! またゆりかご未出船エンドなの!?」
星梨花「……やっぱり恭文さん、大変そうです。
うぅ、わたしもお手伝いできればいいんですけど……さすがに無理ですし」
ともみ「星梨花ちゃん、このときだとまだ小学三年生くらいだし…………あれ?」
恭文「ともみ、それ以上いけない」
(小学三年生……いろんなことができる年です。魔法少女的に)
恭文「まぁアホな奴らはさて置き、今日は星梨花と、とまと設定的にともみの誕生日! おめでとうー!」
ともみ「ありがとう、恭文さん。……今日は、星梨花ちゃんと……二人締め、だよ?」
星梨花「はい! わたしももう大人だから、夜更かしだって頑張っちゃうんです!」
ともみ「私は元々大人で、メイドさんだから……御奉仕も頑張るね。うん」
恭文「う、うん……それは、重々承知を……!」
(蒼い古き鉄、二人を受け止めながらもタジタジ)
アビゲイル「夜更かし……悪い子の匂いだわ。でも、誕生日は素晴らしいから今日は特別よね!」
(蒼凪荘のアビゲイル、ディスクを持ってトタトタ)
恭文「アビゲイル、どうしたの?」
アビゲイル「夜更かしと言えば映画とかかと思って……私もご一緒していいかしら」
星梨花「はい、大丈夫です」
ともみ「うん、こっちおいで……」
アビゲイル「ありがとう、二人とも」
恭文「でも映画かー。うんうん、いいよねー。深夜映画とか最高ー!」
(こうして、楽しい誕生日の一日は始まったのだった。
本日のED:小比類巻かほる『Cops And Robbers』)
星梨花「恭文さん、わたしとっても楽しいです……♪」
恭文「うん、僕も。星梨花は相変わらず天使だしー」
ともみ「……御主人様、多分それ違う」
星梨花「誕生日の始まりから、ずっと恭文さんと、ともみさんと一緒で……できれば、来年も……再来年も……」
ともみ「ん……そうだね」
恭文「じゃあ約束だ」
星梨花「はい!」
(おしまい)
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