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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第15話 『機動六課の出張/PART1』


前回のあらすじ――突然の出張任務です。

そして隊長達の抱える罪にいろんな感情を走らせたところで――。


「はい、リインちゃんもお洋服」

「わぁ、ありがとうですー」


いろいろ考え込んでいると、シャマルさんがリイン曹長の前に……女の子物の服を置いて……。


「リインさん……それは」

「はやてちゃんの、ちっちゃい頃のお下がりです」

「でも、サイズが……」


そう、あれは普通の人……って、当たり前か。部隊長のお下がりなら十歳とか……うん、それくらいに見える。


「……あぁ、みんなにはまだ言うてなかったな。リイン」

「……システムスイッチ。アウトフレーム・フルサイズ♪」


するとリイン曹長は空色の光と魔法陣に包まれながら、大きくなって…………本当に、十歳前後の女の子に変身した。

なお服はバリアジャケット装備……あ、さすがに引きちぎられるか。


「…………って、でか!」

「いや、それでも小さいけど……年相応な感じだけど」

「そうなのですよー? 一応これくらいは大きくなれるのですー」

「ちょうど僕達と同い年くらいですね」

「リインさん、可愛いです」

「ありがとうですー♪」

「あっちだとリインサイズの人間も、ふわふわ飛んでいる妖精もいねぇからな」


あぁ、それで……魔法文化なしの世界だったものね。だったらこの処置も当然。


「…………できれば小さいまんまでいてほしいが……!」

「え?」

「でもでも、リインは更に大人を目指しているですよー!
…………そうしたら、恭文さんをどこの馬の骨とも知らない女とラブホになんて……ふふふふふふ……ふふふふふふふふ……!」


り、リイン曹長? あの、圧が……というか怖いです。髪がメドゥーサみたいに揺らめいているし……!


「お願いや、リイン……ラブホは早い……アンタはまた子どもなんや。そやから……あと十年……せめて一生そのままで……」

「だから! リインは生まれたときから十歳相当の精神年齢だったと何度も言っているですよね! なんの問題もないのです!」

「嘘つけぇ! アンタは割りと赤ちゃんやったやろ! アンタは今でも子どもやろ!」

「つーか大事なのは肉体年齢なんだよ! 精神年齢はこの際除外するんだよ!
ああああああ……アイツがこういうとこ良識的で、ホントよかったぁ!」

「恭文は合法ロリOKでも、マジロリNGな良識人やからぁ! yesロリータyesノータッチの精神やからぁ!」

「もはや聖人君子だろ、そりゃあ!」


そして八神部隊長とヴィータ副隊長が絶望を! いや、分かる! 状況は分かるけど!

でも聖人君子は言い過ぎですから! というか、混乱がヒドすぎてこっちも圧が凄い!


「…………お前達も、この様子から全てを察してほしい」


いや、シグナム副隊長……察してはいるんですけど! でも飲み込めないほどにデカいです! 物がデカすぎます!


「相思相愛の二人だけど、立ちはだかる年齢の壁は大きいのよねー」

「「「あ、はい……」」」

「いや、相思相愛でもヤバい気がするんですけど……」

「ティアナ、それは言わないでくれ……我々には効く」


シグナム副隊長が更にへこんだ!? あぁ、そっか! ユニゾンデバイスとして生み出した責任とかがあるから!

それで最初からわりと精神年齢も高めなら、実年齢との齟齬が出るのも当たり前で……そこで倍プッシュかぁ!


「まぁそっちは……私達が一生背負っていくとして」


いや、だから重すぎます……!


「みんなも着替えは大丈夫よね」

「「「「あ、はい!」」」」


問題なしと、鞄を提示……そう、現在私達は全員私服です。

というか、管理外世界で管理局の服を着ていたら……それはコスプレか変態のどっちかよ。


「それと私達が持ってるデバイスや魔法技術は、言うまでもないけどあの世界だとオーバーテクノロジー。
だから原則的に魔法がバレないようにしなきゃいけないし、現地の事にも干渉できないんだ」


するとフェイトさんが、少し困り顔でそう告げてきた。とても大事なことなのにと、言わんばかりに。


「……なのは、ヤスフミにも今回は忍者じゃなくて、ちゃんと六課部隊員として動くようにお話しようよ。
それでもし事件とかがあっても、それは海鳴の警察に任せて……」

「えっと、フェイトさん……」

「ごめんね、ティアナ。……恭文君、わりと……異能・オカルト絡みの事件で、魔法をバラしちゃうことがあるみたいで」

「いや、アウトでしょ!」

「もちろん極力はね。でも人命優先な状況では致し方なく……忍術って言い張っているみたい」

『忍者万能説!?』


いや、魔法と忍術の違いが何かって言われたら……私にはなんとも言えないけど! でもそれで言い張るってどういう神経よ!


「でも、今回は六課の任務だから。うん、それはちゃんとお話して……捜査も一人じゃなくて、私と一緒にやれば」

「……それは無駄だって、私は思うなぁ」

「無駄とかじゃなくて、それが仲間としての……管理局としての働き方だから」

「なのは、段々と分かってきたんだ。
……きっと恭文君は、正義の味方をやりたいんだよ」


……その言葉には、自然と納得できるものがあった。

それで納得するなら、忍者資格や非魔法戦の訓練もあそこまで徹底しない……ものね。


私が察したのを見て、なのはさんが嬉しそうに笑う。


「……そうだな。それに特車二課第二小隊からも言われたそうだ。
まともじゃない官僚には、悪党か正義の味方しかいない……蒼凪は前者の側だとな」

「だから余計に、なんですね」

「だから、それも私達と一緒に……管理局の中で仕事をしていけば大丈夫です。
……うん、そういう話もしないと駄目だよね。母さんのことも分かってもらいたいし」

「……フェイトちゃんがまだ袖にされて、スリングショットを着させられるに一票」

『同じくー』

「なのは!? というか、みんなもヒドいよー!」



というか、フェイトさんがアレすぎる! 一体どうしてここまでこじらせるのよ!

……そうそう、こじらせると言えばもう一つあった……! そろそろ……ツッコんで、いいわよね……!


「で……あの、ヴィータ副隊長……」

「…………なんだよ。もう、リインのことは……そっとしておいて、くれ」


うわぁ、疲れ果てている! 完全に疲れ果てている!

かなり……いや凄くツッコミ辛いけど、エリオ達のためにも……ここは、勇気を出して!


「いえ、そちらではなく、副隊長ご自身のことで」

「アタシのこと?」

「失礼になるかもしれませんけど、すみません……」

「なんだよ、藪から棒に」

「その……いつもより大人っぽいお姿は……!」


みんなの視線がゆっくりと動いて、私の右側に移る。

それは腕組みしながら座る、赤毛ロングでウェーブ髪なヴィータ副隊長。

いつもとね…………まるっきり違うのよ! 膝までのジーンズに、白黒ストライブのシャツ!


しかもボン・キュッ・ボンの十代後半な姿…………どうなっているのよ!


「なんだよ、アタシの顔になんかついてんのか」

「ヴィータちゃん……それは、しょうがないよ。あのね、本当にしょうがないと思うの」


あ、よかった! なのはさんは同意してくれた! というかその姿が衝撃なのか……打ち震えながら指差ししているし!


「だって……別人だもの! というかなにその胸! 明らかになのはより大きいんだけど!」

「うっせぇ! しょうがねぇだろ!?
向こうじゃあアタシはティアナぐらいの年なんだからよ! 知ってるだろ!」

「あぁ、だから変身魔法で……あ、ごめんなさい。私のことは気にしないでください」

「おいこら待て! ティアナ、お前今生温かい目をしやがっただろ! てーかなんで謝った!」


ごめんなさい、無理です。私にはもうこれ以上コメントは……いや、でも事情は分かった! これで耐えられる!


「ヴィータちゃん、それも仕方ない。だってこう、願望が見えて」

「ふん!」

「ケルベロスゥ!?」


……するとなのはさんに、とても鋭い肘打ちが叩き込まれた。

なのはさんは意味不明な断末魔を残しながら、デッキに倒れて……。


「なのは!? だ、駄目だよヴィータ!」

「な、なぜ……なのはが、なにを」

「テメェ……誰がフェイトみたいな、脳の栄養を全部胸に吸い取られた女になりたいだってぇ!」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「そこまで、言ってないからぁ……」

「やめろ、ヴィータ……私にも突き刺さる」

「私にもよー!」


あぁ、そうですよね! シグナム副隊長とシャマル先生も、とても立派な物をお持ちで……というか、周辺被害が大きそうだから本当にやめましょう!


「……フェイトさんのオパーイは、やっぱり泣き続けているんです!」

「スバル!?」

「そやな! それは止めなあかん! それはうちらが止めなあかん!」
 
「はい! 八神部隊長!」

「というかというか……リインにそれをよこせなのですぅ!」

「その決めぜりふを継承すんじゃないわよ! というか八神部隊長とリイン曹長までー!」


とりあえずリイン曹長は抑えて……殴りかからないように……殴りかからないように下がらせて……!


「ガルルルルルルルルル……!」


というか怒気が凄い! あぁ、ユニゾンデバイスで、アイツが明らかに巨乳フェチだから……分かります! 気持ちは分かります! でも落ち着いて!


「……毎度毎度のぐだぐだだね」

「うん……でも僕、嫌いじゃないかも」

「くきゅー!」

「アンタ達、正気!?」


なのはさんが蹲り、涙目になっているところでもヘリは飛び、ミッド中央本部に到着――。


「ほな、うちらは別口で……ちょお挨拶しとかんといけんとこがあってなぁ」

「こっちは市街地に近いし、拠点二箇所からのローラー捜索だ。なのは隊長達も頼むぞ」

「「了解」」


使用手続きは完了していたので、転送ポートを使って……隊長達にとっては、予想だにしない里帰り。

そして私にとっては…………私、なんでこんなにアイツのこと……意識してるんだろう。




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なのは達が転送でやって来たのは、海鳴山間部にある湖畔近くのコテージ群。

ここは現地協力者――アリサちゃんの提供してくれた場所で、今回の任務が終わるまでの宿になる。

車で街までは十数分程度で、歩きでも道次第だけど三十分前後。結構交通の便はいい。


海鳴が海と山に挟まれた街だからなんだよね。……そのかわりこの街は、坂も多いし結構キツいの。

さっき言った三十分前後も、ここから街までが基本下り道だからこその時間。もうね、楽なの。

逆に街から徒歩で来ようとしたら、なのはは休憩込みでも一時間前後かかりました。ていうかもう、キツいの。


そこはさておき……スバル達は緑生い茂る中、佇む木造りのコテージを見て、大きく息を吐く。


「あの、なのはさん」

「うん、なにかなティアナ」

「私達、仕事に来たんですよね? 旅行じゃないですよね?」

「疑問を持つな……とは言えないかー、気持ちはよく分かるよ」


ここを提供してもらうって聞いた時、びっくりしたしー。もうリゾート地だよ、これー。


「なのはさん達の生まれ故郷……でも、ミッドとはほとんど変わらない」

「太陽も一つですし、山と水……自然の匂いです」

「えっと、フェイトさんの話通りだと……海と山の距離が近くて、自然も豊かで。
だからトレーニングとかにも適した土地だと……」

「うん、そうだよ。だからなのはも…………うぅ……!」


エリオとキャロも…………最初の硬い空気を思い出すと、つい涙が溢れる。


「な、なのは……どうして泣くの? え、感動してるのかな。リゾートしたいのかな」

「違うよ。エリオ達が、普通にはしゃいでて……!」

「……顔合わせも部隊指導前後と遅れて、最初は随分硬かったですしね。
ひと月ちょいであの変わり様は、奇跡ですよ」

「だよねぇ、僕も感心させられたわ」

≪キャンプ効果はありましたね≫


…………すると恭文君が、自然と脇に立っていて……それにアルトアイゼンも、テイルブレードをひゅんひゅんと……!

というか、右となりには黒髪スレンダーで、切れ長瞳の美人な子が……!


「みんな、無事について……ってはやて達は?」

『黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

「ごげっぶ!?」

「恭文!?」


その瞬間、全員で跳び蹴り……なのは達の蹴りは的確にその身体を捕らえ、恭文君を吹き飛ばしました。

…………でもその瞬間、恭文君の身体が煙を放出……あー! なんか丸太になってるー!


「何をするのよ」


かと思ったら背後に回ってる!? 怖! ガチ忍術怖!


「それはこっちの台詞よ! ラ、ラブホって……何考えているのよ!」

「そうなのです! それならリインと一緒に行くですよ!」

「リインさん、ツッコミがなってません……!」

「そうだよ! あの、捜査がしたいなら分隊長の私と一緒にやろうよ!」

「すみませんけど、お前ら以下の会話に加わらないでもらえます?」

「ヤスフミ、私は真面目に」

「僕は大まじめだ!」

「――!?」


あぁ、フェイトちゃんがフリーズしてる! 断言されて完全に固まってる! なんて力技をぉ!


「というか、ヴィータやリインから聞いてなかったの?」

「リインはちゃんと言ったですよ? ……恭文さんがまた浮気したと……!」

「どこもちゃんとしてないよね!」

「ちゃんとしているわよ! 研修らしいわね! でもね……そんなの、やる理由なんてないでしょ! ベッドが回転するだけでしょ!?」

「ある」

「…………え?」

「というか、回転するベッドとか今時ないよ?」

『え……!?』


ちょ、なのはも衝撃なんだけど! それはどういう……どういうことなのぉ!?


「あの、それは本当です。というか、私がその研修相手で……」

「え……あの、そういえばあなたは」

「自己紹介が遅れました。……第二種忍者:蒼凪恭文さんの補佐官を務める、長瀬琴乃と言います」

『補佐官!?』

「ながせこと……あぁああぁあぁ! 琴乃ちゃんだぁ!」

「なのはさん、知り合いなんですか!」

「アイドルだよ! あの、星見プロ所属の子!」

『――えぇぇぇぇぇぇぇ!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――というわけで、また始末書ものの雑談タイムがスタートです。

エリオにもラブホ……ラブホテルがどういうものかを説明した上で、恭文君が見せるのが。


「これが、昨日資料用に撮影したレジャーホテルの内装だよ」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


なにこれぇ! なんか南国風で、天幕があって……すっごくお洒落なんだけど! いかがわしいイメージゼロなんだけどぉ!

というかあの、階段! 二階行きの階段があって……そこを上がると、絶景なバスルームがぁ!


「あ、あの……先ほどの説明だと、エッチな感じだと……それにレジャーって」

「あのね、風俗営業法っていうのがあって、ラブホテルも一つのカテゴリーとして定義されているの。
回転ベッドがないっていうのも、その風営法によってそういうベッドがあるホテルを新設できなくなったせい」

「だから在るとしても、本当にそういう法律絡みをクリアしているところだけ……なんだよね」

「そ、そうなのね……というか、え……長瀬さん? アイドルさんでどうして」

「琴乃で大丈夫だよ? 年も近いんだし……まぁその、補佐官資格は……恭文がきっかけで取ったんだ。
それなら戦闘力がなくても、助手的にいろいろサポートできるから」

「……ハラオウン執務官でいうところの、シャーリーみたいなものだよ」


……どうやら恭文君は、笑っている長瀬さん……琴乃ちゃんが本気でその補佐官資格を取るとは思っていなかったらしく、頭をぐりぐりしていた。

まぁ気持ちは分かる。グランプリで伝説的に優勝して、今も絶賛活躍中の人気アイドルさんだし……時間とかどうしたんだろう。


「僕は障害絡みで単独行動も基本NGがかかっているし、サポーターはつけるべきだって前々から……言われていたんだけどさぁ……!」

「ただ恭文が毎度毎度規格外の事件に巻き込まれるせいで、誰がいいのかって悩みまくっていたの。
それでまぁ、その辺りにも詳しい私が、ひとまず相棒って感じで」

「相棒って言うな!」

「今回のラブホ研修も、私に付き添ってくれる形だったんだ。私がアイドルっていうのもあるから、牧野さんにも頼まれて」

「そういう事情だったんですね……。
というか、なによなによ……アイドルなのにアンタのためにって気構えじゃない。感謝くらいしなさいよ」

「あ、はい……ありがとう、ございます……!」

「うん、どういたしまして」


どうやらその辺りは否定できないらしく、恭文君は素直に平服。それでつい琴乃ちゃんとも笑ってしまって。


「でもアンタ、こういうのも詳しいってことは……やっぱ仕事的に必須?」

「この手のホテルって、密室性が高い分違法な取り引きとかに使われることもあってね? あとはハニートラップの現場とかさ。
そういうのもあって、忍者はハニトラ対策も兼ねて宿泊研修とかをやるのよ」

「な、なのはが思っているより恭文君は大人だった……!」

「大人なんだよー。
だからグリフィスさんには説明して、OKをもらってたんだけど」

「グリフィス君ー!」


なんの説明もなかったよ! 後でちょっと問いただそうっと! まさかとは思うけど忍者資格的なサムシングで。


「グリフィスさんは責めないであげてよ。……OKはもらったけど、理解の範疇を超えていたようで……軽くフリーズしていたから」

「…………ガチな感じ?」

「わりと」


…………ごめん、なのは達が悪かったかもしれない。でもグリフィス君……純朴な子だからなぁ、仕方ないかぁ。


「でね、エリオの疑問……レジャーってところに戻るけど」

「あ、はい」

「そういうこと目的のカップルが利用するので、大流行はした……けどどんどん下火になっていったんだ。
そこで内装や設備を一般ホテル寄りにして、設備も充実させ……普通のホテルとしても使えますよーってアピールをしている最中なのよ」

「それで、この豪華な内装ですか!?」

「カラオケや衛星放送、お風呂・食事関係も含めたアメニティーの充実で、女子会や一人だけの宿泊客も多く取り入れられたんだ。
……とはいえ風営法の関係から、”十八歳未満”や”十八歳未満の子どもを連れた家族連れ”は利用できないんだけどね」

「あくまでも大人の遊び場かぁ……でも、資料とかも撮影するんだ」


あ、そうだ。そういうのを撮影して、勉強して……これは忍者さんもすっごく大変。


「あぁ、こっちははやてに頼まれたのよ。同人誌の資料用に何枚か撮影してほしいって」

『八神部隊長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

「……え、はやてからも聞いていなかったの!? グリフィスさんがあれだったから、一応説明していたのに!」

「リインは聞いてないですよ!?」

≪あー、これはあれですね。置き去りにされたときと同じパターンですよ≫

「あの狸めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「恭文君、ごめんー!」


とりあえずいろいろ配慮してくれていたのは分かったので、手を握って謝っておく。


「なのは、早とちりして……そうだよね! 恭文君は部隊をほったらかしで、ラブホできゃっきゃうふふはしないよね!」

「あ…………うん…………」


…………え、なんでちょっと躊躇うの? なんでちょっと目を背けるの?


「あはははは……」


え、どうして琴乃ちゃんまで愛想笑い!? ちょっと怖いんだけど!


「ちょっと、まさかアンタ……!」

「いや……さっきも言ったけど、設備や食事関係とかも力を入れていてね?
…………ここのカツ丼……滅茶苦茶美味しくて」

「ほんと美味しかったよね……!」

『カツ丼!?』

≪資料がこちらになります≫


あ、それも撮影………………画像を見た瞬間、なのは達はフリーズしました。

だって…………どう見積もっても! カツの厚さが……二センチ近くあってぇ!


「恭文さん、これは……!」

「せ、説明を求めるよ! この分厚さはなに!?」

「……本来カツの厚みは五ミリ程度が適切と言われている。でもこれは明らかに二センチ近くあった」

『うんうん!』

「火が通り過ぎているのではとか、生なのかとか、初めは心配したのよ。
でもね……そんなのノープロブレム!
肉厚ジューシーで、衣も適切にサクサク! お出汁も鰹だしで優しく染み込み、半熟たまごがご飯と絡んで味わい深い!
そんな揚げたて作りたての熱に……ついお代わりしちゃったくらいだし!」

『いいないいなぁ!』


なにそれぇ! それは本当にがちでいいホテル! そういうことがなくても行きたいやつ!


「あぁ、でも僕は入れない……カツ丼が……こんなに美味しそうなカツ丼があるのにぃ!」

「大人になったら行くしかないね、エリオ君」

「ならリインが代わりに」

「リイン曹長もアウトなので、自重してください……!」

「リインは精神的にはもう二十歳なのですよ! ヘリの中でも言ったですよね!」

「この場合は肉体年齢が重要なんです!」


ほらー! エリオ達も興味を示して! でもなのはも興味津々だから、もう何も言えない!


「というか、一人でもアリなのよね。そういう目的以外にも使えますよーって流れなんだし」

「そうそう。僕もあの味をコピーするため、もう一度行きたい……よし、今日はあそこに泊まろう」

「そうだね。なら個人的研修ってことで……一緒に、かな」

「琴乃!?」

「二人だけは駄目だよ! それならなのはも行くよ!」

『うんうん………………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

「なのはもカツ丼……他のも食べたいし!」


そうだよ、それなら他のご飯も…………美味しいよね! きっと凄く美味しいよね!

翠屋の末っ子としてはやっぱり気になるの! そういう情報、DNA的に気になるだけだからぁ!


「なのは!? 待って、落ち着いて! お洒落でもあの、ここは……というか大人だよー!」

「フェイトちゃんは黙ってて! どうせ恭文君の単装砲にしか興味がないくせに!」

「なのはー!?」

「……恭文?」

「ハラオウン執務官はそういうキャラなんだ。笑ってあげようか」

「そういうキャラじゃないよぉ!」

「もうそれで通ったんだ。受け入れるしかない」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「……うん、恭文が悪いことは大体分かった。あとで尋問だから」

「え!?」


うわぁ、琴乃ちゃんも強い! この強さはなのはも見習いたい! こう、ビジネスパートナー的に!


「というか高町さんも、さすがにそれは問題じゃ」

「あ、私もなのはでOKだから! というか、なのははもう……カツ丼! カツ丼目当てだから!
というか他の料理も……ね!? 飲食店の末っ子としては、ね!?」

「飲食店の末っ子さんだったんですか!」

「……ほら、恭也さんと美由希さん、いるよね。その妹さんなんだよ」

「あぁあぁ……それで!」

「そうなの!」

「……でもおのれ、将来的に店を継ぐ予定なの?」

「いや、それはあの、性と言いますかー」


あははは、そう言われると辛いんだけど……ついついね? 料理には拘っちゃう人柄なのさと、笑ってすっ飛ばしちゃいます。


「それよりも……ね、他にはなにかない!? 他に食べたのは!」

「……あー、ピザも美味しかったなぁ。テリヤキチキンとか」

「いいねー! 日本人が全員好きなフレーバーだよ!」


そうして画面をフリック……ピザとか、サラダとか……あ、このサラダも豪勢! レタスやパプリカの赤が鮮やかで。


「…………ぁ…………」


そこで…………またフリックした瞬間、映った画像に凍り付く。

だって、そこに映っていたのは…………黒髪ロングを一つ結びにした女性。


タンクトップにジーンズというラフな格好。迷彩柄の服を押し出す立派な胸が…………!


『……』

「じゃあここまでにして、仕事で」

「……恭文君ー♪」


なので逃げないように、両肩を掴み笑顔……笑顔……!


「この、ステーキ丼? 美味しそうに食べている子は……何かなぁ……!」

「あ、昨日一緒に琴乃と泊まった子だけど」

「えぇ」

『開き直るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


そうして遠慮なく打ち込まれた跳び蹴り第二弾。


――第15話


……今度こそ恭文君は吹き飛び、派手に転がりました。


『機動六課の出張/PART1』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


全く、全く……感心したなのは達の気持ちを返してほしいよ! というかなに! ステーキ丼も滅茶苦茶おいし……そうじゃなくて!


「で、アンタは資料作りをした後、この子と楽しくラブホテルで……本来の意図通りに楽しんでいたと……!」

「楽しんでないよ!」


とにかく恭文君には正座をしてもらい、しっかり取り囲みます。そうして……かごめかごめーってねー!


「カツ丼も食べて! この子ともきゃっきゃうふふで……それは楽しんだよね! 羽目を外したよね!」

「やっぱり、胸ですか……でも、でも……リインだって大人モードを練習しているですよ! これくらいカバーできるです!」

「だから楽しんでないっつーの! この子も第二種忍者なんだよ! それも成り立て!」

「だから………………忍者さんなのですか!? え、年は!」

「今年で十七歳って言ってたから……あ、ティアナと同い年か」

「私と!?」

≪本当ですよ。大和亜季さんって言うんですけど、サバゲー趣味が高じて資格を取ったんです≫


アルトアイゼンもさすがにという様子で、ほかの写真を見せてくれる。

えっと…………あれ!? なんか同じ部屋に、恭文君以外の……別の男の人とかが! 琴乃ちゃんもいる!


「……年齢が年齢だったんで、ホテルの許可も得た上で……他の大人もついてお泊まりしたんですよ。私と同じです」

「……だから関東近辺の海鳴で研修になったんだよ。じゃないと学校とかが五月蠅いから」

「じゃあ、マジで何もなかったの!?」

「あるわけないでしょうが! 食事以外は、真面目に研修を受けていたっつーの!」

「いや、あの……それじゃあ……」


あぁ、だから平然と答えたんだ。つまり…………なのは達の勘違い!?


「なんか、ごめん……」

「「「「ごめんなさい!」」」」

「な、なのはもごめん。そうだよね、さすがにそれは」


つい、リインの存在が頭を掠めて疑ったけど……さすがにないよねー! うん、それなら。


「そもそも…………休みに彼女の一人とラブラブしていたとして、一体何が悪いの!?」


なのにとんでもないことを言いだして、ついずっこけてしまう……!


「僕だってプライベートはあるんだよ! 恋人もいない、寂しいお前達と違ってねぇ!」

「にゃにゃあ!?」

「さ、寂しいって……確かに私やなのはも、相手はいないけどー!」

≪おぉ……珍しく恋愛面で上に出ましたね≫

≪えん罪をかけられたのが相当むかついたと見たの。これは反論できないの。
……でも琴乃ちゃんとはそういうラブラブは≫

「……一応お仕事だったから……ね? ラブラブはまた改めてだよ」


琴乃ちゃんも乗っかっているよ! いや、でも確かに……確かにそうなんだけど、心に突き刺さる!


「黙れ馬鹿ぁ! そんなもの作れないのはね、全部管理局と六課のせいなのよ! 外にも出られないからよ! そんな暇をくれないからよ!」

「そうだよ! それには異論があるよ! 恭文は知っているよね、私達の勤務ペース……なのにそれは理不尽だよ!
二四時間勤務じゃなければ、どうとにでもなるよ! 実際ティアなんて……スクール時代、三回くらい告白されたんだから!」

「アンタも二回ね!? だから全部管理局と六課のせいなのよ! 月月火水木金金の精神を持ちだしているせいなのよ!」

「や、やめて……なのはには、突き刺さる……凄く突き刺さる……」

「なのはさん、しっかりしてください!」

「そうです! 大丈夫ですから! 僕達は今……仕事が恋人ってことで!」


やっぱりプライベートの充実も盛り込まなくては、教導とは言えないのかなぁ! みんな、溜まっているのかなぁ!

あぁ、でも年頃だしね! オフィスラブとかもない限りは……あああああ! これはどうすればぁ!


「と、というか、というか……普通は、そんなに告白されるのでしょうかぁ!
そんなに、学生生活というのは恋愛に縁があるものなのでしょうがぁ!」

「あ、もしかしてなのはさんは学生時代、告白されたことがなくて…………」

「小学校は共学ですけど、中学は女子校だったですからねぇ……」

「うん……そう言えば私も聞いたことがないかも」

「にゃああああああああ!」

「キャ、キャロ! リイン曹長とフェイトさんも駄目ですよ! なのはさん、しっかりぃ!」


そうだよそうだよ……なのはは……なのはだけはそういうのがなかったよ! 一切なかったんだよ!

フェイトちゃんにも、はやてちゃんにも、アリサちゃんにも、すずかちゃんにもあったのに…………なのはだけがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「へー、じゃあ暇があれば恋人ができるんですかー? お前達はそれほどにスペックが高いんですかー?
……お前達はそれほどに! 世の男どもから需要があると言うのですかー!? 現にエース・オブ・エースはこの有様ですぞー!」

「恭文、煽らないの……! というか恭文がそれを言うと! ただの嫌みだからね!? それでハーレムなんだから!」

「琴乃、問題ないわよ!? だって恋人くらいできるし! できるに決まっているし!
恋愛にかけちゃあね――こっちの方がエース・オブ・エースなのよ!」

「そうだよ! 胸のときめきは全力全開だったんだから! というか……私は彼氏がいたし!」

「「マジ!?」」

「マジだよ! こう……子どもらしい、お遊びな感じだったけど!」

「三人ともなんでそんなエンジン全開なんですかぁ! それよりなのはさん……なのはさんー!」


やめてぇ! なのはを早速引き合いに出さないでぇ! なのはの黒歴史を抉らないでぇ!


「それにね……少なくとも私は! フェイトさんみたいな外見詐欺はしないのよ!」

「待ってー! 私、詐欺なんてしてないよ! どうして!? どうしてー!?」

「フェイトさん、ほら……またお日様に謝ろうか。あっちだよー?」

「なのは、へこんでいたのにどうして……ちょ、力が強い! 無理矢理謝らせないでー!」


それはね、外見詐欺と言われたら否定できないからだよー。

だから謝ろうねー。始末書を書く流れなのも含めて、一緒に謝ろうねー。


というか、というか……こんなに妬ましいと思ったことはないよ! 恋愛がそんなに、人間の価値を決めるというのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「よーし! じゃあお前ら、ちょっと彼氏を作ってみなよ! できるものならねぇ!」

「恭文!?」

「えぇ! やってやろうじゃないのよ!」

「そうだね! ここまで言われちゃさすがに引き下がれないよ!」

「いいぞー、やれやれー」

「ガチンコなのですよー♪」

「なんでキャロとリイン曹長は応援しちゃうかなぁ!
止めましょうよ! 全力でこのおかしい流れを止めましょうよ!」

「……というわけでなのはさん!」


頭を抱え、魔女のように呪(のろ)いを振りまいていると……スバルとティアナが並び立ち、しっかりお辞儀……!


「「お休みをください! 二週間ほど!」」

「…………二人に先を越されるのが嫌なので、隊長権限で却下します」

「「そんなのパワハラです!」」

「パワハラでいいよ! 二週間で彼氏が作れるというインスタントな二人には、パワハラでいいんだよ!
というか……というか……恋愛なんてクソ食らえなんだからぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「なのはさん、もういい……もういいですからぁ!」

「そうだよ! 落ち着いて! きっとできるよ……いい人ができるからぁ!」


フェイトちゃん、エリオも離して! 慰めないで! これ以上なのはを慰めないでぇ!

惨めになるだけだから! あぁ……思い出す! あのヴィータちゃんの、哀れむような視線を!

そう言えばティアナもちょっと乗っかってた! というかいの一番に言ってきたのはティアナだった!


だったら……そのティアナのために休みを与えるって、おかしくないかなぁ! なのはは仕事に生きているというのに!


「……スバル、ティアナ、おのれらの言う通りだね。
おのれらは局員でいる限り………………IKIOKUREだ!」

「絶望すぎる……!」

「ちょっと、嘱託への移行も考えるわ。さすがに結婚できないとか……そういうの、嫌だ……!」

「本気で嫌がっているじゃないですか! もう台なしすぎますよぉ!」

「それも全て横馬の自業自得だよ、エリオ……僕はプリティー町田を紹介するって言ったのに、流すから」

「あ、そうだ……だったら紹介して! それで上手くいったらもう……二週間でも一か月でも!」

「「ありがとうございます!」」

「なのはさーん!? それ、分隊長の権限超えていますけど、大丈夫ですか!
というかやけっぱちすぎて不安しかないんですけど……いいんですかぁ!?」


よかったー! プリティー町田さんとお付き合いだー! やったー! やったー!

これでもうなのはを寂しい負け組女とは言わせないぞー♪


「恭文、ありがとう!」

「……ま、今回に限り感謝するわ」

「別にいいよ。…………二週間のインスタント恋愛が、どこまで続くか見物だしねぇ!」

「だと思ったよ!」

「アンタ、そういう奴だしね! いいわよ、永遠の愛を掴んでやろうじゃないのよ!」


おぉおぉ、盛り上がってるねー! これはもう仲間じゃないとか言えないノリだよー?

それじゃあ気を取り直して……。


「これは盛り上がるねー、エリオ君!」

「乗っかれないよ!?」

「……やっぱり一緒に来て正解だった……! いつもこの調子なんだろうし」

「ほら! 琴乃さんも頭を抱えちゃったし!」

「…………はいはい、とりあえず落ち着こうねー。これからお仕事だよー♪」

「なのはさんもいきなり落ち着かないでください! 怖すぎますから!」


エリオが何を言っているか、よく分からない……とにかく、さすがにこれ以上ドタバタもあれ。そこが大事です。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――横浜≪港署≫ 刑事課


今日もハマは相変わらずの騒がしさ……だったんだが、トオルの奴にいきなり電話がかかって……どうしたのかと思ったら……。


「………………蒼凪が女を紹介するぅ!?」

「そうなんだよ! もうね、彼はいい子だよ! 君達と違って、ちゃんと紹介するんだから!」


やっちゃんからの電話を受けた結果、この有様だった……しかも滅茶苦茶にはしゃいでやがるんだよ! 間抜けな動物のくせに!


「……ユージ、どういうことだ」

「やっちゃん……確か、”向こうの部隊”に出張ってたはずだよな」

「機動六課だったか。テロ対策の専門家として……外見は変わらないのに出世したもんだ」


やっちゃんは魔法使いでもあって……そんな魔法使いの世界で、また楽しいパーティーを楽しんでいるはずだった。

なのに、どういうことなんだよ……! というか、俺達を通さずトオルってあり得ないだろ!


「そうそう、その機動六課の教導官だって子なんだよ! まだ十九歳だそうだけどね!?」

「トオル、お前……犯罪じゃないかよ!」

「チューリップのような女達はどうしたんだよ……」

「いや、それがね!? 恋愛経験もなくて、とにかく最初の一歩をーってことなんだよ!
だから……僕が大人として、レクチャー? 大下君と鷹山君達じゃあ、さすがに年が行きすぎているからねぇ……遠慮しちゃったんだよ」

「へぇ……!」

「それはそれは……!」


なんだ、この得意げな顔! 愛らしいほどに憎たらしいという相反する複雑な顔しやがって……!


「いや、でも……蒼凪さんの紹介なら間違いないですよ!」

「そうそう! マジでいい子を紹介してくれるもんな!」


あぁ、鹿沼と水嶋が盛り上がって……例の件で紹介されたもんな。ひまわりのような忍者達を……!

これは……これは……問い詰めなきゃ駄目だよなぁ! あぁ、そりゃあもうしっかりと!


「ユージ……」

「行くか。トオル、やっちゃんは今どこだって?」

「あぁ、海鳴市にいるらしいですよ? なんかそのお仕事で出張だと……大変ですよねぇ」


海鳴……横浜からなら車で飛ばせば一時間かからない! ほいきた!


「「おっしゃ!」」

「え、なに……行くんですか!? ちょ、やめてくださいよ! 僕が紹介されたんですからね!?」

「横取りなんてするわけないだろ! どんなおかめ納豆がくるか分かったもんじゃない!」

「俺達は蒼凪に去年……詐欺を噛まされたからな……! 絶対裏があるぞ」

「それはあり得ないから! ほら……画像も送ってきたんですよ!?」


え、そんな丁寧な対応まで……まるでマッチングアプリのような働きぶりだと感心していると。


「ほら! 高町なのはちゃん!」

「「――――!?」」


おい、どういうことだよ。

このサイドポニーの……花開く前のような、可憐な少女は!


しかもスタイル抜群じゃないか! 魅音ちゃんと詩音ちゃんにも負けてないぞ!


「…………ユージ」

「あぁ……やっちゃんには、説教が必要だ……!」

「俺達には一度周り道させておいて……なんでトオルにはこれなんだよ! おかしいだろ!」

「そりゃあもう! なんだかんだで彼が僕を尊敬しているってことですよ! あーははははははははは!」

「「ないないないない……絶対ない……」」


もうね、賭けてもいいよ。トオルを尊敬してこれって……きっと何かあったんだ。

つまり……まぁ風花ちゃん達も……俺とタカも気にしていたし、シャマル先生もいるらしいしね。


軽く、挨拶くらいはしておきますか。トオルにこれで、俺達にアレな件も含めて……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


………………あれ、なんだろう……車の音が近づいているような。


「なのはさん」

「うん、なんだろ……」


音が近くで止まって、今度はトタトタと走る音…………というか、こっちに近づいてくるのは……!


「なのはー! フェイトー!」


十時方向に視線を向ける。暖色系のロングシャツと、ミニスカートを着たアリサちゃんが走ってきていた。

更にタンクトップ・ジーンズ姿な大人アルフさんが……!


あ、エリオとキャロがいるせいか。というかフェイトちゃんもだけど。


「アリサちゃん、お久しぶりー!」

「「「アルフ!」」」

「おう! お前ら久しぶりだなー! ……フェイトー!」


アルフさんは、エリオとキャロ、フェイトちゃんに一目散。そんなアルフさんは気にせずに、私は改めてアリサちゃんを見る。


「アリサ、久しぶり……でも大人っぽくなった? 前に会った時より雰囲気変わったような」

「大人っぽくもなるわよ。女子大生だもの」

「そっか。つまり……アリサちゃん、どんな人なの? あ、前にすずかちゃんから聞いた後輩の男の子かな」

「アンタはいきなりなんの話してるのよ! それとすずかがなにを話したか、詳しく教えなさい!」


それについてはノーコメント……さっと顔を背けると。


「なーのーはー?」


なぜか首根っこを掴まれる。

あぁやめてアリサちゃん、みんなが見てるのー。


「とにかく……中卒で、管理局を辞めたらニートをやるしかないアンタ達と違って」

「「ひど!」」

「それなりの変わり方はするわよ。そういやはやて達は……あー、すずかの家か」

「うん。でもありがとう、こんないいところを貸してもらって」

「いいのよ。適度に使わないと、建物ってすぐ悪くなるんだから。
……まぁ立つ鳥跡を濁さずだけ、お願いね」

「了解」

「それでその子達が」


そうだそうだ、スバル……呼びかけようとしたところ、みんなは察して敬礼。

エリオとキャロもアルフさんから離れて、しっかりアリサちゃんに挨拶。


『初めまして! 宿泊場所を提供していただき、感謝しております!』

「初めまして。なのは達の幼なじみで、アリサ・バニングスです。
……アルフー、挨拶なさい。初対面の子もいるでしょ」

「はーい。……初めまして、ハラオウン家の使い魔でアルフだ。よろしくな」

「「よろしくお願いします!」」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ふむ、これがなのはの教え子……ぱっと見はいい子達っぽいわね。まぁ公務員をやっている子達だし、素行は問題ないか。


「二人とも久しぶりだなー。少し大きくなったか?」

「うん、ちょっとだけね」

「いっぱい鍛えて、いっぱい食べて、いっぱい休んでるから」

「そっかー」

「でもアルフ、どうして大人モードに……」

「状況が状況だろ? 万が一に備えてって感じ。
……でも」


そこでアルフが気にするのは……なぜか、なのはの背に隠れている小さな影。


「…………母さんとフェイトとの因縁については聞いているけど、アタシも……局の仕事から引いているし、五月蠅いことは言わないよ」


あら、アルフも大人になって……最初は怒り心頭だったのに。

……ただまぁ、リンディさんがガチへこみしていたのと、後悔しっぱなしで……考えは切り替わったんだけどね。

なによりあの子が、リンディさんが洗脳される危険性……その可能性を提示したことが大きい。


既に去年の件って前例がある時点で、警戒しない理由もないし、理論的だったから……むしろアルフは感謝しているのよ。

唾を吐きかけた相手である自分達に、そこまでのアドバイスをする懐の広さにね。


……広いというか、結局甘いだけだとは思うけど。


「だから身を隠すの、やめてくれないか? 結構辛い」

「違うわよ、アルフ」


そんなアルフを諫めつつ……とりあえず自分を指差し。


「あれはアタシから隠れているの」

「アリサから!?」

「久しぶりねー、ナギ。また小さいまんまじゃない」

「アリサちゃん、知り合いなの!?」

「すずかともども、パーティー警備してたコイツと知り合ってね。
そうしたらまぁ……女の子かと思ったら男で、この有様だからビックリよ」

「そこから仲良くなったと……」

「アタシはまぁ、普通にね」


すずかについては……あぁ、だから隠れているんだ。見つからないようにと……今更なのに。


「な、なんのことでしょうか。私はしがない歯垢取り職人」

「……それ、歯医者って言うのよ? というか、アンタはそれでなんでここにいるのよ」

「横馬魔王様の歯垢を舐め回して取れと、無茶振りされて」

「そんなおぞましい無茶振りしないから! 歯垢なら自分で取れるし! こう、歯間ブラシでごしごしってね!」

「え、あの……どうしたのかな。だってお友達なら普通に」

「プロポーズしてきたものねー。アタシ達のオパーイが奇麗だからって」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


そうしたらまぁ、セクハラ野郎かと思ったらまた違うし……オパーイに魂って本気で言うんだから、ビックリしたわよ。


「あ、アルフさんも素敵です! ……なのにハラオウン親子は……おのれらのオパーイはやっぱり泣いているよ」

「待て待て待て待て! セクハラだろ!」

「……アルフ、それが違うんだ。
恭文さんいわく、素敵なオパーイには健全な魂が宿り、現れるから……」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「信じられないでしょうけど、悪気が……一欠片もないんです!
オパーイを通して出る力でその人に惚れてるんです! この馬鹿は!」

「え、どうして? だって当たり前のことじゃ」

「スバル、ちょっと黙ってなさい……!」


あっちのティアナっていうのも大変そうねぇ。

まぁアルフも混乱しているけど、励ますように頭を撫でてあげる。


「ごめんなさい。恭文には相棒として……相棒として! 私が説教をしておくので!」

「だから相棒って……耳を引っ張るなぁ! 痛い痛い痛い!」


それでこっちの……なんで長瀬琴乃がいるのよ! それも後で聞いておかないと!


「……なら恭文さん的に、私はどうでしょう」

「キャロ!?」

「そうだねぇ……素敵なレディになったら、実地で教えてあげるよ」

「言質は取りましたよ?」

「くきゅー♪」

「…………恭文君、大丈夫? 今、なにかスイッチが入ったような」

「そうだよ……! さすがに今のは駄目だと思うよ?」

「き……気のせいだよ」


なのはと長瀬琴乃、ナギも何か不安を感じたところで、みんなにお願い……心からお願い。


「でもみんな、お願いね。どうもこの街、そういうのに好かれてるみたいで」

「好かれて、いる?」

「そう言えばフェイトさんがなのはさんと知り合ったのも……私が前に聞いたのだと」

「う、うん……この街で、ロストロギア絡みの……ジュエルシードの事件があったせいで」


あぁ、そっちの話はしているんだ。だから…………みんな、アタシの意図を読み取ってくれて。


「……キャロ、死ぬ気で頑張ろう」

「そうだね……頑張ろう……!」


……ちびっ子達にプレッシャーをかけて、ちょっと申し訳なかった。

それなら……うん、夕飯は私達で用意しようか。ちょうどすずかとお出かけする用事もあるし……ちょっと早めに切り上げて、ね。


「フェイトさん、聖骸布も知らなかったし!」

「やっぱり私達がツッコんでいかないと! 恭文さんやなのはさん任せは駄目だよ!」

「「はぁ!?」」


かと思ったら……ちょっとちょっとちょっとちょっとぉ! なんかとんでもない話が出てきたんだけど!


「フェイト、マジか……!」

「アンタ、やっぱどんどん天然がヒドくなっているわよ……!」

「や、やっぱり常識なの!? ”せいがいふ”って常識なのかなぁ!」

『常識です!』

「ふぇー!」


アルフもどん引きし、私もツッコまざるをえない中……みんなの活動は始まる。

……すずかとはやても、こんな感じで騒がしく……再会しているのかしら。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


同時刻――海鳴市≪月村邸≫


向こうがそんな地獄絵図になっているとは知らず……リインとザフィーラを除いた八神家一同は、転送ポートでとある大きなお庭に。

相変わらずな広ーい芝生と、大きな屋敷の前に着地。


「…………にゃあ!?」


すると周囲の猫ちゃん数匹が、警戒しながら目を見開いて……。


「あぁ、ごめんな。猫ちゃん達、驚かせてもうて……」

「ごめんなさいね。……そう言えばはやてちゃん、さっき届いたメール」

「おぉそうや。手続き遅れたから、先に始めるーって話かなぁ」


携帯を取り出し、なのはちゃんからのメールをチェック…………!?


――八神部隊長へ、恋活するので休みをください。有休は溜まっているので、それでお願いします――

「………………なのはちゃんが恋活するから、休みをよこせって言うてきた」

「はぁ!?」

――とりあえずお見合いのセッティングはできたので、六月中旬を目処に一日……詳細は隊舎に戻ってから。何とぞよろしくお願いします――

「つーかお見合いのセッティングもできたそうや……!」

「アイツなにやってんだぁ!?」

「仕事でないのは確かだな……!」


ほんまや! つーかうちらがちょお遅れている十数分の間に、一体なにがあったんよ!

文面がな、顔文字もなくて淡々としていて……それが余計に怖いんよ! なんか鬼気迫る何かを感じるんよ!


「やっぱ、あれかな……ヴィータにこの間、油揚げ扱いされたのを気にして……」

「だとしてもこのタイミングで纏めるのはおかしいだろ!」

「ヴィータ、とりあえず謝っておけ」

「そうね。人生そういうこともあるわよ」

「なんでだぁ! つーかアタシが原因って決めつけるなよ! そもそもアイツが油揚げなのは周知の事実だろうがぁ!」

「――――はやてちゃんー!」


すると…………猫達も一気に警戒を解くほど、明るく走り寄ってくる影……。

白いカーディガンに紺色のロングスカートと、立派に成長したお山とストレートロングを揺らし……手を振ってくるのは、うちの幼なじみ。


「すずかちゃん!」

「お久しぶりー!」

「久しぶり!」


そう、月村すずかちゃん。うちとなのはちゃん達とは幼なじみで、大親友。

今はアリサちゃんと同じ大学に通いながら、工業関係の勉強をしているんやけど……。


そんなすずかちゃんと手を取って、しっかりと抱擁! あぁ、この抱き心地……やっぱりすずかちゃんのお山は最高やー!


「みなさんもお久しぶりです」

「お久しぶりです」

「ご無沙汰しています」

「すずかちゃん……また美人さんになってー」

「ありがとうございます。でも……なのはちゃんがどうかしたんですか?」

「あぁ、気にせんでえぇよ。ちょっとした経過報告やから」


……すずかちゃんの笑顔が曇ってもあれやし、あのメールについては心に仕舞っておこう。

つーかあとで、念話で確認を……絶対なんかあったんは間違いないし!


「あ、うちもありがとうな。いっつもメール……にゃんこ達の写真も」

「それはこっちもだよ」


すずかちゃんは名残惜しそうにハグを解除して、また優しくほほ笑んでくれる。


「なのはちゃん達の様子とか、いっぱいメールしてくれるし……」

「ううん、おうちの庭先を転送ポートに使わせてもろうとるし……」

「それになぎ君の様子も」

「なぎ君………………って、すずかさんアイツと知り合いだったのかよ!」

「知り合いというか……将来を約束した一人?」

「なん、だと………………」


あ、すずかちゃんが少し照れ気味に……それでヴィータが凍り付いた。


「……あのね、ヴィータちゃん……すずかちゃんとアリサちゃん、とあるパーティーの場で恭文くんと知り合ったそうなのよ」

「それでまぁ、いつもの調子でフラグも立てたそうだ」

「どういう調子だよ! あれか! 楓さんとかと同じか!」

「それだな」

「あー、でもそれやったら悪いことしたなぁ。恭文はなのはちゃん達と一緒なんよ」


そう言いながら右手で山の方を指すと、すずかちゃんは問題なしと首を振る。


「大丈夫だよ。お仕事なんだし……それになぎ君、そういうときはとにかく一直線だし」

「……まぁなぁ」

「でも、時間があるようなら、また一緒にご飯とか食べようね。できればみんな一緒に」

「うん、きっと!」

「あ、車使うよね。今ガレージから出してくるから」

「あ、うちも!」


勝手知ったるなんとやら……というわけやないけど、すずかちゃんの後を追いかけ、一旦シグナム達とはお別れ。


「じゃあみんな」

「我々は玄関の方に回っていますので」

「お願いなぁ。……すずかちゃん、ありがとう」

「ううん。それと今日アリサちゃんと一緒に出かける予定だったんだけど……途中まで一緒していいかな」

「もちろん!」


……帰ってきたんやなぁ。

懐かしい空と緑……それに空気感。

人は死んだら魂が故郷に帰るっちゅうけど、それも納得や。


ここで生まれて、育って……そういう時間の全てが、今の心地よさに繋がっているから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


エリオとキャロはフェイトさんに任せて、私達スターズ分隊は懐かしい……あ、なのはさん達にとってね?

私とスバルにとっては新鮮そのものな、海鳴の街をゆっくりと歩いていく。

これも探索作業の一つ。市内をスターズとライトニング、更に地上と上空に周りながら調べ、サーチャーを設置していく。


しかし、町並みで言えばミッドの郊外って感じかな。

異世界なのに日本語が通じる不思議はあるけど……って、当然かー。日本だもの、ここは。


「えっと、なのはさん」

「ん、なにかな」

「足で捜索は分かるんですけど…………私、だんだん怖くなってきて」

「どうして?」

「だって、本当に平和というか、ノンビリとした街で……何かあったらと思うと」


あぁ……そういうことか。だからスバル、さっきからキョロキョロしっぱなしと。


「それに移動しているんですよね」

「そうだね……」


そう、私達の捜索地域は海鳴市全域。

更に反応があったのは三箇所。それぞれの時間も違う。


ゆえにロストロギアは何らかの理由で稼働し、自律行動を取っているか……。

または詳細を知らない現地住民が拾い、持ち歩いている可能性もある。

それはつまり、街中で突然……ロストロギアが暴走する可能性もあるということで。


スバルがらしくもなく警戒しているのは、そういう状況と……この間アイツがしてくれた話のせいだ。

改めて機動課……ロストロギアに関わるってことが、どういうことか実感している。もちろん私もね。


「でも思い詰めるのは禁止だよ? いざってとき、冷静に判断できなくなるし」

「…………はい!」

「それに今回は、その現地状況に詳しい協力者もいる。
……恭文君も、海鳴自体は何回か来ているんだよね」

「おのれとエンカウントしなかっただけでね」

「一応PSAも状況を把握して、万が一のときにはと返答をもらっています。その辺りもサポートできるかと」

「ありがと、琴乃ちゃん」


ただ、なのはさんが言うように、救いはあって。

琴乃はさすがに初めてらしいけど、地理関係ではコイツもいるし、地元民ななのはさん達もいる。

というか、なのはさん達については、海鳴で”こういう事件”が起きて対処した実績もあるし……そういえば場所は違うけど、エリトリア事変もそうなのかしら。


だから私達ペーペーが右往左往する心配も、その必要もないのは助かっているんだけど……。


「ただ……」

「うん?」

「緊張感があるのはいいことかなとは。私達アイドルもそうですし」

「……まぁねぇ」

「確かに……先日の話もありますし、やっぱり適度に帯を締めて」

「きゅっとだね」


まさか早速、管理世界でドンパチ……って可能性が出てくるとは思わなかったけど。

でもほんと、なにもなければ……この間の話もあるし、気を引き締めないと。


初めての地球。初めての街……それもなのはさん達の故郷。

いろいろなものを考えながら歩いていると……なのはさんがクスリと笑う。


「それでリイン、久々の……海鳴の街はどうかな」

「やっぱり懐かしいのですよ。なのはさんは?」

「私は……”あれ、仕事中なのに戻ってきちゃった”って感じかな」

「言えてるですー」

「しかもお見合いのセッティングまでしちゃったしねー。なのは、どんどん不良局員になっているよ」

「心が旅人な証拠なのですよー」


いや、それはいいのだろうか……! 八神部隊長とか、頭を抱えていそうなんだけど。


”――こちらロングアーチ、シャマル。聖王教会から最新情報が届きました”


と思っていたら、そこでシャマルさんから通信が……。


”反応があったロストロギアの所有者が判明。
運搬中に紛失したらしく、提出された届け出と現状が一致。
危険度が少ない、美術品としての取り引きが許可されたものだそうです。
……ただ、極めて高価なものなので、できるだけ無傷で回収してほしいとのことです”

”スターズ了解”

”ライトニング了解。……じゃあシャマル先生、能力などは”

”それは改めて送ってくれるそうよ。しばらく待ってね”

””了解””


危険度は少ない……取り引き可能なロストロギアか。


「……琴乃、今バックヤードから念話が来た。
ロストロギア自体は美術品として認可されていて、危険性は少ないってさ」

「じゃあ、いきなりドガンも」

「基本的にはない。能力も運搬中に落とした所有者から確認中だから……ちょっとだけ安心って感じだよ」

「それは何よりかなぁ。でもすぐ分かったんだね」

「紛失届出していたんだって。それと現状がぴったり一致」

「それでかぁ」


琴乃……あぁそっか。魔法能力者じゃないから……まぁそっちはアイツに任せるとしよう。

というか、なんだかんだで相棒やっているんだなぁと……ついなのはさんとスバルともども、二人を暖かく見守っていて。


”…………あ、それと……スターズ01”

”はい”

”八神部隊長が……メールでの……お休み要求について、あとでよく話を聞きたいとのことで……”

”メールしたとおり、お見合いをするので……それだけなんですけど”

”早急に決まりすぎてビックリしているってことよ!?”

”そうだぞ! つーかどうしてそうなった! マジでちゃんと聞かせろよ!?”

”ヴィータちゃんに、もう馬鹿にされないためだよ! それだけのことだよ!”


きゃあああああ! なのはさんが完全に振り切れてる! というかやっぱり八神家が混乱しているし!


「…………でもこれで、ちょっと安心できるかな」


なのはさん、そこでサラッと戻っていいんですか!? 混乱が収まっていないように思うんですけど!


「は、はい……! あ、でも……緊張感……緊張感……」

「そうね。反応を誤認したガジェットが出てくるかもしれないし、そこはきっちりしないと……で」


そろそろ気になっていたことをツツこう。

いつも通り黒コート姿のアイツが……妙にそわそわして、無言で辺りを見渡していた……。


「……恭文さん、どうしたですか」


そんなアイツと手を繋いでいるのは、リイン曹長。これだけ見ると……いえ、やめておきましょう。


「……現地解散になったから、諸先輩の忍者に見られたらどうしようって……」

「それは困るわね。このままラブホに行く関係と思われたくないし」

「というか、私だけならまだしも、ランスターさん……もといティアナ達まで一緒だと、凄いことになりそう」

「確かにね!」

「それならさ、僕が離れればいいんじゃないかなぁ。そうしたら年齢さて置けば女子会だよ?」

「「確かにね!」」

「え、私はいいけど! だって恭文も一緒じゃないと、カツ丼やそれ以外のメニューでのおすすめが」


そんなスバルの頭は、掴んでグリグリ……!


「年齢と、琴乃の将来を考えなさい……!」

「は、はいー! 私はまだ少女でしたー!」

「リインは構わないのですよ? もうリインの全ては、恭文さんのものなのです♪」

「「「「「絶対駄目!」」」」」

「どうしてですかぁ!」


あ、よかった。アイツと琴乃も即ツッコんでくれた……それだけでなにか救われた気がした。


「というか、なのはさんとティアナに止められる理由はないのですよ!?」

「あるんですよ! 人として!」

「そうだよ! だから……ね? 大人しく中距離探査をやってようねー」

「むかーなのですー!」


……こんなリイン曹長は、私のクロスミラージュともども地上からの中距離探査が担当。

ただまぁ、この有様なので……大丈夫なのかと思うところがあるんだけど。でも……なんとか、なるわよね?


「とにかく、それならもうちょっと……あ、大人になったら女子会とかしようか!」

「女子会!?」

「さっき恭文君が言ったの、確かにいいなーって思ってさ」

「私もです! というか、みんなで遊びに行くのとか楽しそう!」

「い、いいんでしょうか……」

「いいよいいよー! というか……さ、さすがになのはも、一人とかで行くのは辛い」

「……コイツと行くとか言ってませんでした?」

「ですです」


そうは突っ込むものの……でも女子会かぁ。

そう言えばそういう使い方もアリとか言ってたわよね。まだ想像できないけど……悪くないかも。


「……なのはさん、やっぱり末っ子気質だから自分に構ってくれる人に……」

「違うよ! そういうのはないよ! 恭文君とはただの友達! ただお見合いのセッティングをしてくれた恩人!」

「……………………………………え、なんだってー」

「友達レベルで、その最低なスルーが飛んでくるの!?」

「だって、本気の勝負もしていないし……確かハラオウン執務官とは」

「あれは特殊例だから排除して! 普通に友達でいいんだよ!? それでもいいんだよ!?」


いや、なのはさん……その特殊例をよしとした時点で、もうどうしようもないんじゃ。というかフェイトさんがまたふぇーって五月蠅いですよ?


「仕方ないなぁ。じゃあ友達かもしれない横馬に一つアドバイス」

「その言葉に棘を感じるのは、気のせいかな!?」

「気のせい。
……ホテルによっては女子会コース割引とかもあるんだよ」

「「「えぇ!?」」」


というところで、コイツから凄い情報がぁ!

割引……あ、そっか! そういうお客目当てなら、確かにあってもおかしくない!


「料金も折半なら、そこまで高くならないしね。カラオケなんかあると盛り上がるよー」

「あ、カラオケも置いてあるんだ! いいないいな!」

「場所によりけりだから、事前調査必須だよ?」

「はーい!」

「……これ、いいのかしら……!」

「にゃははは……まぁ、大人に……大人になったら、ね?」

「そうだよティア! それにカラオケなら子どもでもOK!」


いや、場所が…………ラブホじゃなければいいかー。でもこの調子だと、本当にみんなで遊びに行く流れに……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そうして街をのんびりと……しかし注意深く歩きながら、サーチャーの設置と探索を進めている間に、午後三時半。

日も傾き始め、予定よりもかなり順調に作業が進んでいたところで。


”――度々ごめんなぁ。こちらロングアーチの八神はやてです”


あれ、また通信……今度は八神部隊長から?


”現地協力者のみなさんから、有り難いことに食材の提供を受けることになりました。
なので帰ってきたらうがい手洗い、それとみなさんへのお礼をしっかりとお願いなー”

”スターズ了解”

”ライトニング、了解”

”あとなのはちゃん、マジで話を……な? 四十台のおじ様とお見合いとか、さすがにギャンブルすぎるし……”

”大丈夫だよ! プリティー町田さんだよ!? プリティーだからいけるって!”

”それ芸名としてもセンスなさすぎるやろ! 誰が命名したんや!”


あぁ、やっぱり部隊長も心配なんですね! だから仕事の通信だけどツッコむんですね!


”……恭文、聞いてるやろ! どういうことや!”

”おのれも知っているダンディー鷹山とセクシー大下だよ”

”やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!”

”鷹山……大下…………あ、ヤスフミと核爆発未遂事件を解決したっていう……伝説の刑事さん!?”

”そう! プリティー町田さんは、その後輩らしいの! 楽しみだよねー!”

”な、なのはが完全に乗り気に……”

”もう、やめてくれ。アタシが悪かったから……悪かった、からぁ…………”


ああああああ! ヴィータ副隊長が……ヴィータ副隊長が責任を感じて! 今まで聞いたことがないくらいに気弱な声をぉ!


”ティ、ティア……どうしよう”


さすがにどうかと思ったスバルから念話が届くけど、対応は変わらなかった。


”黙っていなさい……! 私達の休みと……女の沽券を守るために!”

”それしかないかぁ……!”


というわけで、この件についてはもう傍観者で通すことに決めた。……非情とは言わないでね?


でも現地協力者……アリサさんはともかく、皆さんって……他は誰だろう。

いや、誰にしても有り難く受け取ろう。世界は違えど、感謝の心は共通のはずよ。


「琴乃……更に連絡だよ! アリサ達がご飯用意してくれるって! 今日は豪華に宴会だ!」

「えぇ!?」

「でも……ということは、すずかさんも……!」

≪よかったですね。また求婚されますよ≫

「ぼ、僕はちょっと用事を思い出したので、これで」

「はいはい、駄目だよー。それは親友のなのは的にも聞き捨てならない台詞だからねー」


…………そしてアイツは、逃げ場なく……なのはさんに首根っこを掴まれて、心を伝えることを強制される運命だった。


「待て、僕は何もしていない! ただ危ないところを助けただけなんだ!」

「それでフラグを立てたってことだよね! というか、求婚は恭文君もしているよね!
つまりすずかちゃんのオパーイを……!」

「触ってない! だ、だって……あの、そういうのはあの、伝書鳩から」

「「「さすがにそれはない!」」」

「…………」

「というかね、ちゃんと話すしかないよ! 琴乃ちゃんが笑顔で怖いもの! 怖くなったもの!」


というかなに! コイツは恋愛ではヘタレなの!? オパーイとか言っていたのに……受け身なの!? いつものサディスト振りはどうしたのよ!


「でも、アリサさん達がご飯……何かお礼できればいいんだけど」

「そうね」

「……お礼かぁ……」


するとなのはさんが、なにやら思いながら、携帯を取り出し……ぽちぽちと画面操作。


「――――あ、お母さん? なのはです」

「「え!?」」


なのはさんのお母さん……今、ご実家に電話をかけているの!?


「うん。実はお仕事で、今こっちに来ていてね。
うん、うん……それでケーキを買って、差し入れたいと思ったんだけど。
…………あ、あるんだ。じゃあ……三ホールくらいお願いできるかな」

”ティ、ティア……なのはさんの、お母さんって……それはつまり、聖母ということでは”

”その信仰者キャラはやめなさい! というかいるに決まっているでしょ! 人の子よ!?”


そうよそうよ! 散々女の子っぽいというか、崩れたところも見ているのに……スバルのこれはどうなのよ!

でも確かにビックリかも! だっていきなり実家って……こ、この格好でいいのかしら! スーツとか用意するべきでは!


「――ありがとう。じゃあ十分くらいでお店に行くから」


いつもより声色が優しいなのはさんは、電話を終了……それで、笑顔でサッとこっちに振り向く。


「というわけで、お礼はなのはと折半のケーキご馳走って感じでどうかなー」

「え、あの……」

「あ、勝手に纏めちゃったの、マズかったかな。甘いものが嫌いとか」

「いえ、大好物です! あの、ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」


そういう気づかいだったのかと、笑顔のなのはさんにはしっかりお辞儀……。

そっか……そっかそっか。なのはさん…………でも、ちょっと待って。


「だけど、ご実家ですよね。それでケーキを今からって、大変なんじゃ」

「あ、それは大丈夫。うちの実家……ほら、喫茶店だから」

「…………でしたよねー!」

「喫茶翠屋――自家焙煎コーヒーとスイーツが自慢の喫茶店なのです♪」


そっか、だからケーキの在庫も確認して、問題なしと……それなら安心。


「え………………」


するとアイツが、がく然と震え始める。


「あ、僕……白髪取りのバイトを思い出したので、これで」

「よし、じゃあすぐに行こう!」

「そうですね。急ぎましょう」


なのはさんと琴乃、手早! アイツの首を掴んで、またぐいぐい引きずり出したし!


「いやぁ、一体うちとどんな因縁があるのか、楽しみだねー。察してはいるけどさー」

「本当にね……。相棒に隠し事とか悪い子だよ」

「相棒って言うなぁ! というか琴乃には隠していない!」

「な、なのはさん……それは、アリですか?」

「いいのいいの。もうなのはは覚悟を決めたから」

「それは私達的には重たいです……はい……」


――――そうして十分後。

モダンな佇まいで、とても奇麗な喫茶店に到着しました。

木造の外観と店内は本当にお洒落で、窓からちらりと見えるけど……活気もあるように見受けられる。


「さ、なのはさん……どーんと修羅場へゴーなのです♪」

「りょうかーい!」

「なのはさん、ヤケになってません?」


ちょっと心配になりつつも、なのはさんを先頭に……ベルを鳴らしながら店内へ。

そしてここが……地獄の舞台になるのね……! なんか、その予感だけは凄いしている!


(第16話へ続く)









あとがき

恭文「というわけで、いよいよ海鳴出張編本格始動。そしてちょこっと登場した大和亜季……でもモブの扱い!」


(どうやっても絡めないしね)


恭文「というわけで、蒼凪恭文です」

古鉄≪どうも私です。しかしあなたもこれで、仲間じゃないというツンはどんどん通用しない方向に……≫

恭文「そんなことないし!」


(そう、これが後々ジレンマになるのです)


恭文「でももうすぐリリカルライブ……二週間を切るといよいよって感じだね」

古鉄≪各出演者のTwitterやブログでも、リハが初仕事って報告が上がっていましたよね。ゆかなさんとか≫

恭文「うんー♪」


(蒼い古き鉄、毎日幸せらしい)


リイン「むぅ……恭文さんがゆかなさん大好きなのは、もう認めているですけど……リインのことも見ているですよー。
しかも最近はまた視野を広げて! 早見沙織さんや東山奈央さんもいいなぁーとか言いだして!」

恭文「そうだ、早見沙織さんで思い出した。
……リイン、Quartzerがやらかしたことで、Twitterである人が言ってたんだよ」

リイン「です?」

恭文「平成を好き勝手されると、平成に生まれた名作やら声優さんやら……早見沙織さんも危ないって! ……今まで気づいていなかった……。
ということは、平成にゆかなさんが出演したあの作品とかこの作品とかも……Quartzer許すまじ!」

リイン「………………この数秒を、今すぐ返してほしいのです」


(それでも古き鉄は本気だった。元祖ヒロイン、改めて古き鉄が馬鹿だと気づくのであった。
本日のED:Hello Sleepwalkers『午夜の待ち合わせ』)


リイン「リインの恭文さんは変態の上に馬鹿なのです!」

恭文「おのれ、それは平成生まれに優亜も入っていることを含めている? あとはおのれが好きだって言ってたバンドやタレント、ファッションブランドも」

リイン「Quartzerはキルなのです!」

恭文「よろしい」

フェイト「いや、もうキルされているよ!? これ以上ないくらいのやり方で!」


(おしまい)






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