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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第6.8話 『五日目の殺人と一週間目の日常/PART2』


魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020

第6.8話 『五日目の殺人と一週間目の日常/PART2』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


訓練開始から少し経ち、今日は午前中お休み。みんなにはデスクワークを頑張ってもらい、私は部隊長室ではやてちゃんと軽く打ち合わせ中。

まぁ教導絡みの話で、『どんな感じか』って聞かれた程度なんだけど。


「それでなのはちゃん、新人達の具合はどうや」

「みんないいね。かなり伸びるよ、あの子達……」


それはもう、嬉しくて楽しくて……将来が期待できて仕方ないと、笑うしかなくて。


「取り急ぎ準備だけは終えたんだけど」

「もうか!」

「戦う相手(ガジェット)、対策を考えていくべき能力(AMF)。
何より今後拡大する事件の可能性(テロ)と、その壁を越えるのに必要なもの(新しい技能とチームワーク)。
その課題を初日で示したから、あとは方向性を伸ばしていくだけだもの」


ついわくわくしながら、指折り数えてみんなの顔や戦闘を思い出していく。なんというか、あれなの。

厳選したせいもあると思うんだけど、改めてバランスの取れたいいメンバーが揃ったなーって……つい嬉しくなっちゃう。


「高速機動と電気資質。フェイトちゃんと同じく突破・せん滅型を目指せるガードウイングのエリオ」


これがなんの偶然というか……フェイトちゃんをよく知るなのはとしては、比較的方向性を示しやすい子ではある。

今はまだ専用デバイス≪ストラーダ≫のブーストによる突撃しかできないけど、将来的にはって感じだね。


「一撃必倒の爆発力に頑丈な防御性能。フロントアタッカーの理想形を目指していくスバル」


出自のせいもあるけど、スバルが持っている才能は眩いくらいに大きい。

ただ……まぁなのはやはやてちゃん達にも言えることだけど、才能だけで道を決めるのも怖いしね。

特にスバルはその辺りで持てあましもあるし、恭文君が指摘したような”不安定な正しさに縋る脆さ”もある。


なので、メンタル面を大事にしたいなと。力を付けて、手に余るものを向き合う勇気が……少しずつでも出せれば。


「『二騎』の竜召喚を切り札に、支援中心に後方型魔導師の完成形を目指すフルバックのキャロ」


とはいえ、キャロもスバルと似た部分があるかな。

……実はキャロ、フリードのフルスペックをきちんと扱えない。

高い資質はあるけど、それを使いこなす教育を一切受けていないから……実際フェイトちゃんが保護する前は大変だったみたい。


なのでぶっちゃけると……召喚魔法は準レアスキルとも証される希少な魔法で、なのはだけだと指導は難しい。

特に召喚獣のフルスペック発揮には、召喚師のメンタルが大きく影響するから。

でも幸いその辺りにも詳しいシャマルさんがいるし、ユーノ君も参考文献の捜索を手伝ってくれた。


なので技術・知識面はどうにかなると思う。

……あとは、キャロにキッカケが……それだけの大きな力を振るう意味≪戦う理由≫を見いだせるかどうか。


「射撃と幻術を極(きわ)めて、味方を生かして戦う『チームの核』。
戦術型のエリートガンナーになっていくセンターガードのティアナ」


ティアナは魔力量や攻防出力こそ控えめだけど、それを最大現研ぎ澄まし、必倒の弾丸として放つことができる。

ぶっちゃけティアナと同じ経験値のとき、なのははあそこまでできませんでした。

それに幻術も……チーム戦……特に入り組んだ屋内や市街地での陸戦では、とても強い効果を発揮する。


というか、幻術については突きつめると肉弾戦も可能とか……文字通りの分身の術にもなるそうで。

一年でそこまで突きつめるのは難しくても、自己学習ゆえの無駄や脆さを改善すれば、もっともっと伸びると思うよ。

ティアナについては単純な特記戦力としてではなくて、『戦力差を戦術・戦略的勝利で覆す指揮官』として育てていきたい。ちょうどいいお手本もいるしね。


そう、伸びる……ティアナは……みんなは、伸びて伸びて伸びまくる……。


「どこまで伸びるか楽しみでねー。四人がしっかり完成したら、凄い事になるよー」

「楽しみやなー。で……恭文は」

「あの子もはやてちゃんとシグナムさんのお墨付き通り!」


それで……そんなスバル達とはいろいろ差異もあるけど、あの子も五人目のフォワードとして高い次元に進めると思う。

まぁ、いろんな事情や本人の志望はあるけど……それでも、まずは可能性を提示って感じでね?


「――――魔法に依存しないフィジカルな古武術技能と”現地固有の異能”、瞬間詠唱・処理能力を生かした独自魔法による変則的ガードウィング。
出力に頼らない得意魔法≪鉄輝一閃≫の切れ味も抜群だし、デバイスマイスターの資格ゆえの装備開発力もある。
しかも対テロに限らず、戦術・戦略レベルの戦い方まで構築できるんだから。ヴェートルの英雄は伊達じゃないね」

「そやろそやろー」

「……ただ、経験値や能力の尖りもあって、今すぐティアナ達と連携ってのは難しいと思うんだ」

「……そやからこそ、セミリタイア契約も反故かぁ。
うちとしてはめっちゃ助かるんよ。とにかく無茶な条件で押し切られたし」

「押し切られるのもどうかと思うよ?」


それで了承したことの意味……その辺りもツツくと、はやてちゃんは困りながら頷きを返してくる。


「まぁそこも、なのはがちゃんとお話して納得…………してもらえるかなぁ……!」


実はかなり不安なの。だって、家が、家が…………住み始めて一週間も経たず使えなくなるとか!

しかも心の支えだろうガンプラ制作も、寮内では禁止って! まぁ塗料とか工具とか使うしね! 仕方ないんだけど!


だから恭文君、昨日なんてどこで寝泊まりしたと思う?

……隊舎の中庭だよ! テント張って、灯り付けて、ぱちぱちプラモ作ってさぁ!

すっごい目立ってたよ! 寮長のアイナさんも寮にって勧めたのに。


――そこじゃあプラモ作れないでしょうがぁ!――


この一言で黙らせたからね! ”北の国から”をリスペクトしていたからね!? 今のご時世で通用するはずないのに!

いの一番でNG出したから、アイナさんのこと目の敵にしているし! どうしたらいいのかって泣きつかれたよ、なのは達!


というかね、嫌がらせ! 半分嫌がらせだったよ、あれ! 朝まで煌々としていたらしいし! ペチカのBGMが流れていたらしいし!


「…………というか、恭文君って…………」

「常時運勢最悪やで。もはや笑うしかないレベルで……。
くじやビンゴに当たったことはないし、道を歩けばトラブルに巻き込まれることも多数。正しくリアル≪野上良太郎≫や」

「あのレベルは笑えないよ!?」


あれでしょ!? 普通に自転車に乗って吹き飛んで、木の上とか……パンクして転げたら、不良に絡まれるとか!


「特に夏頃がヤバい……」


しかもまだ最悪なときがあると!?


「巫女さんとかにも『底辺過ぎて神様のご加護すら跳ね返している』と言われる有様が、もっとヒドくなる」

「そう言えば…………ヴェートル事件も夏だったかぁ……!」

「リインと関わったときも……」

「うわぁ――!」


そうだったそうだった! そこは聞いていた! やっぱり運が悪すぎるよ! そりゃあ泣きたくなるよ!


「だ、だったらお祓い」

「そやから、加護も跳ね返しているから効果ないんよ……」

「救いがなさすぎるんだけど! というかどうするの!?
その運の悪さに片棒を担いでるんだけど! なのは達は明らかに悪人なんだけど!」

「まぁそこはうちも許可してもうたし、手伝うよ。今言うた通りに助かる部分大ありやし」

「だ、大丈夫かなぁ……」

「それはうちも言いたいよ。……ヴィータの見立てやと、ティアナとか持てあましているようやし」

「経験値的に仕方ないよ」


いきなり私やフェイトちゃん達と連携するようなものだもの。

しかも恭文君は”陸戦の方が得意”というだけであって、空戦魔導師。

三次元的な空間認識能力もスバル達より高い……ようは目も広くなるもの。


そりゃあ今のスバル達と、上手く連携は……ねぇ……。


「恭文の方で合わせるんは」

「ご存じの通り、フェイトちゃんとヴィータちゃんはそうできるよう教導するべきって言っていたけどね。
ただ私は持ち味が殺されると思うし、そもそも”対魔導殺しの切り札”としての動きが邪魔される」

「そこはなぁ……三佐にも言われたよ。矛として使い切れって」


まぁヴィータちゃんの……フェイトちゃんの意見も分かるんだよ。できればなのはもそれは前提に入れたい。

ただ、それだと『特記戦力』としての仕事が通せない部分もあって……。


「だからまぁ、先日の模擬戦はかえって助かったよ。二人ともこれで納得するしかないし」

「フェイトちゃんはまだ不安そうやけどなぁ……。
リインがおったらまだ何とかなるんやけど」


リイン……あぁ、そうだよね。実はリインと恭文君には、想定外で奇跡の切り札が一つあって。

それを使えるなら、恭文君のネックである魔力量や攻防出力の低さは、ある程度改善できるんだけど。


「バディは難しい?」

「事務関係のサポートだけやのうて、なのはちゃん達のデバイス調整もあるやろ?
エクシードフォームとか、ザンバーとか、ライオットとか」

「あぁ……そっちはシャーリーと二人で責任者だったね」

「ほいほい抜けると結構困るんよ。リインもその立場を利用して、恭文にプレゼントがあるみたいやし」

「プレゼント?」

「今生まれている子達と同じってこと」

「あ、そういう……」


そっかそっか……スバル達には内緒にしている”アレ”に、リインなりの思いも加えるわけか。

恭文君をよく知る……というか、もはや愛しちゃっているリインなら、きっといい子に仕上がる。それは確信できて、つい笑っちゃった。


「ほな、なのはちゃん的にはどう教えていくんよ」

「恭文君には、まず支援系を鍛えようと思うんだ」

「いや、それやと」

「その辺りの方針はリーゼさん達にも確認済みだから、おさらいも兼ねてね」

「うんうん……」


その辺りはもう……これまで恭文君の師となってくれた人達に感謝。特にサリエルさんとヒロリスさん、リーゼさん達だよ。

兄弟子姉弟子組にお会いしたことはないけど、恭文君の性格や適性に合わせて、限界一杯までみっちり鍛えてくれている。

おかげで、あの子を見て……一番にやりたいと思ったこと。その下地作りをすっ飛ばして、いきなり応用に行けるんだから。


「それに……」


その根底にあるものはやっぱり……うん、あれだよね。


「……あの子の戦略眼は、単なるフロントアタッカーやガードウィングの領域から外れているよ」


恭文君の視野は……戦略家としての能力は、もはやただ一つのポジションに留まり、それを徹底するだけでは生かし切れないんだ。

ヒロリスさん達は……気づいているよね。なにせ片方はその”先輩”たり得るんだし。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


隊舎を見学しながら、まぁ……どうしてガンプラバトルに拘るかという話をしてしまった。するつもりもないのに。

あの夏の日……トオルと、タツヤと、ヤナさんと過ごした軽井沢での一時。

毎日バトルして、大事な絆≪マーキュリレヴ≫をもらって、それも使ってバトルして。


だけど、楽しい日々は……予想外の形で壊れてしまって。

それでも、それでも……またいつか、未来でと約束して別れたあの日。


そのためにも、一つでも多く大会に出て、ガンプラ作りの腕も鍛え続けて……。


「……僕自身、ガンプラ作りもプロ級とは言えないからね。戦略だけじゃあどうしても限界がある」

「だからそれも鍛えるために、まずは経験かぁ……。
というか、筆塗りって珍しいの?」

「スバルの言う通りよ。私もそういう印象だったんだけど……プラモ作りって」

「今はエアブラシによるグラデーションとか、特殊効果塗装をやる人が多いかな?
何より塗料配合や機材整備は手間だけど、楽に奇麗な塗膜が作れるから」

「見栄えもいいと……」

「確かにこの……二代目メイジンとか、ジョン・エアーズ・マッケンジーって人のガンプラ、凄いよね」

「はい……特にマッケンジー卿の……クロスボーンX2ジュリアですか?
まるで陶磁器みたいで、これがプラモだなんて思えません」

「凄く奇麗だものね……」


エリオ達にも世界大会の様子とかを見せたら、納得してくれる。

……で、そうすると疑問なのが。


「じゃあアンタ、なんでそっちじゃないのよ」


ティアナの言う通りの疑問で……だからまぁ、もう一つの資料を見せてあげる。

空間モニターを操作して出すのは、S.A.F.Sやらガンスやら……僕の大好きな世界で。


迷彩やメカメカしいグレー、とにかくいろんな色がそこに詰まっていて……。


「これは……ガンプラ?」

「ううん。マシーネン・クリーガーっていうSFシリーズなんだ。
横山宏さんっていうイラストレーターさんが、イラストやプラモの原型制作もやっていてね……これ、筆塗りが中心なのよ」

「…………この複雑な迷彩が!?」

「エアブラシを使う場合もあるけどね? 僕、プラモを作り始めたときから、この塗装が大好きでさ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……私には知らない世界だった。

でもそこに映っているメカ達は、その色だけで……佇まいだけで、戦い、使われてきた歴史みたいなものを感じさせて。

それにアイツは、目を輝かせて……理想があると笑って。


それは、私達といるときにはなかなか見せない顔だった。


「油絵とかみたいに、色を重ねて新しい色を作る表現が基本なんだ。
この色も下地のラッカー塗装と混じり合いながらできているのよ?」

「あぁ……予め混ぜるのとはまた感じが違うんだ。それが恭文の理想?」

「そんな感じ。あとは絵の具塗装もあるし」

「……絵の具!?」

「アクリル系の絵の具だよ。あれだと下地さえきちんとしていれば、プラスチックにも定着するのよ」

「……そういえば、訓練校で触ったことあるかも」

「あれよね。文化祭のボードとかそれで描いて」

「それそれ!」


まぁね、訓練校にも一応文化祭があるのよ。ふだんの訓練とか、その成果を市井の人や家族に見てもらおうっていうのが。

そのとき準備で……えぇ、触ったわ。美術系に強い子がいて、その子に教わりながらね。


でも、なんで絵の具……!?


「でも恭文さん、どうして絵の具に……」

「くきゅー?」

「小さい頃からプラモとか好きだったんだけど、溶剤を使うタイプはお父さん達に心配されてね」

≪というか、発達障害の絡みで嗅覚も偏りがあるんですよ。放っておくと溶剤臭漂う中でずっと作業するので……≫

「それは危ないですよ……!」

「それでなにかないかなと思っていたら、絵の具に行き当たったの。なにより安いし、好きな色も作りやすかったから」

「あぁ……絵の具だもんね」


そりゃあそうかぁ。水で希釈できて、混ぜてって……それなら小さい子でも安心してできそうだわ。

――それで次は、そうして塗った戦車や飛行機も見せてもらうけど……これも乱雑な感じがなく、よくできていた。さっきのマシーネンに通ずるかも。


「それに模型って、そういうふうに想像力を働かせて作るのが楽しいしね」

≪ガンプラも、マシーネンも架空の存在……悪く言えば妄想の類いですよ。
でもそれを、使われた状況やそこに至る経緯を想像し、塗装や工作で補うことで、いろいろな世界が現実化できるんです≫

「だから好きなんだ」

「楽しそうであります……」

「自分の世界を、表現……本当に絵やなんかと同じなんですね」


エリオ、また硬くなって……いや、いいけどさ。

それでもアイツが笑っているの、何だか嬉しそうだもの。というか、実際嬉しいのよね。

なんだかんだ言いながら、少しずつ……仲間に近づけているみたいで。


「まだ遠いけどねー。それに≪シューフィット≫のスキルも上げたいし」

「シューフィット? それって靴の調製だよね」

「ガンプラバトルの操縦は、粒子でできたアームレイカー……球体上の無線接続型レバーを使うんだ。そこに各指のスイッチもある」

「レバー……あぁ、なんか分かるかも! ゲーセンであったバーチャロンみたいな!」

「それだね。……機体の三次元的進行方向と武装の選択、トリガー入力を行うためのものなんだけど、動かすためのモーションプログラムが必要なんだ」

「それを収めているのが、GPベースなのですよ」


リイン曹長の説明に合わせて、アイツがスマホっぽい端末を取り出す。いや、もっと細長くて、先端が曲がってるんだけど。


「スキャンしたガンプラのデータを記録し、敵機と自機……及び今置かれている状況と選択武装、ファイターの入力によって、最適な挙動を選択・発動するです。
ただGPベースに入っているのはあくまでも”応用の広い共用プログラム”だけなので、その辺りの調整をするファイターも多いのですよ」

「え……魔法みたいに、自分でプログラムを組むってことですか!?」

「例えばよ……おのれが右ストレートのつもりで攻撃したのに、飛び上がって回し蹴りをしたら大変でしょ」

「あ……そう、言われると……!」

「プログラムというとギョッとするけど、そもそも人間も脳から出た電気信号で身体を動かしているものね……。
だから自分のクセや動き……考えとガンプラが齟齬を起こさないよう、フィットさせる作業も必要…………って、こっちじゃできないでしょ!」

「トライアンドエラーが必要だからねぇ」


…………そこで納得する。


「一応GPベースにも、AIによる挙動学習装置は付いているですよ。
ただ機体を変える場合などは、やっぱり見直ししておくと確実ですし……」

「だからこっちに常駐も困るんだけどなぁ……」

「機体製作、挙動の制御と調整、更にバトル時の戦略……一人でレーシングチームをやっているみたいです……」

「くきゅー」

「それが楽しさでもあるんだよ」


コイツはただ強いガンプラを作って勝ちたいんじゃない。

自分が理想としている世界で……自分の心に響いたものを形にして、それで勝ちたいんだと。

確かにそれは、一朝一夕でできることじゃない。なによりその気持ちには、親近感もあって。


「でも、一歩ずつでも近づけるわよ」

「楓さん」

「ただただ好きなのよね。ガンプラも……自分の作ったガンプラでやるバトルも」

「……はい」


……私だって……ね? 兄さんから受け継いだ射撃には……そういうものが込められているから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「…………そっち方面では、アンタもまだまだひよっこかぁ」

「だからレリック事件も解決したいんだけど……」


そんな話をしている間に、お昼休みがやってきた…………やってきたけど……でも……!


「……何で僕、こんな話を……」


頭を抱え、絶望してしまった……。


「僕はもっとビジネスライクに……ネオニートとなるための資金稼ぎに…………リイン! というか歌織ー!」

「無駄よ。リイン曹長はともかく、歌織さんは帰ったじゃない」

「ですです。それにリインもスバル達と同じ気持ちですし、応援はしたいのですよ」

「そうだよ! それに……やっぱり夢は諦めちゃ駄目だよ!」

「お、おう……」


いや、スバル……それはもう感謝するしかないんだけど、近い近い! 普通におのれら姉妹はどうしてぐいぐい来るの!


「でも僕のスタンスが……ハードボイルドな……仕事人的なキャラがぁ!」

「…………それ、割りと最初からぶっ壊れているから気にしなくていいわよ?」

「「そうであります!」」

「おのれらまでぇ!」

「ただまぁ、コールサインの件や勤務条件変更は言っておいた方がいいわよ。さすがに通達もなしは駄目でしょ」

「なのはさんには、リインからもキツく言うのですよ……! 伝えるだけでもって言われて、ひとまず抑えていたですけど!」


そうかそうか、つまり僕達はやっぱり一つってことだね! うん、リインが一緒なのは心強いよ!

まぁ、それはそれとして……。


「ところで、スバル……あの……」

「うん?」

「顔とか、いろいろ近い……!」

「……そうだね。このまま……キスとかできちゃいそうな距離だ」


その言葉に電流が走り……さっと離れて、ティアナの影に隠れる。


「なんでティアを盾にするのー!?」

「あなたの、相棒、痴女」

「片言にならなくていいから……大丈夫よ、そういうのは逮捕するし」

「ティアもヒドいよー!」

「アンタが悪いでしょ! オフィスラブ的な距離感な上、ドラマみたいな台詞だったし!」

「だって言いたかったんだもん!」

「「本当にドラマの台詞!?」」


こ、コイツは影響されやすいのか! というか、外見に似合わず乙女なのか! うわぁ、わりと面倒臭いタイプだぞー!


「でも、恭文くんは嬉しいのよね? スバルちゃんもEくらいあるし……ふふふ、三サイズ差かぁ」

「楓さん!?」

「そんなことないです! 楓さんはオパーイも含めて、私から見ても凄く奇麗で……理想です!
何よりお尻のラインです! ただ細いだけじゃなくて、健康的な肉付きがもう最高ー!」

「ありがとう、スバルちゃん」

「いや、その前にそういうことをこの場で断言しないでよ……! セクハラじゃない」


ティアナ、それは無意味だ。だって楓さんは嬉しそうだし……嫌みがなく真っ直ぐに言うから、余計に伝わるんだろうなぁ。


「えーい」


それに笑顔でスバルの胸部装甲に手を……というかスバルもお返しに手をー!


「わぁ、やっぱり大きいわね。でも張りがあって最高……♪」

「楓さんも触り心地最高です……これが、恭文に……うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 私も今だけ男になりたい!」

「……そうなったら、まず僕はおのれをどつき回すよ。346プロの人にも悪いし」

「そうよね! モデルさん……タレントさんだものね! というか私もパートナーと同室暮らしを解除よ!」

「二人がヒドい!」

「「ヒドくない!」」


スバル、冷静に考えて!? 揉み合いっこしているところ悪いけど、ちゃんと考えて!

おのれが男になってその状態は明らかにアウトだし、ティアナと同室も完全にアウト! だってティアナはゴリラっぽいけど一応女だよ!?


「それに大丈夫……」

「何がよ! 何一つ大丈夫な要素がないのよ!? もしかしておのれは分かってないの!?」

「もうみんなに認知されているし……ギン姉は欲深な恭文に御奉仕するんだって」

「…………は?」


そしてスバルは笑顔で楓さんから離れ、鋭く僕を指差す。


「つまり私は恭文の義妹! あれくらいの距離感はアリだって!」

「そっちぃ!? 楓さんのことはどうなったのよ!」

「あぁ、私は大丈夫よ? そっちも……凄く気になるから」


あ、楓さんがほほ笑んで怖い! 大好きな早見沙織さんボイスだけど、ヤンデレみたいになってー!


「…………あぁぁぁぁ……アンタ、模擬戦でバリアジャケット破ったんだっけ」

「加減を、間違えまして…………でも待ってぇ!
あの件については謝った! 何度でも謝るのでぇ!」

「…………謝って、済むとでも?」


…………かと思ったら、スバルが急につや消しアイズを! ヤバい、コイツはいろんな意味で重いタイプだ!

対処をミスったら僕の命が危うい……だから慎重に、慎重に……どぉどぉと宥めながら……全力で! 誠意を持って謝り倒そう!!


「済まないのは分かっているよぉ! でも、気持ちが……まず恋愛って気持ちがね!?」

「気持ちの前に現実だよ! 分かっている!? ギン姉の全部を見たの! 大人でもある恭文がだよ!
それはつまり……もうギン姉にキスして、バストタッチして、エッチしまくったってことだよ! もうギン姉は恭文の子どもも妊娠しているよ!」

「それはさすがにあり得ないでしょうがぁ!」


待って待って……怖い怖い怖い! また迫ってくる! キスできそうな距離で迫ってくるー!


「そうね……ちゃんと責任を取るべきよ。ギンガちゃん、私と同じで一度火が付いたら求め続けるタイプだし」


楓さんも怖い! というか待って! 楓さんに対しては言いたいことが…………今は言えないけどね!?

というかそのタイプってなんの話!? 楓さん、ときどき大人すぎてついていけない!


「責任を取ってよ! ギン姉に不満があるとは言わせないよ!? ギン姉のオパーイは最高なんだから!」

「そうね……Hカップなんでしょう?」

「下手したらギリギリIです! 成長中ですから!」

「アンタはなんでそこまで認識しているのよ……つーか」

「ふふ……サイズ差、幾つかしら…………AB…………CDEFG……だから五か六よね」

「楓さんも、サイズ差を数えないでください! それを言われると突き刺さるんです! 私だって四つとかですよ!?」

「私なんて……どうしたら大きくなるんでしょう」


やめろぉ! ティアナも、キャロも乗るなぁ!

つーかキャロについてはまだ第二次性徴がきてないでしょ! 未来があるでしょ! 僕も未来があると思っていたけど!


「そうね、私が言っても説得力は皆無かもしれないけど……恋をするといいみたいよ?」

「恋、ですか……」

「ようは異性の目を意識して、奇麗になる……そういうホルモン分泌も科学的に証明されているから」

「なるほど! 確かにギン姉の成長が加速したのは三年前……恭文と知り合ったくらいからだ!」

「なら私も三年後を楽しみにしようかしら」

「…………い、胃が痛い……」

「よしよし……そうよね、苛烈過ぎるものね。想像妊娠ってレベルじゃないものね」


あ、分かってくれた。ティアナは分かって……でも頭を撫でないでぇ。子ども扱いはやめてぇ。


「スバル……とりあえず、プラトニックなところから始めるのですよ。
じゃないとリインも……思わず拳を振るってしまうかもしれないのです」


だって、今まで見守っていたリインが怖い……また髪がメドゥーサみたいに揺らめいているしぃ!


「そうよ。コイツもオパーイとか言っているけど、恋愛はそっち重視っぽいし」

「でも、父さんももう乗り気だよ?」


――――――そのとき、電流走る。


「そう、だった………………初っぱなで……責任取れって……」

「ゲンヤさんも止めなさいよ……!」

「というかね、おのれ……その勢いで飛び込んで、僕ががーってきたらどうするの!
実際にそれをやられていいの!? 僕が責任を取るって決めて……それでいいの!?
言っておくけど、それなら本気で引きずるよ! ギンガさんにその覚悟はあるとでも!?」

「あ……あるよ! ギン姉にも確認したけど、そこは大丈夫! 義妹として保障します、お兄さん!」

「せめてギンガさんを連れてきてからやりなさいよ! この馬鹿どもぉ!」

「そりゃそうかぁ! よし、じゃあこれはまた後々」

「駄目だよ!」


…………その言葉にティアナ達ともどもずっこけてしまう。


「ギン姉に任せていたら、永遠に纏まらないもの! 今ここで話を纏めて、しっかり追い詰めないと!」

「「「スバルゥ!?」」」

≪えー、いないからこその大混乱じゃないですか。もっとやりましょうよ≫

「そうね、もっとやりましょう」

「楽しんでんじゃないわよ! この馬鹿デバイス…………というか楓さんもまたぁ!」

「お、大人って大変だね……ルシエ三士」

「うん……モンディアル三士」


…………そうだ……まだズッコけることはあった! このちびっ子達、さっきまでの話を自分に適応していない!


「……って、アンタ達もまだ硬い! というかお互いあんまり喋らないでしょ!」

「「は、はいー! すみません!」」

「いや、謝らなくていいけどさぁ……!」

「そこは……なのはとシャーリーからも軽く聞いているよ」


なんとか、ティアナと二人支え合いながら起き上がって、改めてチビ達を見やる。


「おのれら、ハラオウン執務官の被保護者だけど、ここで初対面だったんだよね」

「あ、はい。写真やお話では、ルシエ三士のことも知っていたんですが……」

「私は自然保護隊、モンディアル三士は……本局ですよね」

「うん」

「本局? 住宅エリアってことかな。フェイトさんと一緒に暮らしていたとか」


いや、スバル……復活早々あれだけど、多分それは違うやつだ。


「この馬鹿……!」

「ティア?」

「あ、いえ……保護施設育ちなんです。
非合法組織に捕まっていたところを助けてもらってから、ずっと」

「ぁ…………あの」

「いえ、大丈夫です! …………恭文さんのお話じゃありませんけど……それでも、フェイトさんやシャーリーさん、なのはさん達に希望をもらいましたから」

「そう……アンタ達も複雑だったのね。私の方こそごめん」

「いえ。ただ……フェイトさんからも仲良くと言われているのですけど、どうすればいいかが……」

「そこもみなさんを見習えたらと思っていたんですけど」


……とはいえ、急は無理だろうなぁ。二人とも真面目だし…………となれば。


「まぁそこは時間をかけるしかないのかなぁ。
実際私とティアも、名前で呼び合うようになったの、三か月くらいかかったし」

「あー、うん……アンタが結構ぐいぐい来るから、耐えきれなくなったのよね」

「ティアがひど!」

「いや、方法はあるよ」

「恭文、本当に!?」

「遊ぶのよ」

「……なるほど、それか!」


さすがにスバルは察しがいい。ぐいぐい行って仲良くなる方だから、直感的に分かるのよ。

……仕事から離れて、なにか楽しさがあればってさ。


「いや、遊ぶって……二四時間勤務よ、私達」

「大丈夫、僕に考えがある。リイン、協力して」

「面白そうなので許可するですよ♪」

「中身を聞かなくていいんですか、リイン曹長!」

「いいのよ、ティアナちゃん。……こういうときは恭文くんに任せておくと、カオスがまき散らされるから」

「それ絶対任せちゃ駄目なやつですよね!
というかアンタ……部活精神は、置いておきなさい? 絡まないから……罰ゲームは、絡まないから!」


大丈夫だ、問題ない……本当に問題ないと笑いながら、まずはお昼だ! そして……奴らには、地獄を突きつけよう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――恭文君は基礎も、長所を伸ばす安全確実な自主練も、自分でできるしね。もう応用から入っていいんだよ」

「それでスーパーオールラウンダーか……」

「魔力量の問題はあるけど、センターガードとフルバック……そのどちらにも切り札足る手段を一つ覚える。
それだけで戦い方の幅が、今の三倍……ううん、三乗くらいに増えるよ」


まぁ理想は魔法に依存しない形なんだけど、現状だと難しいからなぁ……!

ある種の矛盾は、恭文君の長所で打ち消しつつ、とりあえず基本スタイルはって感じを考えています。


「乗化か……本来なら手札が増えると、混乱するもんなんやけどなぁ」

「そうだね。結局できることは限られるし、取捨選択……もっと言えばスキルや装備の使い切りが悪いと、どんどんまごつく。
でも、その点なら恭文君は心配ないよ。シュヴァンツブレードの故障でも一切動揺していなかったし、マーキュリレヴの使い分けも凄いから」

「……なのはちゃん、それで地球の方で一緒に遊んでたんか」

「遊びの中に修行ありってねー」

「ほな、魔力量の問題は…………あ、そやからリインの作っとるのがアレか!」

「……やっぱり、リインも同じことを考えていたんだね。
カートリッジシステムを併用しつつ」

「装備換装!」

「そうそう…………装備換装!?」


そこではやてちゃんがモニターを展開…………え、なんで……ゼロワンドライバー!?

それでこれ、プログライズキーだよね! 装備換装というか、フォームチェンジではぁ!


「質量兵器……魔法に依存しない武装の扱いに長けているし、装備関係から改善ってスタンスなんよ」

「まぁこれなら……本当はストライクカノンとかを持って行ければいいんだけど、今回は無理だしねー」

「ほな、次の疑問……デバイス三つも使いこなせるんか?」

「使いこなせるよ。今言った通り」


それだけはもう、凄く断言できた。だって……繰り返しだけど、スバル達が一年かけて覚えるべきところをもう履修済みだもの。


「ここはサリエルさん達に感謝するしかない。
なのでフルバックスキル……射撃は持ち込んだ実銃でもなんとかなるし、まずはそこから。
もっと言うと、サリエルさん達の教導方針をお手伝いする形で進めたいんだ」

「調うまではフォワードの枠から外して、隊長陣とも違う完全遊撃役か」

「同時にどんな相手とでも、どんなコンビネーションができるように調整する。
特化スキルが揃えば、嫌でもスバル達も……ヴィータちゃん達も実感するよ」


そう言いながらつい笑っちゃう。みんなが驚く様が、目に浮かぶようだもの。


「あの子はスタンドアロン専門の魔導師なんかじゃない。
むしろチーム戦……前線指揮官こそが本領だって……!」

「ほな、その辺りも全部高町教導官にお任せしようか。
それに恭文もなのはちゃんのことは気に入っているみたいやし、主旨さえ説明すれば載ってくるよ」

「気に入ってくれているかなぁ……結構手を焼かされているんだけど」

「もうめっちゃお気に入りよ。
……恭文はな、お気に入りの子には意地悪やし、素直になれんのやで?」

「にゃははははは……だったらスバル達のこともお気に入りなんだね」


やっぱり愛情表現が下手で不器用なんだと、ちょっと嬉しくなって笑っちゃう。

……お土産にもらったビネガー、まだまだたっぷりで……でもなのはのお気に入りになったから、余計にね。


「あとは向こうの学業も上手く両立して……二四時間勤務変更も、できるだけ早く元に戻して」

「……うちとしては、そのままぐいーって方が助かるんやけどなぁ」


はやてちゃん、それは……いや、分かる。相当強烈に押し切られたんだね、そのセミリタイア契約。


「アイツがフラフラしとると、やっぱり切り札としての仕事ができんし……地球におられると、ほいほい移動もできんしなぁ……!」

「それは分かるけど、無理だよ。……夢を遠回りさせちゃった以上はね」

「いや、遠回りするつもり皆無なんやけど。優雅にテント生活しとったんやけど」

「というか、風花ちゃん達や親御さんにも相当言われたんでしょ?
さすがに学習なしは……」

「……こうも言われたしな。去年みたいな怪我や危険に巻き込むようなら、容赦なく訴えるってな」


訴訟寸前……相当に揉めたみたい。なのは、そっちは任せちゃったからかなり心苦しいです。


「しかもハワイ旅行が控えとるしなぁ……!」

「……ハワイ旅行!?」

「ほら、アイドルグランドライバー・ビリオンブレイク……あるやろ?
それのラジオがご褒美でハワイ収録するから、付き添いでガードするんよ」

「あ、忍者のお仕事として依頼を受けたと! え、いつ」

「明後日から」

「報連相をもっと徹底してくれないかなぁ!」

「あれ、言うとらん…………ほんまごめんー!」

「それ忘れちゃ駄目だからね!?」


まさかそんな仕事まで受けているなんて! いや、分かるけど! 流れは分かるけど!

分かるけど、ハワイって……ヤバい、ちょっと羨ましいとか思っちゃった! だってハワイだもの! 私だって行きたいよ!


「でもさ、それだと余計にまずいんじゃ……。星見プロのお仕事だって、立派に先約だよ?」

「もちろん、それも分かっとる。恭文にも相応の負担をかけるし……でも、どうしてもアイツの力が必要やったんや。
……実はな、その辺りはリンディさんも同じやったんよ」


でも、その話は聞いていなくて……ちょっと顔をしかめてしまう。


「それ、局の活動を見直すキッカケになればって打算?」

「それがないとは言わんよ。でもそれ以上に……やっぱAMF対策、上やと相当揺れとるみたいでなぁ。
ヴェートルの二番煎じはどうなのかって思うとったリンディさんですら、”現状では仕方なし”と腹を括るレベルやし」

「そっか……でも、それもおかしい話ではあるんだよねぇ」

「まぁな。テロが市街地なんかで起きやすいっちゅうんは、地球だけやのうて管理世界の事例でも証明できることやし」


暴力で悪意を……極端で、世界的に受け入れがたい思想。それを押し通すための手段であるテロ。ぶっちゃければ脅迫だよ。

それはやっぱり、相応の被害を出さなきゃ意味がない。ゆえに市街地とか、それを巻き込みそうな大型エネルギー施設とかがターゲットにされやすい。

実際アイアンサイズによるテロだってそうだよ。維新組屯所……警察施設の襲撃までやらかしているし。


でも、AMC装備ではそれに対応しにくい……元々対大型車両や船舶の停止を目的として作られたものだから。

威力が大きく、それ自体が一つの拠点として機能できる対象への攻撃用。非殺傷設定も使用者の制御に大きく委ねられている。

つまりやり方次第と言えるんだけど……ここで問題が四つ。


その練習にもそれなりに時間がかかること……ようは別途訓練を差し込む必要があること。

一部を除いてどれもこれも大型武装だから、屋内や入り組んだ閉所での戦闘も多い市街地……得意陸戦では取り回しに難がある。

扱いに習熟していないと威力も大きく、不必要な破壊と市民への二次被害が予測されること。


何より……管理局が魔法中心の社会と教育を推し進めている関係で、扱うことそのものに忌避感を持つ局員も多い。

つまり、武装があっても忌避感により使用しない……有用だと分かっていてもね。


上が揺れているのも、そういう事情からだと思う。


「そやから対AMF対策のデバイス……第五世代デバイスの制作を進めるそうや」

「何年かかるんだろうね、それ……」

「しかも現段階では危惧やから、あくまでも数ある試験策の一つにすぎん。六課稼働中は度外視するしかない」

「でもそういう話なら、教導官のなのはにも言ってくれればいいのにー」

「こらこら、なのはちゃんがそこまで気を使おうとったら、教導に差し支えるやろ?
リンディさんやクロノ君も防波堤になってくれとるんやし、そこは甘えんと」

「はーい」


まぁ恭文君については、いつ爆発してもいい覚悟を…………現にセーフハウス、それで潰れたし……!

とにかくそういう結論を出した上で……四人の方にも、ちょっとツッコみたいところがあるんだよねー。


「というか、リンディさんが特になぁ……」

「……無理している感じかな」

「そもそも恭文を引き入れることになったのも、うちらのフォーミュラやAMC装備に待ったがかかったせいやろ? 後は部隊制限」

「その辺りをなんとかしようと交渉中かぁ」

「部隊制限は言わずもがなで、常時備える形は難しいって断言されたよ。
でも……本当に緊急事態のときには体勢が整えられるようにって、気張ってくれとる」

「……そっか」


さすがはリンディさん……っていうのが私の感想なんだけど、だからこそ余計に気になる。


「大丈夫なの?」

「レティさんにも言われてもうたんよ……。
ある種のスキャンダルやし、もう管理局の仕事から引いた方がえぇって」

「それは……!」

「人事部のレティさんから見ても、相当ヤバいっちゅうことや。
……そやから本当に……スバル達のアレが切り札になるかもしれん」

「……覚悟しておく」


引き時ってやつなのかなぁ。なのはにはまだまだとか思ってしまうけど……でもちゃんと考えておくべきかもしれない。

下手にリンディさんが傷つくのも嫌だし、そこは……今までお世話になった立場として……ああもう、考えが纏まらない!


と、とにかくここもクロノ君達と相談! うん、それでいこう!


「それでフォワードのリーダーだけど……」


一人決意を改めていると、はやてちゃんも同じと言わんばかりに話が戻って……リーダーかぁ。


「ティアナで決まりかなぁ」


それについては、もう迷いなく言い切れた。


「まぁ真面目で負けん気が強いから、熱くなりやすいところはあるんだよ。
でも視野は広いし指示も正確。自然に他三人を引っ張っていってるし」

「恭文とはどうや? 持てあましとるって感じやけど」

「性格上はむしろ合っていると思うよ。
資質的にも近いし、お互いシンパシーは感じているみたい。
経験差やスキルのあれこれが埋まれば……スバル以上に上手くやっていけるかも」

「それは有り難いなぁ」

「……ただ」


これ、なのはが言うとブーメランでもあるんだけど……教導官として、心を鬼にして言いたいと思います。


「なにか問題が?」

「まずスターズの二人はこう、揃って突撃思考なんだよねぇ。スバルはアレだし、ティアナも制しながらいけいけだし。
私としては揃って厳しく矯正していきたいなと。こう、空気を読んで突撃できるように?」

「なるほど……昔のなのはちゃんみたいなんやな」

「ぐ……!」


そ、その言葉が突き刺さり、軽く呻いてしまう。あー、うん……その通りなので頷いてしまいます。


「もちろんそれが持ち味だと思うの。試験の時もそうだったけど……ただ、同時に悪癖でもある」

「でも話通りやったら、ティアナが止めそうやけど」

「普通はね。でもスバルの勢いが強く、自分でも『行ける』って思っちゃうと、ティアナが乗せられちゃうみたいで……その逆も然り。
まぁずっと一緒にやってきたコンビなんだけど、それが逆に戦い方の幅を狭めているというか」

「難しいもんなんやなぁ。それでなのはちゃんとしては、もっと視野を広く持って……と」

「うん。それにティアナは執務官志望で、スバルはレスキューでしょ? いずれはコンビも解消しなきゃいけないだろうし。
その場合やっぱり心配なのはティアナなんだよ。そういうきらいを今のうちに自覚し、直しておかないと」

「前に出て戦うタイプやないしなぁ」


スバルはまだいいの。その性格がポジションにも合っているから。でもティアナは……。


「その点でも、恭文君はいいお手本だと思うんだ。ほら、ソロ活動に備えたスキルとか、セーフティー的な技能も多いし」

「元々は生存力高めなフルバックとして魔導師デビューした子やからなぁ……」

「もちろん現場指揮官としても……シグナムさんやザフィーラさん、リインからも聞いたんだ。
そのビリオンの出演者さんが絡んだガードとかも、恭文君があれこれ手配したって。その、ガイアメモリの事件に関わっちゃったから」

「ん……もうそこんところの厳戒態勢は、解決したそうやけどな」


そう、実は恭文君、ただの鉄砲玉じゃないのです。その一件でも現地警察やメモリ事件の専門家とか、魔術師協会とか?

そういう異文化・異業種な人達を取りまとめ、年単位のガードと事件調査を進めて、なんとか成功させた立役者なの。

こういうの、かなり異例でもあるんだ。恭文君は当時十五歳とかなのに、その調整まで任せられるんだから。


そういうのもね、執務感になると仕事の一つとしてはあるものだから……不思議だよねぇ。フェイトちゃんがいるのに。

ただ、魔力資質や志望、性格的な問題で言うと、ティアナのお手本になりやすいのは……やっぱり恭文君なんだよね。


「アニメ関係にも……ファン的な立ち位置だろうと、ある程度知識があって、いろんな業種・文化背景の人達と繋がりがあって、取りまとめられる調整役(コーディネーター)ってなると、恭文しかいなかったそうよ」

「その流れで厳戒態勢が解除されても、依頼がくる?」

「露出や注目度が上がるのに合わせて、所属声優さんを守る意識も高まっとるそうやから。
というか……ビリオンの声優さん、人見知りさんも多いらしくてなぁ。慣れた人が行くと楽なんよ」

「納得した」

「ほんまはハワイ行きもやめてほしかったんやけど、もう……レスバ強すぎるもん、アイツ−!」


だったらそんな子を誘わなければよかったのに……とは言えない。なにか裏がありそうな感じもしているしね。

……あ、それとあれもあったと拍手を打つ。


「とにかく……私としてはやっぱり、『四人で一つ』が理想型なんだ。例えばティアナがキャロやエリオと組んでも、ちゃんと戦えるように。
それもスバルとは違う、二人のスキルに合わせたコンビネーションを調整していきたいから」

「そこに恭文は」

「加えるとしても、まずはスバル達のレベルアップからだよ。恭文君も遠慮して本気で動けないし」

「ほな出撃とかはどうかな。今のところ捜査関係も動きはないけど」

「うーん……あと一週間はフル出動を避けたい感じかな。
もう少し堅実かつ安全な戦術を教えたい。もちろん人間関係もなんとかしたい」

「ん、大丈夫や。そのための人事配置やし、新人達の配置に関してもなのはちゃんの裁量に任せる」

「ありがとうございます、八神部隊長」


そう言ってもらえて内心ホッとしてる。せめて、せめて人間関係だけはなんとかしたいから。

こ、こういう時はどうすればいいんだろう。まさかもみもみするわけにもいかないし……って、なにを考えてるのー!


「で、なのはちゃん的にはどうや。この機動六課」

「ロングアーチやバックヤードも、本当にいい人達ばかりだし。新人達も……まぁ特にフォワードは、重い事情の子も多いけど。
エリオとキャロはもちろん、スバル、ティアナも……恭文君もそういう意味では重たいかな」

「……まぁなぁ」

「でも、一番気になるのはスバルだよ。恭文君にもちょっとツツかれたし」

「そこは事前説明通り……部隊員への申告は本人の意志に一任するし、切り札の活用も同じく。ご家族との相談もしっかりするよう言うてある」

「なら安心だ」

「それに、大丈夫よ。……立ち向かうための意志を持った子達。前線メンバーを集める時、一番気にしたことや。
あの五人はそこを絶対間違えんよ」

「……うん」


そこは恭文君も変わらない。スバル達に権力や偉くなる意味のお話をしたときの様子から、確信を持っている。


「あと気になるのは……やっぱりエリオとキャロかなぁ。
小さいし、大人としてはいろんな選択肢を見せてあげたいんだ」

「それも落ち着いたら、計画せんとなぁ。実際フェイトちゃんもやっとったし」

「翠屋とかの一日店員だね。あれも楽しかったー」


……そこも、恭文君にまた相談しようかな。そういうツテは結構多そうだし。


「まぁ恭文だけやのうて、なのはちゃんとフェイトちゃんにも苦労をかけるし、寄り道もさせてまうけど」

「私は寄り道じゃないよ。前線で教官って立場は、私にとっては夢みたいな話だし。
――立ち向かうための意志と、撃ちぬく力と元気に帰ってくる技術。
それをしっかり持たせていく事が、教導官高町なのは一等空尉のお仕事だもの」

「頼りにしてます、高町教導官」

「はい、お任せください」


そう、だからここで育てていく。一年かけて、全力で。あの子達みんなが、自分の空を飛び立てるように。

まだまだ課題はたくさんだけど、それも全力で超えて……私こと高町なのは、今はとっても充実しています、元気です。


――――――そう思っていた時期が、私にもありました。


まさかここからまた、地獄が繰り広げられようとは……思いもしなくて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――――キャンプゥ!?」

『はい!』


なぜか、とてもいい笑顔の恭文君と……ティアナ達が、ずいずい詰め寄ってくる。

お、おかしいなぁ。今は午後からの訓練で……訓練場も、アップデートで森林セッティングしたばかりなのに。


「おのれも知っているでしょ? どうにもスターズ・ライトニング分隊のフォワードは、コミュニケーションが不足していてねぇ。
仕方ないから遊ぶことにしたのよ。でも外には出られないから……」

「あの、恭文君? テント暮らしも目立つので、今日は寮にしてもらえると……ガンプラ制作はほら、デバイスルームの方で」

「それはリインから聞いた。というかおのれ、何を勘違いしているの?」

「にゃにゃ……?」

「まさか、僕のテントでキャンプとか思っていないかなぁ」

「でも、他に……」

「ここがあるでしょ」


……そう言いながら恭文君が指差すのは…………森林地帯となった、訓練場で……!


「名目はリインと一緒に作ったよ。
分隊行動中、野宿が必要になった場合のシミュレート」

「その上で、改めて自己紹介とかできればなーと。
なお、リイン曹長には許可をいただきました!」

「というわけで、よろしくお願いします。……ほらアンタ達も」

「「よろしくお願いします!」」

「ま、待って待って! それなら仕事が終わった後とかに……ほら、談話室でね!? お話する時間くらいは作って」

「……ねぇ、横馬」


変なあだ名がまた理不尽に飛んできたぁ!?

というか……ちょ、首に手をかけないで! なのはのネクタイをこう、ぎゅって…………ぐぎゃあああああああああ!


「ちょ、首……首しま……!」

「僕に、内緒で、勝手に、無断で、契約書も交わした内容を……滅茶苦茶に変更したのは、誰かなぁ」


更になのはのサイドポニーを解き、首や目の辺りに絡めて締め上げ……や、やめてー! この髪はなのはの自慢なのー! 凶器にしないでぇ!


「そ、それについては、まだ説明段階で……」

「分かった……男! 男紹介する!
プリティー町田っていう人なんだけどね、おのれの年上趣味にもピッタリだよ!
なにせあの仲村トオルさんそっくりなんだから! 生き写しなんだから!」

「いきなり見も知らぬ決定事項を突きつけないでぇ!
というか、プリティーってあの人だよね! 一緒に核爆弾を解体した人だよね!」

「じゃあ改めて聞くね?」

「無視!?」

「僕達の提案は、部隊長秘書でもあるリインが許可を出した。
そしてリインも、はやてに話を通すと言っている。あらゆる手段を持って、何があろうとこの計画を達成させると言っている」


それはもう部隊乗っ取り宣言では!? 脅すと言っているよね、間違いなく!


「〜♪」


…………あれ、ちゃきちゃきって音が聞こえるような……まさか、ハサミ……ハサミをお持ちなのですか、あなたはぁ!


≪あなた、リインさんから連絡がきましたよ。
……はやてさんの説得は成功。中央本部へのタレコミをちらつかせたら、一発だそうです≫

「そう。じゃあパワハラ相談室にメールを送っておいて。嘘偽りなくそのまま」

≪了解です≫

「ちょ、それはいろいろアウトではぁ! というかパワハラ! これがパワハラァ!」

「横馬、おのれは弱者マウンティングって知らないの?」

≪そうですよ。何よりリインさんからは教えない……納得してくれれば、私達を説得するって形で話しましたよ?
でも、それは手遅れだったんです。なので問題ないんです≫

「にゃああああああああああああ!?」


なんなのこの子達はぁ! やり口が完全に悪魔なんだけど! というかヤクザなんだけど!

絞り取って使い尽くすつもりだよぉ! しかもスバル達も止めないし! いや、悪いのはなのは達だけどぉ!


「とにかくだよ、部隊長の許可が出たし、問題ないよね」

「ですよねー!」

「まぁ安心してよ。ハワイ土産くらいは買ってきてあげるから」

「それはありがとうね!?」

「……あぁ……あれだっけ? 親しくなった声優さん達のお仕事に付き添い。でもリゾート地でバカンスって」

「それでも仕事だから油断できないけどねぇ」


ようやく締まりすぎたネクタイが緩められ、髪へのイタズラも解除……よかった、切られていない!


≪それでも楽しみにしているじゃないですか。本場のガーリックシュリンプとか、ロコモコとか、ポキ丼とか……また食べられるーって≫

「し!」

「完全に針がバカンスに向いているじゃないのよ! というか、ラジオなのよね! ハワイで収録って意味あるの!?」

「そのときは特別編ってことで、収録した映像なんかも流すんだよ。
ただそれも一部で、残ったものはどこかのタイミングで特別収録映像になるの」

「よくあるやつね!」

「でもそんなお仕事にガードで呼ばれるってことは、蒼凪さんも相応に信頼されて……ですよね。凄いです」


というか、ハサミを持っていたのは……キャロぉ! 笑顔でちゃきちゃき言わせていたよ! 恐怖の代行者をやっていたよぉ!


「まぁガーリックシュリンプとポキ丼くらいなら、今日おのれらにもごちそうしてあげるから」

「本当でありますか!」

「前に行って食べてから、再現しまくったから安心して」

「ありがとうであります!」

「え、でも恭文、キャンプご飯的に作れるの?」

「そのキャンプでも作ったことがあるから。というか、ポキ丼については材料を切って、つけだれに付けて、ご飯に載せるだけだから」

「それならお手軽だー!」

「あ、それは普通に美味しそう……」


確かサーモンとアボカドだっけ? マグロでもいいらしいしさ。え、それをキャンプ飯として食べるの? 絶対幸せなやつだよ……!

まぁ、それでみんなの仲が深まるのなら、ちょっと……認めてもいいかも。


「あと弾き語りもするよ? ギターじゃなくて三味線だけど」

「三味線でありますか!」

「あ、それはなのはも聞いているよ。最初の師匠さんからから軽く教わって、ずっと続けているって。
……というか、あれだよね。ジンウェンとしての配信も、三味線の演奏配信とかやっているし」

「最近津軽三味線の専門チャンネルとコラボして、演奏したんだー。あれは盛り上がった」

「やっていたね!」

「でもそこはギターにしておきなさいよ……! いや、それでも凄いけどね!
今のところキャンプとしては盛り上がる要素しかないもの!」


ほんとティアナの言う通りだよ! ちょっと経路が一般路線と違うだけで、楽しめる要素たっぷりだもの!


「というわけで、訓練は中止で……早速買い出しだー!」

「だよね! 大量に買い込まないと!」


…………でもその前に、とても……気になるワードが出てきて。


「あの、買い出しって……」

「え、聞いていないの? リインはそこも含めて、はやてに許可を取り付けたのよ」

「どのタイミングでなのはに聴取できる状況が来ていたと!?」

「財布役よろしくね。楓さんも待っているから」

「しかも平然とタカリにきたよ! 客人すらも巻き込んで大騒ぎするつもり満々だよ!」

「違うよ。おのれに上司としての器を見せる……そんな機会を与えただけだよ。
……僕って優しいー♪」


そんな優しさ聞いたことがないんだけどぉ!? というかそれ、自主的にやることだよ! こんな形で強制するなんてあり得ないからぁ!


「あ、あの……みんな……?」

「「「「ありがとうございます!」」」」

「お礼を言っちゃったよ! しかも恭文君までぇ!」

「……なのはさん、無力な私を許してください」

「あ、よかった。ティアナは普通に喋ってくれて……よくない! なにもよくない!」

「でも実際問題、いきなり契約内容変更はアウトですし……」

「だ、だからまだ通達段階だったんだけど……駄目なの!? ねぇ、そうなのかなぁ!」


……こうして…………恭文君が運転する車で街に飛び出し、凄い勢いで買物がさせられた。

それはもう、まるで……地獄のような買物で……というかキャンプ用品って、あんなに高かったんだね!


おかげで冬のボーナスが……あははははは……あははははははははははははははー♪


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


オリエンテーションやはやてちゃんとの交渉が終わってから、うきうきしながらもデバイスルームへ入室。

するとシャーリーが楽しげに、コンソールを叩いていた。


……その中には青いクリスタルとカード、腕時計にブレスレット、蒼い”ドライバー”ともう一つの時計がぷかぷか浮かんでいる。


「シャーリー、一緒にお昼するですよー」

「はーい。……これでよしっと」


シャーリーはコンソールをもう一度だけ叩いて、一旦画面を閉じる。ちょうど準備はしていたようなのです。


「デバイスの調整、どうですか」

「もうそろそろ完成……なんですけど、【マッハキャリバー】がちょっと手こずっています。
スバルの【ウイングロード】、あれをこの子からも発動できるようにしたいんですけど、それがもー難しくてー!」

「なるほど……ウイングロードは完全に先天系『能力』ですし、術式部分も通常とはまた違うんですよね」

「やりがいはありますけどね。それにリイン曹長発案のこちらも……それでですね」


シャーリーがまたコンソールを叩き、画面を展開……セットアップ予想図なのですけど、これは。


「アイディアを少々拝借して、みんな用のキーとドライブユニットも追加でセットを」

「……大丈夫ですか、それ」

「部隊長とクロノ提督が中心に……なんとか許可は。
万が一のときに備えた緊急手段……自己防衛目的のためだと」

「苦しい言い訳なのです」

「だからそれを成り立たせるため、攻撃性能にはあまり振れません。……むしろ安心要素ではありますけどね」

「扱うのはスバル達ですしね」


正直今回のこと、リイン達もどう転ぶか分からない。特にリインは……アイアンサイズの状況を間近で見ているから、余計に辛いのです。

……恭文さんも何も言わないですけど、そういうのをスバル達に……ピカピカ一年生にさせるのはって、ちょっと思うところがあるようなのです。

だから自分の手札や知識もある程度は惜しみなく見せて、心構えだけはって感じになっているのですよ。


アイアンサイズ……オーギュスト達のことは、ある意味では傷ですしね。


「……それよりリイン曹長、そろそろ聞かせてもらえませんか? どうしてなぎ君……あの子は六課に」

「……アイアンサイズは古代の技術を用いた生体改造兵器。
そしてシャーリーも……”オーギュスト・クロエ”のことは聞いているですよね」

「……魔導殺しの一例として……フェイトさんには絶対口外しないようにと、レティ提督からも強く念押しされました」

「リインもですけど、恭文さんもAMF……ガジェットから似たものを感じているですよ」


シャーリーが疑問に思うのも当然。恭文さん、合わせる気ゼロですから。

でもそれは、見ている物が違うだけとも言えるです。


恭文さんが……リインが……アルトアイゼンが見ているもの……それは。


「なにせオーギュスト・クロエやアイアンサイズを改造した違法科学者は、未だに捕まっていないですから」

「……ちょっと待ってください! アイアンサイズもですか!?」

「捕まえたクーデター派からの事情聴取もして、あれが古代の生体兵器技術……古代ベルカ時代に使われたものというのは掴んだですよ」

「でも……捕まっていない」

「そうです」


こちらは古代ベルカの技術を復刻させ、流用させたと言える。

オーギュストは……スバル達とも因縁深い戦闘機人の技術と言えるです。


「両者とも性別、外見とも違うですけど、そんなの偽装は可能ですしね」

「同一人物かもしれない……じゃあその人物が双方に”力”を与えて、あの状況を作り出した可能性も……!?」

「もし危惧しているとおりに動くなら、それはリイン達の……古き鉄の獲物なのです。
……まぁそれはリイン達の勝手で始末をつけることですから」

「それ、部隊員としては頷きがたいんですけどね……」

「それでも押し通すですよ、リイン達は」


その腹なら決まっていると笑うと、シャーリーは半分納得しつつ苦笑してくれた。


……確かに彼らは罪人だった。

彼らは許されない……名前とその思想を記憶することすら許されない、悪魔の申し子だった。

でも……その思いが、その願いが嘘じゃなかったことも、リイン達は知っている。


忘れたくても忘れようがない。ただ口に出さず、それを正しいことだと吹聴しないように抗い続けるしかなくて。


……だからもし……そんな彼らの覚悟が、願いが……誰かに悪用されるのなら……。


「その罪を数えるのは……オーギュスト達じゃないのです」

「リイン曹長……」


そんな被害を止められる場所は、ここかもしれない。

リインも、恭文さんも、そういう希望だけは抱いていて。


…………ただまぁ、それはそれとして……。


「……みんな」


リイン達の事情はさて置き、困難に立ち向かうのはデバイス達も同じ。


「もうすぐ目覚めとマスターとの出会いなのですね」


……自然とポッドに手を当て、まだまだおねむな子達に話しかけていた。


「ちゃんと立派に成長して、それぞれのマスターと一緒に精一杯頑張るですよ」


だって、リインもそのデバイスではあるですから。

……だから、恭文さんの赤ちゃんを産んであげることもできない。それが辛くて、泣いちゃったこともある。


でもでも、デバイスだからこそできることもある。リインにとって、この子達は弟や妹みたいなものなのですよ。


「…………リインも応援するのですー♪」


だから、笑えた。リインも笑顔で……新しい仲間と一緒に頑張りたい……頑張れたらって、笑えた。

デバイスである自分も誇って、胸を張って……ちゃんと笑える。


(――本編へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、漫画版StrikerSはAmazonで電子本配信中です」

あむ「あー、これって二巻のエピソードだしね」


(ちょうど第三話と四話の間です)


恭文「というわけで、クリスマスも終わり……年末モードに直行な中、みなさんどうお過ごしでしょうか。
なお、今年の作者はいろいろ散々なところがありましたが、さくっと忘れることにしようと思います」


(井之頭さんになりたい)


あむ「どういうこと!?」

恭文「もうそこはいいのよ。だって…………ウィンダム(ガンダム)の製品化が決定したかもしれないから!」

あむ「ウィンダム?」

恭文「ガンダムSEED DESTINYに出てくる量産機……ほら、ネオ・ロアノークも乗っていたやつ」

あむ「……あー、あれか! ごめんごめん! あの、ウルトラマンにもいたからちょっと混乱した!」



(円谷のTwitterもネタにしていましたね。あとはレイアースや車にもいます)



あむ「え、あれってずっと待っているとか言っていた……」

恭文「まだシルエットだから、決定ではないんだけど……マルコシアスや他の製品と含めて、明日の朝十時に発表だよ」

あむ「ちょっと楽しみかも……!」


(ビルドダイバーズRe:RISEも第二シーズンが四月……その間も商品展開はあるけど、どうなるかなぁ。
本日のED:スピラ・スピカ『リライズ』)


恭文「というわけで、ビルドダイバーズRe:RISEは先週の大敗北から再起……というところで一旦終了。
第二シーズンは四月からスタートします。もうゲームじゃ済まないバトルと冒険を、ヒロト達はどう乗り越えるか……」

あむ「新しいコアガンダムも出てきたし、カザミ達のガンプラもパワーアップするかなぁ。うぅ……あれで四月までは辛い!」

恭文「なんだかんだで新しいビルドダイバーズに入れ込んでいたわけだよ、僕達は……。
でもこういうとき、大人はどう動くべきか……」

あむ「あー、あどべんちゃーの同人版も進めているから、考えちゃうんだ」

恭文「そう考えるとテイマーズとかは上手だったように思う……」


(おしまい)









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